エンドへの近づき1
翌々日の朝になって、ようやく夫は王宮から帰ってまいりました。
昨日の朝、仕事で遅くなる、と一報いただいておりましたが、ここまでとは思いもよりませんでした。
夫は玄関口に出迎えたわたくしを見つけると、挨拶もおざなりに、領地に帰る支度をするよう言います。
その後すぐ、わたくしの返事も聞かずにまっすぐ寝室に向かわれました。
疲労困憊の中、休むよりも先に伝えてくださったことです。きっと急を要するのでしょう。すぐに支度に取りかかります。
領地に帰るしたくはどんなに急いでも1日以上はかかりますから、出立は明日の昼以降、もしかしたら明後日の朝でございます。
夫も、そこは承知していることですから、文句はございませんでしょう。今すぐに出立しろ、とおっしゃってはおりませんので。
その夜、わたくしは一眠りした夫に、帰って来ることが出来なかった理由を伺いました。
まだ疲れの残る顔をわたくしに向け、夫は話し出します。
しかし一言「内密の話だ」と言ったあとは、しばらく黙ってしまわれました。思案しているようでございます。
「どこから話せばよいのか…。君は、最近、この国の王立学園で起こっていることを知っているよね?」
「ええ。噂では、多くのご令息方が一人のご令嬢にご執心だとか。確か、男爵家の。」
実は今、この国の学園ではわたくしの古い記憶の物語に似たことが起こっているらしいのです。
わたくしも社交はいたしますから、噂は聞いておりました。
噂では、節度が少々足りない男爵令嬢が、エドワード第一王子殿下を含む多数のご令息を射止めたとのことです。
ご令息方の中には、高位貴族の次代の方もいく人かいらっしゃるようでございます。
噂でございますから、どこまで尾鰭が付いているのかわかりかねますが、今回のものは、とても真実に近いと思われます。どなたから伺っても、同じ内容なのです。
「そう、クリアハート男爵家の令嬢だ。そしてその、彼女にご執心の多くというのが本当に多数でね。少なくとも、男子生徒の半数以上なんだそうだ。」
「それは、全学年の、ということでございますか?」
「うん。」
なんと、一人の女性がそのように多くの男性を虜にしているとは、思いもよりませんでした。
噂以上にひどい話であることです。驚愕でございます。
こんな衝撃を受けたのはエリザベスちゃんがはじめて笑ったとき以来でございます。あ、いえ、エリザベスちゃんが歩き始めたとき以来? いえ、おかあさまと舌足らずに呼んでくれたとき以来? いえ、エリザベスちゃんが…。
とにかく、エリザベスちゃんの成長ほどではございませんが、とても衝撃的なことに変わりございません。
男爵家の花のそばには殿下と高位貴族のご令息方、さらにそのまわりにも花を崇めるご令息方。そして皆様、一様に鼻の下を伸ばしているというのですから、それは、
「それは、なんと言うか、高級娼婦のようでございますね。」
わたくしの言葉を聞いた夫は、わたくしを咎めるよう眉を上げてから、肯定の笑みを浮かべました。
高級とは少々持ち上げすぎたのでしょうか?
「それが原因でね、しばらくしたら少し荒れるかもしれない。派閥が乱れて勢力図が変わる可能性が大きい。最悪は内乱になる。」
なんということでございましょう!内乱などとは穏やかではございません。
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