娘の進路2
帝国の学園に通い始めたエリザベスちゃんは、月に一度ほど、お手紙を送ってくれました。
最初こそ不安のにじむ内容でしたが、三通目にもなると、ただただ楽しそうな様子が伺えました。
内容はもちろんのこと、踊るような文字、可愛らしい封筒と便箋、ほんのりとした香水の香りなど、娘の楽しいが込められた手紙は、わたくしと夫の宝物として増えていったのでございます。
その手紙が厚い束になった頃、あと一つ季節がめぐればエリザベスちゃんが帰ってくると、わたくしはとても楽しみにしておりました。
そこに、一通の手紙が届いたのでございます。エリザベスちゃんからでございました。
しかし、いつもの色のついた可愛らしい封筒ではなく、白い封筒。甘い香水の香りも致しません。
何か、あったのでしょうか。昔の嫌な絵が脳裏に現れます。
震える手で封を破り、文字を拾います。
そこには、エリザベスちゃんの謝罪が書かれておりました。手紙は、いつもの踊るような文字ではなく、しっかりと落ち着いた美しいもの。ですが、読み進めていくうちに、だんだんと踊る文字に変化していきました。
手紙を読んだわたくしは、大きく安堵のため息をはきました。
手紙の謝罪は、こちらへ帰らないことに対するものでございました。
帰らない理由は、高等学園というところに進学したいから、ということでございます。今通っている学園よりも専門性の高い学問をやりたいのだそうです。
また、無事に帝国の学園を卒業できる旨も書かれておりました。
卒業の報告とは、なんと嬉しいことでございましょう。エリザベスちゃんが幼い頃より努力してきた証でございます。
エリザベスちゃんは絵を専門に学びたいとのことですから、帝国でなくては出来ません。
ですから、王宮で働く夫に使いを出しました。留学期間の延長申請をしていただくのです。
こういったことは早い方がよろしいのでございます。
その後、わたくしは了承の返事を書きました。エリザベスちゃんにも色々と支度があることと思いますので、1日でも早くお返事した方が良いと思い、こちらも急いだのです。
本来は、夫の意思を確認してから書くべきですが、この事に関しては何年も前から夫婦で同じ方向を向いていることを確認しております。
全てはエリザベスちゃんの望むままに。
わたくしは、手紙と共に多めの支度金を送ることにいたしました。絵の具にはお金がかかりましょう。それに、卒業パーティー用のドレスなどを仕立てる可能性もございますから。
夫はきっと、娘の卒業式にも行きたいと思っていることですから、なにごともなければ、また後押しすることにいたしましょう。
その日は、夫と話したいことを色々と考えながら雑事をして過ごし、帰宅を待ちました。
しかし、エリザベスちゃんから白い手紙が届いたその夜、夫は仕事から帰って来なかったのでございます。
お読みいただきありがとうございます。