王妃とのお茶会10
「わきまえでございますか? 恐れながら、わたくしから見て、陛下は良い父でございますが…。」
エドワード殿下の成長を待つため、ご自身が臣下から諌められる盾となり立太子を遅らせたお方でございます。
「…エドワードに対してというよりも…」
「では、ハロルド殿下に対してでございますか?」
ハロルド第二王子殿下と陛下の噂で、わたくしまで聞こえてくることは多くありません。これはハロルド殿下がまだ幼く、王位の継承もないと見られているからでしょう。加えて、側妃様は控えめな方です。
ですから元来、噂が立つこと事態が少ないのでございます。
「いえ…。いえ、何でもないわ。」
おそらく口を滑らせたと思われたのでしょう。話を切ろうとする王妃様を無視してわたくしは続けます。
この機会にを逃すわけには参りません。
「ハロルド殿下でもないとすると、あとは、…男爵家のご令嬢でございますね…。」
ご子息であるエドワード殿下のお相手、クリアハート嬢は正式に婚姻すれば義理の娘です。
まだご正式な婚約すら成っておりませんが、あの一妻多夫宣言がございましたから、陛下と王妃様から見て、子の位置にあると言えなくもありません。
王妃様は唇をかみながら空白を見つめておられます。何かを葛藤しているご様子です。
少しの間そうしていた王妃様は、意を決されたように顔を上げると少々早口で最悪の事態をお認めになられました。
「…そうよ。そうなのよ! 娘となる可能性のある子に、あの人、…ねぇ、セシリア、あなたはどこまで知っているの?」
「わたくしは何も存じあげません。」
嘘ではございません。イザベラ叔母様からの手紙は確証を持てるものとは言えませんでした。可能性の示唆はございましたが、それだけです。
「本当に? ねぇ本当は知っているんでしょ? ねぇ、あの女はどうやって陛下を誘惑したの? 立太子式のことも最近急に急ぎだして…本当に急で…。いつからなの? 教えて…」
「申し訳ありません、本当に存じあげないのです。」
わたくしは目をつむって感情を抑える王妃様の肩を抱きました。布越しにも分かるほど王妃様のお体は冷えております。
それにしても、それにしても懸念していたことが、まさか本当であるとは!
クリアハート嬢は本当に傾国でございました。
籠絡された陛下と、これからエドワード殿下が太子となる
ことで、この国がクリアハート嬢の意のままになる可能性があるということなのです。
クリアハート嬢の寵を得ることに国が使われるのです。
それだけならまだましで、クリアハート嬢の後に何かしらの勢力がある可能性も残っております。
国が乗っ取られる寸前と言っても過言はございませんでしょう。
兎にも角にも、今は本当にこの国の危機なのでございます!
わたくしは声を潜め、王妃様にささやきます。
「何か策を講じなければなりませんね。」
「策?」
突然の内容に王妃様は困惑されております。
「えぇ、王妃様はこの国をどうなさりたいのですか?」
「私は、エリザベスが政務に就けば何とかなるかもと…思っていたのだけれど…。」
つまりはクリアハート嬢に意のままにされたくないと言うことです。
確かに王と太子が変わらないことが前提でしたらまともな権力者を増やすというのも手かもしれません。
エリザベスちゃんが王家に嫁ぐという案は、精神を追い込まれた王妃様が全身全霊で打った一手だったということでございます。
「王妃様は、エドワード殿下がこの国を統べる事ができるとお考えでございますか?」
少し悩まれたあと、まっすぐにわたくしの目を見てお答えになりました。
「出来ない。側近を変えても無理でしょうね。」
わたくしはにっこりと微笑みます。
わたくしの表情の変化を見た王妃様は怪訝な顔をなさいました。
「では、エドワード殿下の王位とこの国の将来、どちらが大事でございますか?」
「この国ね。エドワードの命、というわけではないのなら。」
今度は即答されました。
わたくしは王妃様の言質をとれたことがとても嬉しく、思わずお手を包みます。
本日、ここまで心の内をさらけ出してくださった王妃様ですから、今のお言葉に偽りはございませんでしょう。
王妃様は味方ということでございます。
あっけに取られる王妃様に、昨日のうちに夫とイザベラ叔母様、ハルクタルム伯爵、アルフレッドと話した我が家の結論をお伝えいたしました。
「でしたら、我がギルシュ侯爵家は王位不信任請案を提出しようと考えております。お力添えをお願いいたします。」
お読みいただきありがとうございます。
誤字報告感謝いたします。




