王妃とのお茶会9
「はぁ、最初からアンジェリカにしとくんだったわ。」
少し体を伸ばされてから、王妃様は明るく愚痴を吐かれました。今までとは違い、軽快な口調です。
「今となってはどうにもならないことです。」
そうね、と笑う王妃様は軽やかです。
「まぁ、アレックスも男爵令嬢と家庭を持つそうだから今後はどうなるか分からないけどね。」
「あれは、わたくしもいかがなものかと思います。」
人と人の付き合い方は自由だ、と言われればそれまででございますが、各家の継承問題がございます。
国として、複数の高位貴族が問題を抱えることになるのは不安がございましょう。加えて、家どうしの争いを産む種になってしまうことでもあります。
「これからどうしようかしら? 本当にあの時、伯爵家のいがみ合いくらい押さえつけとけば良かったわ。やりようはいくらでもあったのに…。陛下も私もだめね。」
「そう言えば、国王陛下のご意見はいかがなのでございますか? 殿下の婚姻についてや、継承、エドワード殿下のご政務についていかが思し召しなのでしょうか。」
王妃様がこれほど苦しんでおられるのです。陛下にもきっとお考えがあるのはずです。
先ほど、立太子を進めたいと仰っておりましたが詳しくはわかりません。
陛下のお話は、本日一番お伺いしたいことです。わたくしが王都へ来た理由でございます。
領地にてアルフレッドに見せてもらったイザベラ叔母様からの手紙の内容が本当なのか、確かめねばなりません。
王妃様が陛下を話題に出してくださったのでちょうど良く話しを切り出すことが出来ました。
わたくしの問いに王妃様は、すっと表情をおしまいになられてしまわれました。
「陛下はその辺りを考えてないのよ。最近、あまり話していないわ。」
再び、空気が重たくなりましたが、先程とは違い、冷たい物です。
「考えてない、とは?」
いつも思慮深くあられる陛下が、考えていないとは意外でございます。
「そのままの意味よ。エドワードに影響されたみたいね。」
王妃様の言葉はとてもそっけない物です。あえて感情を削いでいるように感じられます。
王妃様のご様子から、ここで切り上げるのが適当なのでございましょう。しかし、ここで引いては何も得られません。不躾ながら踏み込むことにいたします。
「それは意外でございますね。」
「…。」
「陛下はいつも多面に思慮深くあられますのに。」
「そうでもないわ。足りないことばかりよ。」
「そうなのですね。そこは、伴侶である王妃様にしかわかりえない所でございますね。…王妃様から見て足りないのは、どういったところでございますか? わたくしは夫に、他人に対しての尖った態度をもう少し和らげていただきたいと思っております。」
側妃様もいらっしゃいますがここで名を出すのは野暮でございます。側妃様と王妃様の仲は良好でございますから問題もございませんでしょう。
「確かに、アーサーのあれはひどいわよね。」
「えぇ。」
わたくしは相槌をうち、王妃様のお答えを待ちます。
待ちながらゆっくりと茶菓子をいただくことで、わたくしが返答を急いでいないことを強調いたします。
「…。陛下は、陛下には…。」
「…。」
「王…いえ、父親としてのわきまえかしら…。」
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