王妃とのお茶会8
王妃様は、当時お母様が王妃様に送った手紙の内容を教えてくださいました。
エリザベスと第一王子が婚姻すれば、グライヤ家の権力が強くなりすぎてしまうことと、血を薄める良い機会であることが書かれていたそうでございます。
特にグライヤの権力について懸念されていたそうで、お母様が生きている限りグライヤが強くなる、均衡を保つにはお母様が死ななければならない、とも書かれていたそうでございます。
確かに、エリザベスちゃんが太子妃になれば、お母様の言葉が強くなります。
すでに王妃とその実姉である公爵の、近しい叔母なのです。
そこに太子の大叔母、太子妃の祖母、という肩書きも加わるのです。
死ぬというのは大袈裟ですが、国政と社交界において、お母様の言葉の重みが増すのでございます。
それから、お母様が血の濃さを気にするのも分かります。
わが国では、王家は大公家、グライヤ公爵家、リャヴィス公爵家との婚姻を繰り返しておりますし、王家だけでなく、この四家で婚姻をすることが多いのでございます。
ここに次いで侯爵家、それぞれの分家、伯爵家などと婚姻がされるのですが、特に王家は薄まりにくくあるのです。
ですが王妃様はお母様ほど気にされていないご様子でございます。
「血の濃さは、私にはあまり気になるほどではないのだけれど。だって、エリザベスの母親であるあなたに、王家とグライヤの血は入っていないでしょう?」
社交界において血筋の話題は侮辱として使われることが多いのですが、今の王妃様の口調には、そう言った雰囲気はありません。ただの事実確認、という様子です。
王妃様がおっしゃるようにわたくしには王家の血もグライヤの血もほとんど入っておりません。
しかし、夫には入っております。エリザベスちゃんでは薄める、と言うには中途半端かと感じられます。
わたくしが何も返せないでいると、王妃様はひとりごとのように続けられます。
「私は、私の判断で叔母様を追いやるようなことしたくないのよ。死ぬって言うのは比喩でしょうけれど、王都に来ることはなくなるでしょうし、そしたらもう会えなくなってしまうわ。そんなの嫌よ⋯。私を守ってくださったのは叔母様だから。私がここに座り続けていられるのは全て叔母様がいたからよ。会えなくなるのは、強い味方を失ってしまうようで怖いの。」
最後は消え入る様な声でございます。両手で顔を多い、再び泣き出されてしまいそうです。
王妃様はわたくしの反応を気にせず、さらに続けられます。
「でも、こんなことになるなら、私のわがままなんて押し殺しておくんだった。ギルシュ家に正式な婚約打診をしたり、伯爵家の二つや三つくらい潰せばよかったの!」
ここまで言い放ってからようやく、こちらを確認されました。
「セシリア、」
王妃様はわたくしを改まった様子で見られます。
「なんでございましょう。」
「こちらが不甲斐ないだけなのに、ごめんなさい、押し付ける様な提案をして。エリザベスにとても失礼な提案をしてしまったわ。エリザベスの心など何も考えられ無かったわ。ただ、政務が回り、政治に支障がないことだけを考えてしまっていた。」
王妃様がここまで追い込まれてしまったのは我が家のせいでもあります。
その追い込まれた中でも、わたくしにこうして、二人だけで話しをしてくださいました。
公の場という訳でもなく、強行してエリザベスちゃんが傷ついたわけでもございません。
さらに王妃様はエリザベスちゃんへの謝罪にと軽く頭を下げてくださいました。
頭を上げたとき、わたくしの知っている重さと柔らかさを持った王妃様が帰って来たように感じられました。
わたくしは微笑みを返します。
「良いのです。お気になさらないでくださいませ。」
全てはご自身の政務を全うしようとなさったゆえです。
お読みいただきありがとうございます。
誤字報告感謝いたします。




