王妃とのお茶会7
いつもこう、と静かに息子の至らなさを語る王妃様は過去を思い返していらっしゃるご様子です。
国を統べる方がご自身の思想に疑問を持てないようでは、今後に憂いがございます。
親である王妃様にはずっと、幼少期からの変化のなさが見えていらっしゃったのでしょう。
このことが、エドワード殿下の立太子を最大限に遅らせていらっしゃった理由なのかもしれません。
しかし社交界では、学園へ入学する前の殿下に対し、そう言った幼稚を問題視してはおりませんでした。当時は公の場に出ることもまだ少なく、度を超えた行いもなさらなかったのです。多少気になることがありましても、年頃ゆえだろう、と思われていたのでございます。
「そこまでのご心配をなさっていらっしゃったのですね。学園への入学前に、我が家に再度のお話がなかったのはなぜでございましょうか?」
ここまでの状態であったのなら、もっと早くに再度婚約の打診が我が家へとあっても良いものです。
先程の話のように切羽詰まって、責務だけを押し付ける様な打診をするくらいでしたら、不祥事を起こす前に動く方がよろしいはずです。
殿下がクリアハート嬢に出会われる前でしたら、わたくしも、エリザベスちゃんと殿下が顔合わせする席を設けることに協力いたしました。
もちろん、エリザベスちゃんの意思も大切ですから、二回目以降はエリザベスちゃんの意思を尊重いたします。ですが一度目は貴族に生まれた責務かと思います。
「入学の前にしたわよ。やんわりとだけど、アーサーに。」
わたくしは思わず、王妃様を見つめます。
わたくしの反応を確認された王妃様はどこか諦めたように笑っております。
「⋯それは、⋯存じあげず、失礼いたしました。」
「やっぱり、アーサーはセシリアに伝えて無かったのね。正式な打診ではなく、ちょっと聞こうとした段階でつっぱねられてしまったからしょうがないわ。もう時効よ。」
これは帰って夫に文句を言わなければなりません!
正式でなくとも、夫は、エリザベスちゃんの意見を聞きもせず、エリザベスちゃんの将来のことを勝手に決めてしまったのです。しかも、再度のお話を頂いたとき、エリザベスちゃんは頑是ない子供でなく、年頃だったはずでございます! すでに社交界デビューを済ませ、自身の身の振り方を考える年齢でございました。
そして、わたくしは反省せねばなりません。
きちんと状況を知らず、王妃様にとんでもない要求をされた、と怒ってしまいました。数年前にきちんと取り合わなかった夫にも責任の一端がございましたのに⋯。
もう少し深く話を伺ってから判断すべきでございました。
「いえ、我が家の落ち度でございます。帰って夫に問い詰めることにいたします。」
王妃様は焦るわたくしを眺めながら、珍しいもの見たわ、と笑ってくださいました。
そして、でもね、と続けられます。
「でもね、それは言い訳。再度正式な婚約打診をしようとすればできたの。それをしなかったのは、本当のところはマーガレット叔母様にきらわれたくなかったから。後、怒られたくもなかったの。」
「お母様、でございますか?」
「そう。私が怖いのはマーガレット叔母様に見捨てられることよ。八年前、エリザベスに最初の婚約を打診したとき、叔母様に手紙で怒られたのよ。」
これも存じませんでした。
兼ねてからお母様と王妃様の仲が良いことは知っておりましたが、今、お母様を語る王妃様は、まるで子供のようでございます。
もしかしたらわたくしが今まで思っていたよりも、お二人の絆は太いのかもしれません。
お読みいただきありがとうございます。
誤字報告感謝いたします。
◆数年前のそれとない婚約の打診。
王妃:ねぇ、エリザベスの婚約者って決まっているの?
アーサー:お断りしますよ。
王妃:まだ何も要求してないわ。
アーサー:お断りします。まだ、ってことはするんでしょ?エドワード殿下の婚約の話ですね。
王妃:⋯家族どうしでのお茶会とかだけでも⋯。
アーサー:図星ですか。うちはお断りです。
王妃:⋯。
アーサー:あぁ、この話を妻には持って行かないでください。私よりもきちんと貴族してますから、あなたの要求に対応してしまうので。
王妃:それが普通なのだと思うけど?
アーサー:そうですね。
王妃:こういう弟を持つと苦労するわ。
アーサー:従姉弟です。それより私は王妃宮の予算の精査をしたいのですよ。扉の外に待期させている担当者をよんでいただけますか?




