王妃とのお茶会5
「あなたの言う噂程度なら十分ね?」
王妃様は、尋ねる語調で話されながら断定なさいます。
断定される根拠がわかりません。わたくしはそこまで情報収集に長けているわけではございません。
なんと答えようかと迷うわたくしに構わず、王妃様はお話しを続けられます。
「今、陛下はね、エドワードを急いで立太子させようとしてるのよ。」
やはり、立太子式が進められようとしているのです。体の芯がすっと冷えるような心地がいたします。
「それは、…時勢がら早急でございますね。」
「そうなのよね。でも、年齢的にももう進めなければならないと言われるとその通りなのよ。私は…私もねエドワードしかないと思っていたの。陛下も進めようとするし、エドワード以外候補はいないし…。」
王妃様の口調はとても砕けたもので、国の大事を紡ぐにはとても軽く感じられるほどです。けれども、先程の切羽詰まった口調よりはこちらの方がよほど良いものでございます。
涙により、何かを吹っ切る事が出来たのかもしれません。
「ねぇ、クリアハート男爵令嬢にはもう会った?」
「いえ、まだ噂でしか存じ上げません。」
「そう。あなたとは反りが合わなさそうだから無理に会う必要ないわ。私もまだ二、三回ほど会っただけなのよ。その印象とイザベラから聞いた彼女の話から色々と考えたのだけれど…、あなた、イザベラがあの令嬢に教養を教えているのは知っていて?」
もう、ハルクタルム伯爵夫人と言う敬称すらお使いになりません。きっと王妃様は叔母様と普段から、良くお話しされるのでしょう。イザベラ、と呼び慣れていらっしゃることが伺えます。
「えぇ。」
「流石ね。それで、あの男爵令嬢が嫁になるんじゃね、政務が滞るのが見えているのよ。あの令嬢、勉学が出来ないどころか、教養のないことを恥とも思ってないの。それでエドワードが太子になった時、誰が太子妃の政務をするのか、って考えたのだけれど、今のエドワードを見ていると、あの子が肩代わりすることはないだろうと思うのよ。それどころか、太子の政務すらこなさないかもしれない。側近につけた子たちも、息子の意を汲むしか能がないようだしね。」
溜まっていらっしゃったであろう愚痴が溢れ出てきます。本当に耐えてらっしゃるのでございましょう。
「それで、どうすれば良いのかってずっと考えてたのよ。私だってもう五十路よ。いつ倒れてもおかしくないじゃない。それで、エリザベスがうかんだの。」
「なぜそこでエリザベスちゃんが?」
わたくしにはまだ王妃様の心の内とエリザベスちゃんのつながりが見えません。
「んー。正直に言うとね、エドワードに見合う年頃で、政務に支障のない身分の子はエリザベス以外、婚約者がいるのよ。」
王妃様の正直すぎるお言葉に、思わず苦笑いが出てしまいました。
ですが確かに、伯爵家以下ですと身分差があるため、随所の習慣や王家の習慣に対する知見に差があるのです。
高位貴族でさえ、王の伴侶になるには学びを要します。
ですから、下位貴族の出自の方が王の伴侶を務めるのには多大な努力が必要となるのです。
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