王妃とのお茶会3
「本日のお話は、それだけでございますか?」
わたくしは王妃様に問いながら、さりげなく扇の幅を広げました。
「ええ。」
王妃様と目が合いません。しきりに目線を動かしていらっしゃいます。
存外に短い時間でお話しが終わりました。これ以上ここにいても、わたくしは王妃様に失礼な態度をとってしまうかもしれません。
「かしこまりました。では、…。」
御前を失礼いたします、と言いかけましたが、王妃様がこちらに身を乗り出してこられたため、口をつぐみました。
「ねぇ、どれくらいで答えがもらえる? エリザベスにはできるだけ早く政務に入ってもらいたいのだけれど。」
王妃様は取り乱したような早口で、わたくしは少しばかり驚いてしまいます。
「さぁ、しばらくはかかります。なにぶん、エリザベスちゃんは帝国におりますから。」
王妃様は、わたくしの言葉にはっとして「そ、そうよね。」と頷かれました。
わたくしは王妃様をしげしげと眺めます。
わたくしも少々冷静さを欠いていたため見逃しておりましたが、よほど切羽詰まっていらっしゃるご様子です。
先ほどまで話題にしていたのに、エリザベスちゃんが帝国にいることが抜け落ちてしまうなど、わたくしの知っている王妃様ではありません。
こちらのことを考えておられないのは、どうでもよいという訳ではなく、考える余裕がない、と取るべきでしょうか。
考えてみるとエドワード殿下周辺の事柄は、王妃様にとってとても衝撃的だったことでございましょう。
立太子式も進められているようでございますし、もしかしたら手一杯なのかもしれません。
…今の王妃様のお立場には少々同情いたします。
先ほどは帰ろうと思いましたが、もう少しお話ししたほうが良い気がしてきました。
「王妃様、少し落ち着かれて?」
王妃様を促し、いったん使用人を呼び寄せて、お茶を入れ替えてもらいます。
再び使用人が温室の外に出ていくまで、しばらく二人で黙っておりました。
王妃様が新しいお茶に口をつけ、息を吐くまでを見届けてから、わたくしは声をかけました。
「ときに王妃様、王都の様子が変わりましたね。」
「え、えぇ。」
先日、王都へ帰ってきたときに驚いたのです。
物々しい雰囲気、とでも言えばよいのでしょうか? 通りを行き交う人々の中に武器を身につけている人が増えたのです。
馬車に同乗していたアルフレッドの予想は、何処かの貴族のお抱えのようだということでした。武器や服装、立ち振舞からそのように感じられる、とのことでございます。
夫にも確認しましたところ、クリアハート嬢を害されたくない、守りたい、と思う方々が発端で、徐々に他の貴族に広がっているのですとか。
クリアハート嬢を守りたい方々とは、学生の時からのお取り巻きの方々だそうでございます。各々が領地から腕が立つ者を呼び寄せた結果だろう、と夫は申しておりました。
歪であっても高位貴族の方々と婚約をされているご令嬢はすでに守られていると思いますが、それについて夫は、若い正義なんじゃないか?、と不思議なことを仰っておりました。正義に老いも若いもないと思うのですが…。
「物取りが減ったそうでございます。」
変わりに領主どうしの睨み合いが増えたようです。
というよりも、睨み合うために領地から呼び寄せたようなものですが、それは今は言いません。王妃様は、きっともうご存知です。
王妃様は突然の話題に、少し戸惑った様子でございます。
「元をたどればこれはエドワード殿下の功績でございますね。」
物事は多面的でございます。一長一短とはよく言ったもので、どこかしらに良いことがあるのです。
ただ、昨今のエドワード殿下の振る舞いは、短の部分が一ではなく多数の上、大事なのが問題でございます。
きっと、今の王妃様は問題事に対応なさるため、お考えがそちらにだけ傾いているのではないでしょうか?
ですが王都の治安が良くなった発端はエドワード殿下だとわたくしは思いますので、お知らせしておこうと言葉にしたのです。
「そう、なのかしら。」
王妃様はゆっくりと問うてこられました。
「違いますか?」
「えぇ、クリアハート嬢ではないかしら?」
「えぇ、彼女もですが、彼女を引き立てたのはエドワード殿下ではございませんか。」
「…そう、なのかもね。」
肯定された王妃様の声がわずかに震えました。
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