王妃とのお茶会2 強制力
「子供の意見ねぇ…。」
王妃様は呟きます。わたくしに伝える言葉ではなく、独り言のようです。目つきは少しばかり鋭くなりました。
王妃様は給仕にお茶を入れ替えさせたあと、出ていくように指示なさいます。
給仕が温室を出ていくと、そっと落とした声で王妃様がおっしゃいました。
「ねぇセシリア、子供が外れた道をいきたいと言ったらあなたはどうする?」
外れた道、とはぼやかされますが、実子であるエドワード王子殿下のことでしょう。
「さぁはっきりとはなんとも。その時の理由や背景にもよりますでしょうか…。娘が悪いことをするのであれば娘を叱るかと思いますが、ただ他者とは違う道を歩みたいだけならば応援いたします。」
「そう、そうよね。状況によるわよね。」
そう言って少し俯いてしまわれます。
「エドワード殿下のことで何かお悩みでもあるのでございますか?」
あまり進まなくても困りますので切り込んでみます。
まぁ、近日の騒動の中心でございますから王妃様も色々と思い悩むのでしょう。
王妃様はわたくしの問いかけに、うん、そうね。とつぶやき、それからとても強い、眼差しをわたくしへ向けられました。
今日の本題に入られるようです。
「セシリア、怒らないで聞いてちょうだ…いえ、怒ってかまわないから最後まで聞いてちょうだい。」
わたくしも王妃様を見つめ返します。
「エリザベスに次の王妃を務めてもらいたいと思っているの。」
王妃様はとっぴな提案をなさいました。
わたくしは閉じていた扇子を口元にやり、静かにゆっくりと開いていきます。あまり開きすぎるとあからさまですから三分ほどにとどめます。
なぜエリザベスちゃんが王妃に? これは何年も前にお断りしたはずです。
それに今のエドワード殿下にはクリアハート男爵令嬢がおります。
「エリザベスが王妃になったら、エリザベスに国のほぼ全権を持ってもらうつもりよ。エドワードと共にね。それからエリザベスが産んだ子供を次王とすることを約束するわ。」
王妃様はエリザベスちゃんの待遇を教えてくださいました。
これだけ聞くと破格の待遇です。普通はこの条件を得るために争いが起こるのです。
しかし、気になる点もございます。
「しかし、エドワード殿下は妃となる方をご自分で選ばれたとお聞きしました。」
わたくしの問いに王妃様は小さく唇を噛みます。
「そこはあの子を説得します。」
こうおっしゃるということは、エドワード殿下にこの話を通しておられない、ということです。
王妃様の独断か、国王陛下のご意思も含まれているのか、はたまた他のどなたかのご意思なのか、わたくしにはわかりかねます。
「エドワード殿下がご承知なさらなかったらいかがなさるのです?」
「…。」
「その場合はエリザベスちゃんを側妃にということで御座いましょうか?」
「…。」
「そうでございますか。」
そうでございますか。エリザベスが王と王妃の仕事をし、エドワード殿下は男爵家のご令嬢とよろしく優雅にお過ごしになる、と。
さらに側妃となれば権力は例の男爵令嬢以下でございます。
とんでもない要求をしてこられました。
わたくしの中に怒りが燻り始めます。
「エリザベスちゃんに聞いてみる事にします。少し、お時間をいただきます。」
わたくしとしては、この場で断ってしまいたいお話でございますが、エリザベスちゃんの将来のことですから、本人に聞いてみなくてはなりません。
今のエリザベスちゃんは絵を描くことがどれほど好きなのでしょうか? 我が家にいたころは、しょっちゅう絵の具を買い足しておりました。
王妃になれば絵を描くことはできなくなります。絵を描くことよりも、妃として国政に携わりたいと思うでしょうか?
わたくしにはエリザベスちゃんが絵をやめることなど想像できません。
ですが、それ以上に王妃になりたいと思っているかもしれません。
親が知らないだけで、子のしこうは変化している可能性がございます。
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