知らせ
折々に届く異様な情勢に、一度王都に戻ったほうが良いのかと悩む日々でございます。
このごろは、いつ王都へ発つことになっても困らないよう、日々の政務には区切りをいくつも設け、最小限の説明で業務を引き継げるように心がけております。
近くの村の食料保存庫を確認して戻った時、お母様から、話があるから来るように、と呼ばれました。
呼ばれたお母様の部屋にはポーラさんもいらっしゃいます。お母様とお二人でお茶をされていたようです。
部屋の中は人払いがされており、使用人はおりません。わたくしに話があるから、というよりも水入らずでお話されていたようでございます。
お母様は相変わらず柔らかい服をお召しでいらっしゃいます。
ですが恐らく、ポーラさんは事情をご存知なのでしょう。お母様に取り繕うような様子はありません。
「セシリア、ちょっと聞いてちょうだい。」
そう言ってお母様がポーラさんを促されます。
ポーラさんのお話しは王都にある店舗のことでございました。
「セシリアちゃん、昨日聞いたんだけどね、うちの店は王都にもあるじゃない? そこで、王宮から預かっていた特別式典用の装飾布を王宮に戻したらしいのよ。」
特別式典用の装飾布が王宮に戻される。まさか、それが示すところは恐らく…。
わたくしの表情の変化に、ひとつ頷いてからポーラさんは続けます。
「エドワード殿下が十四歳の時に染め直しの依頼を受けていてね、でも、あの時は立太子式が延期になっちゃったじゃない? その時からずっと王都の支店で預かっていたのだけれど…」
ポーラさんは少し申し訳なさそうなお顔でお母様に目配せいたしました。片眉を上げて答えたお母様はポーラさんの言葉を引き取りおっしゃいます。
「そろそろ立太子式があるのではないかしら?」
やはり。
ですが予想外でございます。まさか、この失態の最中に立太子を進めるとは。
もう少し色々と落ち着き、噂話が流れてから行われると思っておりました。あまりにも早急すぎます。
その時、アルフレッドが部屋の中へと駆け込んできました。
何かを叫ぼうとしましたがポーラさんを見て、大きく開けていた口が小さく形を変えました。張り詰めていた表情も柔らかにし、穏やかな挨拶を紡ぎます。
「ご無沙汰しております、ポーラ殿。お邪魔をして申し訳ありません。」
「えぇ、昼食会ぶりでございますね、アルフレッド様。ちょうど御暇をさせていただくところでございました。マーガレット様、長居をいたしました、また参ります。セシリア様、よしなに。」
アルフレッドの様子から、こちらに重要な話がある事を察してくださったのでしょう。ポーラさんが立ち上がり、暇の挨拶をされます。
お母様は頷いてポーラさんの退席を了承されました。
「急かしたようで悪いわね、ポーラ。また、待ってるわ。」
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