盗賊からわかること2
夫の手紙から数日後、先日に夫から届いた手紙と関連する噂が入ってきました。お友だちからのお手紙です。
何でも先日、「国王陛下が視察に行き、つつがなくご帰還された」ことが噂になっているのだとか。
このお友だちは、朗らかな純粋無垢な方ですので、聞いたままを教えてくださったことと思います。
領地にいるわたくしにとって、とてもありがたいことです。
それにしても、つつがなくご帰還されたことがわざわざ噂になるなど、その噂に裏があると考えるべきでございましょう。
先日、夫がわざわざ手紙に書いてよこした内容でもあります。
「陛下が視察をつつがなく終えた」と書かれているということは、陛下もしくは陛下に扮したどなたかが王都から出られたということは事実としてあるのだと思います。
しかし、それが本当に視察であったか、は判断がつきません。
つつがなく、というのは視察は滞りなく、何も特出した問題はなかったということでございましょう。
盗賊が出た、という地にわざわざ赴いて何事もないことなどあるのでしょうか?
いえ、わざわざ噂にするということは何もないように思わせたいのでしょう。
それは何かあった、ということです。では、何か、とは何でございましょうか。
やはり討伐でしょうか? 陛下率いる軍が盗賊の討伐をおこなったと。
えぇ、きっとそうなのでしょう。
しかし素直に、直轄領に盗賊が出てそれを軍が討伐した、とすればよろしいのに、視察をつつがなく終えた、などど浅はかな繕いでございます。
興が冷めるような拙さです。大規模な盗賊の討伐があったとすれば、いくら箝口令のようなものを出したとしてもそのうち噂に上るはずです。人の口に戸は立てられません。
それなのに隠したい理由とはなんなのでございましょう。
討伐に向かったことを隠したいのでしょうか? いえ、でしたら視察中、偶然に盗賊を見つけたように装えばよろしいのです。
では、盗賊が出たということを隠したいのでしょうか?
あぁ、そうかもしれません。
盗賊を隠したい理由は何でございましょう? そもそも、盗賊が出たのは何故でございましょう。
近年の街道警備と情報共有の進みで、賊は領をまたいでも逃げることが出来ないと聞いております。
それに直轄領は国軍が配置されておりますので、兵の配置を間違えたり、伝達が滞るとは思えません。
わたくしが知らないだけで、あの辺りで不作でもあったのでしょうか?
これ以上、一人で考えても埒が明きません。
一人で考えるより、アルフレッドにでも聞いてみましょう。
「アルフレッド、例の盗賊ですが、何故出たのでしょうか。
あの辺りに不作でもあったのでしょうか?」
「先に直轄領に出たという? あの辺で不作は聞いてないですね。王都近辺の収穫量は見るようにしてるんですけど、昨年は平年並みに収穫できたみたいですし。」
王都の物価は昨年に比べて、大きく変わってはおりませんので、アルフレッドの言うことは信用出来ます。
それならば多くの民が生活に困窮して徒党を組み賊となるようなことはないでしょう。
「では兵の配置が悪かったのでしょうか?」
「国軍がそんな配置をミスするとか無さそうですけどね。現に、他の直轄領では出てません。他領の失態を尻拭いしているのなら聞いてますけど。」
「そうですね。…では何故出たのでしょう?」
「うーん、そうですね。やっぱり、監視が行き届かなかったからだと思います。軍の判断ではなく、他から配置しないことを指示されたからとか、もっと重要な何かに人を割かなければならなかったとか。」
他から? 軍の判断ではない? そんなことがあるのでしょうか。
わたくしが理解出来なでいると、アルフレッドが教えてくれました。
「うちの領だって、俺やセシリア様の指示を通すでしょ?」
あぁ、領主側からの指示ということなのでごさいますね。それならば分かります。先日、わたくしも行いました。
「あの領を管理されている文官のお名前はわかる?」
直轄領を治めるのは国王陛下ですが、国王陛下には国を治める仕事もございます。ですから国の文官が代官として管理しているはずです。
アルフレッドは存じているでしょうか。
「あそこは、三年前からエドワード殿下ですよ。」
エドワード殿下!
三年前ということは、学園にご入学されたのと同時期の任命です。
そういえば、以前に直轄領の一部を任された、とお聞きしたことがございます。
それにしてもエドワード殿下のご指示で街道警備の配置変えは何のためでしょうか。
何のために兵の配置を変えられたのでございましょうか?
横領、と夫は言っていました。横領とは、公費を私的に使用することでございます。
エドワード殿下はいったい何処の費用を横領したのでしょうか?
………。
あぁ! 繋がってしまいました。
ご自身で領地管理をされているのならばきっとそこからがやりやすいでしょう。
恐らく、エドワード殿下は直轄領の街道警備の費用を横領されたのでしょう。
国軍であっても直轄領の中で行われることは直轄領の予算で行われます。
予算が減り、街道警備を減らさざるを得なかった。それゆえ警備が行き届かず、盗賊が住み着いたという経緯でしょうか。
王都近辺は高額品の流通も多いため、格好の的だったのかもしれません。
虎視眈々と狙っている者たちがいたのでしょう。
そしてそのエドワード殿下の失態を隠すために国王陛下ご自身が動かれ、そもそも盗賊などいなかった、というふうに隠した、と言うことでしょうか。
そうだとすればこれは、国王陛下はエドワード殿下を立太子させるおつもりでいるということです。
エドワード殿下の失態を隠しているのですから。
国王陛下はいったい、何故そんなにエドワード殿下の立太子をお望みなのでございましょうか?
以前、前例に背いてまで立太子を先送りされておりました。その当時のエドワード殿下よりも今のエドワード殿下の方が盲目であらせられるのに、いったい何故でございましょう。
やはり子が可愛いからでしょうか。
一国の王であっても我が子大事は致し方ないことでございます。
お読みいただきありがとうございます。




