盗賊からわかること1
卒業パーティの手紙から一週間、出入りの商人から恐ろしい噂を聞きました。何でも、王家の直轄領で盗賊が出たそうです。
はっきりとはわかりませんが近年希に見る規模なのだとか。しかも王都から近い領地にでございます。
数年前より、国から街道警備に力をいれることと、各領は近辺の領と情報交換を行うようにとのお達しがございます。
その政策のおかげで、国内で大規模と呼ばれるような盗賊が出ることが近年にはありませんでした。
加えて、直轄領であれば国軍の常備兵が配属されておりますので他領よりも盗賊が出にくいのです。
ですから本当に珍しいことなのです。この背景が、距離の離れたこの領地まで噂が回ってくる理由でございます。
夫が言っていたように国が荒れ始めたのかもしれません。
幸い、今のところ内乱の兆候はございませんが、気を付けるに越したことはないでしょう。
夫からの手紙も、噂も、王都の世情は不穏な噂ばかりでございます。
噂を聞いてから数日後、王都の穀物と干肉の物価がごくわずかに上がりました。この情報がわたくしに届くと同時に、夫からも手紙が届きました。
先日、王家の直轄領に出た盗賊に関係するものでごさいます。
手紙によりますところ、国王陛下は直轄地の視察へ赴かれたそうでございます。そして視察には軍を連れて行かれ、つつがなく終えられた、とのことでございます。向かわれたのは先日、盗賊が出たと噂になった地です。
これはとても奇妙なことです。
まず、この国では国王陛下の警護を近衛隊が努めます。
近衛隊とその他の軍はどちらも武をつかさどる役職でございますが別のものなのです。要人や要所を守ると、国を守る、の違いがあるのでございます。司令系統なども異なっていたはずです。
通常、国王陛下の領地視察についてゆくのは、王宮にいるときと変わらず近衛隊です。ただの視察に軍は動かないのでございます。
国王陛下が軍を伴う場合、それは他国との戦争、乱の平定のため、もしくは賊の討伐なのです。
ですから、国王陛下が軍を連れて視察に赴く、というのはとても不自然です。
軍を連れて討伐へ行く、または近衛隊を伴い視察へ行く、となるのが正しいのでございます。
しかし夫がその不自然を書いて送ってきたということはそれが真実なのでございましょう。
そして、この手紙をわざわざ書いてよこしたことにも意味があるのだと思います。
ですが今のわたくしには深い意味が読み取れません。いったい何なのでございましょうか。
手紙にはこの辺りの詳細は書かれておりませんでした。書けないか、領地には必要がないか、そのどれもなのか、というところでしょうか。
わたくしにはわかりかねますが、なんだか、夫の身が心配でございます。お健やかでいらっしゃれば良いのですが。
お読みいただきありがとうございます。




