昼食会の後始末2
調べたところ、少女はラナ・ギルシュ男爵と申しまして、分家の末端でございました。
彼女のお母様とは面識がございます。悲しいことに、昨年お亡くなりになっておりました。そのため半年ほど前に男爵を継がれたようです。
男爵継承の承認は国ですし、領への報告はアルフレッドが受けておりました。ですので、わたくしは昼食会で初めてお目にかかったのでございます。
あの昼食会の後、わたくしは使用人を通じてラナに面会を申し出たのですが断られてしまいました。
なんでもご兄弟が風邪を引いておられるのだとか。領都で買った薬を、できるだけ早く持って帰りたいと言うことでした。残念でございました。
ですがわたくしは、お話してみたい思いを諦められず、男爵の家に伺うことにいたしました。
保存庫見回りの前倒しをかたって男爵の住むドードラの町まで押しかけたのです。ラナに少しばかりの土産を持ち、どうせならと領官も連れて。
そこでいくらか話してみると、思っていた通り、ラナは聡明な子でございました。
十五歳という若さにもかかわらず、精一杯、弟妹と共に管轄である町と村を治めていたのです。
ラナには弟が二人と妹が一人おりました。弟も妹もとても良い子でした。
下の弟妹は幼く、ご挨拶程度にお顔を見ただけでございますが、行儀の良い子たちでございました。
そして上の弟であるトーマスも、とても頭の良い子でございました。
わたくしたちは彼に教えを請わねばならないと感じたほどでございます。わたくしだけでなく、アルフレッドも、それから夫も、対話の時間を取るべき存在です。
こんなに頭の良い子たちでございますが、ギルシュ男爵家は、経済状況と必要性の少なさから王立学園へは通っておりませんでした。
本人たちは、その事に可もなく不可もなく、当たり前、と言った様子でございます。ただ、どんなところかと物見遊山してみたいとはおっしゃっておりました。
元々、あの学園に通うのは領地持ちの方か、宮廷爵位を持つ方がほとんどで、代官爵位の方は少ないのです。
わたくしが学生だった時分には、少しばかり肩身の狭い思いをいたしました。
しかしわたくしは、ラナとトーマスを王立学園へ入学させることに決めたのでございます。
王立学園へ行っても彼らが学ぶことは少ないでしょう。
ですが、あの二人を田舎に埋もれさせておくのはもったいなく感じます。これから大きな活躍をするかもしれない、その将来のために肩書を得てもらうのです。
王立学園の卒業という肩書一つで変わることがあるのでございます。
かつて、わたくしが分家から本家へ嫁ぐことをお母様に認めていただけたように。
これは領にとってためになることです。夫に請い、領主命令としたいと思います。
屋敷へ帰ってからドードラの町の視察を報告した後、アルフレッドに尋ねられました。
「あの男爵になぜそんなに肩入れするんですか? とても優秀なのは分かりますが、やり過ぎでは?」
確かに、傍から見ればやり過ぎかもしれません。しかし良いのです。種は多めに蒔いておかねば、あとから収穫する物を選べません。
「未来への投資でございます。」
とだけお答えいたします。アルフレッドは肩をすくめてふーんといった様子です。
実のところはラナをアルフレッドの嫁候補の一人と考えておりますが、このお話しは後日にいたしましょう。
それよりも、今はアルフレッドに聞きたいことがあります。
クリアハート男爵家のご令嬢についてです。
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