昼食会4
子爵はどうしても訴えたいことがあるようで、引き下がってはくれません。面倒なことです。
「しかしですな、食料保存庫の見回りなど、今になってどうして行うのです? ここ数年はやっておられなかったではないですか。」
呆れたこと。わたくしが怒っていることもわかっておられない。わたくしは、わかりやすく示したはずです。
不敬罪で処罰することにいたしましょう。同じ事に対する二度の指図は不敬と取ってもよろしいでしょう。
直ぐにでも処罰を言い渡したいところですが、会場内には子爵と同様の疑問が湧き上がっておりますので、まずは説明をいたします。
「だからでございます。ここ数年、行うことが出来ておりませんでした。ですからわたくしがやるのです。我がギルシュ領では、王命の食料保存庫を大切にしている、と国に対して見せる必要があります。」
「何故そちらの怠けをこちらが負担せねばならんのだ!」
わたくしが引かないことが伝わったのか、今度は声量を上げてきました。
何を履き違えているのか、勘違いしているのか。わたくしには脈絡が理解できません。
老いてもこうはなりたくないものです。昔はもう少しましでございました。
…代替わりでもしてもらいましょうか?
「怠けとは、そう、でございますね。確かに数年、領主の見回りがないのは怠けと取れなくはありませんね。それとも、見回った領官の不手際を見いだせなかったことでしょうか? それにしても、そちらが負担されることとは何でございましょう?」
直接見回りに行かなかったのは、エリザベスちゃんの入学式、アルフレッドの教育開始による政務のずれ、お父様の急逝、大雨による湖畔の村の浸水災害、等々…保管庫の見回りをする優先順位が低かったので仕方がありません。
見回った領官については、不手際、と申しましたが、実のところはそうではありません。毎回きちんと報告を受けております。
領官が保存庫を確認できなかったのは、仕方がないことでございます。爵位のない方は爵位ある方に逆らうことができません。
やろうと思えば、命令状を持たせるなどして対応出来ました。ですがそうしなかったのには理由があります。
夫やわたくしには保管庫を見せるが、領官には見せない、という方のお名前を把握したかったためでございます。
代替わり、どなたに代わっていただきましょう?
「…。」
おや、子爵は黙ってしまわれました。代替わりしていただくには少々足りませんので、少し煽ってみましょう。
わたくしは扇を開き、顔の下に据えてゆっくり扇ぎます。表情には嘲りの笑みを。
こういった挑発方法は、お母様仕込みでございます。
今、一段高いところに立っていることがとても有用に働いていることでしょう。
「セシリアっ! きさま、父親に向かってなんて態度だ!」
姉は人前に立つのが苦手ですし、街長は無理でしょう。
「ここは公の場でございます、分家殿。麒麟…いえ、馬も老いましたわね。」
暗にのろまの馬以下だ、と申します。悪口でございます。正確な意味が通じるかは分かりませんが、良い意味でないことくらいは伝わるでしょう。
そうです! 子爵の孫、わたくしの姪に代替わりしてもらいましょう。
今、姉の一番上の子が確か十三歳です。あぁ、あの子は素直で良い子でございます。
今から一年ほど我が家で見て、その後王立学園で学んでもらいましょう。そうしましょう。
姪が学んでいるその間は、アルフレッドにガフを全てを任せましょう!そうしましょう!
わたくしが考えていると、わっ、と皆様の声が湧き上がりました。
実父が足早にわたくしまで詰め寄り、そして、殴りかかってきたのでございます。
思っていたより、早くに行動してきたことに驚きました。昔より、手を出すまでの時間が短くなったようです。
わたくしは、その場から動きません。
警護の者が止めてくれますので、実父程度の攻撃に、わたくしが動く必要は何一つないのでございます。
ギルシュ子爵はそのまま警護の者に連れていかれました。
おそらく、ずさんとなっているであろう保存庫の管理と、今のわたくしへの襲撃を合わせれば、代替わりさせるのに足ることでございましょう。
他にも余罪がありそうですが、今ここでさらけ出させても、大きすぎる罪が隠れていたら面倒です。代替わりさせてからゆっくりと調べることにいたしましょう。
お読みいただきありがとうございました。




