昼食会3
今回、徴税の制度を変えるのには理由があります。
これまで、保存庫の管理者は領民に対し、自身の懐を痛め保存庫を整えている、という体裁をとって来ました。
聞いた話、その体裁が領民からの敬意と感謝の足しになるそうです。
その実のところは、減税という形で補っております。
今までは管理している保存庫の数だけを見てどれほど減税するかを決めておりました。
それを、これからは実際にかかった経費等を見て貰いすぎた税を還付するのです。
還付の形をとったところで、体裁が変わるわけではありません。領民には見えないところでございます。また、最終的に取る税もほとんど変わらない目算が立っております。
変わるのは保存庫の管理についての会計報告が必要、というところです。
双方に手間が増えてしまいますが、毎年きちんと保管庫を整えていただくためには致し方ないと思っております。
またそうすることによって、会計がデタラメであれば、それは、虚偽や横領の罪として捕えることが出来るようになるのでございます。
今まで怠けていた方々は、減税分を何に使っていたか存じませんが、これからは保存庫の整備に使われることでしょう。
今回の報告書提出は、備蓄を整える手段であると同時に将来に行って行きたい政策の足がかりでもあるのです。これから先、我が領では税収と公費の使用用途等を全て書面に記してご提出していただく制度に変えてゆくつもりでおります。
今までは内訳のない、最終的な金額だけでございましたから、急速にではなくゆっくりと、これから何年もかけて行ってゆくのです。
この制度の変更に踏み切れたのは、夫や亡きお父様の政策によって、識字率が上がり、今までの知識層がさらに知識を得られるようになってきたからです。数十年の我が領の成果でございます。
ある程度、ざわめきが収まってきたところで、今度は一人の老紳士が立ち上がりました。
最近にあつらえられたのでしょうか? 服が新しいように見受けられます。
「セシリア様に申し上げます。わざわざあなたが回るような事ではないでしょう。いつものように領官に任せなさい。」
なんとまぁ、公の場でわたくしに指図なさるとは。身分をわかっておられないのでしょうか。貴族を名乗らないで頂きたいものです。
頷いていらっしゃる方々のお名前も覚えておきましょう。保存庫を見回りに行ったときに役に立つはずです。
わたくしは使用人に目配せをしておきます。記録しておいてもらうのです。
「お言葉ありがたく頂戴いたします、分家筆頭殿。ですがわたくしは王命に対して真摯に働きたいと思っております。」
不本意ですが、二度目は穏やかに返します。失言は誰にでもあるものです。それに、事を荒立てるには気力がいるのです。
「領官が回ったところで真摯でない、ということにはならないでしょう。おやめなさい。」
二回目の指図でございます。わたくしは持っていた扇を、ぱちん、と一つ鳴らしました。
その音に、ざわざわとした囁き声が止み、この会話に静かな注目が向けられました。
「ギルシュ子爵、三度は言いません。」
これで引き下がって頂きたく思います。
ギルシュ子爵は一族の分家筆頭でございます。子爵ですが領地を持たず、代々、ガフという街を治める代官を務めております。
このような爵位を王国内では俗に、代官爵位、と呼んでおります。
ギルシュ子爵が治めるのは領主の屋敷がある領都と同規模の街でございます。領内ではこの二つより大きな街はありません。
それなりの大きさがある街ですので、他の地区の代官よりも権限が多く付与されております。ガフの街の中のことはガフの街で収まるようにしているのです。
また、この代官達は領民から長とよばれる場合もございます。ギルシュ子爵の場合、ガフの街長です。
我が領内では代官と街長、町長、村長を同じ方が務めることがままあるのでございます。
お読みいただきありがとうございます。




