背景3
「それに、あの第一王子が次代でないなら誰になるのよ。」
お母様がアルフレッドに問います。
「第二王子、ですか?」
恐る恐るアルフレッドが声を出しますが、直ぐにお母様が一蹴されます。
「後ろ盾がなさすぎるでしょう。あそこまで孤立してると政治なんかできないわよ。王の力が弱すぎて各貴族が権力争いしかしなくなるわよ。裏金横領やり放題で国がつぶれかねないんじゃない?」
「それに、一応後ろ盾としてついてるあの子爵ですが、近々借金でつぶれるかと思います。」
わたくしが、補足するとアルフレッドはさらに小さくなってしまいます。
第二王子殿下の後ろ盾が子爵家であるのは、ご実家である伯爵家が代替わりし、側妃様と疎遠であるからなのです。
七年ほど前でしょうか、先代ご当主である側妃様のお兄様が若くして亡くなられ、あとを継いだのが遠縁のご老人でございました。
老齢の伯爵は領地に籠りきり、王都にはほとんど出て来られていないようです。
そしてその伯爵領をハロルド殿下が継ぐ可能性も各所で噂されておりました。
それほどに第二王子殿下が王位を継承すると思われていないのです。
「じ、じゃぁ王弟殿下?」
アルフレッドがまた恐る恐る声を出します。心うちで、これはないよなと思いながら言ってるのが丸わかりです。
「王と年齢が近すぎるわよ。ひとつしか変わらないじゃない。しかも子供いないわよ、あの人。」
今はご壮健な国王陛下に何かあったとき、中継ぎとして立ってもらう事は可能でしょうが、次代と言うのはいささか難しいかと存じます。
お母様からの強いご指摘に、アルフレッドから他の方のお名前は出て来ないようです。
「みんなあなたの様だから、様子見が最大派閥、なんてことになってるのよ。」
ごもっともでございます。エドワード殿下の立太子に関してこれこそ、様子見派閥が最大となっている理由でございます。
かくいう我が家も様子見の派閥に入るかと思います。まぁ、夫の場合は、気にしていないだけなのかもしれません。
他に王位継承権を持っているのは国王陛下の姪ご様と大公様です。
姪ご様は公国に公妃として嫁がれた王妹殿下のご息女です。王女殿下はすでに亡くなっておられますので公国で継承権を持っているのは国王陛下の姪である公女様だけです。
ですが、この姪ご様は呼べないのでございます。
健康に問題のない王子が2人いるのにもかかわらず、他国から次代の王を呼ぶというのは、この国の恥になってしまいます。
しかもそのお方は次代の公王とお成りあそばされるのです。呼べるわけがありません。
もしくは、3代前の王の曾孫である大公様となります。こちらも、陛下よりいくらかお若い程度の年齢ですので、実際のところはご子息のアレックス様でしょう。
ですが大公家を太子に担ぐとなると、それはとても大変なのです。
何よりの理由は、大公家よりも公国の姪ご様の方が継承順位が高くあるためでございます。姪ご様を無視してアレックス様が立太子すれば、公国が黙っていないことでしょう。
内乱どころか戦争が起こりかねません。
このあたりの名を次代の王として上げないあたり、アルフレッドも背景を理解しているのでしょう。
色々と考えていて、一つ不安になりました。
「この横領、もみ消される可能性がございますね」
わたくしが呟くとお母様も賛同してくださいますが、アルフレッドはわたくしの言葉に驚いて目をみはります。
「えっ! 横領、なかったことになるんですか!? なんでです?」
「今、お話していた王位継承の問題でございます。エドワード殿下が立太子されると禍根となりましょう?」
「無難、なのよ。泥舟が。」
わたくしとお母様の言葉を聞き、アルフレッドはさらに問うてきます。
「え、本当に? 側近がしっかりしてれば第一王子で無難ですが、今、側近たちは同じ穴の狢でしょう?」
本当にそうです。アルフレッドは大きく間違っているわけではありません。
ですが、エドワード殿下とご側近方を一緒くたに考えるべきではないと思われます。
「そこは、現職各位にがんばってもらったり、側近総入れ替えしたりをするしかないでしょうね。」
要は、第一王子のご側近方に今後の政治的立場を全て放棄させよ、ということでございましょう。
わたくしもこれが最善なように思います。
わたくしにも思い浮かぶことです。まともな考え方の貴族であれば思いつく方も多いことでしょう。
王宮がこの判断かこれ以上に良い案を出さないのでしたら、何か必要以上の癒着や買収を疑うべきでございましょう。
そのあたりは夫がよくご存じでございますから、きっと何かあれば知らせてくださることでしょう。
お読みいただきありがとうございます。