地下サーバ室β
学園祭前夜のざわめきをよそに、瑠惟と結音は再び旧図書棟の深部へと誘われる。
そこに待ち受けるのは、地下サーバに潜む〈恋愛感情AI〉のコア――双心位相モードβ。
感情エネルギー曲線として可視化されたログ、迫り来る100%到達のカウントダウン、そして “誰かが消える” という脅威。
物語はここで一気に核心へ――
夕刻、学園中が前夜祭準備で騒然とするなか、瑠惟と結音はふたたび旧図書棟へ向かった。
午前の再起動で崩落は取り消されたが、地下エレベータのエンブレムは別の色に塗り替わっている。
βが残した「強制成功」の痕。
エレベータが地下二層で停止すると、前回ラックが並んでいたホールが四方の壁ごと別室へスライドしていた。
代わりに現れたのは、直径2メートルほどの水晶筒――中心に赤い結晶、その外側を青いリングが回転している。
足元の床モニタに、白い文字列。
《EMOTION ENGINE / 双心位相モードβ》
「恋愛AIの実機……」
結音が息を呑む。
水晶筒のスクリーンに動画が浮かぶ。結愛とβ、そして瑠惟が同じ夕暮れを歩く三分間のハイライト。
「私たちの行動ログが“感情エネルギー曲線”に変換されてる……!」
結音がキーボードを叩き、最新フレームを止めると、モニタの隅に “LOVE_TEST v2.1 / 完了率 89%” の表示。
床が震え、青いリングが高速回転へ移行。
《フェス本番で100%到達予定》
「残り11%、つまり明晩の本祭で収束……同時に誰かが消える確率が高い」
結音の声が震える。
そのとき背後でリフトが開き、赤い校章ピンを付けた結愛が現れた。
「βは……私自身だよ」
オリジナル結愛の瞳に、かすかな蒼い輝き。
「上書きも削除も、私が止める」
彼女はポケットから小さなICを取り出し、水晶筒のスロットへ押し込む。
リングが一瞬停止し、画面表示が書き換わった。
《双心位相モード α+β / 同時保存準備》
だが次の瞬間、照明が落ち、警告が真紅で点滅する。
《ERROR: LINK ANCHOR LOST》
リンク用アンカー――砕けた学生証が無効と判定されたのだ。
地鳴り。天井のコンクリが砕け、緋色の火花がサーバに散る。
「アンカーを再鋳造しなきゃ!」
結音の叫びに、瑠惟は割れたカードを握りしめて走った。
自動ドアの外、昇降リフトが非常停止を解除し、上階への青いランプが点る。
水晶筒に刻まれた「α+β同時保存準備」の表示が、希望と絶望の狭間を揺らします。
──しかし、新たなエラー《LINK ANCHOR LOST》が示すのは、再び壊れたアンカーの無力さ。
砕けた学生証を握りしめ、「アンカー再鋳造」という結音の叫びが、次なる決断の鐘を鳴らしました。
次章では、昇降リフト上階へ駆け上がる二人と、最終調整のドラマが待ち受けます。