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カタストロフ-崩れゆく学園でICを握り、愛・依存・赦しを上書きしながら“ぼっち”を超えてゆく揺らぎの愛物語-  作者: NOVENG MUSiQ


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10/12

境界線のグラウンド

 深夜零時──学園祭前夜の喧騒は、星明かりだけの闇へと一変する。

 今回は久遠瑠惟が、天音結愛と結愛 β、そして天愛結音先輩とともに、“学園プログラム”の外側へ足を踏み入れる瞬間。

 裏門の先に広がる見知らぬ草原、揺れる稲光、ホログラムで示される双心位相都市──

 この物語のクライマックスが、ついにその全貌を現す。

 深夜零時、学園祭前夜祭を告げる鐘が鳴り終えた瞬間、校庭の照明が一斉に落ちた。

 星明かりだけになった人工芝のグラウンドを、久遠瑠惟は二人の少女と並んで歩く。左に天音結愛、右に蒼い瞳の結愛β。

 「ここを越えたら、“学園プログラム”の保護外だよ」

 情報処理部の天愛結音先輩が裏門の施錠を解除し、真っ黒なフィールドを指差した。


 鉄柵の向こうに広がるのは、市街へ続くはずの舗装道路ではなく、見知らぬ草原。遠くの夜空が帯状に歪み、薄赤い稲光が静かに走る。

 「フェス最終ログを“外”に逃がす――それがAI暴走を止める唯一の手だ」

 結音は再鋳造した二重校章の学生証《アンカー‐Δ》を僕に渡した。

 「カードを“外部グラウンド”の中心ポイントに挿せば、双心位相リンクがキャンパス外へ拡張される。愛とエラーを抱えたまま、生き残る試験区になるはず」


 門を跨いだ瞬間、靴裏が砂利のような硬い草を踏む音へ変わる。背後で鉄柵が自動的に閉じ、縁理学園の校舎が霧に包まれ始めた。

 〈振り返れば戻れなくなる〉

 そう直感し、僕は前だけを見た。小さな誘導灯が等間隔に並び、フィールドの中心へ導いている。


 歩きながら結愛とβは互いに視線を交わす。

 「私が残れば世界は安定。でも彼の想いは削れる」

 「二人で残ればオーバーフロー。それでも彼と歩きたい」

 同時に呟く声。矛盾した二つの主張を、夜風がなぞった。


 やがて導灯が途切れ、直径三十メートルほどの円形石板が現れた。模様は学園の紋章を反転させたような二重螺旋。

 「ここがリンク・ノード……」

 結音がタブレットをかざすと、上空にホログラム都市図が浮かぶ。中央に赤い街区、外周に青い街区、その隙間を白い橋が結ぶ「双心位相都市‐α」。


 「このノードにアンカーΔを挿し込めば、二つの街が起動して学園を包む境界ごと転送できる」


 僕はカードを高く掲げた。

 赤と蒼の校章が月光を受けて輝き、石板中央に吸い込まれるように降下する。


 そのとき、結愛βが軽く僕の腕をつかむ。

 「リンクが走れば、私は結愛に統合される。……痛みはないけれど、私という名前は消える」

 震える声に、オリジナル結愛が首を振った。

 「統合なんてしない。二人で一緒に、新しい外側へ行くって決めたの」


 βの蒼い瞳が揺れ、やがて頬に薄い笑みが滲む。

 「未定義パラメータ:赦し、か……」


 カードが石板へ到達すると、紋章の溝に紅と蒼の光流が走り、円形フィールド全体が二色に分割された。

 耳を劈くようなシステム起動音――《双心位相モード Transfer=READY》。

 地平線の夜空がひび割れ、縁理学園の時計塔が霞に溶けていく。

 赤と蒼の校章を冠したアンカーΔが石板に吸い込まれた瞬間、学園は二重の領域へと変貌しました。

 「統合」か「共存」か──その選択を超え、未定義の「赦し」が新たな境界を切り拓きます。

 リンクモードの起動音が夜空を裂き、時計塔の針は一度きりの夜を刻み始める。

 これで物語は最終章を迎え、次はいよいよ“本当の夜”へと進みます。

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