シュールな朝
爽やかな朝。
それは、とても心地の良いものである。
澄み渡る青い空、ひんやりと冷たい新鮮な空気、新たに始まった一日への希望。
これらを全身で感じられるというだけで、「早起きは三文の徳」という言葉を理解するのに十分だろう。
そんな確たる考えを持っている私――水嶋瑞希は現在、学校への全力ダッシュを敢行している。
始業のチャイムが鳴るまであと五分もない。
そう、当然こうなってしまったのには理由がある。
私だって朝からこんなに走りたくないが、最初起きた時の私が選択ミスをしてしまったのだ。
せっかくセットしていたはずの目覚まし時計をアラームが鳴った瞬間に、迷うこともなくキャンセルし、一階のリビングから聞こえてきた母上の催促の声を無視。
私のミスでした。
私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。
結局、この結果にたどり着いて初めて、母上の方が正しかったことを悟るだなんて――――
「あいった!」
「大丈夫ですか⁉ って、瑞希?」
交差点の角でぶつかり、お尻から転んでしまった私は、相手の声に聞き覚えがあって上を向く。
「真希……なんでここに」
馬来田真希。
中学の頃からの私の友人で、現実には存在しないはずの糸目人間。
ただし、条件を満たしたときにのみ開眼をすることがある。
それについてはいずれ説明しなければならないだろうが、今は目の前の事態に対処することの方が先だ。
「なんでって言われても、私も高校生だから登校しなきゃだし」
真希によって差し出された手を握って立ち上がった私は、早歩きをしながら会話を続ける。
「いやその通りなんだけど……遅刻寸前のこんな時間に真希と会ったのが意外過ぎて。なんかあった?」
「ちょっと面白そうなやつを昨日買ったんだけど、それで遊んでたらこんな時間になっちゃっててさ」
「寝てないの?」
「うん。徹夜」
「長期休暇でもないのに徹夜をする女子高生っているんだな」
「ここにね。やめるタイミングなんて何回もあったはずなのに……完全に私のミス――――」
「ごめん。それもう私が心の中でやったわ」
「何をおっしゃってる?」
そんなことを話しているうちに、気づけば視界の先に校門が見える位置にまで到達した。
すでに何人もの生徒が走っており、まさにチャイム直前の様相を呈している。
時計を見ると、もうチャイムまでの時間は二分を切っていた。
「真希、私たちも走ろう!」
しかし、真希からの返事はない。
不審に思って横に目を向けると、真希の糸目の端が垂れており、明らかに疲弊している様子。
「真希……あんたまさか」
「ごめんね瑞希。私寝不足でもう無理かも」
「そんなっ! せっかくここまで来れたのに!」
「私のことは気にせず先に行って……」
「そんなことできるわけないだろ! 絶対に二人でチャイムに間に合わせる!」
真希を支えながらできるだけ急いで校門へと向かう。
でも、明らかに時間が厳しい。
私たちの戦いはこんなにもあっけなく終わってしまうのだろうか。
嗚呼、神様…………どうか真希だけでも見逃してやってはくれませんか。
「崎津紗季、参上!」
「…………え?」
これまた聞き覚えのある声と名前が耳元を通り過ぎていった刹那、肩からあったはずの重みが消える。
しかし、横にはもう誰もいなかった。
…………誰もいない? 私の隣には死にかけの真希がいたはず。
素早く横から前に視線を移動させると、校門の内側には真希をお姫様抱っこしている紗季の姿。
キーンコーンカーンコーン
そして、無情にも始業を告げるチャイムの音が鳴り、呆然と立ち尽くす私のもとにゆっくりと歩いてきた指導主任の先生の手によって、遅刻度数が1増えた。
確かに私は「真希だけでも」と言ったが、それは誰がどう聞いても世辞だろ。
神様はあまりにも仕事に真面目過ぎる。
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