洞穴の番人
山に登る事を趣味としているルキードは、この日『ポポルノ山』を訪れていた。四時間かけて頂上に到達したルキードの心は晴れ晴れとしており、流れてくる汗さえも心地よく感じている。
(壮大な景色だ!
この景色を描こう)
道具を出すためにリュックを地面に下ろすと、中から金の筆とスケッチブックをを出した。
「……っ‼」
筆を取り出す際、変な持ち方をしてしまったせいで落としてしまった。
「しまっ……た!」
落とした金の筆は坂になっている地面を転がり、先にある窪みに落下した。
「ああああ!」
幼い頃から使っている思い入れのある金の筆を落としてしまい、ルキードの顔は青ざめてしまった。
すると窪みの奥から眩いばかりの光が放たれ、美しい姿をした女性が現れた。
女性は両手に一本ずつ筆を持っている。
「わたくしはこの洞窟の番人です」
(洞窟?
窪みじゃないのか?)
ルキードは驚いた。
女性が現れた事もだが、彼女が番人で、窪みを洞窟と云う事にも驚いたのだ。
言葉を失うルキードの本音を知ってか知らずか、洞窟の番人は続ける。
「ソナタが落としたのは、このゴムの筆ですか?
それともプラスチックの筆ですか?」
ルキードの驚きは増した。
ゴムもプラスチックもどちらも一生働いても買えない程高価な品だからだ。
(ほ……欲しい!
あの筆、両方とも、喉から手が出るくらい欲しい!)
高価な品であるあの筆があれば、貧しい生活から脱け出せ裕福に暮らせる。
しかし、落とした筆にはたくさんの思い出があるのだ。
(全部の筆を手にする方法……考えるんだ!)
考えた結果、一つの案が浮かんだ。
うまくいくかどうかは分からないが、試してみる事にした。
「洞窟の番人さん、僕が落としたのは金の筆です。
貧乏なうちにはゴムもプラスチックもありません!」
番人はルキードの正直な心が気に入った。
「そして、そちらのゴムの筆とプラスチックの筆……落としていませんが欲しいので下さい」
正直に気持ちを述べるルキードの目を、洞窟の番人は真っ直ぐ見詰める。
「本当に正直な方ですね。
ますます気に入りました。
ソナタが落とした金の筆に加え、ゴムの筆とプラスチックの筆をさしあげましょう」
こうして正直に答えたルキードは、ゴムの筆とプラスチックの筆の対価を上げていき裕福な暮らしを楽しんだのでした。