天才魔法使いだと祭り上げられた結果、ものすごく調子に乗った私ですが、実は攻撃魔法の使えない無能魔法使いだったみたいです。~人生楽勝、豪遊生活から叩き落さた天才剛毛ロリ童女、泣く~
むかしむかし、この世界がまだ4つのタイリクに分かれていたころ――
4つのタイリクはセンソウをしていました――
何年も、何年もつづくセンソウでした――
そこに現れたのが、ソウセイのまほうつかい”ユタ”でした――
ユタはマホウで、じめんをわり、せいめいをミチビキ、センソウを終わらせ、今の世界をつくったのでした――
ペタンとやさしいシスターが絵本を閉じるや否や、私たちは口々に喋りだした。
「…ユタ様かっこいいよなあ」
「わたし将来はユタ様になるんだー!」
「あ! リリィ! ズルりィぞ! 俺がなるんだよ!」
「お前より早かったから私だけがなれるんですぅ! じめん割る魔法バーーン!」
「リ、リリィちゃん…やめたほうが…」
「てめ――」
「うるさいよガキども! ったく、きったない孤児なんかにまともな魔法の才能があるわきゃないだろ!!」
奥から現れた意地悪なシスターはそんな風に私たちを罵る。
私は物心ついた時からこの小さな教会の孤児院で育ち、物心ついた時からここのクソガキ達と、一切れのパンの取り合いをし、周りの大人たちに罵られながら生きていくのが当たり前だと思っていた…。
だから、意地悪なシスターの言ってることは、まあそうなんだろうなあ…くらいの感覚だった。
あの日までは――――
「なっ…なんなんだ…!! この魔力量は!!!!」
「か、神の子だ!! 奇跡だ!! ――この子はユタ様の生まれ変わりだ!!!!」
全統一魔法適正…なんちゃらとか言う、魔法の才能を計るテスト? で、私は今まで誰も出したことのない数値を出したらしく…。
あの時の検査をしに来た研究員の驚いた顔が傑作でさあ、泣きながら拝みだす奴もいるくらいで…、あ、パレードもしたかなあ、私を野良犬みたいに追っ払った商店街の奴らも、私が目を合わせるとキャーキャー言っちゃって。
すぐさま私は国の庇護下に置かれ、成人するまで手厚く、そりゃーもう手厚く保護されることになり。
誰も私に逆らえなくなった。
その結果。私は――――。
ものすっっっごく、ちょーーしにのったのだった。
「何よこれ! ブドウの皮ちょっと残ってんじゃない!! ちょっとシスター!?」
「ひいいい! すみませんすみません!」
「誰のおかげで国から金がこの教会に降りてると思ってる・わ・け?」
「もちろん、もちろんリリィ様のおかげですぅ!」
以前罵ってきた意地悪なシスターも、まるで下僕のように扱う日々。
孤児院のガキどもを馬に見立てて、庭を這わせる遊びもやったりしたっけ。
「お前たち、やりなさいよほらっ」
「テメェ! 魔法の才能がすごかったからって調子に乗りやがって…!」
一人の男の子が食ってかかってくる。
「なに? 殴るの? やれば? お前なんか牢屋にぶち込んでやるわ」
「…リリィちゃん! わ、わたし、その…やるよ」
そういうと、おどおどした少女は、膝をつき、馬の真似をしながらハイハイで進んだ。
私はそれを見ながら、ブドウを一粒口に放り投げる――――。
そんなやりたい放題な生活を続けていた私だったが。
12歳になり、高等魔法教育機関”キラベル”へと通うことになった。
白金の装飾が施された馬車に揺られ、この国の中心地、中央都市の中核、キラベルへと到着する。
門の前には数百人の生徒や教師、この国の官僚なんかも勢ぞろいで、私が馬車から降りるのを、今か今かと待ちわびていた。
私はキラベルの紋章が入った新品のローブを羽織り、カツンと馬車から降りると、すぐさま校長と名乗る、品のある老人が手を揉みながら私の横へとついた。
「リリ・リマキナ様、本校へのご入学、教師一同、心よりお待ちしておりました」
「うむ」
「こちらが、リリィ様のお部屋になります、通常の寮の最上階ワンフロアぶち抜きでご用意させていただきました。千年木であしらわれた家具に、封魔大理石による下のフロアからの余計な魔力をカット、ご自身だけの静かな空間をご提供させていただいております」
「うむ」
「こちらが本校自慢の食堂でございます、ああ、リリィ様のお席はあちらに見えます上階のVIP席でお食事をしていただけるようワタクシ主導で改装をさせていただきました、メニューにあるお食事は全て無料で、もちろん、ご気分によって、メニューに無いお食事でも、お申し付け下さればご用意いたします」
「うーーーむ」
はぁああ……。これよ、これこれ…、すべてが私の思い通り! それが魔法の”才能”がすべてのこの国での私の身分…! 全く長いプロローグだったわね、お待たせ、……セカイ。
「それではリリィ様、この学校での初めての授業でございます、最初は…初等攻撃魔法ですか…私どもも、リリィ様の覇道の最初の一ページをこの目に焼き付けたく……お供させていただきます」
「うーーーーーーーーーむっ!!!!」
これから始まるのよ…私の、私による、私だけの、人生楽勝、贅沢三昧の魔法使いライフが!!!!
『ファイアボール!』
……。
「ファイアボール!」
ん、あれ、おかしいな…
「ファイアボール!」
…。
「ファイア…! ファイヤ? ん˝ん˝…ファイアボール、ファ…ファイア…ファイアボーーーール!!!!」
ボッ!!!!
「ぎゃああああああ!!!! あっあち! アチアチッ!」
私は半べそをかきながら、何度唱えても出ない火の玉と、そして、何故か発火した腕の炎を惨めに消すと、静まり返る訓練場のオーディエンスたちへ向けて、か細い声で言う。
「ど、ドネルケバブ~…! な、なんちって…………ははっ……」
これは、最強の魔法使いの覇道を描く物語……私の私による、私だけの、人生楽勝、贅沢三昧の魔法使いライフ、そんな物語の一ページ…。
「部屋もVIP席も全て没収――リリィ・リマキナ、あなたを最低学位”O-10”へ降格処分に処す」
「ふざけんじゃないわよ! 何かの間違いでしょ!? こらっ! おいヒゲ! こっち向けこらッ!! しねっ! 死ねや!! 私は最強の魔法使い、リリ・リマキナなのよおおおおおおおおお!!!!」
わ、私の…私の贅沢三昧楽勝人生が、崩れ去る音が聞こえた――。
:後日談≪天才剛毛ロリ童女≫
1
こんこんこんと、つぎはぎだらけの薄い扉を叩く音で私はびくりと肩を震わす。
「ひっ…!」
再びノックの音が響き、今度は少女の声が、私を呼んだ。
「リ、リリィちゃん…体、大丈夫? もう六か月もお外出てないから…わ、わたし食堂でパン貰ってきたからさ、一緒に食べない?」
そう優しく語りかける少女を、私は自分から扉を開けると泣きながら飛びついた。
「メ˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝!!!! うわああああああああああああ!!!!」
私は、木造の狭くて暗いこのO-10の寮でひとり、ベッドの上で優しく頭を撫でてくれる腐れ縁の”メア”に膝枕をしてもらっていた。こいつとは教会の孤児院時代からの仲で、よく馬の真似をさせて遊んでたっけ…。
「きょ、今日は最初から甘えんぼさんだね、ふふっ」
「甘え? 何それ勘違いしないでよ、大体あんた来るの遅いのよ! まったく、私がこんなにもお腹を空かせているっていうのに何してたわけ? ほんっと使えない――」
私がそんな調子こいた発言を言い切る前に、メアは、ナデナデしていたその手を私の頭から離し、膝枕も止めると、そのままベッドから立ち去ろうとする。
「あ? ちょっと、誰が辞めていいなんていったのよ」
「……」
「メア? ねえ聞いてるの? ……ち、ちょっと、ね、ねえどこ行くのよ…お、怒ってるの? ちょっと…!」
私は部屋から出ようとするメアの服の裾をつまむと、情緒不安定で今にも泣き喚きそうな、うるんだ瞳で「…なんでやめちゃうのぉ?…メ、メアァ……」とメアを引き留める。
彼女は怪しい笑顔を浮かべると、再びベッドの上に戻り、ぽんぽんと正座した自分の太ももを叩く。
「ごめんねリリィちゃん、おいで」
「…うん」
私は再びメアの膝枕に頭を乗せる――――。
……あの一件以来、私は引きこもりになった。
天才だ天才だと言われ、鳴り物入りでこの学校へ入った私だったが、何故か”魔法が発動しなかったのだ”
正確には魔法は発動しているが、魔力が私の体から離れていかない…おかげでまともに魔法が使えず、周りからはその落差からか、必要以上に軽蔑され、罵られ、ついには三か月前、降格処分として、このぼろっぼろな木造作りの狭くて汚い、クソみたいな寮で暮さなければいけない最低学位、O-10へと落とされたのだった。
ああ…あの最高学位O-1の寮をぶち抜きで作らせた部屋が恋しい…
「リ、リリィちゃん、学校行こうよ、このままだと退学になっちゃうよ」
「い、いやだいやだいやだいやだ!!!!」
「でも、一年間O-10にいたら退学になっちゃうんだよ? この国でまともな魔法教育機関を卒業してないなんて、食べていけないよ、一生低賃金暮らしだよ」
「うう…だっ、だって他のやつら、わたしの事を見るや否や悪口言ってくるし、教師のやつらなんて私を無視してくるんだよ!?」
「リリィちゃんその度に相手に殴りかかってたじゃない! そうじゃなくて、リリィちゃんが情緒不安定なのって部屋に引きこもってるのが原因でしょ!? 悪口とかイジメとか全部に報復するから、最終的に魔法使えなかったことより、そっちの方が噂大きくなってたよ!?」
「チッ…」
「何で舌打ちしたの!」
うるさいわね、そんなこと三か月過ぎたあたりから何となく分かってたわよ…
「私もただ引きこもってたわけじゃないのよ、そうじゃなくて、私はこの体質について研究してたの」
「研究?」
「そう、細かい魔法の基礎知識をつけてたら、それが予想以上に時間かかっちゃって、けど、それなりに”考察”は出来た、私のこの”魔力懐胎体質”について」
私はむくりと起き上がると、メアに向き直る。
「人間にはそれぞれ魔力引力って物があるの、魔力を外から引き付けて、自分の中に取り込み、それを行使する力、無意識にね」
「う、うん」
「私はその魔力引力がとんでもなく強いってのが、私の今までの考察…魔力を取り込む力が強すぎて、外へ放出する命令を出しても私の体へ戻ってきちゃう体質、つまり、魔法の発動はしてる、間違いなく。私は”魔法が使えないんじゃなくて攻撃魔法が使えない”」
だから、試験ではファイアボールでわたしの腕が危うく消し炭になるところだった。
「そうだったんだ…」
「いま分かってることはこれくらい、あとは実験と仮説が少しって感じね」
「……それじゃあなおさら講義には復帰した方がいいよ、退学になったら嫌でしょ」
……退学になったらいやだ、けれどさっきははぐらかしたが、私だって悪口を言われれば傷つくし、白い目で見られれば居ずらくなる。
大部分はこの引きこもり生活の影響で肥大した不安のせいではあるけど、情緒不安定の今、外の世界に行くのはそれなりに勇気のいることだった。
「…………」
「――――えい」
また泣きそうになっていた私をメアはゆっくりと抱いた。
ふわりと、屋外の風と緑の香りが私を包みこむ。
「ぐず…」
抱きながら、今度はベッドにごろりと、私もろとも横になると、メアの無駄に発育のいい胸と腕に抱かれ、妙に落ち着きを取り戻していた。
「リリィちゃんはイイ子だよ」
「…」
メアの今まで聞いた誰よりも優しい声が私の耳元で囁く。
「確かに”ちょっと”どころじゃないくらい調子にのってたし、魔法の才能があれば何やってもいいのよ、とか豪語して、学校に入る前、国からもらったお金でしこたま飲んだ後、これが魔法よって言いながらギルドの冒険者を椅子で殴りつけて、キレた冒険者の顔に札束投げつけて喧嘩が収まる魔法、とか意味の分かんないこと言ったり」
「…メ、メア?」
「かと思ったら朝から活発に働くギルドに押しかけて、国のお金で全員に夜まで飲める分奢って…、理由を聞いたら、自分より下の人間を見てると安心するの、とかいよいよ救えない事言いだしたり」
「…うう…」
「性格はドブ以下だし、調子乗りだし、身長も子供と変わらないくらい発育も遅れたロリロリ体形だけど……」
「ああああああ!!!! 聞きたくない聞きたくないィ!! 放してよ! そんなこと言いに来たならもうどっか行って!!」
メアはポコポコと殴る私の細腕など全く効いていないのか、防御もしないまま、さらに強く私を強く抱く。
「でも、それと同じくらい、私はリリィちゃんのいいところ知ってるんだ――――」
………。
「だって、幼馴染だもん」
メア…。
「あんたって、他の人と会うときはびくびくしてるのに、私にだけは毒吐くわよね…」
「うん、リリィちゃんだけだよっ!」
いや全然うれしくないんだけど…むしろ今の状態の私ならまだしも、なんで昔の私にまでそんなこと言えてたんだろ、この子……。
「ねえ」
「なにぃ? リリィちゃん」
「動きたいんだけど、放してくれない…?」
「……………………ぇー…」
「いや、ちょっ…はな、放せや…! この、おっぱい星人! い、いたたたたた…イタイイタイィィィィィィ!」
これは私の、私による私だけの覇道を描いた物語。
私の、自叙伝には載らない、そんな学園生活を描いた物語だ――――。
読んでいただきありがとうございます!
こちらの作品は短編としてふれこみを書かせていただきました、完全に思いつきなので連載版を書くかは気分次第でお願いします…。
帰りに下をぽちっとしていただけるとありがたいです↓