79羽
日程も決まり雪に送ってもらって、鯨波流史郎からの返事を待っている間、私は夕哉さんと一緒に藤ちゃんが入院している病院へと向かっている。
本当はお兄ちゃんと真昼くんに同行してもらおうと思っていたけれど、真昼くんのお父さんの指導を受けているため、夕哉さんが付き添ってくれた。
「夕哉さん、付き添ってくれてありがとう」
「いいよ。葬式の時会ったけど、結構顔色悪かったから、覚悟は持っといたほうがいいかもしれない」
そんなに酷い状況なのかなとお見舞いの品の紙袋をギュッとつい掴んでしまう。
病院につき面会に来たことをナースセンターで受付し、夜一くんが教えてくれた病室へと向かった。緊張感がありながらも夕哉さんは廊下で待っててくれるらしく、ノックをして中へと入る。お見舞いの人はいなく、藤ちゃんがただ眠っていた。
机にお見舞いの品を起き、藤ちゃんの手を握ってあげる。なんで今まで教えてくれなかったんだろうという気持ちが溢れ出していた。
「藤ちゃん、遅くなってごめんね」
寝ている藤ちゃんに伝えると、藤ちゃんがゆっくり目を開け、こっちを向きやっと会えたと微笑んだ。
「ごめん、気づかなくて…」
「迂生が言わなかっただけで、陽っちゃんは悪くない」
身体を起こそうとするから、無理しなくていいよと伝え、ベッドを上げるボタンを多少上げた。
「治るんだよね?」
「陽っちゃんに会えたから治るよ。陽っちゃん、迂生ね」
すると廊下がやけに騒がしく、きっと夕哉さんと誰かが揉めているのだと感じた。止めに行こうとしたら行かないでと私の手首を掴む藤ちゃん。
きっと大丈夫かなと思い席に座り直し、鯨波流史郎と取引したことを告げた。
「私ね、藤ちゃんのお父さんと取引して、今度ゲームすることになったの」
「迂生は見られない…よね?」
「どうかな。そのゲームに私が勝ったら、私の要望を呑んでもらう。もし私が負けたら私は藤ちゃんのお父さんに従うよ」
「そんなことしなくても…あっごめん」
藤ちゃんが謝る必要なんてないよと伝えるも、迂生が悪いよと言われてしまう。
「陽っちゃんを苦しめてるのも、陽っちゃんの大事な人を失わせるのも、全部」
「それ以上言わないで」
つい藤ちゃんを包んでしまい、藤ちゃんの腕が背中に回る。藤ちゃんが責任を感じちゃっていて、藤ちゃんは悪くない。全て鯨波流史郎がやったこと。
「陽っちゃん」
「ん?」
「迂生のわがまま、聞いてくれる?」
もちろん聞くよと藤ちゃんに言い、藤ちゃんは離れて真っ直ぐな目で言われる。
「結果がどっちになっても、迂生のそばにいてほしい。迂生は陽っちゃんじゃないと病気に勝つ勇気が出ないの。お願い」
すぐ藤ちゃんの言葉に答えられなかった。私は大切にしたいと思っている人がいる。それが藤ちゃんじゃないこと。私が答えを出すまで、じっと見つめる藤ちゃんであり、ごめんと言いたい。
けどここで言ったら藤ちゃんは治療すらしなくなると恐れがあった。その恐れが起きないように、藤ちゃんに気持ちを伝える。
「返事はゲームが終わってからでもいいかな?色々ありすぎて、藤ちゃんを優先できてないの」
「うん、わかった。待ってるね。怪我だけはしないでほしいな」
「努力はする。藤ちゃんも早く治ってあげてね。私以外にも心配してくれてるファンのみんながいるから」
「もちろん。陽っちゃんに会えたから治療頑張る」
不安が多少あるも藤ちゃんが眠たそうな顔立ちでベッドを元に戻してあげた。眠るまで手握っててと言われ藤ちゃんが眠るまで握ってあげる。
藤ちゃんがしっかり寝たのを確認し、そっと手を離して藤ちゃんの手は布団の中に入れてあげた。また来るねと藤ちゃんの寝顔を見て、病室を出るとイライラオーラを出している夕哉さんに、純連くんと想くんがいる。
「藤は?」
「ぐっすり眠ってもらったよ。治療頑張るって言ってくれた」
そのことを告げたら良かったとホッとしている純連くんと想くんであり、帰えんぞと私の手を握る夕哉さん。夕哉さん、待ってと止まってもらい、純連くんと想くんに伝える。
「藤ちゃんのお父さんに伝えて。私は絶対逃げ切ってみせると」
伝えとくと純連くんが言い、行こ、夕哉さんと歩き出す。異変に気付いたのか春陽と足を止める夕哉さん。
「春陽の要望って一体なんだ?みんなに伝えてないだろ?」
「みんなが望むことを伝えるつもりだよ。変なこと考えてないから安心して」
夕哉さんに伝えたら、夕哉さんが私を引き寄せ俺だけには正直に言えと言われてしまう。夕哉さんの香りは煙草の匂いがふんわり漂うも懐かしい匂い。
私が探してた人だとしても、今は藤ちゃんのことで精一杯だと腕を回し夕哉さんの服をギュッと掴む。
「夕哉さん」
「ん?」
「私がどんな選択を選んだとしても、待っててくれますか?」
「当たり前だろ。俺は小学生の時から春陽のこと好きだった。今も変わらねえ」
夕哉さんはずっと苦しかったはずなのに、困ってるときは常にそばにいてくれた。その思いを無駄にはしたくない。
「春陽」
「ん?」
「俺はどんなことが起きたとしても、春陽を絶対に守るからな」
「ありがとう、夕哉さん」
病院内だからお互い恥ずかしくなり始め、夕哉さんから離れ、夕哉さんが手を差し伸べ、その手をとり家に帰ることにした。
夕哉さんの車でWizuteriaの曲を聴きながら、夕哉さんが不思議に思っていたことを言われる。
「このさ、朝夕っていう曲、なんか俺と春陽っぽくないか?」
「私が一番好きな曲。その曲聴いてすぐにずっと思い出せなかった夕哉さんのこと思い浮かべてたの」
「まじか。なんか照れるな。記憶を失っている春陽、そして失われた記憶の中にいる人が思いを伝える歌詞見た時は全身震えたよ」
「今度藤ちゃんに聴いてみる。朝夕ってどんな思いで作ったのか」
聞いてみてと夕哉さんに言われ、今度聞いてみることにした。
「夕哉さん、まだ当日までに時間あるので一つ頼みたいことがあるの」
「何なりと」
「その、夕哉さんとお揃いのスニーカーで当日走り回りたいなって思ってて」
嬉しくて伝えたら何足も作ってやるよと夕哉さんが言ってくれて、HAN・RA・SHOESのお店に行くことに。
お店の入り口では臨時休業と書かれてあり、私のためにしばらくお休みしてくれるというか、本業の昏籐組の仕事があるからってことなんだろうな。
裏口から入らせてもらい、ここが夕哉さんが普段働いている職場。いろんな靴があったり、途中までの靴があったり、いろんな素材も置かれてある。
「スリッポン風の靴がいいよな紐結ばなくて済むし」
「できればそうしたい」
「ちょっと待ってな」
夕哉さんは作業机にある本を取り出し、いつも見せてくれるデザインを見せてくれた。
「春陽はどんな色が好きなんだ?」
「夕焼けの色」
「ちょ恥ずかしいこと言うな」
軽くデコピンされてしまい、えへへと夕哉さんと色の組み合わせをしていたら、なんと夕莉さんがやって来た。夕莉さんは数秒固まって、もういるなら言ってよとにこにこしながら何してるのと聞いてくる。
「姉貴、平気なのかよ」
「気分転換にスニーカー作ろうかなって思ってたところよ」
「ちょうどいい。ならさ、姉貴俺のスニーカー作ってくれねえか?俺は春陽の文作るから」
「もしかしてお揃い?」
恥ずかしながらお互い顔を見せ合い、はいと伝えるとなら任せなさいと夕莉さんが張り切る。
「どんな漢字にするのかは決めてあるの?」
「イメージとしてはこんな感じ」
グラデーションで夕焼け風にできないか、夕哉さんが夕莉さんと話していた。できるかなと少し待っているとわかったわと言ってくれて、早速作業に取り掛かるため、私はお兄ちゃんに迎えに来てもらうように頼んだ。
待っている間、夕哉さんが作業している姿を見て、かっこいいなとつい写真を撮ってしまった。そしたら気づいた夕哉さんはピースしてくれて、もう一枚写真を撮る。
それを透に送ってあげたらすぐ既読がついて、夕坊の店にいんのかニヤニヤマークで返ってきた。お揃いの靴作成してくれてると送り返すとずるいと言うスタンプが返ってくる。
少しして裏口からノックが聞こえ、夕哉さんが様子を見に行った。すると迎え来たぞと言われ荷物をまとめ、裏口から出る。
出来上がったら家まで持って行くなと夕哉さんは言い、またと手を振りながらお兄ちゃんの車に乗って出発した。
「夕哉に何頼んだの?」
「お揃いの靴作ってもらうことにしたの」
なるほどねとお兄ちゃんがあることを言われる。
「春陽、どこまで記憶が戻ってる?」
「どうして?」
「いや、夕哉のこと忘れてたのに、忘れていた人を思い出したような感じだったからさ」
お兄ちゃんに今言うべきか迷いが生じ、悩んでいるとこう言われた。
「言いにくかったらいいよ。真昼くん拗ねるパターンだから、真昼くんにも甘えさせてあげてね」
「お兄ちゃんは誰を応援してるつもりなの?」
「そりゃあ、シルバーウルフの構成員として断トツ真昼くんを応援してる。まあみる限り春陽は夕哉が理想なんだろうなってわかってるから、春陽の恋応援するよ」
お兄ちゃんがそう言うもんだから全身が赤くなってそうな勢い。
「お兄ちゃんこそ、恋はしないの?」
「僕は彼女作らないつもり」
「どうして?」
「星霜家はこう見えて裏社会では暗殺一家と呼ばれてるから、愛する人が危険になるって思うと抵抗がある」
お兄ちゃんからそんなことを言われるとは思わなくて、私が夕哉さんと結ばれる関係となったらと想像するだけで頭が沸騰しそうだった。
「春陽、わかってて夕哉と一緒にいるんだよね?」
「もっもちろん」
「動揺してる」
くすくす笑われてしまい、これから夕哉さんといろんな場所に行きたくても、頭に浮かんでしまったのは藤ちゃん。
「ねえお兄ちゃん」
「ん?」
「Wizuteriaの元マネージャーとして、今はどんな気持ちでいるのかなって少し気になってて」
聞いてみるとそうだなと呟きながら、お兄ちゃんは今までのことを振り返り教えてくれる。
「わがままの藤太郎に、過保護すぎるレベルの純連、二人の空気をうまく飲み込めて二人を支えている想って感じかな。今もそれは変わりないと思う。ただね、マネージャーをしてて、いい思い出はたくさんあったよ」
「じゃあ藤ちゃんのお見舞いには?」
「それは難しいかな。なんせ僕はWizuteriaを裏切った者であり、あの時は本当に駄目かと思ってたぐらいだしね」
あんまり雪や真昼くんは教えてくれずとも、裏切ったことで酷い目にあって、一時期は耳が多少聴きづらくなってた。やっぱり難しいよね。
「まあいつかは許せる日が来ると思うから、春陽は気にしなくて大丈夫だよ」
赤信号となりお兄ちゃんは私の頭を撫で、なんとかして仲直りできないかなと思い始めた。
◇
陽っちゃんにやっと会えた喜びがあり、点滴を外してぐーんと背伸びをする。ふわあまだ眠いと大きな欠伸をしてたら、岩ちゃんが入って来た。
「ったく、純連と想には言えよ」
「言ーわない。心配はかけたくないけど、陽っちゃんを奪うためにも最低限の人にしか言わないもん」
「あの人はこのこと」
「知ってるよ。んー演技で疲れた。そこに陽っちゃんの手土産あるからとって」
岩ちゃんはため息を出しながら、迂生に渡してくれて、中身を見ると迂生の大好物が入ってる。それを一つとり頬張っていたら、岩ちゃんがゲームの内容を教えてくれた。
「ふうん。なるほどね。陽っちゃんから大体は聞いたけど、迂生の考えだと陽っちゃん一つの町に絞るんじゃない?」
「なんでそう言い切れる?」
「いや、なんとなく。それに陽っちゃんの足で五つの町はさすがに逃げ切れないと思うんだよね。それに日程がちょうど夏休み期間。てことは隠れやすい場所はただ一つ、守城学園。学園の広さは海星学園とほぼ変わらない。隠れやすい場所は多くあると思うんだよね」
パクッと食べむっちゃ美味しいとパクパク食べる。
「罠だったらどうする?」
「んー罠があるとしたら引っ掛け罠みたいな感じ?五つの町に偽陽っちゃんを用意する。誤ってそれに引っ掛かったら捕まるリスクが高まるってことだよ。そう考えると陽っちゃんは体力を温存するために隠れながらやり切るつもりだと思う」
「よく陽っちゃんのことでそこまで言えるな。参考にさせてもらう。まあ一日目は俺たちは探している風で終わらせて二日目から本気出すつもり」
「いいんじゃない?油断させといて陽っちゃんを奪う。ねえ見てたいからなんとか見れるようセッティングできそう?」
流葉に聞いてみると言ってくれて、陽っちゃんが勝っても、負けても、迂生から逃げられないよと最後の一口を頬張った。ご馳走様と言っていたら、純連と想の声が聞こえ、狸寝入りする。
岩ちゃんは迂生が食べたものをゴミ箱に捨ててくれた。
「賢、来るなら連絡しろ。藤、起きてないよな?」
「起きてない。純連、想、ちょっと頼みたいことがあってさ。当日、藤太郎その様子を見たいだろうから、なんとか見れる方法ありそう?さいあく、流葉に頼もうって思ってて」
「あぁそれなら想の知り合いがセッティングしてくれるみたいだから、多分平気じゃない?」
「藤太郎だけ知れないのは可哀想だと思ったから」
純連、想、ありがとうとネタばらしここでやっちゃうと考えていたら、純連と想は仕事が入っているらしく帰るらしい。残念と二人が去ったところで、抓られながら返ったぞと教えてくれてガバッと起きる。
「いつまで入院する気だ?」
「勝敗が決まるまで、演技はし続けるつもり。まあ後々純連と想には伝える。そう言えば岩ちゃんの彼女どうしてんの?岩ちゃん活躍するから、一緒に観ようかな。誘っていい?」
「却下に決まってんだろ。それに俺の彼女やその家族にまた手出したら絶交だからな」
わかってるよと岩ちゃんに伝え、スマホをとってもらう。
「岩ちゃん、ちょっとお使い行って来てもらってもいいかな?」
「ん?」
「以前頼んでやつが今日できるみたいで、代わりに行ってもらえると嬉しい。場所今送る」
岩ちゃんのスマホに送り、岩ちゃんは行ってくるとすぐ行動してくれた。一人になった途端、咳が凄い出てしまい手を見ると血が出てしまっている。
ティッシュで血を拭くも、迂生には時間がないことに恐怖を抱く。後何日、何ヶ月、迂生は生きられるんだろうか。
様子を見に来てくれた看護師さんがびっくりしていて、何点滴外してるんですかと怒られながら、ごめんなさいと謝りつつ、先生はと聞いた。
今は手術中らしく主治医の先生に聞けるのはもう少し時間かかりそう。
「看護師さん」
「点滴外さないでください」
「わかってます。あの引き出しに愛用のノートと筆箱が入っていると思うのでとってもらえませんか?」
点滴を貼り直してくれた看護師さんは、引き出しからノートとペンを取り出してくれて、ありがとうございますと伝えノートを開く。
そこには歌詞のフレーズをたくさん書き込んだノートで懐かしいやと思いながら空いているスペースで歌詞の作成をすることにした。




