76羽
葬式には多くの人が来てくれていたとしても、私はその中へ入ることができなかった。だから遠目で見るしかなく、お兄ちゃんと真昼くんがそばにいてくれている。
お父さんとお母さんが射殺された次の日のことは、頭から離れられなかった。姉の罵声は永遠に残りそうな感覚で、姉ともう二度と分かり合えないと感じる。
あの日……
パンッと音が鳴るような勢いで姉に叩かれ、よろける私を支えてくれるお兄ちゃん。
「あんたなんかっあんたなんかいなければ、お父さんも!お母さんも!死なずに済んだ!全部陽羽がいたせいで!」
「陽空、落ち着け!陽羽は」
「人殺し!」
姉は近くにあったものを私に投げようとし、破島淡と透が姉を抑える。姉は泣きながら朝峰家から出てってとか、陽羽なんかもう妹じゃないと言われた時は、正直心にひびが入った感覚だった。
「春陽、とにかく荷物まとめて家から離れろ」
破島淡の言葉でそれでも私は残りたくて、嫌だよと小さな声を出す。そしたら姉の鋭い目で、許さないというような瞳だった。お兄ちゃんは行こうと私の部屋へと連れて行き、荷物を一緒に詰めてくれるも手が止まる。
「私…」
「陽空ちゃんが落ち着いたら一緒に訪れよう。それにあの場にいなかったせいで、整理が追いついてないんだ」
うんと相槌を打ちながら、お兄ちゃんも反省をしているようだった。あの時、お兄ちゃんがお父さんとお母さんに聞かなければ、今もお父さんとお母さんはいたのかも知れない。
スーツケースにある程度入れ、お兄ちゃんがスーツケースを持ってくれる。下へ降りるとリビングからお姉ちゃんの泣き声が聞こえるも、リビングに入れなかった。せめてお父さんとお母さんの写真を一枚もらって行きたい。
そう思っていたら透が写真たてをくれて、ありがとうとリュックサックにしまう。
「俺はもう少し陽空の様子見てる。春陽のこと、頼むな」
姉のそばにいたくても、破島の言う通り、朝峰家を出ることに。車では夕哉さんが待っていて、大丈夫かと聞かれるもうんとは言えなかった。
後部座席に座り、お兄ちゃんも乗ったことで出発する。
私のせいでという言葉が頭から離れられなくて、涙が止まらず、お兄ちゃんが腕を回して私の頭を撫でた。夕哉さんは元気が出るようにとWizuteriaの明るい曲を流してくれる。
「春陽を育ててくれた両親の仇は僕が取るから。春陽は今まで通り笑っててほしい」
「先手打たれた。春陽、俺も両親を殺した奴、とっ捕まえて警察に突き出すから。それに春陽のせいじゃねえってことは忘れんなよ」
「でもっ」
「でもじゃない。春陽のせいで死んだんじゃない。昨日、春陽が寝た後、リビングに盗聴器が仕組まれていたことが発覚した。きっと春陽を引き取った理由を知られたくない人物がいたんだと思う。だから自分を責めないでほしい」
お兄ちゃんと夕哉さんの言葉に救われ、うんと頷いた。
現在…
透や星河教授、それから夕哉さんたちも葬式に出席していて、私だけあそこにいられないのが辛かった。姉ともう一度話したくても、まだ姉は会ってくれないだろうな。
見ていたら破島淡が葬式から離れ、私たちのところへとやって来る。
「春陽、陽空を悪く思わないでやってほしい」
「そんな思い、持ってないよ」
「それならよかった」
破島淡は会場を見ながら、あることを私たちに教えてくれた。
「春陽を追い出したのは理由があってな。超えてはいけない一線ギリギリラインに陽空が立っているからだ」
「どういうこと?」
「そういうことか。両親が殺されたわけ。朝峰家はあの人と繋がっていた。そういうことでしょ?」
お兄ちゃんが答えるとそういうことだと言われ、まさかお父さんとお母さんが、鯨波流史郎と繋がっていただなんて信じられない。
「我の憶測でしかないが、凛太郎もしくは灯里、それか両名が繋がっていて、春陽を育てろと指示を受けていたのだろう」
「ちょっと待って。ならお兄ちゃん…」
「繋がっていたけど、鯨波流史郎を潰せる情報のものをその当時手にしていなかった。そう捉えるのがベスト。春陽、それはいつなくした?」
「私が凹んでる時、再会した雪からもらって、だけど雪と最後に会った日ぐらいに、落としたとばかり思ってたの」
やっと繋がったとお兄ちゃんは呟き、真昼くんも不思議に思っているようだった。
「雪昼はすでに鯨波流史郎の弱みを持っていた。だから奥さんを渡しても冷静でいられたのはそういうことだったんだ」
「すでにその情報を手にしているのなら、なんで雪は実行しないの?」
お兄ちゃんも破島も疑問に抱いているようで、直接雪に聞いたほうがいいと感じてしまう。四人で考えていると夕哉さんが葬式から出てきて、こっちに来た。
「破島、陽空が呼んでるから行ってやれよ」
「あぁ。何か思い当たる節が出たら連絡する」
破島は葬式の会場へと戻って行き、夕哉さんはポケットから煙草を取り出して一服する。
「春陽が星霜家の実家に帰って間もないけど、変なこと起きてねえか?」
「あそこは隠れ家のようなものだし、今のところ襲われることはない。ただ」
お兄ちゃんが口を積もらせ、私が答えた。
「スマホ電源入れた辺りから、藤ちゃんの着信が鳴り止まないの」
「既読スルーは?」
「未読のままにしてある。それにお父さんとお母さんのこともあって、連絡はまだしてない」
夕哉さんは仕方ないと思うと言いながら、携帯灰皿に煙草を捨て、ポケットにしまう。
「情報どこかで貰ってるはずだから、春陽が落ち着いた時で連絡すればいいよ」
「うん。ありがとう、夕哉さん」
話し込んでいたら、一台の車が葬式会場へと入って行き、遠目からだけれど車から降りて来たのは藤ちゃんたちだった。
「春陽、真昼、行こう。夕哉」
「終わったらそっち行く。また後でな」
夕哉さんは葬式会場へと戻って行き、私はお兄ちゃんと真昼くんと一緒に家に帰ることに。
◇
春陽たちと多少話し終え、葬式会場ではWizuteriaがいることで、正体を知らない人たちはどういう関係という顔立ちでいた。ボーカルの藤太郎は多少クマがあり、陽っちゃんどこと小さく呟いている。
あんまり関わりたくなくとも、春陽のために近づいた。それによってベースの利木純連が藤太郎を後ろにやり前に出てくる。
「昏籐組がなんでいんだよ」
「別にいいだろ?でてめえらは何しに来やがった?」
「陽っちゃんから連絡ないから、色々調べてご両親が亡くなったことを知った」
ドラムの薫衣想が睨みながら俺に言い、実際は知ってたんじゃないのかと疑いを持つ。すると背後から感じ、背後からくる奴の拳を素手で掴んだ。
後ろを見ると玲もいて、姉貴と遭遇したら一番厄介になる。今、姉貴も葬式に出席しているからだ。
「失せろ、玲」
「硬いこと言うなよ」
「お前はもう破門同然だ。ここにどれだけの組員がいるか分かってんだろ?」
そう言うと拳を下げる玲で、ほら言ったじゃんと両手を上げた。
「ほら言ったじゃん。この会場は昏籐組が仕切っている。陽羽ちゃんがここにいないのはなんでかそれくらい教えてくれてもいいだろ?夕坊」
「教えるわけねえだろ。Wizuteria連れてさっさと失せろ。それにここには大勢の警官もいる。ここで何かをすれば、わかるよな?」
藤太郎は下を向いて苛立ちを放っていて、とっとと帰ってもらったほうがいいがそうもいかなくなる。そこに姉貴が歩いて来て、玲の頬をひっぱ叩いた。そして親父もお袋も、それから透も登場する。
それでも姉貴を止めないのは理由があった。姉貴は玲の胸を叩き、馬鹿玲と叫ぶ。ただ玲は姉貴を突き放し、姉貴に言い出した。
「俺のことは忘れろ。組を裏切った者を組長は許さない。それは分かってんだろ?だから」
姉貴はグッと涙を堪え、陽空がいるところへと行ってしまい、俺が言おうとしたら、お袋が玲に報告する。
「玲、事情はともあれ、夕莉は一人じゃないことを頭に入れておきなさい。それから昏籐組の敷地には今後一切立ち入ることを禁じます」
そう告げるとお袋は姉貴を追いかけて行き、親父は何も言わず中へと戻って行った。玲はお袋が言った言葉を理解したのか、何も言い返してこない。
周囲に注目を浴びているし、早めに帰ってもらおうとした時のことだった。
藤太郎が陽っちゃんと呟きながら倒れてしまい、純連が声をかけるも反応はない。想が救急車を呼び、その場にいた中に医師がいており、状況を見てもらうことに。
これを春陽に言ってしまえば、必ず春陽は藤太郎の元へ行く。十分後、救急車が到着し、診てくれた医師と、純連に想が乗って病院へと向かわれた。
玲は藤太郎を乗せた車に乗ろうとしていて、おいと声をかける。
「相当、あいつやばいのか?」
「どうだろうな」
そう俺に言い車に乗って行かれてしまい、透は何も喋んなかったけどよかったのだろうかと顔を見た。
「透?」
「兄貴、もしかして…いやなんでもない。それよりさっき春陽と会ったんだろ?」
「まあな。変なことはないとは言ってたけど、春陽のスマホにしつこいぐらい藤太郎から連絡が来てるらしい。藤太郎がやるにしても、あの様子じゃ毎日はできないと思うんだよな」
「そうか。もしかすると佐田がスマホを使って送ってるかもしれない。開けたら居場所が見つかるかもしれないから、至急別のスマホを用意しておく」
頼むと伝え俺と透も会場の中へと入り、お通夜が始まった。
◇
今頃、凛太郎と灯里の葬式が始まっている頃かと縁側で涼み、一緒に行ってあげていたら感知できたかもしれない。雪も結構落ち込んでいるようで、ハスキーを枕にして寝ている。
まるは今後についてのスケジュールをまとめておいてくれていた。
春陽ちゃんは冬月と真昼がそばにいるから問題はないとはいえ、ネットに上がっていた記事は本当なのかまだ特定はできていない。凛太郎と灯里を殺した犯人は流葉ちゃんと記されていた。
目撃者がそう言っているから、本当なのだろうけど、流葉ちゃんはきっと抵抗があったはずだ。
なぜなら情報屋では、流葉ちゃんは警察官という仕事を誇りに思っていた。尊敬していた二人を殺せるはずがない。
悩んでいると夜一がノートパソコンを持ち隣に座った。
「真昼先輩の親父さん」
「なんだい?」
「なんて言われるかわかんないけど、一度家に帰ろうと思う」
「帰ったら殺されるよ?それは十分に理解してる?」
うんと頷く夜一であり、烏丸と連絡が取れていないから心配なんだろう。
「分かった。但し僕たちの居場所や春陽ちゃんの居場所は吐かないでもらいたい」
「もちろん言わないよ。それにちょっと気になったことがあってさ。病を装って春陽先輩を奪い取ろうとしてるんじゃないかって気もする」
「相手は一応俳優もやってるから、様子見だよ。どちらにせよ、春陽ちゃんには常に真昼と冬月が同行させるよう指示はしてあるから平気だとは思いたい」
雪が認めるほどの二人をつかせているから変なことは起きないだろうと信じたい。
ただ春陽ちゃんはこう見えて心がすぐ揺らぐほうだから、要注意しておかないと変な方向に進む気がしている。そうならないように二人は注意を払ってもらっているようなものだ。
夜空を眺めているとスマホが鳴り確認してみると、輝からのメッセージからだった。内容はWizuteriaが葬式に来たけど、ボーカルが倒れ病院に搬送されたとある。
グループチャットだから、夜一も届いているから、夜一は早速、どこに搬送されたか調べているようだった。そこでまるが走って来て僕たちに報告をあげる。
「昼はん、あのお方からメッセージもらってしもうて、ボスが一人で行ってしもうた」
「あれほど一人で行動するなとあれほど言ったのに。まるは冬月に連絡とそれから動ける構成員を動かして、雪を追いかけて」
「了解や。そや、春陽ちゃんはどないします?」
「念の為、春陽ちゃんをこっちに来させるよう連絡しとく」
まるはすぐ動いてもらい、あのお方からのメッセージがなんなのか想像がついてしまった。おそらく小雪ちゃんが動き出したことで、脅しをする気だ。
夜一もノートパソコンを持ち立ち上がって、帰ろうとするから待つんだと声をかける。
「夜一、今動いたら危険かもしれない」
「そうだとしても、俺様を止める権利はないでしょ?」
夜一が考えていることは目に見えていたとしても、気をつけるんだよと伝え、夜一は僕たちのアジトを去った。さてと僕も動こうかと、ある人に電話をしながら準備することに。
◇
あのお方からメッセージを受け、辿り着いた場所には誰一人いなかった。だとしても気配で感じ取れ何人か隠れているのがわかる。
少し待っていると杖をついてやってくるあのお方とそして夜瀬組長に脱獄した紫蛇組長がやって来た。
「小雪と僕の娘に危害加えてないだろ?」
「まだな。お前次第で二人の命がどうなるか決まる。雪、直ちに陽羽、いや春陽の居場所を教えろ。でなければ二人は消えてもらうことになる」
「生憎、僕は春陽の居場所はわかるまい」
「戯言を言うな。お前が星霜家の出入りをしていることは確認が取れている」
やはり気づかれていたかと思っていても、あそこは星霜家の本家ではない。以前、僕が行った星霜家の家は予備用の家だ。つまり春陽と冬月の実家は違う場所に存在していると言うこと。
そこを使っているのは僕たちのみで、実家の場所を知っているのはただ一人、真昼のみだ。
「何度も言わせるな。僕は春陽の居場所は知らぬ」
「そうか。ならお前の兄に伝えておけ。妻と娘がどうなってもいいのかと」
夜瀬組長が写真をばら撒き、そこに写っていたのは目を疑うほどだった。なぜならそこに写っていたのは僕の娘と昼奈が遊んでいる写真。
汚い手を使いやがり、昼奈は天美の再婚相手の娘だとしても、まさか再婚相手が裏切るとは思ってもみなかった。
「天美は無事なんだろうな?」
「無事だとも。春陽をさっさと渡せば、返してやる」
どう乗り切るかが肝心だな。すでに天美も昼奈も鯨波流史郎の手の中だと言うならば、こちら側もやらねばならない。
「一つ確認がしたい。春陽の育て親を殺した理由を教えろ」
「余計なことを言おうとしていたから、処分したまでだ」
口封じで殺したってことか。よくあることだなと感じながらも、春陽の育て親が鯨波流史郎と繋がっていたことがはっきりした。なぜ今まで気づかなかったのだろうと後悔が生まれるも、春陽をここまで育ててくれたのは変わりないことだ。
「それでどうする?」
ここで答えを出さなければ小雪たちは確実にやられるのは確実だった。ここで長居すれば隠れているヴァイオレットたちが襲いかかってくる。
そうだとしても春陽を守るとあの時、心から誓ったことだ。言うわけないと答えようとした時のことだ。
僕のスマホが鳴り、確認したいが取らないでいると出ればよいと指示を受ける。渋々スマホを手にし確認したら春陽からだった。
よりによって春陽から電話が来るとは思わず、電源をオフにしようとしたところ、誰かのスマホが鳴り始める。
失礼と紫蛇組長が電話に出始め、僕も出ることにした。
「今取り込み中だ。後でかけ直す」
『雪、そこに鯨波流史郎がいるんでしょ?』
「あぁ。しかし、約束したではないか。今は会わせられない」
お願い雪と言われてしまい、変なことを言い出すんじゃないかと不安を抱く。それでも春陽は育て親を殺すよう指示した奴と話がしたいんだろう。
分かったが、余計なことは言うなと伝え、分かってるよと春陽の声が聞こえ、スピーカーにしてあげる。
『こんばんは、鯨波さん』
「春陽か」
『はい。私の大事な家族を奪ったあなたを絶対に許さないですし、あなたの指示には絶対に従わない』
それを聞いてひとまず安心したが、鯨波の殺意が現れ始めた。そして春陽がこんな提案をする。
『私と賭けをして、私が勝ったら私の要求に呑んでもらいます。もし私が負けたら、あなたの指示に一生従います。どうですか?』
「どんな賭けだ?」
『単純なことです。昏籐組の領域内に私は逃げ回ります。鯨波さんが指名した五人が私を確保すれば終了。そして私が指名した五名は鯨波さんが指名した五名を探し確保に向かいます』
五名と言うことは鯨波側についている者を回収したいということなのかは不明だ。それでも鯨波流史郎は面白いと言い出す。
「よかろう。それは一日ということか?」
『いえ。五日間の勝負。夜は睡眠をとってほしいので九時に開始し、十八時以降は一度昏籐組領域外に出てもらいます』
「条件を呑んでやる。但しこちら側も付け足していいか?」
『えぇ、もちろん』
何か嫌な予感しかしないと感じながらも、鯨波流史郎は春陽に言い渡した。
「春陽を捕まえるのはその五名だが、組員もそれに参加させろ。無論、昏籐組も情報を与えて構わない」
『構いません。いつやるかは雪に教えますので、その間に誰を指名するのかお決めください。では』
通話が終了し負けないようにしなくてはならないな。鯨波流史郎は冷ややかな笑みで僕に言う。
「所詮ゲームだが、やってやろうではないか」
「負ける気はしない」
「こちらもだ。行くぞ」
夜瀬組長と紫蛇組長を連れて去って行き、隠れていた奴らの気配も消えた。そこにちょうどまるが到着する。
「いたんか?」
「あぁ。春陽と話がしたい。行くぞ」
「待ってや。これ見よって」
なんだとまるのスマホを見ると、グループチャットではさっき言っていた内容が入っていた。
「春陽…」
「春陽ちゃんはきっと、守られる側ではなく、みんなと一緒に戦いたいちゃうんかな?戦って全てを終わらせたいんやと思う」
僕にとってはまだ幼い感覚でいるも、春陽はもう成長し大人になり始めている。自分で悩んで冬月に相談し電話をかけたんだろう。
「分かったが、僕が暴走しないように見張っててくれるか?」
「もちろんや。明日、作戦会議するらしいやよ」
なら明日、春陽がどうしたいのかを直接聞こうと思い、僕とまるは帰ることにした。




