72羽
僕と紗良が閉じ込められる数時間前、学部を終えた僕たちは探偵部のサークルに向かっていた。紗良はやる気満々で、このまま紗良は探偵部のサークルに入ればいいのにと思ってしまうほどだ。
それでもまだ体験入部しているのは訳があり、僕がはっきりさせていないから。
「今日はどんなことするのかな。わくわくしない?」
「うん。この前の推理も面白かったよね」
そんな他愛ない話をしながら、探偵部の部屋に入ると先輩たちがいなかった。ただ単に講義とかでまだ来ていないんだろうと僕と紗良は適当に座って待つ。
十分、十五分、三十分、一時間経過しても、先輩たちが来る気配がなかった。今日は本当にやるのか先輩にメッセージを送ったところこんな回答が来る。
指定した場所に来てとあり、守城大学を出て指定された場所へと向かった。
「今日は違う場所でやるってことでいいのかな」
「さあ」
この時点ですぐに気づけばよかったものの、僕はこういうものなんだと思い込んで、指定された場所へと行く。行ってみると人気がない場所で、すぐ僕と紗良は何かがあると確信した。
「どうする?このまま行ったとして何かがあるのは確かだよね」
「うん。あまりにも不自然な感じはする。紗良は帰って」
「やだよ。ここで引き下がる訳ない」
紗良はやる気満々で危険だと感じたら、すぐ脱出すればいいかと指定された店へと入る。静まっているし、よくよく見ればここは何年も使われていない店だと気づいた時には遅かった。背後から襲われ、紗良の声が聞こえ、深い眠りにつく。
目を覚ました場所は閉じ込められた場所で僕たちは縄で縛られていて、周りには紫のスカジャンを羽織ってる連中がいた。そのスカジャンで誰に捕まったのか理解する。
鯨波流史郎が指導した子どもたちをヴァイオレットと呼ばれていた。組織名もヴァイオレットであり、それぞれ銃やナイフを手にしている。
とにかく紗良を起こさないとと這いつくばって近くに寄ろうとしたら大柄の人が僕の上に乗った。
「紗良!紗良!」
「あの小娘は少々麻酔多めに打ったからまだ起きない。お前にちょっと用事があってさ。お前何もんだ?ただの大学生じゃねえだろ?」
大柄の人は僕の前にしゃがみ込み、僕の髪を掴んだ。ここで吐くつもりはないし、僕の家柄をすでに知っているなら答える気もならない。大柄の人を睨んでいると大柄の人が一発殴っても吐かないでいた。時間の無駄だし、紗良を危険に晒すのは間違っている。
なぜなら紗良は僕に秘密にしていたとしても、紗良の行動でわかっていた。紗良が昏籐家のいとこ関係であることを。
それでも何も聞かずにいたのは、紗良に言えていなかったことがあった。それは僕の家柄の正体。紗良が欲しい情報はすぐに持っていたとしても、情報を渡すことは許されなかったから。
大柄の人は応えなきゃここで死んでもらうぞと言われるも黙秘し続けた。僕が黙秘続けていることで、大柄の人が僕にもう一発殴ろうとした時だ。やめろと言う合図で拳が顔ギリギリで止まった。
下がってーと軽めに言う奴は紫蛇組と一緒に脱獄した囚人、東黎明。
「師匠が召集かけてるから、後は僕ちんがやっとくよ。だから君たちは帰って」
「ですが黎明さん。こいつは」
「わかってるよ。僕ちんが吐かせとくから、ね?」
大柄の人の肩をぽんぽん叩き、一度僕を見るも仲間を連れて退散していく。
「ふう、やっと行ってくれた。初めましてだね、翠っち」
「東黎明、なんで」
「僕ちんの正体どこまで気づいているのかは知らないけど、翠っち」
僕の前にしゃがみ込む黎明は隣で寝ている紗良を見て言われた。
「陽羽ちゃんが大事にしている人たちを逃したほうがいいよ。東京を破壊するぐらいの威力をあの人は今手にしている。まあ大勢の人が死ぬってことかな」
「そんなことは絶対に」
「あの人はやると決めたらやる人だよ。陽羽ちゃんのためにも、命だけは落とさないようにね。それにもう一つ、頼んでもいいかな?」
黎明はポケットからSDカードを僕のポケットにしまい込む。
「もし、夕坊に会ったらそれ渡してほしいな。防水だから多分平気」
「黎明、本当は」
しっと人差し指で止められてしまい、それ以上言ったらめっだからと言われ、しかもなぜか気を失うぐらい殴られる羽目となった。
「ごめんね、翠っち。こうしておかないと怒られそうだからさ。それじゃあ後はよろしく」
そう言って黎明が去って行くのを見届けた後、気を失うことに。
◇
まさかそこで黎明が現れるとは思いもしなかったな。黎明の正体というのはどういうことなのか聞く。
「黎明の正体って?」
「あまり情報は与えないけど、こうなった以上、話す。僕は密偵組織をまとめている一家。つまり僕の両親は今もなおスパイとして動いてる。もちろん、黎明が何者かも知ってる」
「スパイの一家だっただなんて」
「ごめん。それで黎明の正体というのは、星霜家を長年調査していた一家、天明家の息子。天明陽。けれど陽は赤子の時に誘拐され行方知らずとなった」
目が飛び出るほどの情報であり、紗良も驚きを隠し切れないほどの表情をしていた。
「それで黎明の両親は?」
「ご存命でしかも父親は警察をやってる。おそらく脱獄に手を化したのは父親だと僕は思ってる」
「なんでだよ」
「天明家は正体がバレないように違う苗字で過ごしてる。夕哉や夜瀬組のようにね」
まさかここで俺や漆月のように苗字を変えてやっているとは思いもしないことだ。紗良はあっと何か思い出したかのように翠に聞いた。
「もしかして獅子屋さん?」
「うん、そうだよ。天明と知っているのはただ一人。警視総監のみ。獅子屋警部はシルバーウルフのボスと深い繋がりが存在してる」
「まじかよ。脱獄に手を貸した人がなぜ逮捕されない?」
「僕の憶測でしかないけど、警視総監が揉み消したんじゃないかと感じる。それにそこにはもう一人、手を貸した人間がいるからその人に罪を全部背負わせる気だと思ってる」
汚いやり方じゃねえかよと署に乗り込みそうになってしまう。そうなると親父はきっと警察と手を組まないとか言い出しそうだな。
衝撃なことを聞かされたことで、今後どうすればいいかと悩んでいたら、紗良があっと声を漏らす。紗良が見ているほうを向くとスーツを着た人がこっちに来た。
「噂をすれば」
「カジューくん、久しぶりだね」
「ご無沙汰してます、獅子屋警部」
この人が獅子屋警部であり、星霜家を長年調査している一家。ライオンのような髪型が特徴すぎる。
「今、警視総監が孫と話していてね。屋上で一服しようと思ったらカジューくん見かけたから」
「あの」
「カジューくん、それから昏籐くんに文倉さん。これ以上陽羽ちゃんと関わらないことを警告する」
今なんつったと怒りが込み上げて来て、紗良も同感だったらしい。ただ翠だけは冷静でいた。
「陽羽が何かを犯すということですか?」
「そうとは限らない。長男が言うには、陽羽ちゃんは藤太郎によって生かされてるってこと。もし藤太郎が嫌いなことを陽羽ちゃんがしたら殺される」
「そうさせないために安全な場所にいるんだろ?」
俺が質問するとそれはどうかなと煙草を取り出し、火をつけて一服し始める。
「飛行船内にヴァイオレットが侵入していたら終わりだと思う。どこにいてもヴァイオレットは蛇のように隙を作って入ってくるからね」
「そうだとしても僕たちは引き下がるつもりはないです。大事な幼馴染を見捨てたりできない」
「そうだよ。陽羽は大事な幼馴染だし、せっかく三人で大学に行ける喜びを奪われた。それを取り返すために、何がなんでも」
「いや。翠と紗良は引き下がれ」
なんでと二人がはもり、確かに獅子屋警部が気にかけてくれているのは有り難い。だけど俺は組の若頭として動いている身だとしても、二人は普通の学生だ。危険な場所にいさせたくはない。
「俺は組の若頭として全力で陽羽を守るのは変わりはねえ。だけどな、紗良、翠。お前ら二人は学生だ。危険な場所にはいさせたくない。そうですよね?獅子屋警部」
「さすが昏籐組の若頭と言うべきか。そう。これ以上踏み込んでしまったら、後戻りはできなくなる。もし陽羽ちゃんが助かって、二人が危険になったと知らされれば陽羽ちゃんはきっと心を痛めるはずだよ」
二人は言い返せないで黙り込み、陽羽が悲しむ顔は、二人は望んではいないからだ。二人が答えを出すまで待っていると着信が入り、誰だと確認したら俺ではなく獅子屋警部。
ちょっと失礼と獅子屋警部は少し離れたところで通話をし始めた。すると先に答えを出したのは紗良。
「あたしはそれでも何か役に立ちたいし、陽羽の帰りを待ってるだなんて難しいよ」
「僕も密偵組織の一員として陽羽の存在は知ってた上で、幼馴染として動いてた。ここで引き下がるつもりはない」
やっぱり二人は引き下がるつもりはないかと二人の答えが出たところで、獅子屋警部が戻って来る。
「会わせたい人がいるから三人とも一緒に来てほしい」
誰だと思いながらも獅子屋警部について行き、一室の病室へと入った。そこには元シルバーウルフの星河輝がいる。
「獅子屋警部、すみません」
「いい。警視総監は?」
「お茶を買ってくると言っていましたが、自販機、おそらく届かないと思います」
探してくると獅子屋警部は病室を後にされ、かけたらと言われたから紗良と翠はパイプ椅子に座った。
「もう平気なんですか?」
「平気。ごめんね、せっかく理学部に入ってくれたのに、講義できなくて」
「いえ。あたしたちは平気です。よくなったら星河教授の講義受けさせてもらいます」
「よくなったらと言いたいけど、しばらく刑事の仕事というか潜入捜査で動くことになってるから講義できるのもう少し待っててもらう形になっちゃうかもしれない」
そういや透も潜入捜査として昏籐組に一時期的に戻って来たんだよな。てことは星河教授も組に入るってことでいいのだろうか。翠が疑問に思い、潜入捜査はどこにと質問すると秘密だよと言われる。
潜入がばれたらアウトだもんなと思っていても、俺は薄々感じていた。元シルバーウルフだったからきっとシルバーウルフとして動くんだろうと。
「それで呼んできてもらったのは訳がある。警視総監と話して二人が言いというなら協力をしてほしいんだ」
「協力?」
「そう。陽羽ちゃんの幼馴染二人にちょっとしたお手伝いをしてもらいたい。もちろんバイト代はちゃんと出させてもらうから、少し考えてほしい」
二人は顔を見せ合い、そしてすぐに星河輝にやりますと元気よく返事をした。本当にと再度聞くともう一度やりますと言い出す。
「ならここに行って来てもらいたい」
星河輝が二人に見せたのは一枚のチラシだった。よく見るとハスキー犬と戯れあえるハス喫茶と呼ばれている店だ。最近できた喫茶店らしい。
「そこに行けばわかるから」
二人ははてなマークを出しているも、退院したら行ってみますと二人は言った。
「じゃあよろしく。それで夕哉に一つ確認しておきたいことがあって」
「なんだ?」
「陽羽ちゃんに真実を打ち明けた?」
「全くというか言うタイミング、いつも逃しててて」
はあとため息を出す星河輝で、なんでため息出すんだ。すると紗良がぼそっと言い出す。
「陽羽の部屋、見てるならわかってたと思ってた」
「確かに陽空が模様替えしたタイミングで陽羽の壁紙も変わったのって」
「うん。もしかしたら陽羽、気づいてるんじゃない?どこまでかはわかんないけど、最近、昔の記憶思い出してるって言ってたから」
嘘だろと衝撃すぎて、俺が言うまで待っててくれてるってことかよ。あの時ちゃんと言えばよかったとずんとしてしまった。
「本当に情けねえ」
「早く気持ち伝えないと、誰かに奪われるからね」
紗良は翠をチラッと見て、そうだった。翠は一応ライバル関係でもあるし、以前病院で会った時、翠に言われてたな。
「陽羽と会ったら絶対に言う」
三人に言うもどうかなと三人は絶対言えないような雰囲気を出していた。
◇
宗教団体を結成し、鯨波流史郎の指示通りに動かしつつ、鶴の力を借りながらやっていた。本当に人数が増えるかも微妙な感じであっても、宗教に興味を抱く人たちは少なからずいる。
以前は赤に染められていた場所だったけれど、今回は雰囲気を変えて白を加えた宗教服。やっぱり着なれないと感じつつも、これが全て終えたらあたしは出頭する。
お父さんにはお母さんが話をつけてくれるけれど、きっとショックを受けるだろうな。こんな娘でごめんなさいという気持ちがありながらも、一つ疑問が存在した。
あたしがいながらも、なぜ陽羽を引き取ったのか。まだそれは明かされていなくて、なぜ朝峰家で育つことになったのだろうと。
仕事をしていたら、鶴が部屋の中へと入って来た。
「陽空、仕事済ませてきたよ」
まるで褒めろというような顔立ちで、鶴の顔を見たくないから淡に間を入ってもらう。
「今日はもういいから部屋に戻って。そしてあたしに顔を見せないでくれない?」
「冷たい陽空も美しい」
これは引き下がらないと感じ、他に手伝ってもらうことあるか考えていたら、鶴に言われる。
「では少し破島を借りてもいいかい?」
「出てってくれるならどうぞ」
「感謝するよ。では行こうか、破島」
鶴は破島を連れて部屋を出て行き、ふうっと力が抜けた。立場が逆転したけれど鶴が入って来ると緊張してしまうのは、まだ鶴が怖いと感じるからなんだろうな。
もう鶴は何もしないという条件で、手伝ってもらってる。緊張が解れるにはもう少し時間かかりそうだなと仕事を進めていたら、淡だけが戻って来た。
「何話してたの?」
「大したことじゃない。明日、夜瀬組長と紫蛇組長と、今後について話し合いがある。陽空、もしあれだったら我が代わりに話を聞くがどうする?」
「平気。けどそばにいてほしい」
「もちろんだ」
淡はあたしが座っている椅子を少し回転させ、あたしの髪の毛に指を絡める。
「陽空、一つ約束してくれるか?」
「何?」
耳元で囁かれた言葉は、思いがけない言葉で、鶴に会おうと立ちあがろうとした。けれど淡は行かせようとはせず、気にするなと頭を撫でる。
「こんなの、あたしのプライドが」
「陽空はただその椅子に座っていればいい。鶴の意思を汲んでやってくれ」
そうだとしてもあたしは鶴がやろうとしていることを止められることはできなかった。
73羽〜75羽、出来上がり次第更新。




