66羽
二十五年前…
当時、僕がまだ三歳ぐらいで、昼秋は二十歳の時だ。物心がついたことで、父親がどんな人物なのかわかり、いつも僕は父親の顔色をよく伺っていた。
冬月の一家、星霜家は裏社会で有名な暗殺一家であり、親父はその一家とよく会食をしていた。なぜか父親が星霜家と会食がある日はいつも父親を困らせていたな。
「僕も行くの!」
「雪昼にはまだ早い。昼秋と一緒に待っていなさい」
「嫌だ、父さんと行く」
そう言って僕は父親の足にしがみつき、離れようとはしなくて、父親は口笛を吹き、ハスキーに服を掴まれ引き離され父親は行ってしまう。
構成員は僕を慰めてくれるも、行きたかったという気持ちが強くて、会食する場へこっそり行こうとするも、よく昼秋に止められていた。
「雪昼、お前はいずれシルバーウルフのボスとなる人間。お勉強しなきゃ父さんと一緒には行けないよ」
昼秋は駄々を捏ねる僕を抱っこして、家の中へと入り、家庭教師に勉強を教わることに。
勉強は退屈だったが、星霜家に会って見たいという一心で、勉強に励んでいた時のことだった。ガッシャーンという音にびっくりするも、何かあったのだと感じ、自室を出てみると廊下にしゃがみ込んでいる女性がいる。
その女性こそが天美であって服は乱れ、腕から血が流れていた。そして天美の背後から現れたのは父親であり、その顔は忘れたくても忘れられない表情。
父親にはいくつかの愛人がいるとは知っていたが、天美は昼秋と変わらない年齢。その年齢まで愛人を持つとはと最初は思っていた。
しかしそれは僕の思い込みで、天美は単なる人質としてこの屋敷に居候していたそうだ。天美は父親に腕を掴まれても動こうとはせず、父親が手を挙げようとした時のことだ。
天美を庇ったのは紛れもなく昼秋であり、父親に向かって発する。
「雪昼が見てる。その怒りを鎮めてほしい」
「手当てをし、私のところに連れて来い。いいな?」
父親は一瞬、僕を見て、父親は部屋へと戻って行き、もう大丈夫と優しく声をかける昼秋。天美は昼秋にしがみついて、泣いていた。
「雪昼、部屋に戻ってなさい」
「でも」
「いいから。すぐ雪昼の部屋に行ってあげる。いいね?」
昼秋は天美をゆっくり立たせ、昼秋の部屋へと連れて行き、ついくっついていくも駄目だよと指摘され、構成員に止められてしまう。部屋でハスキーのぬいぐるみをぎゅっと握って、待っていたら昼秋が入ってきて僕の隣に座った。
「お姉ちゃんは?」
「落ち着いて、ぐっすり眠ってもらったから大丈夫。怖いお父さん見せちゃってごめん」
「なんでお父さん、あんなに怒ってたの?」
まだ僕が幼かったこともあり、難しい言葉は理解できないだろうから、昼秋は目を閉じてんーと少し考える。少しして昼秋は目を開けて、教えてくれた。
「お父さんが嫌がることを、天美がしちゃったからかな」
「お父さんが嫌がること?」
「そう。お父さんが嫌がること覚えてるよね?」
こくんと頷いで昼秋は僕の頭を撫でながら微笑んでいたとしても寂しそうな笑顔を出す。
「雪昼はお父さんが嫌がること、絶対にしないであげてほしい」
「昼兄?」
「しばらく僕は旅に出ることにするから、お利口して待っててくれる?」
「どこ行くの?僕が知ってる場所?危険な場所に行っちゃうの?」
何度聞いても昼秋は何も答えず、僕を抱きしめてごめんと一言だけを残し、その夜。昼秋は天美を連れて駆け落ちした。
僕はその翌朝、どれだけ泣いたのだろうか。昼秋がいない家は更に広い屋敷のようにも見え、昼秋に会いたいとずっと窓を見つめる日々もあった。
昼秋が買ってくれたハスキーのぬいぐるみを持って、寂しくないようにと構成員が本物のハスキー犬をくれた時。名前は昼と名付け、僕と共に成長していった。
そして我が輩は日本にある海星学園に裏入学をし、学校生活を送っている時のことだ。同級生とは馴染めなくても、昼がそばにいてくれて、昼と一緒に散歩をしてた時。
交番に立っている警官の顔で思わずリードを落としてしまい動揺してしまった。なんでと固まっていたら、車道に出てしまい昼と僕もつい車道に出てしまう。
僕は向かってくる車から逃げられないと悟った時、救ってくれたのは警官になった昼秋だった。昼秋は懐かしそうな瞳で、大丈夫と聞かれた時、僕は会いたかったという思いが強くてしばらく泣く。
「僕たちの関係性がばれる。すぐ立ち去ってほしい」
「嫌だっ昼兄っ」
「また会えるから、それまで待ってて」
昼秋が何度も説得するも、僕は嫌がって、交番へと連れて行かれる羽目となる。そこで出会ったのは灯里で、迷子の子と聞かれた。
「いや、迷子じゃないけど、僕のことお兄ちゃんって言われちゃって」
「確かに顔立ち似てる。えっ本当の兄弟じゃないの?」
「違うよ、僕は一人っ子。ちょっとこの子の学校に連絡しとくから、ちゃんと見ててあげてほしい」
昼秋は、僕を椅子に座らせ離れたくないと服を掴むも、いい子だからと久しぶりに頭を撫でられ海星小等学校に連絡する昼秋。
かっこいい犬だねと灯里は昼に触れつつ、お名前はと聞かれたから答えた。
「銀雪昼、七歳」
「七歳。じゃあ小学一年生かな?」
「うん」
「学校楽しい?」
ううんと首を横に振り、そっかと灯里はちょっと待っててと言われたから待つ。少しして灯里が戻って来て、はいっと渡されたのは警察のキャラクターのキーホルダーだった。
「雪昼くんにはこのキャラクターがついてる。お友達とうまく話せない時は、このキャラクターを握って、勇気をもらって。大丈夫、雪昼くんならできるよ」
「でも僕は…」
その時、父親からキツく言われていたことがあった。シルバーウルフの名は出すなと。だからぎこちない笑顔で、ありがとうだけを伝えた。
数分後、親に見せかけた構成員が到着して、構成員と一緒に帰る間際。昼秋が構成員に何かを渡しているものが見え、構成員は深々と頭を下げ、帰ることに。
「昼兄から何もらったの?」
「雪昼坊っちゃんには見せられないものです」
「そっか。お父さん、怒ってた?」
「いえ、怒ってはいませんよ。ただ昼秋さんが警察官になったことは心を痛めている様子でした」
本来ならば長男にシルバーウルフを任せるつもりだったんだろう。家に到着し父親がいる部屋へ行ってみると、父親は結構な酒を飲んでいた。
ただいま戻りましたと報告したら、父親は酔った勢いで僕をすりすりする。酒臭いと鼻がおかしくなりそうでも、あれだけの量を飲むということは結構ショックを受けているのが理解できた。
「雪昼、お前だけは私を裏切るな。お前まで失ったら、私は生きてられない。それから昼秋のことは忘れろ。昼秋から貰ったものは全て処分する」
昼秋がくれたハスキーのぬいぐるみも、おもちゃも全部没収されると思い、父親から離れた後、すぐ自室へと入る。あのぬいぐるみだけは捨てられたくないという思いが強くて、あちこち探すも結局昼秋がくれたものは全て処分されてしまった。
ストンと力が抜け、昼が寄り添い、昼にしがみつきながら、泣き叫ぶ。
宝物を処分されたくなかった。思い出のぬいぐるみだったのにと、泣いていたら坊っちゃんと呼ばれた。構成員はこっち来てくださいと合図が来て、涙を拭いながら構成員と一緒にトランクルームがある場所へ入る。
構成員は鍵を開けてそこには昼秋がくれた宝物がどっさりと保管されていた。
いい構成員であり、ボスには秘密ですよと言ってくれて、寂しい時はここに連れて行きますから言ってくださいねと言ってくれる。
それからは父親の後継者となるべく、指導をしてもらって僕が十歳の誕生日。誕生日会は裏社会の大人たちがぞろぞろとやって来て、誕生日会というものではなくなっていた。
それでも大人たちは大きくなったなと僕を褒めてはプレゼントをくれ、それを開けて遊んでいたら、入れてと近づいてきたのが冬月。
「僕は冬月」
「僕は雪昼」
「僕まだ持ってないものばっか。いいな」
一つのおもちゃを手にして、僕はあまり同級生と絡んでいないこともあったから、何を話そうと考えてた。そしたら冬月が拳銃のおもちゃでバーンと僕を打つ。
きょとんとしてしまった僕であって、冬月に注意される。
「えぇそこ打たれたショックで倒れてよ」
「そういうもの?」
「うん。いつもお父さんやってくれるよ。お母さんもバーンって言うとやられたって倒れてくれる」
冬月の両親はどんな人なんだろうかと、冬月に教えてもらいながら遊んでいると冬月と呼ばれた。
「お母さん、呼んでる。また遊ぼう」
おもちゃを置いて、冬月は両親の元へと行き、再び一人になった僕は少し寂しくて、持てるだけのおもちゃを持ち、自室へと歩く。
今まで父親は一度も遊んではくれなかった。遊んでくれるのは昼秋と構成員だけ。なぜかふと冬月の両親が羨ましいという思いがあった。僕が元気ないことを感じたのか、昼もついて来てくれて自室へと入る。
つまらない誕生日で、昼秋がここにいてくれたらどんなにいいんだろうと窓に寄りかかりながら昼に触れた。昼秋に会いたい、今何してるんだろうと触れていたら一つ下のまるが入ってくる。
「坊っちゃん、ボスが呼んでるで。会わせたい人がいるらしいそうや」
「行かなくてもいい?」
「駄目や。ほら行くで」
えーと言いながらも、まるに背中を押され渋々戻り、父親のところへと行った。黒のスーツにシャツは紺で、紺青の髪質の男。そして隣は奥さんらしく黒と紺のドレスがよく似合っていて、赤子を抱っこしていた。
「あら、白髪坊や。久しぶりね。言っても覚えてないわよね」
「そうだな。雪昼がまだ二歳か三歳ぐらいに会ったぐらいだ」
夫婦が話しているのを聞いてすぐ、僕が憧れている星霜家だと気づく。
「お前が会いたがってた方たちだ。ご挨拶しなさい」
「こんばんは、星霜さん。本日は僕のために来てくださってありがとうございます」
「いいのよ。ちょっとごめんなさい。春陽がぐずりそうで」
奥さんは春陽という子をあやしながら会場から離れ、すまないと父親に謝罪する。
「生まれたばかりでね」
「無理に付き合わせてこちらもすまない」
「いや、いい。いずれ冬月が雪昼くんを支える人間となるから一度会わせておきたくてね。冬月、こっちに来なさい」
冬月、その言葉に冬月が星霜家の人間だと知った時は、興奮しすぎた。冬月は父親の隣へと行き、よろしくお願いしますと微笑む。
「お母さんと春陽は?」
「春陽がぐずって一度外してもらってる」
「そっか。春陽は感じてるんだろうね。雪昼の偉大さに。そうですよね?おじさん」
「冬月くんもそう思うか。よかったな、雪昼」
僕が何をしても、笑ってはくれなかった父親が、冬月の言葉でこんなに喜ぶ父親は初めてみる。どうしたらあの笑顔を見せてくれるのだろうかと、その日から冬月の行動を観察したくても、あれ以来冬月と会えなかった。
「まる、冬月と会える方法ないの?」
「相手は暗殺一家やからな。あまり表の世界には入れないんやろう。せやけどまた会えるんやないか?」
「もう一度、会いたいから、なんとか聞き出して」
まるは嫌がっているも、父親から情報を貰うまで、数ヶ月後のこと。親父が僕の部屋へと入り、こう言われる。
「いいか?今から一緒に来てもらうが、雪昼には刺激が強いかもしれん。それでも冬月くんをお前が探し出せ」
「探す?」
「そうだ。時間はあまりない。行くぞ。昼もついて来い」
ワンッと返事をするように吠える昼であって、なんだろうこのざわざわした感覚。父親と一緒に車に乗り込み、冬月が住んでいる家へと向かった。
暗殺家が住む家はどんな家なんだろうかと、少し興味が沸きながら車を走らせ数分後。あまり住宅が見えず自然溢れる場所に到着し、ここからは徒歩のようで車から降りた。
進んで行くと星霜家という表札があり、木材で作られた門が壊されている。昼が吠え出し、しっとやるも昼は吠えてばかりだった。
この先に入ったら何かがあるのは確実で、父親は慎重に星霜家の中へと入る。僕もまるも遅れを取らずに、星霜家の中へと入った。異臭の匂いがしてなんだこの匂いと吸わないように腕で抑えながら玄関に入る。
そこには大人たちが倒れていて、思わず吐き出してしまった。まるが背中を摩ってくれて、見たくはないけれど慣れなければならない。
大丈夫とまるに告げて、冬月の部屋がどこにあるのか探し出す。二階へと行き冬月どこと一つ一つ確認して、まるが僕を呼ぶからそっちへ行った。
扉にはひらがなでふづきとあり引き戸を開けると、そこには血痕があちこちへと付着している。冬月、冬月どこと大声で叫んでいたら、ベッドがガタンッと動いた。
冬月そこにいるのとベッドの下をみると、冬月がとても怯えている。
「冬月、僕だ。雪昼。助けに来たよ。怖い人たちはいないからもう安心して」
「お母さんっお父さんっ」
冬月はその場で思いっきり泣いてしまい、ベッドをどかしてもらって冬月のそばに寄り添った。もう大丈夫と慰めていたら、外から叫び声が聞こえる。まるが外の様子を見てくれて、そう言えばと冬月に聞いた。
「春陽は?春陽はどこへ行った?」
まだ泣き止んでいない冬月ではあったが、春陽という言葉で笑っていた。まるで勝利したかのような表情だ。
「まる、外の様子は?」
「構成員たちが誰かを捕らえてるで。もしかすると犯人かもしれへんな」
「そいつが冬月の…」
冬月は笑いながら泣いていて、状況が読めなかった。冬月が落ち着いたところで、父親が戻って来る。
「お父さん」
「まる、二人を連れて来るまで待っていなさい」
「冬月の両親は?」
首を横に振り、姿がなかったと言われ、生きているのか死んでいるのか不明のまま、冬月たちと一緒に車で待っていた。夕方となり、いつの間にか眠っていた僕たちは扉が開く音で目を覚ます。
「冬月くん、確認しておきたい。冬月くんの両親はこの男に連れて行かれたのか?」
父親はある写真を見せ、冬月はこくんと頷きながら、こう答えた。
「おじさんの言う通りだった。狙いは春陽だったみたい」
「やはりな。車を回せ」
構成員に指示を与え車が走り出し、父親が冬月に言い渡す。
「お前は今から名を捨て、霜谷冬季としてシルバーウルフの一員として育てていく。雪昼、迅、冬季に負けぬようにな」
父親が冬月を認めているのは知っていたけれど、最初は疑問に抱いていた。そしてシルバーウルフとして動くために、構成員に指導してもらってる際、冬季の動きが僕やまるよりも遥かに上だと知る。
軽々と構成員を倒し、僕はまだ一人も倒したことがなかったからで、負けられないと冬季は良きライバルのような関係へとなっていった。




