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54羽

 あれは私が事故に遭って何日か経った時のこと……


 二月中旬か下旬で外の景色は寒さがあって、外の景色は珍しく雪が積もっている日だった。中庭では外で雪だるまを作ったり、雪合戦をする姿を眺める。

 一緒に遊びたいという気持ちが強くとも、当時はまだ車椅子生活で、どこかに掴まって立つぐらいしかできなかった。


「陽羽ちゃん!危ないからちゃんと車椅子に乗って、窓を見るときは」

「むうわかってるもん」


 と看護師さんを困らせながら車椅子に乗り、退屈すぎる日々。そんな中、私はオーバーテーブルで折り紙で紙飛行機を作り廊下に向かって投げていた。

 そしたら看護師さんに注意されるのかと思えば、一人の少年が私が作った紙飛行機をかき集め、私の病室へと入ってくる。


「看護師さん、困らせちゃ駄目」

「だってつまんないんだもん」

「だったら迂生が遊んであげる!迂生の名前はっ」


 ゴホゴホッと咳き込み、次第に苦しみ出して倒れてしまい、すぐにナースコールを押した。藤太郎くんと看護師さんと主治医の先生が私の病室に入り、藤太郎くんという子はストレッチャーで別室へと運ばれることに。


 何日かしても、藤太郎くんという子には会えず、看護師さんに聞いてみることにした。


「藤太郎くんはどこ行っちゃったの?」

「藤太郎くんはね、ちょっと重い病気を持っていて普段は病室から出れない状態なの。陽羽ちゃんにもばい菌が入る恐れがあるから、会わせることはできないの。ごめんね」


 そう言われて私は得意とする折り紙で藤の花を作り、画用紙につけて早く元気になってねと書いて渡してもらうようにしてもらうことに。


 しばらくして私は多少歩けるようになり、理学療法士さんと歩く練習をしていた時に、純連さんと想さんが私の病室の前で待っていた。

 リハビリが終えるまで待ってると言われ、リハビリが終わりお母さんに車椅子を押してもらいながら病室に戻る。お母さんは二人にお菓子やジュースを買ってくるようで、病室を後にした。


「えっと…」

「俺は純連って言うんだ。こっちは想。これを渡してこいって藤太郎がうるさくて」


 オーバーテーブルに置いてくれたのはスケッチブック。開いてみるとそこには、藤太郎くんの自己紹介が入っていた。


 迂生の名前は藤太郎。びっくりさせちゃってごめんなさい。元気になったら会いに行くね。


「藤、久しぶりに病室から出られて、嬉しかったんだと思う。そしたら紙飛行機たくさん廊下に落とす子がいて、拾ってあげなくちゃって言ってたよ」

「なんで陽羽の名前でわかったの?」

「看護師さんから聞いたらしい」

「俺も想も直接は会えないけど、ガラス越しなら会えるから会いに行ってみる?」


 うんと頷き、お母さんに説明をしてもらって、車椅子に乗り会いに行っていいか、ナースセンターで確認をとってもらう。いいのかなと待っていたら、行って大丈夫らしく、こっちだよと純連さんが案内をしてくれる。

 純連くんがガラスを叩き、ちょうど見えなくてお母さんが支えてくれながら立ち上がった。


 ガラスの向こうにはいくつかの点滴をつけて寝ている藤太郎くんの姿が見える。


「藤は身体が弱くて入退院を繰り返してる」

「どんな病気?」

「俺たちもわかってない。どんな病気なのか。それでも俺と想、それから賢は藤太郎とまた遊びたいって気持ちがあるから、毎日お見舞いに来てる」


 当時、記憶を思い出せないこともあって、私がどんな子と遊んでいたのか分からず、そして紗良と翠がお見舞いにも来れなかったから一人ぼっちだった。

 そんな時、私と仲良くしてくれたのが純連くんと想くん。


「藤より、俺と想が陽羽ちゃんと仲良くしてるって知ったらどんな顔するんだろう」

「絶対に嫌がる」

「早く藤太郎くんに会って遊びたい。普段はどんな遊びしてるの?」

「んー室内で遊べるトランプとかジェンガとか遊んでるかな」


 後は人生ゲームと想くんが付け足しをしていて、室内で遊べるボードゲームを家から持ってくればいいんだと閃いた。

 その日、お母さんにボードゲームを持ってくるよう伝えて、純連くんと想くんとで、藤太郎くんが一日でも良くなりますようにと千羽鶴を作ることに。




 それから数日後、私は麻痺が残ってしまっていたとしても、順調に回復しつつキッズコーナーで純連くんと想くんと遊んでいたら、二人をぱこんと叩く藤太郎くん。

 その顔はフグのように膨れていて、今でも泣き出しそうな顔立ちだった。


「なんで迂生が寝ている間に、陽っちゃんとこんな仲良くなってんの?」

「落ち着け、藤」

「落ち着いてるもん」


 いや、落ち着いてないでしょと二人に突っ込まれていて、次第には軽くキッズコーナーを駆け回り、三人は看護師さんに注意されてしまう。

 それでも以前のように発作は起きないようで、安心できた。


「陽っちゃんとやっと会えた。何して遊んでたの?」

「オセロ。陽っちゃん、すげえ強いから藤、泣くなよ」


 泣かないよと純連くんに言いながらも、私と勝負をして、結局私が何度も勝ってしまった。そのせいで藤太郎くんは半泣きして、病室戻ると言い出す。

 そしたら純連くんが大笑いして、想くんもクスッと笑うから、藤太郎くんは余計に拗ねていた。


「やばっ。もうこんな時間か。藤、俺たち帰らないと」


 外を見ると夕方となっていて、またなーと大きく手を振ってくれる純連くんと想くんで、私たちも手を振る。


「陽っちゃんに負けるのは悔しいけど、またやろう」

「うん」

「ねえねえ、陽っちゃんって将来の夢って何?」


 その言葉に私はすぐに浮かんだけれど、きっと難しそうと感じてしまったから嘘の夢を藤太郎くんに伝えた。


「お花屋さん」

「お花屋さん。じゃあ陽っちゃんがお花屋さんになったら買いに行く。約束」


 藤太郎くんは眩しいくらいの笑顔で言われ、嘘なのにゆびきりげんまんをする。


「藤太郎くんは将来の夢何?」

「そりゃあもちろん」


 玩具箱に入っているマイクを取り出してこう言った。


「迂生の夢は歌手になって、どこかにいるお父さんに届けたい。迂生ね、お父さんがどんな人なのか知らない。お母さんに聞いても、ごめんねって言われちゃう。なんとなくわかるんだ。迂生がこんなだからお父さんに見捨てられた」

「そんなことないと思うよ」

「わかってる。会いに来れないのは理由があるぐらい。だから元気になって、歌手になって、どこかにいるお父さんに元気になったから、会いに来てって伝えたい」

「だったら陽羽は藤太郎くんの第一号のファンになって応援する!」


 ありがとうと藤太郎くんに言われて、看護師さんに病室戻りましょうと言われたからそれぞれの病室へと帰る。

 それからは藤太郎くんの容体がいい日は一緒に遊ぶ日々が多くなった。

 

「むうまた負けたー」


 トランプで遊んでた私たちで大体藤太郎くんが負けており、純連くんと想くんに笑われ、もう一回と駄々を捏ねる藤太郎くん。


「ジョーカー取った瞬間に、バレバレなんだよ」

「仕方ないじゃん」

「すぐ顔に出る」

「陽っちゃん、二人がいじめるぅ。叱って」


 藤ちゃんいじめちゃめって言ったら、純連くんと想くんは余計に笑い出し、むぅと頬を膨らませる。すると陽羽ちゃん、リハビリの時間と呼ばれてしまい、一度藤ちゃんたちから離れた。


 


 リハビリが終わって藤ちゃんたちのところに戻ってみると、知らない男の子が藤ちゃんたちと遊んでいる。誰だろうとキョトンとしていたら、藤ちゃんが気づいてくれて陽っちゃんおいでと言われたから、藤ちゃんの隣に座った。


「へえ君が藤太郎の」


 藤ちゃんがいきなりその男の子の口を塞いで、しっと言っていた。わかったからという合図で離してもらい、その男の子が自己紹介をしてくれる。


「俺の名前は岩渕賢介。よろしく。藤太郎と幼馴染なんだ。陽っちゃん、いつ退院?さっきナースセンターの前歩いてたら、その話が聞こえたから」

 

 えっと藤ちゃんは固まってしまい、私が退院するとはまだお母さんや主治医の先生に聞いてない。だからつい藤ちゃんと同じく固まっていた。


「知らなかったっぽいか。多分、そろそろお家に帰れるんじゃない?」

「ばか、純連。それ言ったら藤が」


 すると藤ちゃんは立ち上がって、藤ちゃんの病室がある方角へと走り出してしまう。想くんが藤ちゃんを追いかけて行き、ごめんと純連に謝る賢介くん。


「陽っちゃんが退院するって言うのは俺たちも知ってた。たまたま聞こえちゃってさ。退院するまでは藤と遊んであげててほしい。藤の奴、俺たち幼馴染以外、友達がいなくてさ」

「退院しても会いに行くよ」

「それは難しいと思う。藤太郎の母親から聞いたけど、海外の病院に転院することが決まった。そっちの方が治療法がいいって言われてるらしいからもう少しで転院すると思う」


 せっかくできた友達だったのにとしゅんと落ち込んでいたら、純連くんが元気出してと励ましてくれる。


「それを望んだのは藤太郎なんだよ。一日でも早く治して、陽っちゃんといっぱい遊んで、いろんな景色を一緒に見たいんだって。藤太郎が元気になるまで待っててあげてほしい」

「このこと喋ったこと、藤太郎には秘密だよ」


 こくんと頷き、純連くんと賢介くんと指切りをしていたら、看護師さんと主治医の先生が藤ちゃんの病室の方へと走っていた。嫌な予感がして私たちもそっち方面へと走って行くと、藤ちゃんがストレッチャーで運ばれる。

 想くんは私たちが来たことで、事情を説明してくれた。


「かなり走ったことで、発作が起きちゃった…」

「あんまり走るなって注意されてんのに…」

「悪い。俺が陽っちゃんにあんな質問しちゃったせいだ…」


 藤ちゃんのお母さんがやって来て、しばらくの間、藤太郎と接触しないであげてほしいと頼まれた。それでも純連くんと想くん、賢介くんは私のお見舞いに来てくれる。


「藤ちゃんに会いに来たんじゃないの?」

「行きたいけど、藤の母親に言われてるから、陽っちゃんに会いに行きただけ。あのさ、陽っちゃん。俺たちも藤太郎が転院する近くに住むことが決まって。これが多分、最後の見舞い。それでも陽っちゃん、藤太郎のことは忘れないであげてほしい」

「…そっか。藤ちゃんが一日でも早く元気になってねって伝えて」

「伝える。また再会した時、いっぱい遊ぼうな」


 約束だよと三人で約束をして、藤ちゃんたちはその三日後、お別れもできず、海外へと旅立ってしまった。


 しかし悲劇なことが起きうる。なぜならニュースで飛行機が墜落をし、その飛行機に乗っていたのは藤ちゃんたちだったから。藤ちゃんたちが死亡したというニュースは流れなくとも、私には絶望に満ち溢れていた。


 大事な友達が、大事な人が事故に巻き込まれる瞬間を見たくはなかったから。そんな時、出会ったのが雪だった。

 退院をして間もなく、一人で公園にあるブランコに乗りながら、藤ちゃんたちが心配で堪らなくて落ち込んでたら、隣に座る白髪のお兄ちゃん。雪が話しかけてくる。

 

「そんな顔してどうした?」

「…」

「ショックなことがあったような顔だが」

「…友達が事故に」


 ニュースになってるやつかと雪が呟き頷くと、雪はある助言をしてくれた。


「陽羽のお友達はきっと大丈夫だ。ちゃんと治療も行っている」

「どうして、陽羽の名前知ってるの?」

「そりゃあ、陽羽はやつがれのヒーローだからさ。やつがれのヒーローがそんな顔してたら、声かけるのは当たり前だろう。ほら、笑って」


 雪がスマホで写真を撮ろうとするも、私は笑えず無表情な顔でせつとのツーショットを撮る。


「友達と連絡が取れないから、どうすることも…」

「陽羽はそのままでいいんだよ。今は辛くともいずれ陽羽の友達は、陽羽の前に現れる。だから今の時間を思いっきり楽しめ」

「でも、私…みんなと違うから、一緒に遊んでくれない…」

「だったらこの白髪お兄ちゃんが遊んでやるよ」


 そう言って私の後ろに立ちブランコを押してくれる雪だった。放課後、その公園に行くたびに、雪が待っててくれて、たくさん遊んでくれて、あることを雪に相談をする。


「陽羽ね、藤ちゃんに一つ嘘ついて約束しちゃった…」

「嘘?」

「うん。将来は何になりたいのって。本当は警察官が夢だった。でもこんな姿だし、警察官にはなれない。だから頭に浮かんだのは藤ちゃんの名前が浮かんで、お花屋さんって言っちゃった」

「まあその頃はころころ変わっててもおかしくはない。だからそんなに気にしなくてもいいはずだ」


 そうなのかなとブランコを少し揺らしながら雪に話していると、そうだと思いっきり押してくれて高くなった。


「ならやつがれがお店開いて、陽羽はその店員になればいい。陽羽が働ける環境を整える。そしていつかその藤太郎という子に花を贈ればいい」

「できるかな?」

「陽羽ならできる!やつがれのヒーローなのだから!」


 私はできる、その言葉にどれだけ救われていたのだろうか。雪はお店を開けるようにと、勉強に励むため、しばらく会えないと言われても、その言葉を信じて暮らしてた。

 それなのになんでこのことをすっかり忘れていたのだろうと、ステージにいるしのふじ、ううん、藤ちゃんを見ていた。


「海外に行くために乗った飛行機がまさかの墜落。もちろん、そこには純連や想、それから僕の幼馴染も乗ってた。あぁ大事な人に会えずに死ぬのかなって最初は思ったよ。それでも生きて、治療をしっかりしてここまで来れたのは、大事な人に会うため。そして今日、この会場に僕の大事な人がいます。聴いてください。太陽の羽根」


♪〜


太陽が眩しい光のように光が差し 

美しい羽根が僕の前に降り注ぐ


空を見上げればその大空に

君と見た景色が蘇る


会いたいのに会えないのが辛くて

大好きだよと君に伝えておけばよかった


君の笑顔に触れたいと 

その羽根を握り締めながら 

太陽に向かって叫ぼう


どんなに離れていようとも

僕は君に愛を捧げると 

この羽根に誓おう


大好き 愛している 


いつか君に巡り会うまで 〜♪



 太陽と羽根のフレーズで完璧に私だと、歌っている間はずっと私を見ていた。藤ちゃん、ごめん。純連くん、想くん、賢くん、ごめんと涙が止まらない。

 最後の伴奏が終わる頃に大きいモニターには昔撮った入院した頃の写真が写っていた。藤ちゃん、純連くん、想くん、賢くん、そして私が映っている写真。


 歌い切ったしのふじは、ファンや一般人に向けて公表する。


「迂生はこれからその人に告白をする。スタッフさん、連れて来て」


 その言葉にちょっと待ってと涙が止まり、ブンブン横に振るもおいでと合図が送られてしまった。スタッフさんがこちらへと案内されてしまい、ステージには私だということが見られないように設置されている。見えるのはただ一人、しのふじだ。


「今から告白してくる。駄目だったらみんな、慰めてね」


 マイクをスタッフに渡し、しのふじが近くに来て、陽っちゃんと私を呼びながらポケットから普通サイズの箱を取り出す。


「陽っちゃん、ただいま。陽っちゃんがどんな気持ちでいるのかわからない。それでも迂生は、ずっと陽っちゃんのことを想ってるのは変わりはないよ。まずは迂生の彼女となってください」


 パカッと開きそれはしのふじがつけているブレスレットと一緒だった。夕哉さんが何を伝えるのかはわからずとも、藤ちゃんに伝えなくちゃならない。


「藤ちゃん、私、その…」

「陽っちゃん、バンドを組んでここまで来れたのは陽っちゃんのおかげなんだよ。陽っちゃんがくれる手紙に何度も励まされた。もちろん、陽っちゃんのことは公表はしないから安心してほしい」


 私と藤ちゃんは住む世界が違うと思ってる。今もそれは変わらないことだけれど、この空気の流れを悪くさせたくはないから藤ちゃんに告げた。


「よろしく、藤ちゃん」


 やったと私をハグして紙吹雪が発射される。よかったなと純連くんと想くんも近づいて、また後でとその箱をもらい退場した。オッケーもらえたと嬉しそうな声が響き渡り、後で岩渕さんに連絡しなくちゃならない。

 なぜ今まで知らないふりをしていたのか突き止めなくちゃならなかったから。



 紗良に言われて戻ってみると陽羽の姿がなく、藤太郎はオッケーをもらえたとファンや一般人に報告をしていた。嘘だろと動揺していたら、漆月と紗良がやって来る。


「先手打たれたっぽい。陽羽先輩の心は完全にあいつに奪われた。どうすることもできないよ」

「陽羽、入院していた時期に出会ってたみたいなの…。あたしが病院に行ってあげてたら…」


 ライブを終わったら告白するつもりだった。すでに陽羽が藤太郎のことを決めているのなら、仕方がない。ただ陽羽の親父さんに忠告を受けていた。

 Wizuteriaは注意してくれと。だから何かがあるのは確かなことで、陽空のようにならなきゃいいけどな。


「紗良、Wizuteriaのメンバーのことよく調べておいてくれるか?」

「調べてみる。それと催花ちゃんにも話は聞いてみるよ。岩渕さんがどんな人なのかを」


 頼むなと話していたら、陽羽がスタッフと一緒に戻っているのが見え、俺たちは別々に戻り、陽羽は気まずそうな笑顔を見せていた。

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