49羽
なぜルートを変更したのかは不明であったが、電話したら度々すみませんとペコペコ頭を下げる事務員。ルートを少しずれただけだったようで、紛らわせるようなことするなと言いたくとも、親父になんでもないと告げ通話を終えた。
すると光太が見てくださいと指を指すからその方角を見るとやたらとでかい飛行船がこっちに向かって来ている。
モノクロで薔薇が描かれていて、あそこに陽羽がいるんだ。パトカーが何台か到着し、飛行船を待つことに。結局俺と光太も残ることとなり、警察たちが怪訝そうな瞳で見ていた。
しばらくして飛行船が到着し、降りて来たのはモノクロのスーツを着た男が、なんとドレス姿の陽羽をエスコートしていて、光太がいなかったら俺はそいつを殴っていたかもしれない。
「やあ、透」
「誘拐犯としてお前を逮捕する」
「誘拐したのは我が輩ではない」
どういうことだと透が聞いていたら、早く降りてよと紅花さんが蹴り飛ばしていて、拘束されている鶴がいた。
「我が輩は、被害者だ。鶴に脅され、飛行船を出すしかなかった。しかし我が輩が見ていないところで、鶴は」
透に渡したタブレットを覗くと、陽羽を襲っている鶴が映っていた。思わず鶴を殴ろうとしたら、陽羽が抱きついて来て、多少鼻血が出てしまう。
それによって怒りが鎮まり、無事で良かったと抱きしめてあげる。
「くれの、平気か?」
「平気。連れ去られたところがまさか、鶫の場所だっただなんて、罰当たりなもの」
鶴はもう手錠をかけてほしいような仕草で、透は鶴を手錠し、これで陽空は回復をしていくだろう。
誘拐及び性犯罪の罪で逮捕された。パトカーに乗っていく透と鶴を見届け、モノクロを着た奴も署へ行き、事情聴取のため警察署へと向かわれる。
陽羽、そろそろ離れてくれないと俺の心拍がやばいと思っていると、陽羽が離れてくれた。陽羽の父親も到着して、陽羽と紅花さんは陽羽の父親と一緒に行かれた。
無事に戻って来てくれてほっとしながら、親父にも報告を上げて光太に車を回してもらい帰る。
「陽羽ちゃん、ご無事で良かったですね」
「あぁ。これで何かされてたら、この拳であいつらを殴ってたよ。これでひとまず安心したいところだが、あれから破島の動きの詳細を教えてくれ」
「はい。調査では、破島はここ最近、陽空さんのお見舞いによく見かけるとのことでした。おかしいですよね。なぜ陽空さんが破島に懐いているのか。そこまではまだ分からないとのことです」
陽空をあの野郎に渡したにも関わらず、陽空の心を掴んでいた。何かが引っ掛かるし、あいつは所詮、詐欺師同然。いつかは陽空を使って何かするんじゃねえかって気もする。
一応警戒はしておくよう後で陽羽の父親に伝えておくか。
「光太、ありがとう。破島の動き何かわかったら随時報告を頼む」
「承知しました。あの、夕哉さん」
「どうした?」
「助手席のバックポケットをご確認ください」
なんだと助手席のバックポケットを確認すると何かのチケットだった。中身を確認すると、それはWizuteriaの春野外ライブのチケット。
「今時、売却されないようにQRコード式じゃねえのかよ」
「普段はそうらしいんですが、一般人にも来場できるようになってるんです。もちろん、夕哉さんの名前でチケットを購入したので、ぜひ陽羽さんと楽しんでください」
「いやいや、陽羽はファンクラブ入っているだろうし、チケットは入手できてるんじゃ」
「陽羽さんのSNS見てください」
光太に言われ陽羽のSNSを確認してみたら、今さっき会ったばかりだというのに投稿がある。Wizuteriaの春野外、チケットとれず泣。次回、行けますように。
「そういや、これってさ」
「緊急野外ライブそうなので、陽羽さんが拉致された日に公開されたようです」
「早いな。わざわざありがとう。後で陽羽に連絡とる」
陽羽が喜ぶ顔が見たく、しっかりWizuteriaの曲はある程度、聴いてるからなんとか行けるだろう。ライブが終わったら、ちゃんと話せる場を用意して、そこで打ち明ける。
なんか緊張して来たなと思いながらも、春の初デートが楽しみすぎた。
◇
警察室の空室で制服に着替えさせてもらい、このドレスはどうすればいいんだろうと眺める。もう着ることはないだろうけどと眺めていたら、佐田さんが回収しますと言ってくれて、ドレスを渡した。
「陽羽ちゃん、お父さんまだ聴取を行ってるから、星河さんが来るまでここで待っててね」
「はい」
佐田さんはドレスを回収し部屋を出て行って、ふうっと鞄からスマホを取り出す。紗良や翠に疾ちゃんから何十件という通話履歴があり、まずは幼馴染二人に報告。その後、疾ちゃんにも同じ文面を送った。
鶫との約束、そして真昼くんと話した約束。この二つはお父さんや透にも言えない。真昼くんから言われた言葉。
雪と鶫が話し合っている間……
真昼くんにエスコートしてもらいながら、ゆっくりと薔薇庭園を歩き、そこで打ち明けられた。
「陽羽ちゃん、ごめん。陽羽ちゃんとの約束、守れそうにない」
「…シルバーウルフに入るってこと?」
「そう…なるかな。だから僕は守城大学をやめて、文常大学に進む。もちろん、陽羽ちゃんのことは一ミリとも諦めてないことだけは伝えておくね。ただ会食だけは来てほしい。そこで陽羽ちゃんのお父さんも連れて来てほしいんだ。会わせたい人がいて」
「会わせたい人?」
うんと真昼くんは一番に会いたい人の笑顔をしていて、その人物が誰なのかなんとなくわかってしまう。お父さんだってことを。
「父さんが生きてた。会食時に会おうって言ってくれて」
「伝えておくね。一つ、聞いてもいい?私を助けるために、シルバーウルフに入ったとかじゃないよね?」
少し間が開き違うよと言ってるも、私を助けるために入ったんだと感じちゃった。嘘つかないでと袖を掴むと優しく抱きしめてくれる。
「これは僕自信が決めたことだから、陽羽ちゃんのせいじゃない。だから自分を責めないでほしいな」
「…うん」
「陽羽ちゃん、こんな僕を好きになってくれて、ありがとう。大学は違えど、陽羽ちゃんが困ってる時は、絶対に駆けつける。それがどんなことが起きようとも、愛している人を傷つける奴らは、僕がこの手で止めるから」
「私も真昼くんが愛おしい。これからもそばにいてほしかった思いが強いよ」
真昼くんがマフィアの息子じゃなかったら、ずっと一緒にいられたのに。真昼くんが離れ、そして私にキスをした。
「陽羽ちゃん、約束してほしい」
「約束?」
「うん。きっと雪叔父さんが何かを仕掛けてくるはずだから、油断はしないでほしい。僕も陽羽ちゃんを危険に晒してしまうかもしれない。そこで本当は一番嫌なやり方だけど、陽羽ちゃんが今思い浮かべている人のそばにいて。その人はきっと力になってくれるはずだから」
「約束。じゃあ私からも。絶対に犯罪な行為は絶対にしないで。真昼くんが逮捕されちゃったら、辛いから」
努力はするよと真昼くんは言ってくれて、私たちは見つめ合い、そして再びキスをする。そしたら鶫と雪が私たちを引き離し、雪は真昼くんをこしょこしょして、まだ早いと言い出した。鶫がバックハグして、ブーイングをしながら、言われる。
「陽羽、我が輩は事情聴取をした後、旅に出る。再び会う時は、陽羽が一番知りたがっている情報を提供しよう。だから我が輩に捕まったということは伏せておいてくれ」
「やっぱり」
「しー。我が輩が捕まれば、少し厄介なことが起きる。それは避けたいことなのだよ。旅が終えればすぐ陽羽の前に現れる。それまでは大学生活を満喫するのだぞ」
納得いかないけれど、お父さんに言い訳して旅立つのだろうと理解してしまった。わかったから離れてと言うも、しばらく離れてはくれなかったな。
そして雪と真昼くんは乗ってきたヘリコプターで帰られた。
現在……
卒業後、真昼くんとは会えなくなる前提でいいんだよねと、スマホの中にある写真を眺めていると、星河教授が顔を出す。
「無事で良かった。透の家じゃなくて、家まで送る」
お願いしますとリュックを背負って、星河教授に送ってもらうことに。お母さん、めちゃくちゃ心配してそうと、景色を見ていたら、星河教授に聞かれる。
「鶫という男と何話した?」
「鶫が事故に巻き込まれたことについてです。それを公にしてほしかったらしいんですけど、やっぱりやめるって言ってました」
「透が犯してしまったというより、あれは事故。ただ透は悔やんでる。あの時手を出さなければ、鶫はやりたいことができたんじゃないかって」
「やりたいこと?」
うんと星河教授は赤信号で止まり、信号を待ちながら教えてくれた。
「鶫はあの家から脱出して、昔はひっそりと暮らしていたらしい。夢は歌手で、透がウケ狙いな動画を見せてくれた。あの二人は学生時代、割と仲が良かったらしい」
意外なことでならなぜ透はすぐ鶫の兄だと気づいてくれなかったのだろうか。
「透に聞けば見せてくれると思う」
「今度、聞いてみます」
「それから、陽羽ちゃん。僕のこと何も思い出せない?」
「大学のキャンパスが初めてじゃ」
違うよと即答されてしまい、どこかで会っていたのと思い出すも、あんまり記憶が思い出せなかった。
「ちょっと寄り道してもいい?」
「はい」
そう言ったものの、普段の星河教授っぽい感じじゃない。言葉には表せない表情をしていて、質問することができなかった。
車を走らせて倉庫らしき建物がずらりと並んである。車を止め、降りてと言われ降り、星河教授についていく。一つの倉庫を開け、中に入ってみるも、何もない状況だった。
「陽羽ちゃんが事故に巻き込まれる前、陽羽ちゃんと僕はここで会ってる。本当は忘れてほしいことを願ってるけど、捜査のために思い出してほしくて」
「私と星河教授がここで会ってた…」
「そう。余は当時、シルバーウルフの構成員だった」
星河教授が見せてくれた写真は雪と写っていて、本当にシルバーウルフにいたんだと証明される。この倉庫に何があったのか、見渡してもやっぱり思い出せない。
「ごめんなさい…」
「いい。ここにはシルバーウルフとレッドクレインが取引をしていた場所でもあった。そこに警察官のキッズ、つまり陽羽ちゃんが目撃してしまった。陽羽ちゃんは構成員とレッドクレインの従業員に追いかけられても、隠れるのが上手で子供だからとその日は見逃してあげてた」
けどと星河教授のトーンが低くなり、私は唾を飲み込む。
「当時のボスは陽羽ちゃんを捕まえる計画を立てていた。それを必死に止めたのが、雪。なぜだと思う?」
「…真昼くん?」
「その通り。雪は甥っ子を可愛がっていた。甥っ子の頼みはなんでも聞いてたぐらいだったから」
それ初耳情報だよと目の前に真昼くんがいたら突っ込んでたと思う。
「陽羽ちゃんとうまく話せないって相談を持ちかけていたぐらいだった。まあ案の定、雪は陽羽ちゃんを溺愛してしまったと聞いている」
「聞いてる?」
「実はシルバーウルフ内に僕らの仲間がいる。それとFBIの一人もいると伺ってるから、いつかは会えるんじゃない?」
聞いちゃってよかったのと思いながらも、私がその現場を目撃しちゃったことで、姉も狙われたって解釈でいいのかな。
「そろそろ帰ろうか。凛太郎さんに怒られそうだし」
はいと倉庫から出て家まで送ってもらった。
◇
雪叔父さんと別れた後、僕はマンションへと帰宅し、部屋が真っ暗の状態だった。靴もないということは出かけているのだとリビングの部屋をつけ、置き手紙が残されている。
真昼、すまない。私はシルバーウルフと繋がっている。昼奈が危険になっていると聞き、一時期日本から離れること、どうか許してほしい。この家は真昼に渡す手続きはすでに終えている。好きに使って構わない。落ち着いたら帰国する。
なんかあるんじゃないかと思っていたけれど、そういうことかとこの置き手紙は誰かに見られると危険なため燃やしといた。
雪叔父さんと約束したこと、陽羽ちゃんを助ける代わりに、正式にマフィアの一員となれ。そうすれば昼奈の命は保証すると。そういう意味だったんだと知り、これで自由に動けるけど、岩渕さんがどう出るかが気になる。
僕に忠実な漆月を使っても良さそうだけど、雪叔父さんの側近な人を探さなくちゃならないってことだよね。
そこんところは雪叔父さんが用意してくれるだろうから、とにかく体力をつけておく必要がある。その前に卒業式までは学校生活満喫しろと言われているから、考えるのはもう少ししてからにしよう。
◇
陽羽が無事に帰ったと夕哉から報告を受けても、まだ陽羽から連絡は来なくて、心配性の翠には伝えといた。翠は今頃、陽羽と会ってるんだよねと思うと、胸がキュッてなる。
陽羽はもう翠のこと幼馴染として見ているだろうけど、内心はどっちなんだろうと気になってしまった。あまり深く考えたくないけど、気持ちが晴れない。それに明日、アメリカに戻ると言ってたからな。
見送りに行く際、聞いてみようとスマホを机に置き、冷蔵庫を開けて紅茶をコップに注いでいたらインターホンが鳴る。誰だろうと確認したら、漆月で住所教えたっけと思いながら開けてあげた。
少しして玄関のインターホンが鳴り、玄関を開けると紗良せんぱーいとハグしようとするから避ける。そしたらむぅと拗ねた顔でお邪魔しまーすと靴を脱ぎ、勝手に入ろうとするからストップをかけた。
「何しに来たの?」
「紗良先輩が恋しくて来ちゃった。それにしてもいいところ住んでんじゃん」
「漆月の家ほどじゃないけど」
まあねとするっと抜けてリビングに入ってしまい、ソファーにダイブする漆月。紅茶でいいと聞くと、おねがーいと言いながらテレビをつけ始める。
軽くお菓子をつけて、ローテーブルに出してあげた。
「紗良先輩、この前の返事もらってないけど、俺様と付き合ってよ」
「何が目的なの?昏籐組を貶めるようなことしてるなら付き合いたく」
いきなり漆月に不意打ちされてしまい、全身が熱くなって、突き飛ばす。漆月はニヤッと笑って、最悪と手の甲で拭いた。
「好きな奴って、この前文化祭で鉢合わせた奴っしょ。そうじゃなきゃ、俺様のキス拭かないし」
「あのね、順序っていうものが普通あるでしょ。後タイミング!」
「相変わらずケチ先輩だなぁ。あのさ、言っておくけど、俺様がここに入れさせちゃってよかった?一応、夜瀬組で今回動いてるから」
「はいはい。それで要件は一体なんなの?」
やや大きめのショルダーバックから、ノートパソコンを取り出し、あるサイトを見せてくれる。それは陽羽が初期からファンだというWizuteriaの公式サイト。
あたしはファンではないけれど、曲はなんかいいなとたまに聴いているくらいだ。
「あまりにも不自然すぎてさ」
「不自然?」
こっち座ってとパンパンッとソファーを叩き、もうと隣で見てあげる。
「春のライブのチケットがさ、陽羽先輩が誘拐された日にチケットを販売。しかも今回はQRじゃなくて紙使用。コンビニ支払い限定で、すぐチケットは可能だった。発売開始日に完売になってる」
「漆月も行く気?」
「もちろん。はい、紗良先輩の分。絶対、こいつらなんかあるのは確定なんだよね。コンサート終えたばかりなのに、普通やる?」
確かに陽羽が行った日が最終日と陽羽から情報は得ていた。一応、調べてはあるけど、ごく普通の芸能人なのは間違いはない。何か見落としている部分があるのかもしれないから行ってみる価値はありそう。
「ありがとう」
「ライブ終わったら、告白の返事聞かせてよ」
「懲りないのね」
もちろんとお菓子を頬張り、手帳にチケットをしまった。
「そんでさ、言っておくことがもう一つ。真昼先輩、とうとうシルバーウルフの仲間入りになったっぽい」
「それ早く言いなさいよ!」
「まさか俺様の演技にまんまと引っかかるとは思わなくてさ。疑いを持たず、俺様を信じちゃってる真昼先輩もどうかしてるけど」
手をあげようとしたら漆月に掴まれちゃって、もう片方でと思っても掴まれてしまう。漆月はいつも人を見下すような笑みではなく、真顔であたしを見た。
「漆月は南雲くんをどう思ってるの?」
「何って、ただのバイト先の先輩だよ。何そんなかんかしちゃってるわけ?」
「陽羽がどんな思いで」
「いや、どちらにせよ、陽羽先輩と真昼先輩は別れてた。邪魔者は一人消えてもらったようなもん。後は翠を排除しておきたいんだよね。翠を傷つけられたくなかったらさ、俺様と付き合ってよ。これで準備が整う」
準備が整うってやっぱり昏籐組を狙ってるってことになる。家に入れさせるべきじゃなかったと、手を離そうとしたら漆月の力でソファーに倒れ込んでしまった。
「本当は陽羽先輩を組員に連れて来てもらうのも可能なんだよ。まあその場合は俺様の家じゃない別の場所になるけど」
「何が目的なの?」
「彼女になってくれたら、教えてあげる」
この状況どうしたらいいと漆月の顔を見つめていたら、扉が開く音がする。
「おい、何やってんだ?」
「昏籐組の右腕、蓮見玲。噂通りの奴。お取り込み中だから帰ってくんないって言いたいけど、烏丸に怒られそうだから帰るよ。さっきのこと、考えておいて。じゃっお邪魔しましたー」
ノートパソコンを持って退散していく漆月で、二度と来んなと塩をまく玲。
「玲、なんで…」
「合鍵返そうって思っただけだよ。あいつが噂の夜瀬組ぼんぼんか」
「…ごめん、今まで黙ってて」
「いいよ。組長から紗良を連れて来るよう言われたから、支度しろ」
なんだろうと思いながら、支度をして、夕哉の家へと向かった。




