29羽
文化祭が終了し、片付けを終えたとしても、体育祭が控えていて、このまま体育祭も優勝するぞと疾ちゃんがクラスを盛り上げていた。
それぞれ種目は決まり、最後の体育祭だから、みんな気合い入ってるねと、私は少々不安が大きい。個人種目はともかく、クラスリレーに出ることになっちゃった。
クラスリレーは五人で疾ちゃん、千ーちゃん、催花ちゃん、真昼くん、そして私。一番重要なリレーなのに、私でいいのとみんなに聞いたら、もちろんと言われちゃった。そうは言っても私が一番遅いのわかってるのになんでだろうか。以前より速く慣れるように、今日から特訓しなきゃ。
夕哉さんは今、海外にいるから、運動靴の依頼はさすがに難しいよねと、ついホームページを開き、運動靴を見ていた。可愛い運動靴で、これもいいなと見ていたら、後ろから覗いてくる千ーちゃん。
「その運動靴、可愛いね。もしかして、差し入れてくれたお姉さん?」
「うん。ちょっと運動靴がボロボロになってたから、新しいのに変えたいなって」
「うちの運動靴も結構やばいんだよね。そうだ。催花も連れてさ、運動靴揃えない?」
「いいけど、千ーちゃん。二人と最近一緒にいないけど、大丈夫?」
平気だよと言っていて、二人が千ーちゃんを避けていたのは知ってた。仲直りしてほしいと思っても、そうはいかないよね。お手洗いから戻って来た、催花ちゃんに相談して、行こっと言ってくれたから、休みの日に行くことを決めた。
放課後、真昼くんはバイトがあるため、先へと帰ってしまい、一人で帰宅中のこと。駅近で何かが騒いでいて、何と足を止めていたら、警察の人が下がってくださいと声掛けをしている。
帰れないのかなと様子を伺っていたら、肩をツンツンされ後ろを振り向く。星河教授がいて、車で送ると言われたから、星河教授の車に乗って、帰ることになった。
「ありがとうございます」
「いい。一応、陽羽ちゃんを守るのも仕事の一つだから」
「駅で何があったのかはさすがに」
「転落事故でしばらくは電車が動かない。ホームドアがまだ設置されていない部分は特に気をつけてほしいところだけど、起きてしまうのが辛い」
以前、星河教授がおっしゃっていたこと。助けられなかった命もある。転落事故も含まれているのだと悟った。未然に防ぎたくても、防げないことはまだこの世の中には存在している。
「今日、一人だったけど、彼氏くんはどうしたの?」
「バイトがあるから先に帰りました」
「そっか。バイト間に合ってるといいね。一応連絡してみて。まだホームで待ってたら、送ることはできるから」
真昼くんにメッセージを送ってみるも、既読がつかず、もうバイト先に到着したのならいいけど、この胸騒ぎ。メッセージではなく、電話をかけてみるも繋がらない。
転落したのって真昼くんじゃないよねと、どんどん不安になっていると、真昼くんからで、真昼くんと声をかける。
『どうしたの?』
「駅で転落事故があったから、電車が止まってて。真昼くんは?」
『隣駅でまだ止まっちゃってて。バイト遅れますとは伝えたよ。陽羽ちゃんは?』
「星河教授とばったりあって、もしあれだったらバイト先まで送るよって言ってくれてる。どうする?」
じゃあお願いしますって伝えてと言われ、隣駅まで迎えに行くことにした。家と反対方向であっても、星河教授と一緒と透に報告済みだから、問題はない。
隣駅に到着すると真昼くんを見つけて、真昼くんが後部座席に座ったのを確認し、出発する。
「バイト先ってどこ?」
「コンゼッセという洋食屋です」
「あそこか。よく、余も利用させてもらってる。あそこのハンバーグが絶品で、ご褒美に食べる」
そうなんですかと真昼くんは嬉しそうで、コンゼッセってどんなお店なんだろうと検索しちゃった。お洒落な洋食店で、チェーン店がいくつかあるみたい。
どれも美味しそうと見ていたら、真昼くんがおすすめのメニューを教えてくれて、今度食べに行こう。
コンゼッセに到着し、ありがとうございましたと真昼くんはコンゼッセの裏口へと入っていった。そのまま星河教授は私の家の方面へと車を走らせる。
「陽羽ちゃん、ちょっと寄り道してってもいい?」
「どうぞ」
どこに行くんだろうかと車を走らせ、数分後。キッチンカーが停まっていて、ちょっと待っててと車から降りて行く。少しして、星河教授が飲み物を二つ持って戻って来た。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
それミルクティーにタピオカが入っていて、それを口に入れてみると何これとつい見てしまう。
「気に入った?」
「はい。これタピオカじゃないですよね?」
「餅が入ってるから、気をつけて飲んで。透、それ飲んで喉詰まらせたことあるから」
透のことだから想像できちゃうと飲んでいると、星河教授が私に聞きたいことがあるようだ。
「彼氏くんのことなんだけど」
「なんでしょうか?」
「法を犯しているわけではないから、まだなんとも言えない。ただ仮に、シルバーウルフとして動いていたら、陽羽ちゃんはどう思う?」
「マフィアの息子として動くのであれば、私は真昼くんと別れるつもりです。それにお父さんが警官ですし尚更付き合えるわけない」
真昼くんは一般人としてシルバーウルフとそういう関係性であるのであれば、警察官の娘として別れなければならない。そしたら、じゃあと星河教授がもう一つ質問をしてくる。
「ヤクザであっても善のある組長の息子が彼氏だとしたら、陽羽ちゃんはどうする?」
なぜヤクザという言葉が出てくるのだろうと思ってしまうも、私はと言葉を詰まらせた。この世の中にそういう組が存在してるのかは正直わからない。
それでも悪いことをしていないのであれば、私はきっとその人に寄り添いたい気持ちはある。
「悪いことしていなければ、別れないと思います。お父さんの許可が得られればの話になっちゃいますよ」
それはそうだよと星河教授が笑って、真昼くんが反社会の世界にまだ入っていないことを願うしかなかった。
◇
アメリカでけえっと思いつつも、ここがシルバーウルフの本拠地とはいえ、中華風の建物じゃねえかよ。だったらアジアのほうに移転したほうが良いのではと、シルバーウルフの構成員の服を掻っ払って、潜入している。
各フロアには麻薬がどざっとあり、やべえもんあるわと歩いていたら、腕を掴まれ気配消してんのにばれるとはな。
そいつは夕坊と同じ背丈っぽい人物で、丸眼鏡をかけていて、ボスに近い服装を着ていた。つまり側近ってことでいいのかと上から下まで見ていたら、イライラを放っている。
「何しに気やはった?ここは昏籐組が入る場でもなんでもないんや。そやったらささっと帰ってくれへん?」
「それはできない。夕坊の大事な女を攫っただろ?動機はなんだ?」
「教えるつもりはないで。さっさと帰ってくれへんと、陽羽の姉、陽空がどうなっても構へんということか?」
こいつ挑発しやがって争うつもりで、ここに来たつもりはない。とはいえマフィアの領域に入ったところで、簡単に帰らせてくれそうな感じでもないようだ。
包囲されているようで、やれという合図で構成員が自分に向かって、攻撃しようとしたらステイと放送が流れた。
『まるー、野良犬を僕の前に連れて来い。構成員は持ち場に戻れー。以上』
ブチッと切れる音で、戻れと合図したことで構成員に舌打ちされ、持ち場へと戻っていく。ついて来いやとまると呼ばれている奴について行き、シルバーウルフのボスと面識する。
ボスの周りにはシベリアン・ハスキーがわんさかいて、動けないし、ハスキーが尻尾を振って遊ぼっと誘ってくる瞳に奪われそうになった。
「まるー、ハスキーたち、どかしてあげて」
「わかってます。こっちおいでやー」
手拍子で一斉にハスキーはまるのほうへと行き、いなくなったところで、蹴りが入りそうだったから避ける。
「反射神経も抜群か。組長の右腕と手合わせしたいが、今それどころじゃない。僕が身を引いたのは意味がある」
「陽羽ちゃんをなぜ攫おうとした。動機はなんだ?」
「それ聞いてどうする?夕坊のためか」
なぜお前が知ってるとボスの胸ぐらを掴み、黎明が教えてくれたと振り払われ、あり得ないと一歩下がった。
「黎明は今頃、夕坊とあってんじゃないか?大事な大事な夕坊は、どちらを選択するのか興味深い。夜瀬組と手を組み、昏籐組の掟を破るか、それとも昏籐組の掟を守り、レッドクレインを庇うか」
「そのために陽空ちゃんをレッドクレインにいさせたのか?」
何も言わずともシルバーウルフのボスはえせ笑い、自分がいない間に黎明と接触するだなんて最悪な事態だ。黎明はご両親が迎えに来て、組を離れた。
幸せに暮らしてたんじゃなかったのかと過去を思い出すも、黎明が夜瀬組に加担するようなやわなことはしない。
「帰ったとしても、夕坊は陽羽のために動いてくれる。陽羽のことしか脳がない夕坊は、どちらの選択をしても刑務所行き」
このこと組長に報告しねえと、夕坊が暴走する。止められるのは自分だけなのに、こんな時に夕坊から離れたのが間違いだった。とにかくここから離れて日本に戻らなくちゃならない。
ボスは歩いている飼い猫を抱っこし、焦っても意味がないと言い出す。
「僕の予想だと、夕坊はどちらとも選択を選ばず、違うやり方で救う。まあそうなったらレッドクレインとのやり取りは断ち切るつもりだ」
「どういう意味だ?」
「いたたたたた、リナム引っ掻くのやめて。特に顔だけは」
猫に嫌われてるとはと呆れながらも、ボスはリナムという猫に触りつつ、こう証言した。
「レッドクレインはあるテロを起こそうとしている。たとえ陽空を奪ったとしても、それを実行するつもりだ。夕坊の動きで、シルバーウルフがどう動くかが決まる」
「夕坊の動きでいつも動いていた?」
That‘s right と発音良さげに言うボスで、なぜ夕坊の動きで動いているのか聞いておく必要があった。
「夕坊の動きでいつも動いていたって、具体的には?」
「僕も陽羽に一目惚れ。だから陽羽と接触しているのなら、僕も動こうと決めている。ちなみに、提供してくれてるのが、僕の甥っ子」
じゃーんと見せるかのように、タブレットを見せられ、それが陽羽ちゃんの彼氏、南雲真昼。
「言っておくが、真昼はマフィアとなんも関わりはないから、ちゃんと認めてあげろ。そうじゃなきゃ、今すぐここで消えてもらう」
「あーはい。要は叔父として接しているだけってことだろ?」
わかってきてると言われ、これ紗良や夕莉に打ち明けたら、何しにアメリカ行ったわけとか言われそうだな。それからとスライドして行き、陽羽ちゃんがこいつと遊んでいた時期があったとはと深いため息が出てしまった。
だから陽羽ちゃんを狙っていたと夕坊に報告したら、俺のほうがたくさん遊んでたしと絶対に言いそう。それは一旦置いとくとして、帰国できるか確認してみる。
「これ聞いて、簡単に帰してくれる?」
「帰すけど、陽羽に渡して欲しいものがある。まるー」
まるが包装したやや大きめの箱を持って来て、自分に渡すとやや重め。何入ってるんだよとメッセージカードには、会食時にこれ着て来いとある。
「おい」
「会食の日は、甥っ子も来させるから安心しろ。中にもその詳細を書いてある。それを渡せないというのならば、ここにいてもらおうか」
預かるものだから、夕坊に見られたら絶対にアウトだし、かといってご両親に渡したら火がついてしまうのではと一瞬考えてしまう。
「ただの会食。大学合格したら、大学祝いで会食するだけのことだ。心配はいらない。もし不安なのであれば夕坊も来させればいい。二人はばちばちしそうだがな」
信じて渡したいが、罠だとしたら相当危なっかしい。しかし帰国して組長に報告したいから、預かることにした。やたらと重いと思いつつも、まるに案内されて帰ることに。
「まる」
「まるはボスがつけている名前や。丸眼鏡かけてるからまる。某の名は、影山迅っと言ってな。生まれた時からシルバーウルフにいるものや。よかったなぁ。お前はん。組でもなかったら今頃、ボスに殺されておったで」
どうせ手合わせがしたいから、自分を帰らせてくれたんだろうと思ってしまった。
領域外へと出て、また来てなぁと大きく手を振っていて、次は殺すというような笑顔で、これちゃんと持って帰れるのか分からず、帰国の手配をすることに。
◇
ふわぁとベッドに寝っ転がり、リナムもベッドに登って僕のそばで丸くなり寝始めた。リナムに触れながらまるが戻って来るのを待っていると、スマホが鳴る。
誰だと片手で操作し、確認してみると、真昼からで、文化祭の写真をアルバムにし送ってくれたようだ。陽羽とうまくやっていて、何よりと見ていくと、一枚だけ陽羽とある男が楽しげに喋ってる写真が入っていた。
翠・カジュー、陽羽ちゃんの幼馴染とあって、とうとうFBIが息子を使って調べ始めているってことでいいのか。真昼がシルバーウルフと接触している証拠を押さえたいんだろうが、そうはさせない。
大学も受けるみたいらしく、真昼は違う大学受けるって聞いていた。ふうむ、排除はしたいが、陽羽が悲しむ顔は見たくはない。
どう出るかが肝心であっても、真昼の宝物を誰にも奪わせないように、ちょっと仕掛けてみるか。陽羽たちと同じクラスにいる子に、こいつを監視し、真昼から奪おうとするなら、報告を頼むと送っといた。
その子は陽羽と同じ守城大学に受験をするため、陽羽を見ててもらう形となる。まあ僕の場合、氷雨疾太がいる場合は、奪い取れないから、あの日は結局陽羽をアメリカに連れて行けなかったということ。
悔しいとリナムに触れていたら、まるが戻って来る。
「玲の様子は?」
「まだ納得はしていないようやったやけど、大丈夫やろう。それでどないするん?レッドクレインが捕まったら、シルバーウルフの情報が漏れる危険が高うなるはずや」
「いや、漏れる心配はいらない。手を貸したがその後は自己責任と契約書にはそう書かれている。必要な材料は全て渡した。後は好きに暴れても、シルバーウルフは手出ししない」
「ほんまにそれでよかったんか?」
さっき、玲にも伝えたが、陽羽をアメリカに来させ、日本から離れさせたかったのは事実。どれくらいの威力を出すのかはわからずとも、陽羽が住む場所にも影響が出るのではないかと恐れていた。
「まる、万が一に備えて、準備は進めておけ。そうなろうとした時、真昼と陽羽だけでも、避難させられる準備を」
「承知したで。ほんまにテロを起こす気なんか?」
あいつ次第だろとリナムに触れるのをやめ、なかなか吐いてくれない奴のところへと向かう。
◇
週末、透が車を出してくれるということで、透の車で待っていると、催花ちゃんと千ーちゃんが走って来て後部座席に座った。
「遅れてごめんね」
「全然平気だよ」
「電車が遅れてて。透先生、よろしくお願いします」
行くぞーと車を走らせ、体育祭のことで話し合っていたら、透からあることを言われる。
「体育祭が終わったら、受験が控えているからびっちり教えるから覚悟しておけよ」
「ちょっと伊宮先生」
「なんてな。それにしても急に三人がその靴屋に行きたいだなんて珍しいな。店長は不在っぽいけど」
「運動靴がちょっとボロボロになっちゃって」
うちもと二人も言っていて、タイミング良すぎるだろと透に笑われてしまう。
「靴屋の他に行きたいところあるなら、連れてってやるからいいな」
本当ですかと二人は調子に乗り始めて、透はどこ行きたいと二人に聞いた。すると千ーちゃんがスマホで検索し、透に告げる。
「ブックアートに行きたい」
「ブックアートって地方にある展示会のことじゃねえか。さすがにそこは行けねえよ」
やっぱりとだめもとで聞いたっぽく、今度は催花ちゃんが透に伝えた。
「じゃあ動物園行こうよ。この前、ちゃんと回れなかったでしょ?氷雨と南雲くんは現地集合で」
「岩渕さんはいいの?」
「今日新しいバイト始めたから来れないみたい。千夏は疾太に連絡して、陽羽ちゃんは南雲くんに聞いてみてよ」
決まりだなと透は後でルートをチェックするらしく、そこからはたあいない話をして到着する。車で待ってると透が言うものだから、私たちは店内へと入った。
いらっしゃいと笑顔で言ってくれる夕莉さんで、運動靴を見ていく。
「運動靴探しに来たの?」
「はい。ちょっと運動靴がボロボロで、体育祭も近いから新しい靴を買いに来たんです」
「それなら注文してくれれば、あたしが作ってあげたのに」
「お気遣いありがとうございます」
ゆっくり見てってねと言われ、運動靴は普通の運動靴履いているから、どれにしようと迷う。紐なしを探してみるも、どれも紐が付いている。
今、学校で履いているのは紐なしだから、どうしようと考えていると、夕莉さんがパンフレットを出してくれて、スリッポンを見せてくれた。
「片手だと紐結ぶの大変でしょ?体育祭の時に紐が解けたりしたらあれかなって持って来ちゃった。どうする?依頼、今中断してるけど、作ってあげる」
「いいんですか?」
「いいのいいの。あなたたち二人はどうする?」
二人は気に入ったらしい靴をすでに持っていて、好きな色選んで待っててと言われた。スリッポンだけどデザインもあり、二人が選んだ色に近い色を選ぶことに。
それからデザインはやっぱりシンプルのを選んで、早速取り掛かってくれるみたいだ。また来てねと夕莉さんに言われつつ、車に戻ってスマホをチェックすると動物園の入り口で待ってるとあった。
「真昼くん来れるって。疾ちゃんのほうは?」
「疾太も来れるっぽい。お願いします」
任せておけと透は車を走らせて行き、どんな靴買ったんだと透が質問するから二人が見せる。
「陽羽の分は?」
「注文だから、出来上がったら連れてって」
そっかと透は微笑み、動物園に着くまで、私たちは恋バナをしていった。




