16羽
夏祭り当日となり、お母さんに着付けてもらって、良いじゃないとお母さんが写真を撮った。忘れ物はないよとねと巾着の中を確認し、夕哉さんが作ってくれた下駄風サンダルを履く。
「花火見終わったらすぐ帰って来なさいね」
「うん。行ってきます」
行ってらっしゃいとお母さんが言い、玄関を開けて駅へと向かう。真昼くんと話し合って、清寺さんと岩渕さん、四人で夏祭りに行くことを決めた。
真昼くんがどんな表情するかなと考えながら、駅に着き電車に乗って隣駅へと向かう。電車内ではちらほらと浴衣や甚平を着た人たちがいて、この人たちも夏祭りへと行くのだろうと隣駅に到着した。
改札前で待ち合わせだから、もう真昼くんたち着いてるころかな。改札を出て真昼くんたちを探すも、まだ来てないっぽい。到着したよーと四人グループのチャットで呟く。
少し待っても来なくて、スマホを再度確認したら、岩渕さんから返事が来た。ごめん、ちょっと遅れるから、先回っててとあり、となれば真昼くんがそろそろ来るかな。
そう思っていると真昼くんがお待たせと浴衣姿で到着し、真昼くんは頬を染めながらとても似合ってるよと言ってくれる。私も照れながら真昼くんも似合ってると伝え、手を繋ぎながら先へと行くことに。
場所どうしよっかと話しながら屋台を見て行き、たこ焼きの列と焼きそばの列が長蛇となっていた。こんなに混んでいるとは思わなくて、私たちは悩みに悩んですいているお好み焼き屋さんを選ぶ。
そんなに美味しいのかなとお好み焼き屋さんに並んでいると、私たちを呼ぶ声が聞こえた。声の主の方角に目をやったら、そこに氷雨くんがいたのだ。
「氷雨くん、この前はありがとう」
「いいよ。今、たこ焼きと焼きそば、並んでるんだけどさ、食べたいならついでに買ってくる。どうする?」
「ふうん。ならたこ焼きと焼きそば、一つずつ。お好み焼きは氷雨たちいる?」
「じゃあ二つ頼むな」
そう言って氷雨くんは氷雨くんグループの仲間の元へ行く。
「みんなで少しずつ食べればいいかな。後は席取りだけど、いい場所あるかな」
「結構なお客さんいるから、いいところ見つかるといいよね」
話していると順番が来て、お好み焼きを四つ買い、会計を済ませて、氷雨くんを探した。どの辺りにいるのかなと探していたら、ちょうど順番だったらしく私たちのところへとやって来る。
「言われた分、買っといた。場所取りは若津たちが取ってあるから行こうぜ。もちろん別々だから気にしないでほしい」
「なんかありがとね」
「いいよ、そんくらい。南雲、そんな顔すんなよ。そうだった。なんかさ、たこ焼きの店主が伊宮っぽくってさ」
撮ったらしい写真を見せてもらうとサングラスに付け髭っぽく、見るからおじさんではなかった。きっと心配で屋台を開いているんだろうなとクスッと笑っちゃう。
「どう見ても透先生じゃん。何やってんの?」
「知らねえよ。なんか焼きそば作ってる兄ちゃんに負けないようにやってる感じだった」
張り合える人物ってまさかと思っていても、確かめる術はなく、透に今度聞いてみようと思った。
河岸ではレジャーシートを敷いている人たちが多く、若津くんたちを探しているとおーいと手を振ってくれる。とてもいい場所で、足が疲れないようにとちゃんと椅子までセットされていた。
「ここ使って大丈夫だから俺らはあそこにいるから、なんか困ったら教えて」
よく見ると少し遠くに氷雨くんグループの女子たちが談笑している。それじゃあなと氷雨くんは若津くんたちと一緒に行かれ、私たちは椅子に座った。
場所取りゲットしたよと清寺さんと岩渕さんに送り、わかるかなと思いながらも、冷めないうちに先に頬張る。
「後もう少しで夏休み終わっちゃうけど、宿題は全部終わった?」
「うん。この前、伊宮先生が家に来てくれた時に、全部宿題は終わったよ」
「まだほんの少し残ってるから、帰ったら宿題済ませないと。始業式が始まったら、文化祭の出し物とか決めなきゃだよね。今度はましなのがいいかも」
「去年は評判悪かったから、今年は絶対いい方向性になってほしいな。それに体育祭もだから、種目決めもやらなくちゃね」
去年は男子がメイドやって、女子が執事の格好でカフェをやったけれど、評判が悪かった。だから今度は失敗しないようにしたいけど、出し物はいつも先生同士がクジで決める。
どんなことをやるのか楽しみだなと食べていたら、お待たせと清寺さんと岩渕さんが到着した。
「何この豪華な椅子」
「実は氷雨くんたちが用意してくれてて」
さすが学園長の息子と言いながら二人も椅子に座り買っといた、たこ焼きたちを分けてあげる。
「ありがとう、お金いくらだった?」
真昼くんが値段を伝え、岩渕さんが半分を払い、二人ともありがとうと清寺さんからも言われた。夕飯も食べ終わり談笑をしていると、花火を打ち上げる音が聞こえ空を見上げる。花火が打ち上がり、綺麗と眺めて行くことに。
◇
花火が打ち上がり、焼きそばを作りながら、あいつに負けないように焼きそばを売り続けていた。やっぱり陽羽の浴衣姿、可愛すぎて隣を一緒に歩きたい気持ちが溢れるばかり。
陽羽の彼氏に気づかれなくてほっとするも、完全にバレたら通報されてたかもしれない。客数が段々と減って行き、兄ちゃん休憩してきなと言われたから、ひと休憩をいれるため、喫煙所へと入る。
一服し、ここから見える花火を見て、綺麗だなと眺めた。何もなかったら陽羽と一緒に来てたのかな。そんなことを考えていると、夜瀬組らしき奴らを見かけた。
こんなところまで付き纏ってんのかよと、煙草を吸い殻入れに落とし、夜瀬組を追うことに。
客は花火に夢中だから、何が起きてもおかしくはない現状だ。気配を消しながら様子を伺いつつ、尾行して行き、人気がない場所で誰かを待っているようだった。
誰を待ってんだと見ていくと、そこに現れたのは烏丸で、組員に何かを伝えているな。少しして烏丸はいなくなり、組員もばらけていなくなった。
嫌な予感がしすぎて、俺はたこ焼き屋にいるあいつのところへと急いだ。俺は接触禁止令となってるし、動きたくても動けない。仕方ないけどあいつに頼るしかないと隣でやっていたたこ焼き屋を覗いた。
しかしあいつはどこにもいなくて、よりによっていないだなんてな。あいつの連絡先は知らないし、かと言って陽羽に連絡するのも変だ。
何かいい方法で伝えなくちゃならないと考えた矢先のことだ。唯一呼び出せる方法があるじゃんと、迷子センターへと急ぐ。
スタッフに伊宮透と朝峰陽羽が迷子になったことを伝えた。スタッフがアナウンスをかけたことで、夜瀬組がきっと動き出す。どっちが先に来るかは不明であっても、こうするしかなかった。
少しして伊宮透が先に到着し、よかったと思いながらも、耳元で伝える。
「この周辺に夜瀬組と烏丸って言う奴が来てる。おそらく、狙いは陽羽だから気をつけろ。客が花火に夢中になっていることで、何かが起きるかもしれない。一刻も早く、陽羽を安全な場所に」
「わかった。警戒はしとく。情報、ありがとな」
話し込んでいると陽羽と南雲真昼の声が聞こえ、俺は反対側のテントから出た。ここで張っておけば夜瀬組が来る、それとも諦めて撤退するかだ。
伊宮透が二人を連れて行くのを確認し、警戒をしていると、中折れハットを被った烏丸が俺の前に現れた。烏丸は中折れハットを脱ぎ、これはこれはと勝手に挨拶してくる。
「ご無沙汰ですな。昏籐組、若頭夕哉殿。お父上は元気で過ごしているか?そうだった、伊豆にいた際に、怪我を負われたとか」
冷笑しながら言うその顔を今でも殴り飛ばしたいぐらいの気持ちだった。
「てめえが仕掛けたことだろ。組員連れて立ち去れ」
「それはできない。なんせ、花火を見ていらっしゃる方がいる。心配無用。貴様の大事な想い人には指一本触れさせはせん。ただ警戒は怠るな。犬は待ってはいない」
中折れハットを被りではと烏丸は人混みの中へと入って行き、何故あいつに忠告を受けなきゃいけないんだよ。犬、つまりシルバーウルフが花火大会にいるってことなんだろう。伊宮透がいるから安心だと思いたい。
だがなんだこの胸騒ぎはと、胸に手を当てる。花火大会で何もなかったとしても、この先、陽羽に何かが起きそうな感じだ。とにかく今は伊宮透が一緒だから大丈夫だろうと屋台へ戻って売上げを伸ばしていくことに。
◇
迷子のお知らせと言われて、子供が迷子になっちゃったのかなと思ったら、透と私が迷子扱いとなっていた。みんなはなんでと笑われ、私は迷子じゃないもんと恥ずかしい気持ちだ。
渋々、透と合流して私たちを呼んだ人のところへ行こうとしたら、僕も付き合うよと真昼くんも一緒に行ってくれた。
誰なんだろうねと話しながら、迷子センターに足を運ぶと透しかいない。
「伊宮先生、私を呼んだ人って?」
「手違いだったらしい。悪いな、来てもらって。それにしても陽羽、その格好、やっぱり似合いすぎる。一枚撮っていいか?もちろん、真昼も」
透はスマホを取り出して、私と真昼くんは照れながら撮ってもらうことに。一枚と言ってたのに、連写しまくりの透だった。
透は屋台の手伝いで来ているらしく、その場で別れ、私たちは歩きながら花火を見ていく。今年の夏はいい思い出ばかりだったなと花火を見ていたら、真昼くんが足を止めた。
「真昼くん?」
「あっごめん。ちょっと知り合いがいたような気がしたんだけど違った。行こ」
私の手を取って早歩きをする真昼くんで、どうもおかしいから待ってと伝える。真昼くんは足を止めてくれるも、振り向いてはくれなかった。もう一度呼んでみると、真昼くんが私を引き寄せて強く抱きしめてくる。
知り合いが誰なのかわからずとも、真昼くんがこんなに怯えてるのは初めてのケースだった。
手を背中に回し、私がついてるよと伝え、最後の花火が打ち上がる。
花火大会の終了のお知らせが流れ、真昼くんはごめんと言い、戻ろっかと言い出した。そうだねと真昼くんの手を握って、清寺さんと岩渕さんのところへと戻る。
戻ってみると岩渕さんと清寺さんが椅子を片付けていて、この椅子は氷雨くんたちがセットしてくれたやつ。氷雨くんはと探していたら、回収するよと氷雨くんと若津くんたちが来てくれた。
椅子を渡し、ありがとうと伝えて、私たちはひと足先に帰ることに。
花火良かったねと話しているも真昼くんは元気がなく、このまま駅で別れても平気だろうかと心配になった。駅に到着し清寺さんと岩渕さんは真昼くんと同じ方面。
南雲っち、おーいと岩渕さんが絡んできて、なんですかと言うから、もう駅だよと清寺さんが言う。
「ごめん。話、聞いてなくて。帰り大丈夫?」
「一駅だから大丈夫だよ。それじゃあ。今度は学校でね。おやすみ」
おやすみと清寺さんたちは反対側のホームへと行き、様子がおかしいから明日、真昼くんに連絡してみようと決めた。それにしても、混雑していて、次のを待とうと待っていたら、スマホが鳴る。
真昼くんかなと思いきや、夕哉さんからで出てみた。
「はい、朝峰です」
「陽羽?もう駅着いちまった?」
「電車待ってます」
「改札出れそう?」
はいと伝えて、一度スマホを巾着に入れ、駅員さんに忘れ物しましたと告げ、改札口を出る。改札を出て会場の方面と歩こうとしたら、駅前で息を切らしながら夕哉さんがいたのだ。
「夕哉さん」
「ちょっと電車で帰るの、やめたほうがいいと思って、陽羽の護衛がこっちに車を回してくれるから、それで帰って」
「どうして…?」
「さっき、迷子の知らせ出したの、俺なんだ。変な奴らが陽羽の周りに接触してたし、帰りを襲うかもしれないと思ったら、余計に不安になって」
夕哉さんがそこまで私の心配をしている訳って一体と、聞こうとしたら透の車が到着してしまった。夕哉さんは珍しく、透に威嚇はせず、あとは頼んだと言い、花火大会の会場へと戻って行く。陽羽と呼ばれ、私が助手席に座ったのを確認し、出発した。
「透もわかってたの?変な人たちが私の近くにいたこと」
「大体は把握してたが、先に気づいたのはあの店長だよ。花火大会は周囲を警戒せず、花火を見入っちまうこともあって、目撃者の証言は稀に、外れることも多い。それに人混みがあるから、気づきにくい場合もあるからな」
「だから透は屋台を開きながら、警戒をしていたってこと?」
そう言うことだと言われ、全然気にもしなかったな。ただよくお父さんが言っていた言葉。人混みと人が少ない場所は特に気をつけろと。
透も、夕哉さんも、心配してくれてるから、甘えちゃってるけど、護身術とか習ったほうがいいのかな。少し考えてみようと景色を見ていたら、透に言われた。
「悩みがあるなら、相談しろよ。もしかして真昼と喧嘩でもした?」
「ううん。喧嘩はしてないけど、清寺さんたちのところに戻ろうとした時、真昼くんの知り合いを見つけたのかは、わからないけど、凄く怯え切ってたの。それがなんなのか、気になっちゃって」
「母親がいたとか?」
「わからない。明日、一応連絡はしてみる」
真昼くんの家庭事情はまだちゃんと聞いたことがないから、勇気を出して明日聞いてみよう。
◇
花火大会での調査依頼を引き受け、ある人を尾行していた。最初内容を伺った時、断ろうと思ってたけど、何か情報が出るかもしれないからって引き受けたのはいい。
陽羽の彼氏である南雲くんの母親、天美さんは新しい恋人と来ていて、やたらと派手な化粧と思ってしまうほどだ。お相手はとある企業の社長らしくても、データベース上、偽の企業だとすぐわかった。
言わば詐欺師ではないかと疑いを感じるし、このことを南雲くんに話すべきかどうか不明だ。
なぜなら依頼をして来たのが、南雲くんの義理父である江波修さん。江波さんは南雲くんを正式に息子として引き取りたく、言わば親権争いのようなもの。
情報をかき集めた限り、天美さんは何度か南雲くんに対して虐待をしていたらしく、近所の人たちから何度か通告をしたこともあったそう。けれど児童福祉司が何度も訪れるも、南雲くんは虐待を受けてないと言い張ったらしい。
そして江波さんが天美さんと愛人関係となって、十年前、昼奈ちゃんが登場し、何度か家に来ていたそだ。南雲くんが虐待を受けていることを知ったのは、一緒にプールへ行った時のこと。
上はパーカーを着ていて、一緒に入ろうとしなく、プールの中にも入ろうとはしなかった。気になった江波さんは、疲れ切った南雲くんが寝ていることを確認し、服をずらしてみると上半身には痣だらけだったことが判明。
すぐに天美さんに相談するも、どこかにぶつけたんじゃないと言い張るばかりだった。しかし昼奈ちゃんだけには虐待がなかったようで、江波さんは耐え切れず天美さんと接触するのをやめたそう。
しかし、奥さんに子供ができないとはっきりしたことで、天美さんと何度も話し合って、昼奈ちゃん親権は江波さんに移した。
ただ南雲くんは母親と一緒にいると言われ、最初諦めるも、奥さんがとても心配しており、昼奈ちゃんにも会いたいと言われるばかりで、確実な証拠を得て、親権争いに挑みたいんだそう。
ただ子供が十五歳以上だった場合、話は別で子供に親権を選ぶ権利が存在する。立場上、南雲くんは六月ですでに十八歳でもあるし、親権争いの話はすぐ解決となるのではないかと思う。
けれど虐待などがあった場合は別だから、そう考えているのかもしれない。
そうは言っても、南雲くんの母親があんな状態なら、母親の勝ち目はなさそうな予感もしちゃう。あれってホストの誰かと思ってしまうも、上品な着物に鞄はブランド品。
ごく普通にある育児放棄の母親って感じだよと、尾行しつつ花火大会が終えたらお次はどこに行くのかな。進んで行くとあちこちに、ラブホテルが建っており、その一つの建物へと入った。入られる寸前に写真で収めた。
今日はこんなところかなと撮った写真をチェックしていると、串刺しを口に咥えながらせんぱーいと呼ばれる。呼ばれた方角をみると、浴衣が少し乱れ、変なお面を頭につけている漆月夜一がいた。
「先輩、こんなの興味あるわけ?」
「違う。友達の家がこの近くにあるから」
「ふうん。先輩友達いんの?学校では見かけてないけど」
腕をあたしの肩に回す漆月夜一で、振り払おうとしてもガッチリ掴まれてしまっている。
「離して」
「嫌だー。せっかくだしさ、ちょっと遊んで行かない?」
「断る。帰るからその手離してってば」
漆月夜一の腕を払おうとした時で、漆月夜一が離れ、あたしを引き寄せたのは玲だった。
「嫌がってんのに、何手出してんの?」
「お前こそ、何様?俺様の先輩に手を出さないでもらえる?せんぱーい、一緒に帰ろう」
「嫌に決まってんでしょ。一人で帰ればいいじゃん。それにあたしは」
玲が合図をして、指をポキポキしながら、何をするのかと思えば、酔っ払いの人が背後にいたっぽくその人を気絶させる。
「お前、何もん?」
「普通の学生。まあいいや。暇つぶしのおもちゃになりそうだったけど、今回はやめとく。そうそう、夜のお巡りさんには気をつけな。じゃっ先輩、学校が始まったらいっぱい遊んであげるから、楽しみにしてなよ」
漆月夜一はそれを言うと同時に車が到着して、それに乗り行ってもらい、力が抜けた。南雲くんから聞いてたけど、何かされるんじゃないかと焦っちゃったよ。大丈夫かと玲に言われ、平気と答える。
「それより、なんであたしがここにいるってわかったの?」
「付近で夜瀬組と抗戦してたら妙なことを言われた。若頭の従姉妹がどうなってもいいのかって」
「まさか、漆月を疑ってる?」
「まだ断定はできない。もしそうなら、接触はしないほうがいいかもしれないし、夜瀬組の息子だと判明したら、紗良も危険が起きる」
南雲くんに言われたことがきっかけで、ある程度は漆月夜一のことは把握してる。夜瀬組との関わりは一切なく、わがまま坊々程度だ。
白黒つけるにしても、あたしより陽羽の周りにいる人たちをもう少し調べておく必要がある。夕哉も夜瀬組と接触しただろうし、情報を共有してもらおう。
「まだ夜瀬組いるだろうから、バイクで家まで送る」
「ありがとう」
後半年間で、何も起きてほしくはないけれど、きっとこの半年間で何かが動き出すのは明確だった。
◇
友達に誘われて渋々行くことになったナイトクラブ。本当はあまり行きたくはなく、さっさと帰りたかった。それなのに友達に裏切られたようなものだ。
あれほど関わらないほうがいいと言ったのに、接触してるだなんて信じられない。友達は飲み物を頼んでくるらしく、あたしも行こうとしたら、手首を掴まれ座っている。
「そんなに緊張しなくていい。あんたを要望している人がいてな。バイトのこと、両親に言われたくなかったら、会ってもらおうか?」
「脅されても、脅迫されても、あたしはもう会うつもりはないとお伝え願えますか?それにバイトは辞めてますし、あの写真ばらまいても構いませんので」
言いたいことをその人に告げ、やっぱり帰ろうと立ちあがろうとしたら、その人があたしを倒し跨った。その人は煙草を灰皿に捨て、ほおを軽めに叩く。
「あんたさ。自分のことどうでもいいとか思ってんだろ?だからあんな闇バイトもやってさ。両親に見せたら、どんな表情をするか、考えたことはなかったのか?」
「あなたに言われる筋合いはない。それに、あたしはあたしの意思でやった。後悔なんてしてない」
いつかはお父さんに気づかれるかもしれないとずっと思ってる。それでも後悔は一度もしたことがなかった。あたしは陽羽が大っ嫌いで、何度も両親に怒られる苦痛が辛い。
なんで、なんで陽羽ばかり庇うのと、何度も何度も考えたけど、答えは出てこなかった。だからあたしは一度だけ、友達の家に泊まると言って両親に嘘を吐き、実際はやってはいけないバイトをやってしまったこと。それでも心は満たされず、結局バイトはやめて、一般にあるバイトを選んだ。
その人はふっと笑い、跨がるのをやめて、新しい煙草を取り出し火をつける。起き上がり、あたしが逃げないことで言われた。
「あんたは闇バイトを一度やった。情報も筒抜けである以上、家族の身に何が起きるのか、その目で見ておくんだな。今日は帰れ。あの人は来ないから安心しろ。ただし、我が呼んだ時はちゃんと来い。そうじゃなきゃ、大型犬が妹を食うからな」
名刺を渡されたから、番号をスマホに登録し、名刺を置いて立ち去ることに。大型犬が陽羽を食べるというのは、まだ理解できなくても、ナイトクラブを出て家へと帰った。




