11羽
到着した旅館は、思っていた旅館ではなく、透が言った通り、霊が出てもおかしくはない旅館だった。透はさっ中へ入るぞと乗り気で、伊宮と男子が超絶嫌がっている。
他の生徒も乗り気ではないのに、先生たちは早く中に入ってと言われていた。
夜、絶対寝れないかもとその中へ入った瞬間のことだ。両脇にはいらっしゃいませと旅館の人たちが整列していたのだ。外観は悪くても、内見はこんななら安心して寝れるかも。
歩いていたら見慣れた人がいて、私に手を振ってくれて、以前助けてくれた人だと、ぺこっと挨拶する。
「以前はありがとうございました」
「お礼言われるほど、自分たちは何もしてないよ。ゆっくりしてってね」
蓮見さんは行ってしまわれ、あれおかしくないとはてなマークが出てしまうほどだ。以前、蓮見さんに助けてもらった時、クラブ経営をしていると言ってた。なんで旅館にいたんだろうと不思議に思いながら、女子たちがキャーキャー騒いでいる。
見た感じ、旅館の人たちが若めでまるでホストクラブにでも来たんじゃないかレベルだった。男子たちはその旅館たちを憎んでいていて、もし透に聞けたら聞こう。
会議室で二日目の授業が始まり、わからないところは各自で、教授たちに教えてもらっていった。
◇
ふう、急遽旅館を予備に用意しておいてよかったが、まさかそこが昏籐組経営だと後で発覚し、飲み物飲んでたら絶対吐いてたわ。
先生たちに気づかれるなよと組員に注意を払いながら、最初からここにしておけば組員一人亡くならずに済んだのかもしれない。
陽羽に起こされすぐに部屋へと戻り、二日目の支度していたら、叫び声が聞こえ、行ってみるとそこには昏籐組が少数遺体で見つかった。
星河さんに頼み、警察を呼んでもらって、遺体を運んでもらいつつ、俺は伊豆警察署に報告。そこからは伊豆警察署が対処していくも、この案件はこっちに回ってくると予想していた。
昨晩のことが引っかかって、玲に連絡するも電話もメッセージにも返事がなかったが、ひょろっと顔を出したからほっとしている。
すれ違い、後で部屋に来いと言われたから、昨晩で何かがわかったんだろうと理解した。
問題を解いていく生徒を見つつ、わからないところは教えてあげ、陽羽も頑張ってるなと見ていたら、星河さんに呼ばれ、部屋を出る。
誰もいないことを確認した星河さんは、スマホを取り出してある動画を撮っていたらしい。それは食堂の映像でそこに昏籐組と夜瀬組が抗戦している場面。ホテルの人に気づかれなかったのはなぜだと思いきや、昏籐組と夜瀬組の喉を八つ裂きにした人物。そいつは深くフードを被っていて、誰なのかははっきりしない。
「よくそんなの撮れたな」
「念には念をだよ。カメラはすでに署に回してあるから、すぐ人物は割れる。ただなぜ夜瀬組の遺体がなかったのか。それが引っかかるんだ」
「引きずった形跡はなかった。夜瀬組は血塗りを使ったとかは?」
「そういうのはなかったっぽい。夜瀬組の遺体がどこに行ったのか気にならない?」
そりゃあ気になると星河さんに伝えたら、何かわかったらまた教えると会議室へと戻っちまった。今すぐじゃないんかいと思いながらも、後々その件がこっちに来そうだから俺も戻ることに。
◇
組長は無事だから、安心してと夕莉にメッセージを送りながら、休まれている組長のそばへと寄る。昨晩、組長と一緒に烏丸が滞在している部屋に侵入するも、烏丸の姿はなく、襲われそうなところ、組長が庇ってくれた。
右腕として組長を刺した奴は、自分の手で倒したが、その後、予想外なことが起きる。
なぜなら食堂で抗戦が起きたと思えば、呆気なく可愛い後輩は血に染まっていた。女将に事情を話し、こっちに移ったはいいものの、組長の容体があまりよろしくない。
傷は深くなかったが、この感じ前にも味わった経験がある。それは両親が何者かに刺され、搬送されたが毒死として死亡が確定した。もしかして自分たちの両親を殺した奴が近くにいたのではと考えてしまう。
透にこのことを打ち明けるべきか、それとも夕坊に伝えるべきかと、悩んでいたら襖が開きそこに現れたのは姐さんが来た。
「姐さん、いつこちらに?」
「今朝よ。話は大体夕莉から聞いたわ。夫は私が見てるから、仕事に戻りなさい」
「すいやせんでした!自分がついていながらも、組長を守り切れなかった。破門されても自分は平気です」
土下座をして詫びを入れると、頭を上げなさいと姐さんが自分を上げさせる。姐さんは無事でよかったと、自分を抱きしめ、香水の香りがふんわりと漂う。
「あなたと透を連れて来た龍二さんのことを思い出すわ。透は泣きっぱなしで、あなたからは殺意を感じていた。殺したい瞳を見て、今もそれと全く同じ瞳をしている。憎しみがあったとしても、昏籐組の掟は破らないであげてほしいの」
「姐さん…」
「決して殺めては駄目よ。いいわね?」
昏籐組の掟の一つ、決して憎かろうとも殺めず、警察に突き出すこと。わかっていたとしても、守り切れなかったことが悔しすぎて、しばらく姐さんの胸を借りていたら、襖が強引に開いた。
なんか圧かかってんなと姐さんから離れると、旅館のスタッフになっている組員が目を光らせている。
「あなたたちも仕事に戻ってあげなさい。先ほど守城学園の先生たちが探し回っていたわよ」
承知と一瞬、部下たちにブーイングされるも、襖がしまった。
「結局、烏丸は現れませんでした。姐さんはどう感じます?」
「そうね。烏に聞いてみたらいいんじゃないかしら?」
そう言って微笑む姐さんであり、微笑してしまう自分で、仕事戻りますと組長を姐さんに任せ、仕事に戻って行く。
◇
二日目が終了し、夕飯はどんな感じなんだろうと食堂へと足を踏み入れた。前のホテルよりも豪華すぎて、みんなはよだれを出しそうな勢いでいる。
こっちではバイキングではないけれど、豪華な料理をいただくことに。
パクッと頬張りつつ、向かいでは真昼くんがいるも、なぜか真昼くんの隣では氷雨くんが食べていた。
「なんで氷雨がここに座ってんの?」
真昼くんは睨みながらそう言っていて、別にいいだろと氷雨くんはご飯を頬張る。気にしつつも氷雨くんを放っておき、私に明後日の予定を聞かれた。
「明後日自由時間の日だけど、陽羽ちゃんたちの班はどこ回る予定なの?」
「西伊豆エリアを回ろうって話になってて。真昼くんはどのエリアに行く予定なの?」
「東伊豆エリアを回る予定になってる」
「俺は西伊豆だから、一緒に回るか?」
聞いていないのに氷雨くんが言っていて、真昼くんが凄い嫌そうな表情をしている。東伊豆も良さそうだったけど、一番写真を撮りたかったところがあったから、そこにしちゃった。
西伊豆コースと東伊豆コースがあって、班で決めてるから仕方ない。どっちに行くにしても、透は私がいるほうを担当のようだった。
「やっぱ、あの絶景を撮りに行くんだね。僕もそっちがよかったけど、多数決で東伊豆になっちゃった」
「いっぱい写真撮るから、東伊豆の写真、ちょうだいね」
「陽羽ちゃんが言うなら、写真たくさん撮るよ。じゃあ西伊豆のほうは頼むね」
完全に二人の空気感を出していたら、俺も送ってやるよと真昼くんにちょっかいしている氷雨くん。真昼くんは嫌そうな顔をしつつ、何かされたら透先生にちくるんだよと言われた。
◇
風呂上がりに玲が使っている部屋に行ってみると、玲は寝っ転がりながらテレビを見ていた。兄貴と声をかけるとテレビを消し、寝っ転がるのをやめ、こっちに向く。
「仕事中、悪いな」
「平気だよ。それでなにがあった?」
「組長が刺された。しかも毒入り」
「無事なんだよな?」
玲は首を横に振ってあまりよろしくないのだと理解する。今は姐さんがそばにいるらしい。座って机にあった煎餅を頬張りつつ、玲が昨晩あったことを教えてくれる。
「烏丸の部屋に行ったけど、烏丸の姿はなく、そこで夜瀨組に襲われた。そん時、自分を庇ってくれたんだよ。本当に情けねえ」
「食堂で起きた件は?」
「自分は居合わせてない。ただ死に際の組員情報では、マフィアの連中が現れたらしい。マフィアが組に抗戦してくるとは想定外だったよ。おそらく狙いは陽羽ちゃん」
「シルバーウルフか。なんでシルバーウルフが陽羽を狙ってるんだ?無関係なはずだ」
玲も知らないようでシルバーウルフがなぜ陽羽を狙っているのか考えにくい。陽羽はごく普通に暮らしていたし、なんも関係のないはずだ。それとも夕坊がマフィアに手を出したと考えると、話は別になってくる。
「夕坊はシルバーウルフに手を出したとかはないのかよ?」
「マフィアに関わっている暇なんてない。ただ名前ぐらいは把握してると思う」
小さな冷蔵庫から水を取り出し、それを飲む玲で、動機が全然把握できない。
「ここは兄貴、探っといてくれるか?」
「そう言われると思ったよ。調べてはみるが、シルバーウルフと接触するには、違法的なことをするけど、そこは見逃してくれる?」
シルバーウルフは麻薬や賭博、それから銃の密売を行っていると聞いたことがある。しかしシルバーウルフが拠点としている場所は誰も知らないという。
「見逃せないが、兄貴はシルバーウルフの拠点知ってんだろ?」
「もちろん。もしマフィアをごそっと逮捕したいなら、自分を見逃してくれると有難いかな。ただ」
玲はゆるゆるの顔をしていたが表情を変え、忠告するような瞳で俺に告げた。
「シルバーウルフに見つかったら、誰もが消されると言われてる。行くなら覚悟をしといたほうがいい」
国際犯罪秘密組織シルバーウルフに辿り着いた者は帰って来ないということか。玲はどんな窮地であっても、逃げる自信はあるのだろう。
それにまだ情報が薄くとも、今回の件は夜瀨組ではなくシルバーウルフが犯行を犯した。そういう線で凛太郎さんに報告しておくか。
「情報提供ありがとな。生徒たちに危害がないよう、見守っててあげてくれ」
「わかってるって。生徒ちゃんたちは、自分たちが全力で守り抜くから、透は普通に教師としてやっていきなよ。それからこれは許してちょ」
なんだと玲から見せられたのは、陽羽の写真ばかりで、おいっと拳骨を与えた。いいじゃんと頭を押さえながら言っていて、夕坊のために撮ったんだろうが、撮りすぎだろ。よくみると百枚以上は撮っている。
ったく盗撮罪で逮捕はしたくても、できないのは凛太郎さんと組長の話し合いで、接触禁止令を出した。まだその当初は夕坊はまだ小学生でもあったことで、一時期は組長や玲たちにぶつけていたそうだ。
一番辛い時期に寄り添えてあげられなかったが、夕坊は俺を忘れちまったし、玲が世話役として夕坊を育てていった。
「わかったが、凛太郎さんの前では見せんなよ。たまに会ってんだろ?」
「あははは。組長の付き添いで会ってるぐらいだよ。お互いの子が狙われたようなものだから、お互い信頼は強くなってるって感じ」
「わかってるならいい。それじゃあ、まだ仕事あるから、戻るよ」
がんばと言われながら仕事に戻ることに。
◇
受験合宿三日
明日はリフレッシュの日だから、みんなはそれ以上に、受験勉強に励んでいる。私も集中していたら、隣に星河教授が私のノートを見ていた。何か間違っていたかなとシャーペンを止めていたら小さな紙袋を机に置く。
なんだろうと聞く前に、開けてみてと言われたから開けてみた。
それは可愛らしいブレスレットで、なぜ私にと星河教授をつい見てしまう。そしたらそのブレスレットを左につけてくれた。
「絶対に外さないでって伊宮先生に言われたから、外しちゃ駄目」
「伊宮先生が?」
「絶対。ほら君たちもつけて」
ポケットから私と同じものを清寺さんと氷雨くんにも渡し、行ってしまわれる。意味がわからずとも氷雨くんはなにも言わず紙袋から出しつけていた。
清寺さんは一度、氷雨くんを見るも、清寺さんもつけ、勉強に集中していく。そう言えば透の姿がないと思いつつも、私も勉強に集中していった。
午前が終わり、お昼となったから食堂に入ると、お昼はバイキング式っぽい。トレーを取ろうとしたら旅館の人が席までお持ちしますと言ってくれて、ありがとうございますと言いながら、食べたい物を旅館の人に伝えていく。
あっちでは真昼くんがやってくれたけど、こっちでは旅館の人が助けてくれるだなんて思いもしなかった。
席に座りトレーを置いて、ごゆっくりと旅館の人は笑顔で立ち去る。いただきますと頬張っていたら、真昼くんも清寺さんも席に座って、食べ始めた。
「ここの旅館の人たち、なんか陽羽にめちゃくちゃ親切しぎてびっくりしたんだけど」
「僕もそう思った。段差がある場所はやや大きめで気をつけてくださいねとか言ってたしね。しかもエレベーターがないから階段は手を貸してくれてたし」
「私もびっくりしちゃった。以前、助けてくれた人がここに今いて、もしかするとその人のおかげなのかもしれない」
誰々と清寺さんが聞くもんだから、ここにいるかなと周囲を見渡していると、自分のこと呼んだとニコニコしながら、真昼くんの隣に座っている。私たちは思わず吹き出しそうになって、口元を押さえた。
「こんにちは。この旅館は、自分のお友達が経営しててね。温泉入りに来たんだよ。受験勉強は進んでる?」
「あの、ここは生徒と先生以外、立ち入り禁止じゃ」
「誰も気づいてないからさ。別にいいかなって。それに陽羽ちゃんとお話ししたかったから」
蓮見さんはそう言いながら、真昼くんをガン見しながら、買って来たっぽいカフェオレを飲んでいる。真昼くんはなんですかというような表情で、昼食を食べていた。
「そうそう、せっかくだしさ、一枚写真撮らせ…ごめん。用事ができた」
カフェオレを口にしながら席を立ち、またねと私たちに告げた後、透が鬼のような表情をしている。不審者と思っちゃったのかなと聞こうとしたら、清寺さんが質問をした。
「伊宮先生、怖い顔してどうしたんですか?」
「いや、なんもない。おっそのブレスレットつけてくれたんだな。真昼の分もあんぞ。つけておけ」
真昼くんに渡す透で、何か意味があるのだろうと感じ、聞いてみることにした。
「このブレスレットには何か意味があるの?」
「陽羽と仲良くしてくれる子にあげてんだよ。ただし、合宿中は絶対に外すなよ」
「なんでですか?」
真昼くんが気になるようでも、透は秘密だよと言って、席を外す。渡したのは必ず意味があるのだと思い、昼食を食べ終え、午後の勉強をしていった。
お風呂上がり、清寺さんと話しながら部屋に戻っていると、いきなり停電が起きる。何と周囲を見渡しても暗くて、何が起きているの。
動いたらまずいよねと停止していたら、清寺さんの叫び声が聞こえた。
「清寺さん!清寺さんどこ!」
手探りで清寺さんを探そうとした時、背後から捕まれ叫ぼうとした時、口元を覆われ抵抗するも意識が遠のく。助けて、透と思っていても、暗闇へと落ちていった。
◇
ガッシャーンと置物が落ち、不吉な予感がまさか起きてるんじゃと破片を回収していたら、組員が夕坊と駆け寄ってきた。組員は焦っているようで、伊豆で何かが起きたんだと理解する。
「夕坊、やな知らせが入って来やした。昏籐組が経営している旅館で停電が起き、少数の生徒が何者かによって連れ去られたらしいっすよ」
「陽羽も狙われたってことか?」
「いや、陽羽ちゃんは廊下で気を失っているところ、玲さんが見つけたそうです。どうします?」
陽羽が襲われなくて済んだのはいいが、なぜ生徒を奪う必要がある。それに組が買い取った旅館だ。簡単に侵入はできないはずと、思考を膨らませたら、ふとあいつの顔が浮かぶ。
南雲真昼、母親の名字で過ごしているが、実際犯罪組織か夜瀨組の息子だとすれば、犯行は可能かもしれない。立て続けに事件が起きるとはな。伊豆に行きてえが、親父の命で動くことはできない。
「何か動きがあったら、こっちも報告を頼む。それからここ片付けといてくれ」
承知と組員が片付けていき、姉貴の部屋へと行ってみると、だいぶ凹んでんなと姉貴のそばに寄った。
「玲とお袋から大体は聞いたよ。親父が玲を庇ったこと」
「おとんらしいわよね。陽羽ちゃんは無事なの?」
「平気らしいが、生徒少数が連れ去られたらしい。どこへ連れて行かれたのかは、判断できないけど、不吉なことが起きるような気がしてさ。あのさ、南雲真昼の母親に接触できそうか?」
「それくらいはできるけど、まさか陽羽ちゃんの彼氏を疑ってる気?」
まあと姉貴に言うと姉貴は煙草を取り出し、吸いながら俺に言う。
「陽羽ちゃんの彼氏、紗良が今調べてるから、もう少し待ってみたら。一応、母親は最近になってスナックを経営してるっぽいから、行ってみる。ただもう少し疑うのではなく陽羽ちゃんの彼氏を信じてあげなさいよ。これで善だとはっきりした時は」
「あぁ。俺はこれ以上、接触しない。陽羽の幸せは俺の幸せでもあるからいい」
「そう。わかってるなら、お姉ちゃんが女紹介してあげてもいいわよ」
「いや、俺自身で決めるから、親父には言うなよな」
はいはいと姉貴は言って、俺は自分の部屋へと戻り、本棚にあるアルバムを取り出す。陽羽と過ごした時間は、俺にとっちゃ宝物。その幸せを奪われた時は、俺は一時期荒れていて、組長の息子だからと言って、同級生たちは怯え切ってた。
高校の時はほとんど学校に行かず、親父に説教されながらも、中退して組員として動くことに。けれど夢を諦められず靴職人になるため、靴作り教室という教室に通って、今の職についている。
一番最後に挟まっているのは、陽羽が描いてくれた俺の似顔絵。それに触れアルバムをしまい、組の仕事をしに向かった。




