106羽
南アフリカのケープタウンで暮らしていた真昼先輩の親父さん、昼秋さんは偽昼秋さんと雰囲気がとても荒い。ほらっと乱暴にお茶を出され、それをいただいていた。
なぜこんなところにいるのか聞き出したくても、足を見ればわかってしまうほどだ。昼秋さんの左足は義足をつけていて、それに偽昼秋さんとは真逆なほうを髪の毛で隠している。というか頭はボサボサだし、服もなんというか清潔感がなかった。
「僕は帰るつもりはないとシルバーウルフに伝えてある。君が来たとしても無意味だよ。旅行代は後で口座に入れておくから」
「いや、いい。どっちにしても俺様は気分転換に旅してるだけだからさ。息子が今、大変になってるのに助けないのはなんで?」
「会う資格がないからさ。真昼が妻に虐待されていたにも関わらず、僕は助けに行かなかった。息子を捨てたと同然のように、僕はやらねばならないことがある」
「もしかして偽昼秋さんと何か深く関わってるとか?」
まあそういうことかなと少しトーンが低くなり、凹んでいるようにも見える。偽昼秋さんの正体は誰も探ることはできなかったけれど、ここで聞けると感じた。
「偽昼秋さんの正体ってどいつなの?」
「僕の付き人だった人って言うべきかな。雪にまるがいるように、僕にも実際いたんだよ。天美と駆け落ちした時、付き人が必死に止めて。雪坊ちゃんを置いていくのですかと」
昼秋さんは今も迷っているような表情をしていて、昼秋さんの付き人はいないと雪から情報をもらってた。どう言うわけかまだはっきりしてないけど、昼秋さんは語っていく。
「その人も、僕と同様に雪を愛おしく思ってた。それからだよ、付き人は変装が得意で、体格も僕と変わらなかったから、僕が不在時に天美を利用して接近したと言うことだよ」
「気づいたのっていつ頃?」
「僕になる前に連絡もらった。昼秋の全てをいただくと。奪わせないために挑んだ結果、この有様だよ。負けた僕は、要望に応え、ここにいる」
勝負に負けた昼秋さんは全てを失い、ここでひっそりと暮らしていたってことなのか。ただ何かが引っ掛かる。引っ掛かる部分を昼秋さんに質問した。
「以前、雪から聞いたんだけど、昼秋さんには付き人はいなかったって聞いた。実際にいたってこと?」
「もちろん。普段、雪と遊ぶ時は付き人は寄り添わせなかったからね。だから勝手にそう呟いたんだと思う」
なるほどと納得したとしても日本に帰って来てくれるのは薄いだろうな。ここで春陽先輩のこと告げたらなんて言うだろうか。あれちょっと待った。Noveの結成っていつからだったっけ。
頭を悩ませていたら、Noveのことが気になるのかいと聞かれ、まあと答える。そしたら昼秋さんが持つ情報に耳を疑うほどだった。
「Noveの目的はただ一つ、春陽ちゃんの血を利用するためだよ」
「春陽先輩の血って?」
「まあ強いて言うなら献血をしそれを売買する計画を立ててる。星霜家の血だからではない、ごく貴重な血を春陽ちゃんの血液に流れていると言うことだよ。裏社会での君ならそれくらい把握してると思ってたけど」
全て繋がっちゃったじゃんと深くため息が出てしまった。嘘であってほしいと思いながら春陽先輩と接してたけど、親父が必死に藤太郎の父親に縋っていたのは、春陽先輩の血が必要だったから。
なぜなら春陽先輩の血液と母さんの血液が全く一緒で、もしかしたら回復するのではないかと考えてたんだ。俺様、反抗期のまま、親父が逝っちまったことに後悔した。もっと早く気づいていれば、親父を尊敬できたかもしれない。
「夜一くん」
「見て見ぬ振りしてた。親父が鯨波さんに縋って、息子の言葉を信じてくない最低な父親だと思ってたけど、親父は母さんのためになんとかしようとしたってことがわかった。感謝します」
頭を下げケリがついたら親父と母さんのお墓参り、ちゃんと行こうと決めた。それと夜瀬組は俺様がやらなくちゃ意味がないとわかったよ、親父。
頭を上げてと昼秋さんに言われ、鼻を啜りながら顔を上げた。
「日本に帰ったら真昼に告げてほしい」
「自分で言ってくださいよ。大事なことはちゃんと会って話さなきゃ、きっと後悔します。俺様のように」
「夜一くんに言われるとはね。わかった。けど一つ、気をつけてほしい。僕の付き人は人を簡単に殺せる暗殺者だと言うことを」
「気をつけます。それで付き人の名前は?」
◇
冬月の家へと急いだけれどすでに警察がいて、救急車で運ばれる透、それから冬月も黎明も搬送されていく。春陽の姿はなく連れ去られた感じだった。純連も酷い怪我を負ったことで病院へと搬送されたと光太から報告をもらっている。
あの時、春陽がいった夢が本当に起きるとは思いもしなかった。俺は確かに雪がいきなり現れ、そして俺目掛けて来たし、想が釈放された時間帯にまとめて、Wizuteriaを消そうとしたんだろう。
親父は玲と一緒に春陽の両親に会えないか、陽空の両親に聞いてるらしい。すでに春陽が奪われたことで救いに行くとしても、相手がどれくらいかだ。とにかく一度、避難してもらった姉貴と合流するしかないか。
そう思って車に乗ろうとしたところ、松葉杖を使ってその様子を見てたらしいまるが驚くような顔立ちでいた。まだ治ってないのに来るとはと、近くに寄る。
「まる、安静にしてなきゃ駄目だろ。病院まで送ってってやるから」
「冬月もやられて、ボスは奪われるし、どないしようっ」
今までは三人だったから一人になると不安になることもあるよな。それでもまるには部下たちがいるだろ。大丈夫だよと肩をポンポンと叩き、車に乗ろうとゆっくり車のほうへと歩く。
後部座席に座らせていたら、夕哉と真昼の声が聞こえ、聞こえた方角を見る。真昼は傷だらけになりながら来て、春陽ちゃんはと聞かれた。首を横に振り連れて行かれたよと答えた。そっかと落ち込む真昼で、なぜ傷だらけなのかを聞く。
「なんで傷だらけなんだよ」
「豹馬だっけ?そいつがNoveの連中連れて来て、母さんと昼奈奪われた。それに僕もまでも連れて行かれそうになって焦ったよ」
「なんでだ?」
「昼秋さんが待っているから来いって言われたけど、断固拒否させてもらった。ずっと暮らしてた父さんは別人だって気づいてたし」
そういうことかと納得して真昼も車に乗り、姉貴と光希がいる場所へと目指す。
姉貴と光季が待っているセライヴニへと到着し、本当はまるを病院へ連れて行きたかったが、じっとしていられなく組員に車椅子を出してもらう。それに乗ったまるを確認して中へ入ると藤太郎たちや星河さんたちもいた。
伊宮さんはと星河さんに聞かれ、撃たれたっぽいと告げると、余が行けばよかったと落ち込んでいる。
「陽っちゃんは?」
「春陽はいなかったよ。おそらく連れ去られたかもしれない」
藤太郎も落ち込んでしまい、ちょうど陽空がやって来て、春陽はと全く同じ質問を聞かされた。陽空は状況を見てなのか、奪われちゃったんだねと俺に言いながら、俺にスマホを見せてくれる。それは春陽とのチャットでこう記されていた。
たくあん
すいか
ケーキ
手袋
買ってきてと言うスタンプ付き。なんだこの文面と考えていたら、陽空が縦で読んでみてと言われ縦で読むと助けてとなる。
「最初はまだ熱が下がってないのかと思って、言われた通りに買って冬月の家尋ねたら、あんな状況だったから。それで夕莉に聞いて来たの」
「行き違いになってたってことか。悪い」
「別にいいよ。それでレッドクレインの従業員は動く気満々らしいけど、どうする?」
組員もだいぶやられちまってるし、動ける様子じゃないしな。それに春陽が連れて行かれた場所っておそらく、キャットアイランドの跡地。大勢で乗り込むにしても船を手配するのに多少時間がかかりそうだな。一応、昏籐組に一隻はあるがそんなに多くはない。考えていると若と組員がボロボロになりながら、報告を受けた。
「春陽ちゃんが、姿を消しちまった!」
「奪われたからじゃねえの?」
それがとかくかくしかじがと組員から聞くと、春陽は捕まって船に乗る姿を目撃し、組員が止めに入ってその場で抗戦。けれど途中で春陽の姿が消えてしまい、獅子屋警部たちも驚いたようで、探しに行ってしまった。
組員も春陽が隠れそうな場所を探すも、見つけられず、とにかく俺たちがいるセライヴニへと来たらしい。
「抗戦中、簡単に消えそうにないけどな」
「春陽が逃げ切れたとかは感じられないと思う」
真昼も陽空も言っていて、だとすれば誰かが春陽を連れ去ったと考えるしかないか。別に船が動くとかはと組員に聞くも、動いているケースはなかったと証言する。
それからと組員がポケットから取り出したのは春陽のスマホだった。唯一の手掛かりで探せると思っていたが、スマホがここにあるのならしゃあないかと、春陽のスマホは陽空に預かってもらうことにした。
◇
暴れるなと言われても暴れるに決まってるでしょと、じたばたしていたら扉が開きそこには虎次さんがいる。雌虎さんは小生に任せてと言い、Noveの人たちは退散していった。
いなくなったことで、いい子だからと近づき、そばにあった棒を手にしようとしたら、虎次さんに手を掴まれる。
「痛いことされたくなかったら、おとなしくしてもらうよ。それとも藤太郎も連れてくればよかった?」
「藤ちゃんに手を出さないで」
「だったら小生の言うことはちゃんと聞いてもらおっか。まずはこれ付けさせてもらう」
何と身構えていたら首につけられ、持参の鏡を見せられた。深緑の首輪でなんか名札がついている。ローマ字でmidoriとあった。要は私は翠のものって言わせたいんだろう。
「こんなことしても、絶対に夕哉さんたちが助けに来てくれる!」
「今はね。さてとご主人様が待つ場所にはまだ時間かかりそうだから」
ニカッと笑う虎次さんであり、ドサッと紙袋が置かれた。紙袋の一つを覗くと、動物系のコスプレがどっさり入っている。
「本当は藤太郎も拉致して一緒のコスプレ着させるつもりだった。どれから着てもらおうかな」
しかも半分以上は虎や豹柄が見え、これに決めたとセットになっている一つを私に渡す。しかもそれは狼のコスプレで絶対に撮って送る気だと感じた。着替え終えたら教えてねと一度退出する虎次さんで、渋々着替えることに。
着替え終えた姿を見てやっぱり慣れないと、ノックをして着替え終わったよと虎次さんに伝える。すると扉が開き虎次さんはやばいとパシャっと取られる羽目になった。
「一匹狼、可愛すぎ。やっぱり藤太郎も連れて来るべきだったか。ぎゅって抱きしめていい?」
「却下です。着替えただけで十分じゃないですか。それとも藤ちゃんを来させるために、わざと用意したとかじゃないですよね?」
「そのつもりで用意したんだよ。いっぱい撮って藤太郎に送る目的。あぁ安心して、いやらしい写真は撮らない主義だから。到着するまでに、何着撮れるかな」
スマホで連写する虎次さんでポーズとかもしてよと言われるも、狼のポーズってどうすればいいのと思ってしまうほどだ。
それよりこんなことはいいとして、藤ちゃんのこと大好きならわかってるよねと思わず虎次さんの服を引っ張って虎次さんの顔を見た。
虎次さんはスマホを持ってない方で口元を押さえて連写する。
「これ待ち受けにしていい?」
「駄目です。私を待ち受けにしていいのは藤ちゃんとお兄ちゃんだけです」
「そう言わずにさ。それでそんなうるうるした目で訴えて、小生に言いたことあるんじゃない?」
「藤ちゃんのこと想ってるなら、お願いだから藤ちゃんを巻き込ませないで。藤ちゃんには時間がないんだよ」
そのことを告げたら、虎次さんは数秒固まるも、次第に笑い出して、冷ややかな笑みで言われた。
「なら死なせる場所用意してあげたほうが好都合だ」
「何を言って」
スマホをポケットにしまい、私の頬に触れる虎次さんで、やめてと振り払い逃げようとするも捕まってしまう。そして足から顔に向かって指先がいき、私の頬を掴んだ。
「小生がゲイだからと思ってるだろうけど、実際は違う。藤太郎が憎くて憎くていつかこの手で壊すか、それとも殺すか、迷っている最中なんだよ。陽っちゃんは、翠が飼い主さんだから、殺すとかはしないけど、翠はこう小生に指示を与えるだろうね」
耳元で殺せと言われ虎次さんを突き飛ばし、涙目になりながら虎次さんに怒鳴った。
「翠がそんなこと言うはずない!」
「翠の真の素顔を知らないからそう言えるんだよ。翠は優しい人じゃない」
「そんなの信じない!出てっ出てってよ!」
紙袋にあるコスプレの袋を投げつけて行き、わかったから落ち着いてと虎次さんは一度退室した後。ストンと落ちて涙が溢れちゃった。
もう嫌だ。誰かが傷ついたり、殺されるの見たくないよと流していたらスッとハンカチをくれる人がいる。一瞬、夕哉さんと呟いたら、夕佑のほうだよと言い、背中を摩ってくれてしばらく夕佑さんの胸で泣いてしまった。
島に到着したらしく、落ち着いた私は夕佑さんから離れず、近くで歩いている虎次さんに威嚇する。僕がそばにいるから平気だよと夕佑さんに言われながら、獅子屋警部も麗音くんも到着した。しかしそこには偽昼秋さんと雪恋ちゃんの姿はない。
お兄ちゃんと黎明さん、大丈夫かなと心配になりつつ、以前雪が使用していた建物へと入った。
内装はがらんと変わっていて、以前は白や青メインだったけれど、緑系になっている。ここに翠がいるんだと歩いていたら、ばったりと破島と出会う。けれど私たちに一礼をして、去ってしまった。行くよと夕佑さんに言われ止めていた足を動かす。
獅子屋警部たちは別の通路へと行き、虎次さんはなぜかこっちに来るから近寄らないでオーラを出していた。
「さっきはごめん。言いすぎた」
そう言っても私はあっかんべえをしてふんと前を向く。夕佑さんが扉の前に立ち、ノックをして翠の声が聞こえた。
「ここからは僕と虎次は入らない。二人でじっくり話し合って」
はいと返事をして待ったねえと軽い感じで挨拶する虎次さんだったとしても、無視して私は中へと入る。翠はだらっとソファーで寝っ転がりながら、雑誌を見ていた。
翠と声をかけたら、翠は雑誌を閉じ起き上がって、座ってとポンポンと席を譲ってくれる。翠の隣に座って翠は私がつけている狼のカチューシャをポイッと捨てて、首輪についている名札を見た。
「ここまでしなくていいってあれほど言ってたんだけどごめんね。今外すから」
首輪を外してくれて少し首がスッキリしてよかったと安堵を感じていたら、翠が私の左手を見るから手を引っ込める。藤ちゃんがくれたパープルダイヤモンドの指輪。
「左手貸して」
「翠、こんなことしても意味がないよ。すぐに警察も来る。お願いだからこれ以上罪を重くしないで」
「罪?僕は何もしてない。虎次たちが勝手にやってるだけだよ」
嘘と強目に発言するも、翠は反省していないようで、次第に翠の手が左手に触れる。やめてと右手で払うも、掴まれてしまって左手からパープルダイヤモンドの指輪を外されてしまう。
返してとやっても翠はシュルッとソファーから立ち上がった。廊下で待機している誰かにその指輪捨てといてと言っていて、やめてよと翠の背中を叩くも、指輪を受け取った誰かはすでにいない。
「春陽は緑色に染まってもらってないと嫌なんだよ。首輪は外したけど、ここに来た以上、僕の言うことは絶対、拒否権はないから。いい?返事は?」
返事なんてしないと翠を睨み、翠はそれをわかった上で、手首を掴まれどこかへと連れて行かれる。どこに連れて行く気なのと進んで行き、ある部屋へと入った。
何この部屋と愕然としてしまうほどで、部屋に飾ってある写真が刻まれていて中央には私の写真が貼られてある。
「刻んだ写真は、春陽の大事な人たち。春陽からの手紙はなくて、紗良からもらった情報頼りに集めた写真。あぁ僕は春陽に見捨てられたんだなって思った時、正直腹が立った」
「違う」
「違くない。僕は何度も、何度も、手紙書いて送ったのに、なんで春陽は返してくれなかった?僕はそんなちっぽけな人間だったってこと?」
「違う!私のところには翠の手紙、一通も届いてない!」
私は事故に遭うまでは何度も翠に手紙を送った。けど翠からの手紙は一通も届いてなくて、私は翠のこと諦めて手紙を送るのをやめた。その時期に夕哉さんと出会い、それからは毎日のように登校して、私を元気づけてくれたんだよ。
そんなの信じるわけないとすでに誰の写真かわからないぐらいのレベルの写真をズタズタに破く。
「僕はずっと春陽のこと忘れられなかった。大怪我を負ったと知らせを聞いた時も、ハンデを持って生活していると聞いた時も、僕は真っ先に駆けつけたかった。でも怖かった。手紙をくれない春陽がどんな表情でいるのかを、僕は」
両手で私の頬に触れても、感情が動くことはなかった。なぜなら夜一くんが以前教えてくれて、翠はかなりヤバい系のストーカーだから気をつけてって。文化祭で俺様が紹介したけど、あれ闇サイトに載せる予定だったらしいと。
まさか闇サイトで私を見つければ多額な額でも支払う予定だったと思うけど、そんなの身勝手すぎる。私は翠と再会できた時、とても嬉しかったのに、どうしてそっちに行ってしまったの。
それに私じゃなくて、翠の周りにはまだ出会えてない人たちもいっぱいいる。執着しないでちゃんと周りを見てよと翠の手を払う。
「私のことずっと想ってくれてるのは嬉しいよ。けどさ、翠がやっていることは間違ってる。こんなことしなくても、普通に会いに来てくればよかった」
正直に伝えると翠が呆れたような表情で、深くため息を出しながらこう言われた。
「会いに行きたくても、簡単に行けなかったんだよ。そう簡単に言わないでくれるかな」
翠に一体何が起きてしまったのだろうと、翠は無表情になりながら、私の腕を掴んであの部屋から出て行った。




