103羽
夕方ごろ、だいぶ良くなった私はゆっくりと身体を起こしたら、私の手を握って寝ている夕哉さんがいた。なんで夕哉さんがと首を傾げて考えていたらお兄ちゃんが私の部屋へと入ってくる。
「春陽、具合どう?」
「だいぶ良くなったよ」
「良かった。夕哉はそのまま寝かせてて平気。ちょっと話せそう?」
うんと夕哉さんの手をそっと解き、タオルケットをかけておいて、部屋から出た。リビングへと入って見たら凛太郎さんと灯里さん、それから知らないご夫婦がいらっしゃる。
「春陽、この二人が僕たちの両親だよ」
「お父さんとお母さん?」
父と母は立ち上がって私にハグをし、大きくなったわねとお母さんが言ってくれる。お父さんはそばにいられなくてすまなかったと私の頭を撫でた。やっと会えた喜びに、そして凛太郎さんと灯里さんは申し訳なさの笑みを出している。
きっと今まで隠されていたこともあり、複雑な思いを持って会いに来てくれたのだろうと理解した。
「お父さん、お母さん、会えて嬉しい。それから二人も」
私たちもよと灯里さんは言ってくれて、お父さんとお母さんが私から離れ、お話をしましょうとお互いに座る。お兄ちゃんは私に飲み物を持って来てくれてお父さんから打ち明けられる。
「凛太郎と灯里から全て話を聞かせてもらった。鯨波流史郎は春陽を奪うつもりではなかったと。鯨波流史郎ではなかったら誰がと色々調べ、ようやく一つに辿り着いた」
お父さんはある一式資料をテーブルに置き、それを拝見させてもらった。そこには翠や虎次さんに豹馬さん、それから獅子屋家について詳しく記されている。
そしてNoveの首謀者が一体誰かというと、信じたくない人物だった。その人物は真昼くんの父親、昼秋さん。真昼くんがこのこと知ったらどれだけショックを受けるかだ。
これからどうするのとお父さんとお母さんに聞いたら、凛太郎さんが答えてくれる。
「なぜ昼秋がNoveの首謀者になったのか、動機はまだ見つけられていないが、おそらく雪くんが関係していると考えている」
「春陽、些細なことでもいいの。昼秋と過ごしていた時期、会ったわよね?何か言ってなかったかしら?」
動機になりそうなことは言っていなかったかもしれないけど、確かこんなことを言ってたとお父さんたちに伝えた。
「お兄ちゃんの看病で一時期、飛行船で暮らしてた時。昼秋さん、私にこんなことを言ってたの。雪が私を見守って来たのは、星霜家に憧れていたからだって。昼秋さんは雪を溺愛していた。もしかして…」
「あり得るかもしれない。なんで今まで気づかなかったんだろう。ただ引っかかる。雪はすでに既婚者だし、昼秋さんが春陽を狙う理由って」
真昼くんのお父さんが私を狙う理由を考えていると、夕哉さんがリビングに入ってきたけれど夕哉さんは会釈して扉が閉まる。雪って確かお父さんとお母さんに憧れていた。
もしかすると昼秋さんは今も尚、雪のわがままを聞いて動いているとしたら、首謀者は真昼くんのお父さんではなく、雪ってことになる。
「お兄ちゃん、雪って昔から星霜家に憧れていたってことだよね?」
「そうだけど、それがどうかした?」
「真昼くんのお父さんが首謀者とは限らないと思う。もし、もしだよ。雪が真昼くんのお父さんに指示を与えて動いててもらったらどうかな?」
お父さんもお母さんも、それは考えていなかったようで、お兄ちゃんもずっとそばにいたから、思い返しているようだった。凛太郎さんも灯里さんも二度目の鈴鳩殺人事件が起きた当時のことを思い返してもらっている。
キャットアイランドで雪と出会ったのは、何か意味があるのかもしれない。はっと思い出して疾ちゃんに連絡をとってみる。
出ないかなと思ったら元気のない疾ちゃんだとしても、雪とどういう関係性なのか教えてもらう。
「疾ちゃん、確認したいんだけど、雪とどういう関係なの?以前、雪が言ってたの。疾ちゃんがいる時は奪えない。これってどういう意味かな?」
質問すると疾ちゃんは少し黙ってしまい、やっぱり答えられない事情が存在するのだと理解した。すると疾ちゃんがご両親そこいると聞かれ、うんと答えたらスピーカーにしてと言われる。
お父さんたちにも聞こえるようにスピーカーにして、疾ちゃんが語ってくれた。
『親父が雪と取引してんだ。内容は親父しか知らないから、詳細は親父を訪ねてもらいたい』
「その取引というのはシルバーウルフとして?それとも個人としてとかは分からない?」
お兄ちゃんが質問すると、疾ちゃんはんーと思い返してもらい、多分だけどと言いながら答えてくれる。
『まるさんも付き添ってなかったからおそらく個人として、取引してると思うぞ。雪がどうかした?』
「ううん。ふと気になっちゃっただけ。じゃあ疾ちゃんのお父さんに聞いてみるね」
『あっ夕哉には伝えたんだけどさ、千夏がNoveのところにいるらしい。どうにかなりませんか?』
千ーちゃんがと戸惑っていると、インターホンが鳴り、お兄ちゃんが行こうとしたけれど、夕哉さんが出てくれているみたいだ。お父さんとお母さんは難しそうな表情をして、疾ちゃんに伝える。
「Noveの本拠地が分からない限り、助けることはできない。すまない、氷雨くん」
『いえ。駄目もとで聞いたんで。何か分かり次第、ご連絡いただければ幸いです。父さんには春陽から連絡来ると伝えておきますので。何か思い出したら、連絡するな。それじゃあ』
ありがとう、疾ちゃんと伝え通話を終えた。そこで気になったことを凛太郎さんに聞く。
「凛太郎さん」
「春陽にそう呼ばれるのはなんかまだ慣れないが、どうかしたか?」
「キャットアイランドとなっていた孤島ってどうしてるの?」
「廃業となって今は無人のはず…。月人さん、本拠地は」
かもしれないとお父さんたちはNoveの本拠地が、キャットアイランドではないかと予想し始めた。
◇
真昼が刺され数日が経つも、春陽の姿はなく、その一方真昼の看病をしているのは春陽の親友である紗良だ。本当は春陽に看病してもらいたいと顔に書いてあるかのようで、少々機嫌が悪いのを感じる。
「雪叔父さん、もうすぐ退院だと言うのに、なんでハスキーのぬいぐるみ持ち歩いてるんですか?」
「これがあると落ち着くからだ。昼兄がくれたぬいぐるみ。捨てられていなくて良かった」
真昼は腑に落ちないというような顔立ちで、紗良は作り笑いをしていた。そんなにおかしいものかと触れていたら、ここにおったんかと叱られる羽目になる。
「お医者さんに言われているやろ。はよう、病室に戻れや」
「しかし、真昼は僕の弟であろう?心配で」
「えぇから病室戻るやで」
まるに背中を押され真昼の病室を出てしまい、もう一回入ろうとしたら、まるが大きく罰点を作って戻るでと叱られた。しゅんとなりながらハスキーのぬいぐるみを持って、自分の病室へと戻る。
「何度も言ってはるやけど、真昼はボスの弟じゃないん。甥っ子やでって何度も言ってるやろう」
「甥っ子は弟じゃないのか?」
まるは頭を抱え駄目やんと小さく叫びつつ、僕は変なこと言っただろうかと、ハスキーのぬいぐるみをギュッと握った。
ここ最近、まるはともかく冬月が会いに来てくれないのはなんでだろうともやもやしてしまう。ベッドに座り、ハスキーのぬいぐるみになんでだろうと問いかけていたら、僕の妻だという小雪が来た。
「小雪、雪恋は?」
「今日は昼奈と遊びに行ってもらってるから連れて来なかった。少しまるを借りててもいい?」
こくんと頷き頭を抱えているまるを連れて、病室を後にし、僕は暇だから、寝ることに。
◇
あかん、もう限界やと思いながら、病室を出て、どないしたんやろうと小雪はんが振り向いた。今でも泣きそうな顔立ちで、最初は順調に回復できたと思っていたんや。
けど違って所々の記憶が偽の記憶が入ったかのようにすり替えられてしまったかのように、複雑な記憶を持ってしもうている。治す方法は現在で見つかっておらず、偽の記憶と本物の記憶と向き合っていく必要があるそうや。
そやけどボスは偽の記憶が本物と認識しまって、まだ理解するのにまだ時間がかかってしまっているん。そのせいで春陽ちゃんを目の前にいさせたら、どうなるか目に見えておって、今は冬月が春陽ちゃんのそばにいてもらっておるんや。
小雪はんはそろそろ限界を迎えているようで、なんとかいつものボスに戻ってくれればえぇんやけどな。小雪はんを慰めながら考えておると、鶫が来よった。
「廊下で何してんだい?」
「見ればわかるやろ?ボスを見てられへんくて、泣いてるんや」
「見ればわかるさ」
ムキッとなりそうでもうえぇわとボスの病室へ入ろうとした時や。迅はんと呼ばれ小走りで構成員がやって来ようて、どないしたと話を聞く。
「先ほど、連絡をもらいまして、見つかったそうなんです。どうしますか?」
「ほんまに?どこにおったん?」
「アフリカにいたようで、事情を全て打ち明けたそうなのですが、耳を傾けてはくれず、追い出されたようです。そうこうしているうちに、ボスに何か起きたら…」
やはりそうやったんかと衝撃な事実であって、昼秋はんと接触する前に、ボスを違う病院に転入させなかあかん。とにかく構成員には引き続き、説得して日本に戻ってくるよう伝えたんや。
そして疑いを持つことになり、小春はんは辛くともボスの病室へと入ってもらい、鶫に問った。
「鶫、どっちの味方なん?昼秋はんが名もない組織って以前言うてたやけど、実際、Noveとして動いてたんちゃうんか?」
某の質問に鶫の表情が変わり、お腹を抑えながら笑い出す。やっぱり鶫もNovaの人間やったんやなと警戒した。鶫は大笑いして落ち着いたところを言われる。
「まるの発想は確かに正しい。しかし我が輩は昼秋の仲間ではあるがそうではないと言うことだよ」
「どう言うことや?」
「いずれわかるさ。それまではくれぐれも、気をつけたまえよ」
某の肩をポンポンと叩き、鶫は行ってしもうて、鶫の言葉を考えてみよった。昼秋はんの仲間であっても、そうではない…。くれのちゃんや、叶恵ちゃんなら何かわかるかもしれへん。そう思い、連絡を取るため、一度病院を後にしようと思った時や。
昼秋はんが歩いておって、ボスの様子でも見に来よったんやろう。
「まる、廊下に突っ立てどうした?」
「昼秋はんこそ、真昼くんのそばにいなくてよかったんか?」
「紗良ちゃんが面倒見てくれてるから、お邪魔かなって思って。悩みがあるなら聞くよ」
「大丈夫や」
そうっと言われ昼秋はんはボスの病室へと入って行き、嬉しそうなボスの声が廊下まで聞こえたんや。今引き離したらボスはボスじゃなくなるような気がして、某は気になっていたことを聞きに、病室を後にする。
◇
お父さんたちは疾ちゃんのお父さんに連絡したところ、話を聞けるそうで、守城学園へと向かっている。私は身体が楽になったけれど、大事をとって行くのはやめといた。
藤ちゃんは夕哉さんのお店へと行き、靴作りに挑戦するため、ここにはいない。
「はい」
「ありがとう、お兄ちゃん」
お兄ちゃんからミントティーをもらい、それを飲んでいると、お兄ちゃんがどうだったと聞かれる。
「お父さんとお母さんに会えてどうだった?」
「正直まだ、この人たちが本当の両親って言われると戸惑うかな。私はずっと凛太郎さんと灯里さんが両親って思ってたから」
「そうなるよね。少しずつでいい。お父さんとお母さんって認識して欲しいんだ。二人はずっと春陽を育てたかったのは事実だから」
「うん。ちゃんとお父さんとお母さんって認識できるように頑張ってみる。お兄ちゃん」
んっと首を傾げ藤ちゃんの病について、お兄ちゃんはどう感じているのか聞いてみた。
「藤ちゃんの病について、お兄ちゃんはどう思う?」
「んーそうだな…」
お兄ちゃんはグラスを持って考え込み、大きな出来事で藤ちゃんが倒れてしまったらと考えてしまう。それは一番に避けたいことだ。グラスをテーブルに置き、お兄ちゃんは私の顔を見て言う。
「ちゃんとした治療法を探して、希望を捨てさせないように努力するつもりだよ。だから春陽、藤太郎のそばにいなくてもいいんだよ。何度も言うけど、僕は春陽の幸せを願ってる」
「ありがとう、お兄ちゃん。ただ、私はまだ藤ちゃんのそばにいたい。病があるからとかじゃなくて、ほんの少し怖いの」
怖いってとお兄ちゃんが聞き返しながら私の隣に座って、夕哉さんに打ち明けた夢のことをお兄ちゃんにも伝える。
「さっき、怖い夢を見たの。藤ちゃんがライオンに食べられちゃって、夕哉さんが狼に食べられちゃう夢。それが現実になりそうで、怖いの」
「ただの夢だと思うんだけどな」
「そうであってほしいけど、胸騒ぎがしてて。多分、ライオンというのは虎次さんか豹馬さん、あるいは獅子屋くん辺りにやられて、夕哉さんはシルバーウルフの誰かにやられちゃうんじゃないかって」
ただの夢なら気にしないけど、絶対起きそうな予感がして、藤ちゃんから離れたくはない。安心できたことを確認して、藤ちゃんと今後どうしていくか話し合っていきたいと思ってる。
それに夕哉さんともちゃんと話していきたい。
お兄ちゃんは難しそうな表情をしていて、お兄ちゃん的には私が好きな人と一緒にいてほしいのがいいんだろうなって気がする。
「僕としては、春陽をしっかり守ってくれる夕哉と一緒にいてほしいし、夕哉は春陽を裏切らないから。そうだとしても春陽は藤太郎と一緒にいたいってことでいいんだよね?」
「できればそうしたいし、もちろん夕哉さんとも相談しながら一緒に考えていきたいって思ってるよ」
「わかった。僕もフォローはするけど、春陽、覚悟は持っておくこと。この先、何が起きるかわからない。裏社会での戦争が起きる。鯨波邸より酷いことがね。それを踏まえ、二人と接してあげて。きっと春陽の言葉で二人はパワーをもらってるから」
「うん。覚悟は持ちながら、藤ちゃんと夕哉さんと接する。それから真昼くんたちも」
これからの先はまだわからないけれど、私は一人じゃないから、怖くても一つずつ乗り越えて行けばいい。お兄ちゃんに納得してもらって、夕飯ができるまでもう少し眠ることにした。
◇
藤太郎が靴を作ってみたいということで、今日は閉めてはいるが、店を開けて靴の作り方を教えてあげていた。今日はなぜか俺ん家に泊まりたいとかで、夕佑が帰って来ないことを祈るしかなさそうだな。
藤太郎はデザインを考えていて、誰に贈る靴なのか教えてもらう。
「誰にあげる靴なんだ?」
「純連と想に岩ちゃん。あっ靴のサイズ、聞くの忘れたけど、後でスタッフに聞けばいっか」
「てっきり春陽にプレゼントするのかと思ってたけど違うんだな」
「えへへ。陽っちゃんは別のプレゼントを用意しておこうって思って」
その言葉に俺は藤太郎がそれでいいのかと疑問を抱いちまう。後半年か一年しか生きられない藤太郎にとって、大事な時間なんだと感じた。
「あのさ、藤太郎」
「治療はもうしないよ。あったとしても受けない」
「どうして?治療して長生きしてほしいって思うはずだろ?」
「純連たちはそう思ってくれるかもしれない。けどさ、迂生は裏で治療を受けていて、助かる命を失わせてしまったんだよ。また裏で治療を受けるなら、迂生の命よりも、懸命に生きようとしている人たちを最優先してほしい。それが迂生の願いなんだ」
言い返せなかった。確かに鯨波流史郎はありとあらゆる手を使って、藤太郎をここまで成長させたんだから。そうだとしてもこれは間違ってるんじゃねえかって気もする。
どんな病にかかったとしても、少しでも長く生きられる可能性があるなら治療をしてほしいよ。
できたと笑顔を見せながらデザインを見せる藤太郎で、スケッチブックを受け取りいいじゃんと伝える。けれど俺の顔を見てなのか、心配そうな顔立ちでどうしたのと聞かれた。
「藤太郎」
「なあに?」
「頼む。春陽のために、治療を受けて、生きて長く生きてほしい。藤太郎がどんな思いでいるのか、まだわかっちゃいねえけどよ、藤太郎は一人じゃねえんだ。もっと頼れよ」




