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人形遣いの悪役令嬢 〜悪役なので、もちろん悪役をした分報酬はもらいます  作者: バッド
3章 組織を作る悪役令嬢

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93話 お断りにつき

 ふわふわなピンク色の髪、おとなしそうな優しい顔立ち。未来のヨミちゃんと同じ出るところは出て、引っ込むところは引っ込む魅力的な肢体。


 ヒロインっぽいけど、この世界以外は亡くなっている雨屋家の次期当主、雨屋瑪瑙ちゃんがテラスの入り口で仁王立ちしていた。


 雰囲気でわかっている。これは怒っている。怒髪天を衝いて貫いちゃう。怒りのあまりスーパー瑪瑙ちゃんに変身してもおかしくない。空気が震え世界が鳴動する幻視が見えるような気がしちゃう。


 そんなヨミちゃんの大親友は、きらびやかに飾り立てたドレス姿を着込み美しい分、怖さを見せてビシリと指差してきた。


「怪しい雰囲気はしたけど、あんまり妖しい雰囲気じゃないかなと思ってたけど、やっぱり来て良かったよ。ヨミちゃんとのお付き合いは許しません!」


 氷の樹を担ぐ美少女は怪しい雰囲気はしたらしい。でも瑪瑙ちゃんは様子を見に来た模様。その後ろには天照鏡花さんと重川さんがついてきている。


「話し声は聞こえないけど雰囲気でわかるよ。おねぇちゃんはお付き合いは許しません。まだまだヨミちゃんにはお付き合いは早いです!」


 防諜魔法がかかっていても、まるで求婚する王子のように跪き手を恭しく伸ばす大国の姿は簡単に何を話しているのか想像できる。


 なので、ふんすふんすと瑪瑙ちゃんは鼻息荒く、まなじりを吊り上げてこちらを睨んでいた。


 その様子に大国も苦笑を浮かべると指輪の防諜魔法を解き、髪をかきあげながら立ち上がる。


「ふっ、パターンBというわけか。よろしい高尚な精神へと昇華した私の能力を見せてやろう」


 小さく呟くと冷笑を浮かべ、大国は対峙する。


「このシチュエーションが分からないか? 財力と権力を持つ王子が、着飾った姉と比べると簡素と呼んでも良い服装の妹に求婚する姿を見て」


「むむっ、どういう意味かな?」


 瑪瑙ちゃんが警戒すると、口端を吊り上げて笑う大国。


「哀れなる冷遇されている妹の方に王子が惚れたので、嫉妬をして邪魔をする腹黒い姉というシチュエーションになるということだよ」


 高尚なる大国のパターンBの答えは少女漫画シンデレラ風ストーリーらしかった。どこらへんが高尚!?


 たしかに瑪瑙ちゃんはこれでもかと着飾っている。サファイアのネックレスからルビーの嵌った銀製のサークレット、ダイヤモンドの指輪ももちろん華美であるが下品ではなく、ドレスもきらびやかだが、おとなしそうな瑪瑙ちゃんを際立たせてとっても似合っていた。靴も特注品のヒールだし、文句のつけようのない天使ちゃんだ。


 多分一般人が一生贅沢に暮らせる金額がかかっているのである。だって、ヨミちゃんがコーディネイトしたんだもん。


 対してヨミちゃんはどうか?


 動きやすいように簡素なワンピース。宙に浮く魔法宝石を掴むためにジャンプしたり、魔道具を借りたらダッシュで逃げられるようにと、スニーカーを履いている。氷のマントを羽織り、タッパーをぶら下げて、氷の樹を担いでいる。もちろん走る時に邪魔だから装飾品なんか身に着けていない。


 瑪瑙ちゃんに比べると、酷く貧相で虐げられているように見える。酷く貧相で虐げられているように見えると思うんだ。大事なことだから二度思いました。


 シンデレラファンタジーでは、だいたいこんなふうに貧乏な服装の妹は壁の花になっており、きらびやかな姉はパーティー会場の中心人物になっている。だが、そこへ王子様とか公爵とかが出現して、妹に求婚するわけだ。なぜかは分からないけど、そのまま姉へのザマァ展開にもなります。


「見給え、ヨミ嬢は私の愛を受け入れて、手渡した婚約指輪を嵌めるところだったのだよ」


 ヨミちゃんが摘んでいる念話の指輪を指し示す大国。あぁ、たしかにそう見えてもおかしくないシチュエーションかな。


 やっぱり罠が仕掛けてあったらしい。これ指輪を嵌めていたら、婚約を受け入れた後にしてただろ。相変わらず狡い計略をたてる男である。


「ムキャー! それは幾らで売れるかなって、ヨミちゃんは品定めしてただけだもん。婚約を受け入れる意味で受け取ったわけじゃないよ!」


 プンスコ怒る瑪瑙ちゃんだけど、ヨミちゃんへの評価がおかしくないかな? どこのキャバ嬢だよ。ヨミちゃんは良い子だよ。同じブランドカバンをプレゼントしてなんて、お客にお強請りしないよ。


「大国さん。私も少々強引に見えるのだが、それが弁明となるのだろうか?」


「天照嬢もそう言うのか。どう見ても相思相愛に見えると思うのだが残念だよ」


 凛とした態度の美少女である鏡花も瑪瑙ちゃんのフォローに入り口を挟む。すると高尚な作戦とやらを固守するかと思っていたら、大国は意外なことに一歩引く。


 前なら自分の作戦に拘って、失敗するパターンが多かったんだけど………。


「まぁ、これからもヨミ嬢とは会う機会はいくらでもある。私の誠意と真心と愛を知ってもらうためにも頑張るとしよう」


 誠意かね真心けんりょくださんの持ち主大国大地は立ち上がると、ヨミちゃんの耳元に口を近づける。


「私は味方だと思ってくれたまえ。そして、天照の派閥天津ヶ原派は敵だと思うのだな。黄泉平坂と彼女らは組んでいる」


 息の吹きかけるくらい近くまで顔を添えると、重要な情報を呟いて離れる大国。その言葉は真実か嘘かはわからない。こちらを幻惑させるためか、天津ヶ原派閥と敵対させる謀略か。それでも伝えてきたという事実が面白い。調べる価値はあるだろう。


「この指輪はお返しします!」


 そして亜高速の速さで、瑪瑙ちゃんがヨミちゃんが摘んでいた指輪を奪い取ると立ち去る大国へと返すのでした。


 なかなかに面白い提案であったけど、瑪瑙ちゃんがバーサーカーになりそうだからお断りしか選択肢はないようだね。


          ◇


 大国が立ち去るのを見送ると、鏡花が柔らかな微笑みで近づいてくる。


 胡散臭い大国の笑みと比べるのも罪悪感が湧く微笑みだ。


 だからこそ胡散臭いと思うのは、大国の警告が効いているのか、疑り深くなっているのか。


「君が噂の那月ヨミだね。こんにちは、私は天照鏡花と言う。はじめましてかな?」


「天照鏡花さんは有名だからヨミちゃんは名前を知ってました! 那月ヨミです。Eクラスで細々と商売してます」


 学園の存在意義を壊すヨミちゃんが元気よく手に持った氷の樹を持ち上げる。商売のために学園って存在するんだよね?


「瑪瑙さんとは友だちだけど、妹のヨミさんとも友だちになりたいのだけど良いかな?」


 そのにこやかな魅力的な笑みに感心する。作り笑いとかではなく、本当に笑みを浮かべているように見えるよ。でも、ほんのすこーし、その口元に不自然なところがある。作り笑いだな。


 貴族のトップに位置する天照家だから、特に驚きもない。反対に作り笑いができなければ驚きだ。


「うん。鏡花ちゃんよろしくね! 那月ヨミです。瑪瑙ちゃんの妹だよ!」


 無邪気で素直なヨミちゃんは作り笑いは苦手だ。なので、心の底からニパッと明るい笑みを返す。人懐っこい笑みに、鏡花は口元を緩めて僅かに肩の力を抜く。


「あぁ、よろしく。ヨミさんと面識ができればと思ってたんだけど、友だちになれるなんて嬉しいよ。これからもよろしく」


 夏まで接触してこなかった理由は大国もそうだけど、様子見していたというところだろう。見かけは生真面目な騎士風の美少女だけど油断は全くできない。


「すずは重川鈴音。よろしくねっ!」


「うん、ヨミちゃんだよ、よろしくね!」


 ツインテールの美少女が八重歯をキラリと覗かせて握手を求めてくる。彼女が天照鏡花の懐刀だったかな。


 ツインテールだと高慢な娘を勝手に想像しちゃうヨミちゃんだけど、表向きは友好的で嫌味なところはない。


 と思っていたら、握手している手をグイと引っ張られる。


「ねぇ、ヨミは大国と付き合うわけ? あいつはアホだから止めておいた方が良いよ。家柄と財力、権力はあるけど、将来は没落するかもしれないし」


 低い声音で脅すように耳元で囁いてくる。その瞳は鋭く、こちらの思惑を覗こうとしている。


 ちらりと鏡花を見ると、ニコニコ顔で鈴音を押し止めようとする様子はない。押し止めようとするのは顔が近すぎじゃないかなと、構えを取る瑪瑙ちゃんくらいだ。


「大国君も鏡花ちゃんもお友だちだよ。これから良い付き合いができれば良いよね」


 握手している手をスッと引き抜くと、ニコニコヨミちゃんスマイルで返す。派閥に入るつもりはない。派閥争いに介入はしても良いけどね。なにせ、ヨミちゃんは那月ファンド派なのだ。


「商売人だと噂されているけど、ヨミ、派閥の間を蝙蝠のようにフラフラと飛ぶのは止めておいた方が良いわよ? どちらからも良いように使われて、切り捨てられるのがオチだから」


「ヨミちゃんは派閥に入るつもりはないよ。だって商売人だからね。それに那月ファンドがどちらかに力を貸すのに注力したら投資家たちに怒られちゃうよ」


 那月ファンドの投資家トップ、たしか絶世の美女が怒ると思うんだ。那月ヨミっていう娘が怒ると思うんだ。


 ヨミちゃんの答えに、鈴音はムッとした顔になるが、口を閉ざす。不満はありありだけど、投資家という言葉に反応した模様。


「投資家を顧客に抱えているファンドは自由には動けないんだね。私がその辺を手伝えると思うんだけど」


「顧客情報は教えられないから無理だよ」


 貼り付けたように微笑む鏡花。その思惑は明らかで、顧客ごと自分の派閥に入れようという考えだろうけど、そうはいかない。


 鏡花と顔を見合わせて数瞬経ち、顔をそらしたのは鏡花だった。


「少しずつ親睦を深めていければと思うよ。今度旅行を計画しているんだけど、瑪瑙さんと一緒に招待しても良いかな? 夏のプライベートビーチでの海遊びだ。結界も張られており、安全に楽しめる」


「うん! 日程があえばね! 瑪瑙ちゃんも良いかな?」


「海かぁ。プールは最近入ったけど、海は見たことないし良いよ」


 安全なプライベートビーチ! この魔物の徘徊する世界では、とても貴重なのだ。そんなフラグだらけの場所への旅行なんて、楽しみすぎる。


「良かった、私の友だちも大勢来るんだ。皆気持ちの良い人柄の人たちばかりだから安心してほしい」


「りょーかい! 楽しみにしてるね!」


 気持ちの良い人柄の友だちとか、安心して欲しいとか、なんでこんなにもワクワクさせるセリフを言うんだ。喜んで行かせてもらうよ!


 マナタイトの商売はパパと一反、カーラに任せようっと。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大国も強引な感じあるが、ある程度同じ世界の糸が繋がってるぽいんで理解が一歩進んでて有利かな?
[一言] 金!利権!打算!貴族なんてこんなんで良いんだよ ツクヨミにアマテラスとは意味深な組み合わせだな…
[良い点]  言動も前世も含めて胡散臭い事この上ないけど自身の立ち位置を暴露して話してるところに真摯さを感じさせる大国大地と如何にも穏当な雰囲気を醸し出しながらも明らかに腹に何かを隠してるのが透けて見…
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