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人形遣いの悪役令嬢 〜悪役なので、もちろん悪役をした分報酬はもらいます  作者: バッド
3章 組織を作る悪役令嬢

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91話 パーティー会場にて

 夏の会議が終わると、夜は夜会となる。


 大貴族の家族はもちろんのこと、出席するのはその大貴族に目をかけられた配下の貴族たちも含まれる。


 魔道具として作られた溶けない氷のテーブルの中心には美しく水晶のような小さな氷の樹が生えており、本物と見紛う氷の葉の葉擦れが微風に揺れて、サラサラと風鈴よりも心地よい音を立てて、周囲に冷気をたなびかせる。


 そのテーブルの上に乗る皿には国中から集めた厳選された食材が、凄腕の料理人により超一流の絶品料理になり、ずらりと並んでいる。


 この世界の料理は前の世界の料理とほとんど同じであるが、超一流の絶品料理は違う。


 魔法を駆使して作られた料理は人を傷つけない特殊な炎が魔法付与された熱々なステーキや天ぷら。生きているかのように空を飛ぶお寿司、口の中に入れると常に味が変わるプリンなど、前世の三ツ星レストランでも敵わない美味で不思議な料理があるのだ。


 無論、この価値はとんでもなく高く、一つの料理で平均月収が吹き飛ぶくらいだが、だからこそ大貴族の主催するパーティーに相応しい。


 出席する者たちも豪華絢爛にきらびやかな服装で着飾っている。いったい幾らするのか想像もつかない魔法の宝石をネックレスや指輪にして、服装も珍しい魔物産の糸や革を使って身を飾り立てている。


 一人一人が、一般的な収入の一生分よりも遥かに上回る金額をかけて、この夜会に出席していた。


 その中には雨屋家次期当主である雨屋瑪瑙ももちろん出席していた。


 先日までは夢にも思わなかった大粒の宝石を付けた装飾品を身に着けて、百匹の角うさぎから集めた毛皮を加工した服を着て、大貴族の娘としてこの場に立っている。


 今や飛ぶ鳥を落とす勢いの雨屋家の次期当主として、会場に入った途端に注目されており、気まずく落ち着かない。


 なにせ純粋に好意的な視線は少なく、こちらを獲物のように狙う視線や、憎しみを込めた視線、取り入ろうとする媚びた視線などが感じられたからだ。


 学園に入学してから、瑪瑙はこの類の視線には敏感になっていた。


「堂々としていれば良い。我らは大貴族。誰も侮ることなどできんのだ」


 隣に立つお父さんである白雲さんが気遣って声をかけてくれる。


「はい。でもお母さんやお兄さんも出席してくれれば心強かったのですけど………」


 多少声を落として気弱な笑みで返す。


「ううむ………。俺もそう思ったのだが、妻はこういった催しが苦手だからな。それに出席するためのドレスも不慮のバーベキュー事故で全て焼けてしまったと言ってたし」


「不慮のバーベキュー事故ってなんですか! なんでバーベキューにドレスを持ち出しているんですか。しかも予備も合わせて」


「私は出席しないぞという意味だな」


「それは教えてもらなわなくてもわかります」


 ぷぅと頬を膨らませて口を尖らせる。お母さんは貴族らしからぬのんびりとした性格だが、こういった時の行動力は予想もつかない激しい選択をすると知った。


 ちなみに石英お兄さんは夏は人生の勝負の日だからと、ヨミちゃんの部下の美女とのデートプランを作るのに忙しいからと断ってきた。曰く、清楚なおとなしい彼女に相応しい旅行プランをとか呟いていた。


 付き合ってもいないのに、旅行プランとか重いというか恐ろしいと思うけど。それにあの美女さん、いつもはお嬢様風だけど、寮だとワハハと笑って口元にビールの泡をつけて豪快に騒いでいたよ。秘密にしておくけど。


「まぁ、コツは話しかけられない威風堂々たる態度でいるというところだな。俺やヨミを見習うが良い」


「………それが威風堂々ですか?」


「うむ、話しかけられないだろ?」


 ジト目でお父さんを眺める。お父さんは威風堂々と大皿にパスタの大盛りやら、スペアリブやらを盛って、むしゃむしゃと食べている。


 テーブルに張り付いて、懸命に料理を食べる姿は、誰も話しかけられない空気を醸し出していた。


「これぞ、雨屋家代々の奥義『料理を食べているから話しかけないでくれ』だ」


 ドヤ顔でパスタを口にめいいっぱい放り込み、またドヤ顔になるお父さん。たしかに話しかけることを躊躇う姿だよ。大貴族というか、初めてビュッフェに訪れてはしゃぐ小物貴族にしか見えない。出席できたから、限界まで高級な料理をお腹いっぱいに食べるつもりのおっさんだよ。


 呆れてしまうが、たしかに他の貴族たちは遠巻きに嘲笑うだけで話しかけてくることはない。陰口を叩かれても食べることを止めないところは、かなり図太いと感心しちゃうよ。


 とりあえずわかることは真似をするのは難しいということだ。少しは他の貴族と交流を持たないと次期当主としてまずいと思う。


「えっと、ヨミちゃんはどこかな?」


「あっという間に会場内に行ったからわからんな、あ、ローストビーフはもっと厚く切ってくれ」


 お父さんはローストビーフを切り分ける料理人に注文をして、交流への興味ゼロ。役に立たないので、ヨミちゃんを探す。


 会場に入った途端にとてちたと小柄な手足を振り回し、瞳を輝かせて中へと飛び込んで行ったのだ。


 とりあえず、視界には入らないので、料理を食べ続けるお父さんは諦めて放置し、中に進む。


「これは雨屋家のお嬢様ですね。ご挨拶をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「マナタイトのお陰で、我が家はだいぶ助けられておりまして」


「お美しい姿ですな。まるで女神が降り立ったようだ、いえ、天女でしたな」


 だが、少し歩くだけでワラワラと貴族たちが群がってきて、話しかけてくる。


 悪意は少なく、それよりも利益を求める貴族たちがほとんどだ。ヨミちゃんが根回しした貴族だと思う。鼻薬をパッシャパッシャとかけたから、ある程度の貴族たちはこちら側だよと得意顔で言っていたことを覚えている。


「えぇと………私はこのような夜会は初めてでして、アハハハ」


「そうでしょう。良ければ私が夜会の案内を」


「やはり貴族の生活は大変でしょう。どうでしょう、私がお話を」


「我が家は別荘にて交流会をしておりまして。どうでしょう、ご招待させて頂いてもよろしいでしょうか」


 愛想笑いを返すと、その10倍返ってきてタジタジとなってしまう。砂糖に群がる蟻みたい。私は砂糖じゃないんだけど。


 こういった時に助けてくれるお父さんは一つのテーブルを確保して料理を食べ続けている。あわあわと慌てていると………。


「そこまでにしておいたらどうだろう。瑪瑙さんが困っているではないか」


 凛とした少女の声が聞こえてきて、集まっていた人々が分かれて道ができる。


 そこには白金に輝くプラチナブロンドに、凛々しい目と小さな唇。小顔の美少女が歩いてきていた。ドレスも輝くように美しく、この場の誰よりも存在感があった。その後ろにはツインテールの少女が付き従っている。


 凛々しい武人の空気を持ちながらも、美しい女性らしさも兼ね備える美少女、天照鏡花さんだ。同じクラスの学級委員長でもあり、1学年では最強と言われている。


 思わず見惚れてしまう笑みを魅せて、鏡花さんはカーテシーをする。


「やぁ、瑪瑙さん。ごきげんよう」


「こんちには、瑪瑙ちゃん」


「こんちには、鏡花さん、重金さん」


 同じクラスのクラスメイトである。私もカーテシーをしてニコリと笑う。周りの貴族たちは少し離れて遠巻きにする。どうやら助かったようだよ。


「会場の雰囲気は少しばかり殺伐としているだろう? エスコートをさせてくれないかな?」


「はい、ありがとうございます」


 スマートに手を差しだしてくる鏡花さん。これが男なら惚れていたよと苦笑しつつ、手を重ねる。そして会場内を歩いていく。


「えっと、ありがとうございます。助かりました。あんなにたくさんの貴族さんたちが集まるとは思っていなかったので」


「雨屋家は今や注目の的だからね。マナタイトはそれだけ驚きの品物なのだよ。それに今はまだ注目されていないが、マナ合金も使い道について考えられている。雨屋家は金の卵を生む鶏か、黄金の果実の生る木というわけだ」


 まぁ、そうだろうなぁとは思う。今や雨屋家の屋敷は日参する分家の貴族や商人たちで行列ができている。面会依頼もたくさんあり、お父さんは忙しい。


 必要以上にお金はいらないと思うんだけど、ヨミちゃんにとっては全然足りないらしい。たしかにコロニーを救うとなると、屋敷一杯に小判が詰まっても足りないかもね。


 鏡花さんと一緒にいるためか、大貴族たちだけがポツポツと話しかけてくるだけで、予想よりも平和に料理を楽しめた。


 ここ最近のことをお喋りしながら平穏に過ごす。


「それじゃあ、最近は急に『魔溜まり』が増えているんですか?」


「そうだよ。うちの区でも内区にまで発生するようになって困っているんだ。最近は毎日『魔溜まり』を消滅させるために戦っている。規模は小さいんだけどね」


「そうね……小さいなんて表現では想像もつかないレベルなの。水溜りよ、水溜り。そこから虫や小動物系統の魔物がぞろぞろ現れて、魔人どころか亜人でも勝てるレベルの弱さだけど、とにかく数が多いのよね。困っちゃうわ」


 鏡花さんが深刻そうな顔で眉を顰める。重川さんは肩をすくめて、難しい顔だ。


「ここだけの話だが……自然魔法派が『魔溜まり』を発生させる術を編み出したのではないかと噂されているんだ」


 でた! ここだけの話! でも変なの。魔物なんか生み出す原因を作っても困るだけだと思うんだけど。


「『魔溜まり』なんか作ってどうするんですか? 得なんかあるんですか?」


「自然魔法派のやることはよく分からないけど、たしかにそうなんだ。だから自然発生説の方が優勢。とすると今度はなぜ急に発生する回数が増えているのかという頭の痛い話になるんだ」


 なるほど。自然発生説の方が有力だけど、その場合の方が民衆の不安が大きいから、誰かのせいにしたいんだ。


 そのことに気づいて苦笑しちゃうけど、私の表情の変化に気づいた鏡花さんは薄く微笑む。


「まぁ、これはたまたま偶然だろう。この話はほんの断片だ。このように様々な情報が入るのが派閥の良いところだよね。どうだろう、天津ヶ原派に入らないかい? 今をときめく雨屋家なら、皆は歓迎するよ」


 ありゃ、何かと思えば、こういった情報が手に入るよと派閥のお誘いだったか。綺麗な人だけど、やっぱり大貴族らしい。


「えっと、私が判断できる内容ではないので、こういったことは決める人が……」


 油断しちゃった。単に助けに来てくれた白馬の王子様ではなく、軍馬に乗った猛将だったみたい。


 ヨミちゃんはどこかな? やっぱりヨミちゃんがいないと駄目だね。


 キョロキョロと辺りを見回して───。


「あれ? あんなところにいる」


 氷の樹を肩に担いで、ポテポテとテラスに向かうヨミちゃん発見! テーブルの魔法の氷の樹を折ったんだね。


 でも、隣を歩く人はたしか……大国君かな? むむむ、なんだろう?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前の世界…?別の世界だと認識してるヨミちゃんじゃない?誰視点だ?と思ったら瑪瑙ちゃん視点! コレはスラム時代と比べてなのか実は瑪瑙ちゃんも転生者的なサムシングなのか [一言] ロースト…
[一言] こういう謎料理は昔はねむたげ少女のお得意技だったのですが、今はドラゴン退治してるしな。
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] えっ、テーブルごとプレゼントされたの?
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