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人形遣いの悪役令嬢 〜悪役なので、もちろん悪役をした分報酬はもらいます  作者: バッド
3章 組織を作る悪役令嬢

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87/128

87話 マナにつき

「マナが完全に枯渇したから、世界が停止しただぁ?」


「うん、その解釈で合ってるよ。証拠は外の世界の様子。ヨミちゃんは天才的な思考と地球に起こった歴史からそう判断したんだよ」


 作戦室に移動して、ヨミちゃんが現状の解釈を伝えた。怒鳴るように叫びながら、ルイスがテーブルを強く叩くのを、手のひらをゆらゆらとさせて冷静に答える。信じられないと顔には書いてあるけど、そりゃヨミちゃんも他人から聞いたら信じられないと思うだろう。


 でも本当なのだ。


「大戦後、世界はなにかの衝撃で揺れた。そしてこの世界。構成するマナは風船せかいに穴が空いたかのように抜けていき、ある程度まで減った時にぺちゃんこになったんだ。地球の歴史書で読んだんだ」


 嘘である。それっぽいことを伝えて納得させるだけだ。辻褄を合わせる気はない。だって、この豊満なるモデルスタイルのヨミちゃんのちっこい身体の中に他世界への通路があるなんて言えないしね。


 まぁ、元の世界に戻したら、後は科学者とかが研究してくれるだろう。真実はわからないままで良い。問題は今の状況を説明しないといけないのだ。


「地球にはその穴が残っていて、抜けたマナが再度流れ込んでいる……。宇宙は世界を維持するマナ量が限界点を突破したために停止した………ねぇ。馬鹿げた話だが信じる他ないんだろうな。少佐が何かを隠しているとしても」


「何も隠してないよ! ガオー、地球のお化けだぞ〜」


 誤魔化しの天才ヨミちゃんは、毛布をかぶってお化けの真似をする。毛布をひらひらさせて、ガオーガオーと脅かしちゃう。


 そんな地球産アホ科ホラーヨミを見て、なぜか疲れたように額に手を当てると嘆息するルイス。


「これ以上説明する気は無いのはわかった。で、これからどうするんだ? 地球に移住でもするか?」


「無意味だね。その場合、他のコロニーも宇宙も放置することになるし、現状を打破することにはならない。それに地球に移住しても酷使される未来しかないでしょ」


「コロニー対地球の敵対関係を考えますと、地球人は自分たちを歓迎はしないでしょう。たとえ遥か昔のことでも恨みに思う者は必ずいるはずです」


 銀髪できる人ムーブなカーラがナイフのように鋭い眼光を放って口を挟む。コロニー連合から見たら地球はそんな関係だ。まぁ、元の世界の地球は滅んでいるんだけど。


 だが、この勘違いはヨミちゃんにとって都合が良い。元の世界に戻す時に地球にこの世界の人間が移住していたら困るし………ヨミちゃんの力にもならない。


「まぁ、現状は少しずつテレポートポータルを通してマナは流入してきている。氷原に熱湯をかけるような小さい影響だけど、少しずつ影響は大きくなってるはず。目の前で発射寸前の宇宙船とかも動き出すかもしれないから、要注意ね」


「納得はしないがわかった。ちっ、こうなると司令官がこの基地を離れていたことが痛いな。規則によるとここの現状の司令官は………」


「ヨミちゃんだね! どちらにしてもヨミちゃんがこの基地のスポンサーなんだから、司令官も兼任します」


 ムフンと胸を張って、エヘンと咳払いをしちゃう。ふふふ、司令官ヨミちゃんってかっこいい。制服はこの毛布で良いかな。


 特に反対する人はいない。瑪瑙ちゃんがワクワクとした瞳で見てくるのと、石英がブラボーリーダーに耳を塞がれていてデレデレとしている。


 コロニーの仲間たちは反対する者は誰もいない。ちょっぴり無邪気なヨミちゃんになっても信用も信頼もされているのだ。


「それじゃあ、目標はマナを取り戻すこと。そのためには大量の資材や資金が必要となるから、ヨミちゃんがボスとなって、地球で動く裏の組織を作ります!」


 フンフンとおててを翳して宣言する。


「名前は『天地柱あまつちのはしら』。皆でこっそりと活動して頑張ろー!」


「仕方ねぇなぁ。その話乗ったぜ」


「自分たちも賛成です」


「たっぷりと資材を確保しましょう」


 ルイス、カーラ、そして隊員たちが賛成してくれて、ヨミちゃんの影の組織『天地柱』は結成されるのであった。


 後日、那月宇宙基地で演説もして、居住者3万人も部下にして巨大組織ができるのであった。


 コロニーの技術は地球の技術を遥かに超えている。地球では混乱が起こるかもしれないけど……世界を救うためだ。我慢してほしい。


 それにヨミちゃんは我慢する気はない。本来は地球人と話し合いとかが正道だろう。正義感の熱い善人な主人公ならそうするに違いない。お互いに手を取り合って頑張ろうルート。


 でも、ヨミちゃんは悪役令嬢なのだ。その力は自分のために、仲間のためにふるうのだ。だから、心の中で少しだけ謝っておこう。


 悪役令嬢那月ヨミは悪役をする分、報酬を求めるんだよって。


 毛布をフリフリ、ガオーと叫ぶヨミちゃんだった。


           ◇


「で、リズおねぇちゃんがいないなーと思ってたら、真面目に仕事してたんだ」


 ルイスやカーラはこれまでの話を纏めて、部下と話し合いをするために別れた。そして、ヨミちゃんはといえば、この場にいないリズの場所へと向かっている。


 リズはコロニーの維持をする巨大マナドライブエンジンに足りなくなったマナを集めていると聞いた。世界が凍結して一度マナが失われたために、マナが空になっており、慌てているらしい。


 無重力通路を飛びながら移動している。瑪瑙ちゃん、石英、魔石を持った部下たちが後に続いている。


「うひゃー、無重力って面白いね。こんなふうに動けるんだ。…………んん、おねぇちゃん? おねぇちゃんは私だよ、ヨミちゃん!」


 キャッキャッと無重力状態を楽しむ瑪瑙ちゃんが耳聡くヨミちゃんの呟きを聞いて、近づいてくる。無重力状態は初めてなのにたいしたバランス感覚だ。石英なんか壁に当たりながら進んでるのに。


「あー、うん………実はヨミちゃんには実姉がいるんだよ。説明難しいんだけどね」


「えぇー! ヨミちゃん、姉がいたの!? お義姉さん! それじゃあ挨拶しないとね! あ、お土産持って来れば良かった」


 頬をポリポリとかいて気まずそうに答えると、瑪瑙ちゃんは目を見開いて驚く。でもなぜか喜んでいるので、大丈夫そう。


「そっか、ヨミちゃんにも家族がいたんだね。良かったよ。えぇと、妹さんと暮らしている瑪瑙と申します?」


 頬を染めてキャッキャッと身体をくねらせる瑪瑙ちゃん。ヨミちゃんが家族がいたことが嬉しいんだろう。優しい親友で癒やされちゃう。


 滑らかな銀色の金属製の通路を通っていくと、すぐにエンジンルームに辿り着く。


 コロニーの空気を作り出し、日照装置や浄水装置、重力操作装置などを司るコロニーの最重要エンジンだ。3機搭載されており、2機は予備。


 高層ビル並みに長大な巨大なエンジンは微かに振動音を立てて稼働している。


「むふーっ、マナが全然足りないから、通電を諦める地区を作る! 配給制にして食料も生成を止める!」


 作業服を着て、空中に浮いて忙しく指示を出している少女がいた。声高に年上であろうとも気にせずに命令をしている。


 那月リズだ。汗が球体となって空中に浮かんでおり、いつもの気楽そうな表情はなく、厳しい顔であり懸命さがわかる。マナが全然足りないのだろう。


「大丈夫だよ、リズおねぇちゃん。マナは用意してきたから」


 忙しく指示を出すリズへと声をかける。リズは誰だと顔を向けてキョトンとするが、すぐに満面の笑みになって飛びついてきた。


「妹! 帰ってきた? むー、待っていた! とっても心配した!」


 涙混じりにぎゅうぎゅうと抱きしめてくるので、優しく頭を撫でる。融合したコンちゃんの意識が嬉しく思う気持ちが流れ込んでくる。だいぶ心配かけたようでごめんね。まぁ、世界が変わったわけなんだけど。


「うん、で、マナを持ってきたからすぐにマナタイトへと精製よろしく。これだけあれば、1週間は持つでしょ?」


 隊員の一人からトランクを受け取ると、パカリと蓋を開けてみせる。中に赤い光が宿る黒い水晶が出てくるので、気を取り直したリズが魔石を手に取る。


「なにこれ? 質の悪いマナタイト? ……ううん、これマナの結晶! こんなものどこで手に入れた?」

 

 魔石を摘んで不思議そうな顔になるが、すぐにその正体に気づき、ハッとなるリズ。さすがはリズおねぇちゃん、優秀である。


「地球では簡単に手に入る格安の低品質のマナ結晶だよ。今は買い集めているから、すぐにコンテナ一杯に来ると思う。コンテナ一つで半年は持つ魔石が手に入るよ」


「ふぉぉぉー! これ 格安? 地球はすごい資源の土地! すぐにマナタイトに精製する! 皆、すぐにファクトリーを稼働させて、魔石とか言うのをぶち込む!」


 周りにいたリズの部下たちが魔石に驚くが、喜びの顔となり急いでファクトリーを稼働させにいく。ファクトリーはこの世界の粒子となったマナを集めてマナタイトというエネルギー結晶に変える工場だ。


「こんな結晶なら、今までよりも遥かに効率の良いマナタイトを作れる! これは偉業! よくやった妹よ。姉も鼻が高い! これでコロニーは救われる!」


 むふーむふーと興奮するリズへと、どうどうと肩を押さえて落ち着くように言う。コロニーを救うために持ってきただけじゃないんだ。


 まぁ、それは後でで良いだろう。今はエンジンの完全稼働を目指すべきだ。


「えっと……ヨミちゃんのお姉さんですか? 私は雨屋瑪瑙と申します。ヨミちゃんとは同棲してます!」


 瑪瑙ちゃんが頭をバッと下げて、無重力状態なのでくるくると回転する。


「ふぉぉぉ、同棲! 妹は地球で恋人を作った!?」


「ううん、そうじゃなくて、むぎゅぅ」


「リズさんって仰るんですか? よろしくお願いします。リズ義姉さん!」


 訂正しようとすると、瑪瑙ちゃんが回転しながら突撃してきた。ドカンとぶつかって、ヨミちゃんは飛んでしまう。


「むふーっ、妹はそう簡単にはあげられない! リズの大事な妹!」


「あ、今度お土産持って来ます。お饅頭が良いかな?」


「瑪瑙、妹をよろしく!」


 お饅頭で売られるヨミちゃんでした。


 とはいえ、すぐにマナタイトは精製されて、コロニーは完全に稼働する。


 ───そして、ヨミちゃんはマナタイトを少しだけ地球に持ち帰るのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >少しだけ地球に持ち帰るのだった。 少しかー?本当に少しかー?
[一言] それでも3万人を救ったわけだ。偉業ですな。 こういう凍った世界の皆さんがアウターで幻影やってたのかな。
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] マナタイト、盗んでないよね?
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