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人形遣いの悪役令嬢 〜悪役なので、もちろん悪役をした分報酬はもらいます  作者: バッド
3章 組織を作る悪役令嬢

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85話 口止めにて

 テレポートポータル。地球へと侵入するためのコロニー連合の天才で美女で装甲が重くて大変よぉと、しゃなりしゃなりと歩く那月ヨミが作ったものだ。


 空間に裂け目を作り、瞬間移動にて地球へと侵入する画期的な装置。枯渇し始めたマナを求めたコロニー連合の最後の作戦。


 でもねぇ、地球にはドラゴニエルしかいなかった。地球を守る『念動障壁テレキネシスフィールド』を維持するために、この世界からちょっぴりのマナを奪い返して、それを世界の維持ではなく、障壁の維持に使っていただけだ。


 地球は既に500年前の大戦にて滅んでいる。宇宙からは見えないだけで、細々とした木々や草木が生えているだけで、動物も小動物程度、人類は陰も形もない。探せばシェルターくらいは見つかるだろうけど、もはや廃墟。悲惨なる世界となっているのだ。


 妄執にて自身を維持するか弱い神もどきドラゴニエル。先日の戦闘にてテレパスで繋がった時にその記憶が流れ込んできた。


 なので、地球に侵入ができても作戦は失敗していたわけだ。


 だけど、この作戦は成功した。


 この世界に次元を超えて侵入したからだ。今もヨミちゃんの身体にある『繋』からマナが『蒼き世界』に流れ込んでいる。


 とはいえ、ドラゴニエルの持つ細い糸のような『繋』を奪っただけなので、海の水を家庭用取水ホースで取り上げる程度の微小なもの。『蒼き世界』を維持するためのマナ量には遠く遠く届かない。


 解決方法はいくつかある。


 一つは自分自身の力を高めて『繋』を強化していくこと。次元の通路が太くなればそれだけマナの流れる量も多くなる。


 だが、これは現実的ではない。そもそも『繋』の維持に限界まで力を振り絞り、自らを『柱』としている支配者たちは自身の修行などやる暇などないからだ。もはや支配者たちの力がカンストに近いということも理由の一つであるだろう。


 なので、この方法は駄目。


 二つ目の方法は他の世界の『繋』を奪い取り、マナの量を増やす。月が行っていることである。まぁ、それぞれの世界は存在が次元ごとに違っており、認識も触れることがないために、他の次元の存在と接続できる那月ヨミにしかできないんだけど。


 でもこれは他の世界を凍結させることに繋がる。性格や意思、その世界には人類はいないということもおいておいて、支配者たちは皆自身の世界を維持するために懸命なので、これは罪悪感が湧く。


「とすると、必然的に最後の方法になるんだよなぁ」


 自室の椅子に寄りかかり、ヨミちゃんは作戦を考えていた。テーブルには昨日の残りのミルフィーユが置いてある。良い子なヨミちゃんは夜中に食べると太っちゃうし、歯磨きしないといけないから食べなかったのだ。残りの三人はどうせ肉体は消滅しちゃうからと、モキュモキュ食べていたけど。


 フォークで薄皮を一枚ずつ剥がして、クレープのようにくるくると巻いて口に放り込む。邪道とは思うけど、この食べ方も結構美味しいんだよ。


 もう一枚薄皮を剥がすと、ミルフィーユに縦にくっつける。


「この状態を元に戻せば良いんだよなぁ。でも元に戻すのと同時に奪い取ったマナを全ての世界に戻さないと意味がない」


 今度は普通にフォークで一口サイズに切る。一体全体、どうやれば良いのか見当もつかない。目ざすべきエンディングは、多元世界を元に戻すことだとはわかったけど、その方法はさっぱりだ。


「昔のゲームであったなぁ、こんな話。どうやって戻したんだっけ」


 一口サイズに切ったミルフィーユをつつきながら、ため息を吐く。難解な問題だ。プロゲーマーなヨミちゃんではわからない。こーゆーのって、天才科学者じゃないとね。あ、今なら天才技師のスキルを持っているから、対処方法もわかるかな?


「まぁ、良いや。今は解決しないことを考えても仕方ない。やれることをしよう!」


 一気にミルフィーユを食べて、とやっ、と椅子から降りる。


「まずは『蒼き世界』の現状を調べないとね。それと………和ちゃんに口止めもしておかないとね」


 てててと走り出して、部屋から出ると、和の住む寮に向かうのだった。


          ◇


 無駄に広い屋敷。離れもあるという維持費だけでも目が眩む程の金額が必要となる雨屋家。離れの屋敷を寮へと変えており、そこにタイボックやコロニー連合の兵士、そして和が住むことになっている。


 ようやく財政が回復して、廃墟のように雑草が伸び放題であった庭園を新たに雇った庭師が剪定しているのを見て、だいぶ屋敷らしくなったねと思いながら寮へと歩く。


「こんにちは〜、和ちゃん、引っ越しは終わった〜?」


 和ちゃんの部屋へと辿り着くと、元気に声をかける。口止めと言ったけど、和ちゃんは頭の良い子だ。大人しいメカクレ少女は周りへと吹聴することもないだろうから、簡単簡単だと思ってた。


 過去形である。なぜならば───。


「えぇっ、ヨミちゃんは宇宙人だったの!? 宇宙に住んでる人だったの?」


「はい。ここだけの話にしてほしいんですけど、食料事情の悪いコロニーから来たらしいですぅ。その目的はわかりませんが、きっと交易とかせ、戦争とか?」


「ガーン、ヨミちゃんは只者ではないと常々思ってたんだけど、そっか………もぉー、私にも秘密にすることないのに」


 半分程の段ボール箱が開かれており、雑多な物が露店よろしく広げられて片付けがさっぱり進まない中で、瑪瑙ちゃんと和ちゃんがお喋りをしていた。


 優しい瑪瑙ちゃんは和を手伝いに来たんだろう。でも二人ともヒソヒソと夢中になって話していた。


 訳知り顔で秘密ですよと、メカクレ少女は意気揚々である。


 前言撤回。もう話してたや。ここだけの話って、どこまで広がるかわからない話じゃん!


「あ、ヨミちゃんが来た! もぉー、聞いたよ、ヨミちゃんは宇宙に住む人だったんだって?」


 ヨミちゃんに気づいた瑪瑙ちゃんがほっぺをぷっくりと膨らませて、不機嫌ご不満ですと表情に露わにして近づいてくる。


 これどう答えれば正解なわけ? 困ったなぁ。瑪瑙ちゃんにあんまり嘘はつきたくない。


「えっとね、ヨミちゃんは宇宙人でもあり地球人でもあるんだ。地球に降りた時には記憶を失っていたから、なにをすれば良いのか忘れてたの。記憶喪失という設定にしておいて。お願い」


 記憶喪失。よくあるテンプレである。私ヨミちゃん、ここはどこ?


 パフと手を合わせてお願いする。『蒼き世界』のヨミちゃんとこの世界で瑪瑙ちゃんに出会ったヨミちゃんは地球に降り立った時期と全然違うから、話がおかしくなるんだよ。


 ヨミちゃんの態度にピンとくるものがあったのだろう。腰に手を当てると瑪瑙ちゃんは嘆息する。


「なにか秘密がありそうだね。うーうー………仕方ないや、ここは記憶喪失の妹ということにしておいてあげる」


「ありがとう、瑪瑙ちゃん! さすがは私の大親友」


「ふふふ、長い付き合いだからね! ヨミちゃんのことは、私が一番よくわかってるんだ!」


 ご不満な頬が照れてご機嫌な瑪瑙ちゃんに変わる。良かった良かった。


 というか、メカクレ少女の口が予想以上に軽い。口止めをしっかりとしないとね。


「和ちゃん、ヨミちゃんがコロニーから来たのは秘密。その劇はまだまだ完成していないんだから」


 劇団ヨミちゃんの次回作はコロニーから訪れる者です。


「わわわ、わかったよぉ。秘密、ヒミツだねぇ。私は口が硬いから安心して」


「ここだけの話って、後は誰に話したのかな?」


「雨屋の叔父さん、叔母さんと、石英さん。次はタイボックの皆に話に行かなきゃ!」


「行かなきゃ! じゃないよ! どこまで広げるつもりなの! 硬い口って、どこらへんが硬いの!?」


 指折り数える和にツッコミを入れちゃう。昨日の今日で話を広げるの早すぎだよ。


「大丈夫だよぉ。皆にはここだけの話って伝えておいたから」


 胸を張り得意げにする和。風船よりも軽い口である自覚ゼロだった。困ったものである。


 こういう人いるんだよ。俺はあの娘一筋だからって、毎回新たなる女キャラが実装されると、ホイホイ乗り換える人。意味が違うかな。


「ここだけの話は禁止! これから話したらご飯のおかわり禁止にするからね!」


「もう絶対話さないよぉ!」


 食べ物に関する執着心が海よりも深い和は素直に頷いてくれた。食べ物がかかれば、もはやお喋りはしないだろう。


「その代わりにコロニーに向かうテレポートポータルを見せてあげるから。一旦コロニーに帰らないといけないしね」


 軍基地では、皆がそわそわと待っているだろう。


「帰るんじゃなくて、訪問するんでしょ? ヨミちゃんのお家はここ!」


 ヨミちゃんのセリフに気になったのか、瑪瑙ちゃんが強く抱きしめてくる。


「むぎゅぅ。そうだった。そこらへんも後で説明をするよ、瑪瑙ちゃん」


 これは次元の話とかをしないと駄目だろうし。上手く説明しないとなぁ。


「こ、コロニーに向かうんですか! それじゃあ、私もいきたいですぅ。宇宙をこの目に見たいですぅ」


「あ、私もいきたい! なんか凄いんだよね!」


「俺もいきたいっす! 運命の人の故郷をひと目見てみたいっす」


 三人が目を輝かしてお願いをしてくる。………三人?


「石英おにーちゃん、いつの間に!?」


「うへへ、出会いを記念して花束を持ってきたっす。菊って食べられるから、女性に喜ばれますって花屋に勧められたんっすよ」


 白菊を束ねた花束を持つ石英がデヘヘと頬を緩ませて立っていた。花屋も酷い花をすすめるなよ、可哀想だろ。というか、ブラボーリーダーと少し話しただけで惚れるとは……。大丈夫かな、この山賊。


 でも、ちょうどよいや。試してみたいこともあったんだ。


「それじゃあ、屋敷地下に設置するから、移動しよっか」


「うん、お土産はなにが良いかな?」


「地球が失った技術を持つ人々。た、楽しみですぅ」


「あの人も一時帰宅するんっすよね? 一時帰宅」


 三者三様に喜ぶ顔となるとなるので、苦笑しながらテレポートポータルの設置を考える。


 大量の食料を運びたい。それに魔石も。運べるかどうか………。


 そして───。人間は運べるのかな?


 コロニー兵士は次元を超えた。いや、超えた世界へと歴史が変わった。さて、こちらの人類は次元を超えることができるかな?

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― 新着の感想 ―
[一言] >昔のゲームであったなぁ、こんな話。 もしかして、テイルズオブシンフォニア?
[一言] 先陣を切って意気揚々とポータルに乗り込む石英お兄ちゃん! だがその時、一匹のハエが……
[一言] 蒼き世界の話にハッピーエンドは無かったってことか…悲しいね
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