77話 バッドエンド
「なにっ!? たった一撃で撃破されるだと!?」
部下の機体がビームに貫かれて、くの字となり爆発するのを見て、予想以上の敵のビームの威力に大地は驚愕する。
続いて飛来するビームがまたもや部下の機体に命中し爆散する。希少なる資源を使い、できる限り強度の高い装甲を備えた機体であるはずなのに、やすやすと破壊されていく。
「これほどの威力を持っているとは、想定外だ。各機、散開しろ! 回避行動をとれ!」
「りょ、了解、回避をっ」
「ビームが、回避先に!」
「シールドだ! シールドを使え!」
すぐに部下はスラスターを全開に、噴炎を残して散開する。宇宙空間に数条の光りが散らばっていき、回避行動をとる。だが、回避先がわかっているかのように、極大のビームが飛来して、次々と撃墜されていく。
慌てて、シールドを構えてビームを受け止めようとするが、ビームはシールドなど存在しないかのように、あっさりと貫くと機体を超高熱のエネルギーで穿つ。
旋回をして蛇行をしながらなんとか躱そうとしても、狙い澄ましたかのような射撃から逃れることができずに、また一機破壊されていく。
「駄目です、大国様っ! 敵のビームが強力すぎますっ。シールドも役に立ちませんっ!」
「未来でも見えているというのか」
「予測射撃があまりにも正確すぎて、に、逃げられないっ、うわぁぁっ」
部下の悲鳴混じりの通信と、次々と生み出される漆黒の空間内の花火に大地は歯噛みをする。
信じられない技量だ。彼女は技術者として天才ではあるが、パイロットとしても超能力者としても優秀の域を超えないはず。だからこそ、この布陣に勝利の確信を持っていたのだ。
「急激に腕を上げたのか? 那月ヨミっ!?」
「敵機急速接近! 来ますっ!」
焦った声での通信。モニターには爆発的なエネルギーをスラスターから吹かせて、急接近してくる蒼き戦闘機の姿があった。
「くっ、たった一機の戦闘機モドキに一個中隊が負けるかっ!」
すぐに気を取り直し、敵の能力を予測よりも高い想定へと変えると、作戦を再度練り直す。
「射程距離は敵の方が遥かに長い。接近して、マシンガンモードとして銃弾を撃ち込むのだ! 強装弾なら当たれば倒せるっ! サイキックをフルパワーで使え!」
「了解っ!」
スラスターを吹かせて、急速接近する戦闘機モドキへと、大地は向かう。部下たちもそれぞれ撃墜を恐れずに突撃を開始する。
お互いに高速での移動から、相対距離は一気に縮まり、スマートライフルの射程距離内へとすぐに入ると、一斉に射撃を開始する。
「むうっ。真のサイキッカーの力を見せてやろう、那月ヨミ!」
大地はサイキックエネルギーをレバーを通して、機体へと流し込む。サイキックエネルギーの伝導率が高いマナタイト製の機体が揺らめくと、マナドライブエンジンが限界を超えて稼働して、虎徹の性能が大幅に上がっていく。
『念動弾』
念動力が弾丸に宿り、マズルフラッシュが瞬き、光の弾丸が発射される。部下たちも同様に射撃を開始し、無数の弾丸がラクタカーラサファイアへと向かう。
回避しきれない量の弾丸である。確実に捉えて、機体に命中する。………が、大地の予想とは違う結果となる。
「なっ!? 念動力を乗せた強装弾が弾かれるだと!?」
ラクタカーラサファイアに命中したと思われた弾丸は全てその装甲に弾かれて、まったくダメージを与えることができなかったのだ。
動揺する大地たちの合間に螺旋を描くように回転をしながら、ラクタカーラサファイアは通過していく。翼から円錐型のミサイルが数十発も発射されて、大地たちへと襲い来る。
「か、躱しきれないっ」
「大国様、た、たすけ」
悲鳴を上げながら回避を続け、マシンガンを撃つ部下たち。ミサイル群を前に、逃げ切れることができずに食らいつかれて爆発していく。
「な、なぜだっ! 命中しているはず!?」
飽和攻撃による回避不能の攻撃は確実に命中し、その威力により少なからずダメージを与えるはずであった。しかし、傷一つ与えることができないことに驚愕と共に違和感を持つ。
「もう一度だ。もう一度攻撃を行うぞっ!」
またもや撃墜される部下を横目に必死な形相で射撃をする。マシンガンでの攻撃であるのに、敵は回避することなく直線的に接近してビームキャノンを放ってくる。
ビームキャノンにより部下が吹き飛ぶ代わりに、弾丸も命中するが、やはりダメージを与えることもできなかった。
「くっ、これは……ま、まさか!?」
今度は確実に命中したにもかかわらず、ダメージを負うことのないラクタカーラサファイアに違和感を感じ、撃墜された部下の機体に銃口を向ける。銃弾が放たれて、スクラップとなった機体に命中し───火花が散るがその装甲は砕けるどころか、へこみもしなかった。
「これは……これはぁぁ! 強装弾などではない。装甲一枚貫けない訓練用の弱装弾! う、裏切ったな、彦兵衛!」
事態を理解して、血を吐くかのように絶叫する。その絶叫に合わせたかのように、後方に待機する巡洋艦隊が爆発し閃光が閃く。後方に残る彦兵衛たちが破壊したのだろう。
『はい、大地様。申し訳ありませんが、寡彦兵衛は裏切らせてもらいます』
飄々とした細目の少年がモニターに映し出されて、仇とばかりに大地は睨みつける。
「おのれっ! 那月ヨミに金を積まれたかっ? 側近であるのにこの私を裏切るとは! 帰還した後に貴様は殺すっ!」
子供の頃から側近として活躍してくれ、信じていた、信頼していた少年の裏切り行為。殺気を撒き散らして怒鳴る。許さない。家門の全ての力を使い潰す。
『この作戦は大地様の父上も了承しております』
だが予想外の言葉に目を剥く。
「は? な、なにをデタラメをっ! 父上が私を殺すと?」
『はい。次期当主は大地様の弟君になります』
「そ、そんなことはあり得ないっ! 父上が裏切るだと? 弟を次期当主にするだと?」
『そのとおりです。信じられない思いはわかります。ですが真実です。那月ヨミ様の作戦における大国の利益。那月一門が地球侵入作戦にかかる費用の一部を負担することによる利益の分配。サイキッカーも死ぬことはない。これほど素晴らしい話はなかなかないですよ』
「………そして、私はただの邪魔者となったと言うことか。サイキッカーたちが支配する世界に父上も同意したにもかかわらず………目先の利益に釣られたかぁぁ!」
信じたくはないが、理解してしまった。父上は莫大な利益を天秤にかけたのだ。そして、那月ヨミの提案をとった。サイキッカーの支配する社会を諦めて。
このルートで襲撃することも、戦闘に使えないマガジンも、全て那月ヨミが根回ししていたのだ。
唇をぐっと噛み締めて、血が流れていく。鉄の味が口内に広がり、悔しさで視界が真っ赤となる。
「ここで私が死ねば、サイキッカー主導派は消え去るだろう。そして、それこそがこの襲撃の本命なのだな?」
大地を殺すためだけに用意された舞台。最後の一機が吹き飛ぶのが目に映る。
『諦めてく』
通信を切断すると、旋回するラクタカーラサファイアが再び接近してくるのが目に入る。
「ふざけるなよ、この私がやられ役だとでも言うのか。那月ヨミィ!」
役に立たないスマートライフルを投げ捨てて、日本刀に似た虎徹刀を抜き放つ。
「射撃が通じなければ、接近戦で方をつける!」
刀に罠は仕掛けられていなようで、念動力が無駄なく伝わり、その威力を増していく。スラスターを吹かせて戦闘機モドキへと迫ると、敵はスマートライフルを捨てて迫ってくるのは予想外であったようで、その軌道に僅かに迷いが見られる。
「貰ったぁ!」
大地の意思が乗ったように、虎徹は刀を振り下ろし、その一撃は戦闘機の装甲を切り裂く。火花が散り爆発が巻き起こり、爆煙が視界を覆い隠し大地は口元を歪める。
「やったか?」
『やってないよ!』
だが爆煙を貫き、ロボットへと変わったラクタカーラサファイアが腰に搭載されているビームキャノンを放つ。虎徹は身体を翻し回避するが、極大のビームは片足を吹き飛ばす。
「くっ、バーニアパックを破壊しただけか!」
『大国君、悪いけどここで死んでもらう!』
「さ、させるかぁ!」
間合いを詰めて、大地は刀を振るう。だが、脚のスラスターを少しだけ吹かすと、紙一重で振るわれた刀を躱し、ラクタカーラサファイアはビームキャノンを撃ってくる。
片手が破壊されて、全天モニターが櫛の歯が抜けるかのように暗くなっていく。
「なぜだっ! こんなところで、こんなところで!」
虎徹の胴体をビームが掠り、その超高熱エネルギーが装甲を溶かしていく。モニターの一部が砕けて欠片が大地に刺さる。
理解する。この後の運命を。きっと大国大地は那月ヨミを妬み、襲撃を計った小悪党と歴史には残る。哀れなるエリートとして。
大地にはそんなことは耐えられなかった。己の死以上に。
「おのれ、おのれっ! こんなはずではぁっ!」
スラスターを全開にし、己のサイキックを全て機体に流し込む。流星のように光を纏い、虎徹はラクタカーラサファイアにしがみつく。
『むっ! これは!?』
「た、ただでは死なんっ! ここで貴様も殺しておく! 共倒れといこうじゃないか! ここで私も死ぬが、貴様も死ぬっ」
マナドライブエンジンが爆発するように稼働して、機体から怨念のオーラが吹き上げるように生み出される。
妄執と念動力により自爆を測り、那月ヨミ共々死のうと大地は狙っていた。
ラクタカーラサファイアが剥がそうとするが、限界を超えて性能を上げた虎徹を引き剥がすことができない。
『ここで二人が死んだら、地球侵入作戦は大きく遅れちゃうよ?』
「知ったことか! 私は私の名前とプライドを守らなければならないっ! コロニーが滅んだとしてもな!」
狂気に満ちて叫ぶ大地。このまま自爆をして那月ヨミ共々死ぬことも、今の大地にとっては喜ぶべきことであった。
───が、ヨミからの呟くような返答。
『ここで死ぬわけにはいかなかったということか』
ガクンと機体が揺れると、なぜか虎徹が勝手に動き、ラクタカーラサファイアから離れてゆく。
「な、なぜだ? 操縦が効かない? なぜ勝手に動く!? 言うことを聞けっ、虎徹!」
慌ててレバーを握り、虎徹を操作しようとするが、勝手に動きラクタカーラサファイアから距離をとっていく。まるで操作権を奪われたかのように、うんともすんとも虎徹はいわなかった。
『さようなら、大国大地。やり直しとなる劇にて申し訳ありませんが、退場をお願いいたします』
「なにを……そ、その口調は!」
穏やかな声音の少女の声に、雷を受けたかのように、大地は身体を震わせる。いくつもの封印されていた記憶が蘇る。
「そ、そうか。貴様っ、那月ヨミ! この世界でも負ける? エンディング? いけ好かない奴め! 前からお前は嫌いだった。同じ二世だというのに、貴様ばかりちやほやされおって! またお前は俺の邪魔をするのかっ!」
遂に機体が限界を超えたエネルギーに耐えきれず爆発する。閃光が、白き光が大地の視界を埋め尽くしていく。
「ぐぐぅっ、また次の世界で会おうっ、那月ヨミ。いや、病からの───」
そうして世界は光に埋め尽くされるのであった。
◇
『『宇宙に灯る終末の光』エンディングを回避しました』




