72話 パンケーキにて
大国が声をかけてきたので、仕方なく挨拶を返すことにして、サクリとパンケーキを切ってパクリ。一口食べるごとに幸せが口の中に広がっていく。むむむ、やっぱりパンケーキはサイコーだね。
ヨミちゃん式挨拶の返答法だ。美少女がパンケーキをモキュモキュ食べる姿は挨拶の中でも最高レベルだと思うんだよね。
「貴様ぁっ! 大国さまを前に挨拶を返すどころか、飯を食べるというのかっ!」
でも、紳士ではない男はどうやら気に入らなかったらしい。
ヨミちゃんが食べるのを止めないので、羨ましくなり、大柄な体格の大国の取り巻きの一人がうるさく怒鳴ってくる。卒業を祝う会に空気を読めない人だな。
「焼き立て熱々で食べないと、パンケーキの美味しさは味わえないんだよ」
わかってないなぁと、激昂する大国の取り巻きへとナイフをふりふりと揺らして、モキュモキュとパンケーキを咀嚼する。
皆が苦労して用意してくれた貴重なパンケーキ。お喋りで美味しい時間を逃す気はないよ。
さらに大声を張り上げてつばを飛ばそうとしてくるので、平の後ろに隠れようとするが、大国が制止する。
「よせ、私たちは争いに来たわけではないのだ。那月嬢と話し合いに来た。喧嘩腰は止めろ、我らの品位が疑われるぞ」
「はっ、申し訳ありません大国様」
ボス気取りの大国に、取り巻きは頭を下げて謝る。自分よりも背丈も低く力では勝てそうなのにおとなしく謝る姿が周囲に与える影響は分かりやすい。なにせ、騒がしかった食堂が静かになったし。
わかりやすい誇示をする二人をため息をしつつ眺める。こういった上下関係を他者に見せる効果とはなんだろうか。相手が萎縮してくれると思うのかな。
なにせ取り巻きは一人を除いて、体格の良い生徒ばかりだ。威圧のために取り巻きとしているのは間違いない。普通の人なら震えるかも。ヨミちゃんには通じないけど。ただの茶番だし。
大国大地。このコロニー連合の二番目の勢力を持つ大国家の嫡男。まだたしか15歳なのにオールバックにしていて冷酷な目つきの男だ。ピシリと背筋を伸ばして、自分にも周りにも厳しい男に見える。
制服よりもスーツの方が似合いそうな男である。豪華な椅子に座って、ワイングラスを片手に持ち、脚を組み薄笑いをして謀略をしているのが似合いそうだ。
第一印象は、どこの非合法組織のボスですかという感じ。さらに灰色髪の細目の胡散臭い笑顔をする側近である寡彦兵衛が隣に立っているから、さらにその印象が倍付けになる。
そんなラスボス風だけど、若いからそのイメージもいまいちな大国はヨミちゃんへとヒンヤリとした笑顔を向けてきた。
「ヨミ嬢、君のためにも、人類全体のためにも選抜したサイキッカーを連れて、地球に侵入を勧めに来たのだ」
またその話かと肩をすくめて呆れた風に答えることにする。小馬鹿にしたように、フッと息も吐いておく。
「地球侵入の選抜隊は私たち以外は普通人で行くつもりなのは、この間のインタビューで語ったとおりだよ。サイキッカーは連れて行くつもりはないね」
超常の力を使うサイキッカーたち。サイキックに反応する機動兵器に乗れば、常人よりも遥かに強い戦力となる。でも、いらないよ。サイキッカーは必要ない。
煽るセリフで返したのに、大国は片眉をピクリと動かすだけで、平然として薄笑いを消すことはない。
「この作戦がうまく行けば、隊員の中で必然、唯一のサイキッカーたる君の立場は不動のものになる。帰還した際は英雄だ。君の先祖のランピーチ殿と同様の英雄となる気かな? それはやりすぎだと思うが?」
嫌な方面で攻めてくる男だ。英雄になりたいからサイキッカーは自分だけにしておくとか、周りで耳をそばだてている学生たちが、ヨミちゃんへと向ける視線に困惑が混ざり始めたよ。
でも、そんな言葉遊びに負けるヨミちゃんではない。
「サイキッカーはマナロードの誘導に全力を費やしてもらいたいんだよ。一人のサイキッカーが抜けると1万人の生活を維持するマナが無くなるからね。現状では貴重すぎるでしょ」
マナロード。宇宙に流れるマナの川。サイキッカーはサイキックにてマナロードをマナタイトファクトリーへと誘導し、万能エネルギーであるマナタイトを作るのだ。
宇宙に浮かぶコロニーを維持し、大地に活力を、酸素を生み出して食料を作る昔からのエネルギー物質『マナ』。世界に満ちており、枯渇するはずのなかったもの。
なぜか全世界に満ちているはずのマナが枯渇し始めて、少ないマナが流れる川となり宇宙を漂う形となり、細々とマナを回収することになってから300年。困窮した人類は危機にある。
「マナが枯渇している現在。コロニーの維持に必要だと言うのだろうが、その意見は君自身が解決したではないか。500年前に地球軍を撃破した歴史的モニュメントである超弩級ビーム衛星『クロウ』を解体してな。解体した『クロウ』から手に入れた大量のマナタイトにより全コロニーはあと10年は余裕で維持できる。サイキッカーはその間、地球侵入作戦に回せるだろう?」
「あははは、あれで那月様は血と殺戮の人形遣いと呼ばれるようになりましたものね。いやぁ、無人機を同時に百機も操作できるサイキッカーは那月様以外見たことも聞いたこともありません。本当に笑いましたよ、艦隊がたった百機の機動兵器に負けるとはねぇ」
灰色髪で一応二枚目にも見えるが胡散臭さの塊の細目の男子がからかうようにケラケラと笑う。
「『クロウ』は那月家の物なのに、連合軍の一部がコロニーへのエネルギー供給などのために、地球に勝利した記念碑を破壊などさせないとかいって、艦隊を展開させたのが悪いんだよ。それにろくに砲弾もないし、対機動兵器機銃も半分以上稼働してなかったからね。勝てるのは当たり前だったね」
ヨミちゃんが枯渇して限界であるコロニー群のために、『クロウ』を解体して、補給に使うと宣言したら、頭の硬い軍人たちが暴走して艦隊を展開したのだ。人類のためにとか言ってたけど、300年前の戦艦が最新式な点で、もはや戦艦を建造もできないことが、わかっているはずなのにさ。
「『七夕まつり事変』。歴史にはそう書かれるだろう。もはや君は今の時点で英雄だ。手段を選ばぬ悪女とも言われているがな。もう名声は充分だろう?」
「名声、名声と言うけど、サイキッカーの機動兵器一機を動かすのに、どれくらいのコストがかかるか計算した? 機体の製造、メンテナンス、マナタイトの確保」
ちっこい指を折々、問題点を上げると大国は小馬鹿にしたようにフンと鼻で笑う。
「わかっている。サイキッカー一人で常人の兵士100人分のコストがかかるのはな。だが、100人分の活躍ができるのがサイキッカーだ。まったく問題はあるまい?」
ヨミちゃんの顔を見ながら、まるで演説でもするかのように、大国は周りを見ながら声高に語り始める。嫌なことにこの学園の生徒たちは大小の力の差はあれど、皆サイキッカーだ。アピールするつもりなのだろう。
「ここで選ばれしサイキッカーたちが地球にてマナを回収し帰還したら、どれほどの影響を与えるかわかるかね? 選ばれしサイキッカーがどれほどの力を持つかを人類は認識し、以降のサイキッカーへの扱いは変わる」
「今でもマナロードを誘導するのに頑張っているから、高給取りだし皆に尊敬されてるよ?」
ヨミちゃんの返答に、大国は拳を握りしめて、その言動に熱を込め始める。
「それでは足りんのだ! 戦闘でも強大な力を発揮できるとあれば、もはやサイキッカーたちの立場は絶対的なものとなる! これからの人類は選ばれしサイキッカーたちが導いていくのだ! コストについては君が持つ『クロウ』の資源を使えば良い。コロニーに10年分のマナタイトを配給するのではなく、5年分にすれば、補給についても問題はなくなる!」
選民思想な男だなぁと呆れちゃうが、学園の生徒たちの中にはこの男の言葉を信じて支持する者も多い。厄介な男である。サイキッカーが戦争の道具という認識から、ちょっとした技術職の人と認識が変わった、いや、先祖たちが苦労して変えた認識を再び戻そうというのだ。
過去に英雄ランピーチが主導して、大戦後のコロニー連合同士の戦争を起こして、選民思想のサイキッカーたちは滅ぼしたのに、こうやってまた戦争の匂いがすると同じ思想の持ち主が生まれてくる。困っちゃうね。
でも、御先祖様の行動は那月一門の意思でもある。サイキッカーを戦争の道具にはさせないし、選民思想は広げさせない。
「なにを言っても無駄だよ。100人分の活躍ができると言うけど、それなら常人の兵士100人を揃えれば良いんだからね。地球は広大だし、拠点を確保したり、建設から護衛まで、人はいくらあっても困らない。それをたった一人のサイキッカーが解消してくれる? 不眠不休で100人分の活躍をしてくれるのかな?」
「細々としたものは常人に任せれば良い。サイキッカーは肝心な時に動けばよいのだよ、那月嬢」
「暇して遊ばせる時間はサイキッカーには無いよ。そんな時間があったら、ファクトリーにマナロードを送りこめば、どれほどの人が助かると思ってるのかな?」
肝心な時っていつ来るんだよ。秘密兵器と言う名の控えでベンチでゴロゴロさせておくわけにはいかないんだ。
「そうだよぅ。ヨミちゃんのお陰で廃コロニーになる予定だったコロニーも延命されているんだよぅ」
「マナが確保できたから難民が生まれなかったんぜ。それなのにサイキッカーがいなくなったら、また元の木阿弥じゃねぇか」
和が勇気を出して発言すると、平がそのとおりだと口を挟む。
「だから、5年のマナを確保できていればいいじゃないか。サイキッカーの地位向上のチャンスだぞ」
「大国様はこれからはサイキッカーたちの世界にすると言っているんだ!」
「貴族制を作ろうとも仰ってくださる!」
対抗して、大国の取り巻きたちも話に加わってくる。金と権力、名声に釣られた馬鹿な奴らだ。だけど、悔しいことに、周りの生徒たちにも同調する人がいる。
「馬鹿をいうな! サイキッカーが戦争の道具にされちまうぞ」
「それを防ぐために、サイキッカーがトップに立つべきだと大国様は言っているんだ!」
「サイキッカーに財力があれば、そんなことは問題はない。今でも溢れるほどに財力を持つサイキッカーたちがいるんだから問題はない!」
食堂は真っ二つに意見が割れて、騒然となり始める。椅子から立ち上がって意見を言う者、拳を握りしめて喧嘩腰の者と、だんだんと一触即発の雰囲気に変わっていき───。
「これはなんの騒ぎだい? あまり生徒たちの話すようなことではないように思えるのだけど」
爽やかな男性の声が騒然とした生徒たちの耳へとするりと入り込む。
皆が声の主へと顔を向けると、食堂の入り口に男性が立っていた。立っているだけで、様になるモデルのようにスラリと均整の取れた体型で背丈は190センチほど、シワ一つない軍服を着ており、少し天然パーマの入った黄金の髪、意思の強さと優しさを持つ黄金の瞳の美男だった。
キラリと白い歯を見せて笑う姿はまるでアイドルのようだ。100人が100人、アンケートをとれば二枚目だと頷く男であ。
「きゃー! セイ様よ!」
「氷の貴公子様よ!」
「なぜ学校にいらしたのかしら」
女生徒たちが黄色い声をあげて騒ぎ始める。その頬は上気して赤く染まり、興奮しておりまるでアイドルが来たファンのようにうっとりとしていた。
雨屋石英だ。氷の貴公子と呼ばれる誰もが認めるハンサムな男だ。
もちろんヨミちゃんも黄色い声をあげちゃう。
「ギャー! 髭もじゃがクリーチャー化してる! ハンサムになってるよ! え、なんでハンサム!?」
山賊みたいな石英がと、大きなショックをうけちゃうヨミちゃん。あまりにものショックに、元の記憶を思い出すのであった。
ここは『蒼き惑星』の世界!? なにか細部が違うようだけど、なんでここにヨミちゃんは来ているわけ?




