7話 地球滅亡につき
────話は過去に巻き戻る。
青き惑星地球。現実と同じに近い惑星と、漆黒の宇宙が作られている仮想空間にて、一つの戦争が行われていた。
生命の水をたゆたわせる優しき惑星を背景に宇宙では激しい戦争が起こっていた。大気圏外に多くの宇宙戦艦が列を並べて戦艦砲からビームを放ち、無数のロボットが突撃していく。
対するは、同じように戦艦を並べてロボットを展開して防衛をしている軍隊だ。その後ろには小惑星を改造した巨大な建造物があった。まるでクロスボウのような形をしており、番えた矢に見える部分が放電し、徐々に光を増していた。
その充填が終わった時、地球の地表を全て焼き尽くすビームが放たれる。
それを知っている地球軍が、信じられない大量虐殺、いや、人類を滅ぼそうとする宇宙の民と激戦を繰り広げていた。
その中で天使にも似たフォルムの純白のロボットが他の部隊を置き去りにして、ビーム砲台へと目指して高速で飛行していた。
「ハヤテ、発射時間は残り後30分よ。時間切れになる前にあの忌々しい超巨大ビーム兵器『クロウ』を破壊して!」
そのコックピット内は360度全天型モニターとなっており、一人の少女が鬼気迫る顔で映っていた。
「あぁ、任せておけよ。僕が絶対に防いで見せる!」
対するは、爽やかな顔のイケメンだ。その意思の強さを感じさせる瞳と優しげな口元、ともすれば女顔にも見える顔立ちの青年であった。
「えぇ、貴方が全てのキーよ、ハヤテ。貴方のサイキック能力なら必ず『クロウ』を倒してみせることができるはずよ! 信じてるわハヤテ。貴方はラスボスも1分で倒したものね」
「あぁ、結構楽勝だったよ。それでも超巨大レーザー兵器『ゴクロウ』の建造を許してしまった……」
「ハヤテ、超ビーム兵器『クロウ』よ。間違えないで」
本来はここまで追い詰められることはなかったはずだと悔しげな青年ハヤテに、少女が口を尖らせて注意をする。
「まぁ、君がそう呼びたいなら良いけどね……」
「あんのバカ、もう少しまともなネーミングにしなさいって言ったのに、バカアホ、この戦争が終わったら張り倒してやるわ」
「あの人は打ち上げに顔を出したことがないじゃないか。会ったことあるのかい?」
「ボイスオンリーで………っとと、メタな話を中継されたらスポンサーに怒られちゃうわ」
こほんと咳払いをすると、少女は再び地球の命運がかかった鬼気迫る顔のオペレータになる。
「ハヤテ、他のエースパイロットたちも来てるわ。一気に攻め立てて!」
「あぁ、任せてくれ。どうやら敵も現れたみたいだし、倒して進ませてもらう! 僕と一緒に飛んでくれ『テスタメントミカエル』!」
凛々しい表情でハヤテが叫ぶと天使型機動兵器『テスタメントミカエル』の瞳が光り、翼が純白に輝くと機体は一気に加速した。その後を銃弾が通り過ぎてゆくが、追いつくことはできなかった。
モニターに映る敵機を見て、すぐにレバーを引く。脚部スラスターから炎が噴射し、テスタメントミカエルが横滑りをすると、再び銃弾が嵐のように通り過ぎていった。
「『ラクタカーラ五式』か! 両腕にガトリング砲とは嫌な編成だよ、まったく」
モニターにはウイングバインダー型バーニアを四枚搭載したロボットが接近してきていた。ハヤテの『テスタメントミカエル』のように天使に似せた騎士型の見た目が良いロボットではなく、工業用のブルドーザーに装甲を付けている不格好なフォルムだ。
とにかく耐久性を高くして、輸送機用のエンジンを搭載させ加速性能を無理矢理上げているタイプである。手足が無ければコンテナにしか見えなかった。
嫌なところは武器はケチっていないところだ。そこそこ強力な既製品で、回避しにくいマシンガンタイプを装備しており、地味にダメージを受けてしまう。
『ラクタカーラ五式』はその数を増やして、ハヤテの機体を狙ってくる。旋回して距離をとりながらハヤテはビームライフルを撃って、反撃をしていく。
「無人機でやっすくすませてるなぁ、もぉ〜」
きっとガラクタ置き場からせっせと回収して作り上げたに違いないとハヤテは苦笑する。最後の山場であるのに、敵がしょぼすぎる。初期の戦場に現れる敵のようだ。だがとにかく数が多い。ざっと見るに百機近い。しかもその数はどんどん増えていく。
ハヤテが『ラクタカーラ五式』と戦闘を繰り広げていると後方から強力なビームが空間を引き裂き、敵機を数機まとめて貫き吹き飛ばす。続けてビームの光条が何本も飛来して、他の『ラクタカーラ』を破壊していった。
「はっはー、苦戦してるじゃねえか、ライバル! 仕方ねぇ、俺が道を切り開くから後についてきな!」
「あぁ、お前への借りを今こそ返す時!」
「こういう時こそ活躍してみせるっ!」
モニターに通信が走り、仲間たちの顔が映る。これまで共に戦ってきた心強い奴らだ。
悪魔型、重装甲型、騎士型と様々な凝った色合いと装備をした機体が飛んできて、ハヤテの加勢をしてくれる。
「ウォォォ! このルシフェルにガラクタが敵うかぁーっ!」
ハヤテについてこいと言った青年が咆哮して『ラクタカーラ』の集団へと突撃していく。悪魔型の機体はガトリング砲を受けてもダメージは少なく、無理矢理敵を倒そうと肩や胸のビーム砲で『ラクタカーラ五式』を次々と倒していった。
「ルシフェル、突進したら駄目だ!」
「あん? この程度の機体に負けるかよ。あと一歩で主人公ジョブにつけるところだった俺が………なんだこれ? い、糸?」
ハヤテの言葉に、鼻を鳴らして話を聞こうとしなかった青年は機体が動かなくなったので、慌ててレバーを操作する。
離れた所から見ればわかる。ルシフェルにテグスのような糸が絡みついているのだ。それは倒した『ラクタカーラ五式』から発生していた。突進していた機体は糸に絡め取られて動けなくなっている。
慌てるルシフェルに、さらに後方から無数のミサイルが飛来してきた。
「ひょー、ちょ、ちょっと待て、んぎゃー!」
近接式ミサイルなのだろう。ルシフェルの側で大爆発を起こす。他の『ラクタカーラ』がいることも気にせずに広範囲を爆発に巻き込み、ルシフェルに傷を作り………そうして容赦ない再びのミサイル攻撃の前にルシフェルは爆発するのであった。
「えぇ……ストリングスを仕込んでる機体かよ」
「あの味方ごと倒す広範囲ミサイルも酷え………」
「もしかしなくても、あの宙域は糸だらけじゃない?」
時間制限ありの戦場である。それなのに焦って迂闊に飛び込むと糸に絡み取られて、後方で待機している長距離ミサイル搭載『ラクタカーラ』がミサイルを連射してくるのだ。
「エゲツな……」
「ここで死んだら報酬パーじゃん」
「もう俺たちの勝ちだよな?」
「あっちはほとんどエースパイロットはいないから恐らくは」
熱血風に助けに来てくれたはずの味方たちの動きが鈍る。そして、口々に言い訳を言ってきた。
「うっ……き、機体が突然不調に。謎の超能力か!?」
「こんなところでエネルギー切れかよ、畜生」
「お母さんが夕ご飯の時間よって怒ってるから………」
二の足を踏む仲間たちに嘆息するが、ここで撃破されるのはたしかに嫌だ。ラスボスも倒して本来はエンディングのはずなのに、余計なことをしてくれたやつのせいで報酬がまだ貰えていないのだから。
「仕方ない。僕の最終スキルを使おう!」
この防衛網は時間をかければ突破できる。だが、それでは間に合わないだろう。ここ以外にも時間を必要とする罠が仕掛けられているはずだからだ。
『天撃神葬』
翼を大きく開き、『テスタメントミカエル』から純白の光が放たれると、一条の流星となって突撃する。漆黒の宇宙空間が純白に染まり、『ラクタカーラ五式』も、そのガトリング砲もストリングスすらも全て消滅させて突き進む。
後方に待機していた長距離ミサイル搭載の『ラクタカーラ』がミサイルを放つが爆発しても、『テスタメントミカエル』は最終奥義を使用中のため、無敵となっているので装甲は欠片も破壊されることなく、敵を粉砕して超大型ビーム兵器『クロウ』にまで辿り着くのであった。
だが展開時間が経過して、ちょうど『クロウ』の目前で『テスタメントミカエル』は光りを失い通常モードに戻ってしまう。
「本来は『クロウ』を破壊するためにとっておきたかったんだけど仕方ないか」
「大丈夫よ、ハヤテ。持っている装備で核を叩けば良いの。まだ時間はあるし、サイキックスキルも残ってるでしょ?」
「あぁ、なんとかやってみる……!?」
オペレータの応援に頷いて、『クロウ』へと攻撃をしようとした時であった。
「ヒャッハー、それは待ちな、ハヤテ!」
音声通信でうひゃひゃと可笑しそうに笑ってくる声が入ってくる。実に小物のチンピラっぽい声だ。その声にハヤテは聞き覚えがあり、険しい顔になる。
「ランピーチか! 核前にいると思ったら意外だね」
「そんのとおりぃ〜。信号を放っている方向を見なぁ」
信号が入ってきて、その言葉に機体を動かして見て、目を剥く。
「『テスタメントサリエル』! 行方不明だと思ってたのに……」
視線の先には天使型の機体と、それを後ろから羽交い締めしてライフルをコックピットに向けている『ラクタカーラ』の姿があった。
「ご、ごめんなさい、ハヤテ。捕まってしまいましたわ」
同時に知り合いの少女が申し訳なさそうな顔でモニターに表示される。
「へっへぇ〜。ヒロインちゃんがぁ〜、無防備にもぉ〜、フィットネスクラブで身体を鍛えていたから攫っちゃいました〜」
「くっ、卑怯な! 貴方は卑怯すぎません? というかフィットネスクラブに通う? そんな趣味ありましたっけ?」
「本当は競馬場だった……いや、そんなことより、武器を捨てて機体を放棄するんだ。そうしないと、お姫様がドカンだぜぃ」
ハヤテは唇を噛んで悔しがるが、ここで見捨てることはできなかった。そんなことをするのは自分のスタイルではない。スポンサーも離れてしまう。
ビームライフルを捨てて、ゆっくりと『テスタメントサリエル』を人質にとっている『ラクタカーラ』へと接近する。
「よーし、良いぞ。サイキックは禁止だぞ? ハッチを開け。そうしないと姫様がドカンだからな、ドカン! うひゃひゃ」
「わかった……」
ハッチを開けると、真空の支配する漆黒の世界が広がる。
「ひひっ! もらったぁ!」
すぐさま『ラクタカーラ』が『テスタメントサリエル』に向けていたビームライフルをこちらへと向けてくる。
だが、それこそがハヤテの狙っていたことだった。
「貫け、フェザービット!」
『思念操作』
自らの思念を宇宙へと向ける。瞬間密かに待機させておいた思念操作型ウイングビットがビームを放ち、『ラクタカーラ』の腕を貫く。
「馬鹿なっ! ビットを残してやがったのかぁ」
高熱のビームにより、腕が爆発して『ラクタカーラ』が『テスタメントサリエル』から離れる。その隙を逃さずに『ラクタカーラ』周囲のウイングビットが一斉にビームを放ち、その機体を貫いていき、爆破するのであった。
ハヤテはその光景を見て、フッと満足そうに微笑む。
「貴方との戦歴はこれで5勝8敗かな。連敗は阻止できました」
そうして、『テスタメントサリエル』へと視線を向けるとハッチから煙が漏れているのが見えた。故障だろうか?
「大丈夫ですか? 今ハッチを開きます」
トンと椅子を蹴り宇宙に飛び出すと『テスタメントサリエル』のハッチに辿り着く。強制ハッチ解放装置の場所は覚えているので、すぐにハッチを解放させる。
ウィーンとハッチが上に上がっていき、ハヤテは心配した感情と安心したという感情を含めた笑みを見せて姫様を助けようとして───。
「まだ戦いは終わってないぜ、ハヤテ」
バズーカを構えているパイロットスーツを着た男がそこにはいた。姫様の代わりに。
「ななな?」
混乱するハヤテに容赦なく相手は引き金を引く。バズーカが噴煙を残してハヤテに向かってくる。流石にバズーカの直撃を受けたら死ぬ。
「きゃー!」
『短距離転移』
悲鳴をあげて、ハヤテはテレポートをする。
「なぬ! テレポートかよ、サイキッカーはこれだから!」
その転移先は男の目の前だった。動揺を露わにする男。そして、ハヤテの躱した砲弾は『テスタメントミカエル』のコックピットに入っていき爆発する。
舌打ちしつつハヤテは男へと、いや姫様とすり替わっていたランピーチへと殴りかかる。
「グヘッ、このや、グハァ」
顔に2発、胴体に一発、トドメに蹴りを食らわせてパイロット席から放り出す。
ランピーチの身体能力はハヤテの3割程度、スキルも近接系統はろくに持っていないことを知っていたから当然の結果だ。
「ちきしょー! あと一歩だったのに!」
「わ、悪いね。たとえ『テスタメントミカエル』が破壊されても、この『テスタメントサリエル』があれば充分『クロウ』を破壊できる!」
コックピット周りや操作方法は同系機の『テスタメントミカエル』と同じだ。もはや『クロウ』を破壊するのに時間がないが、この機体なら充分だ。
「人質とすり変わるとか、よくそんな卑怯なことを考えるものだと感心しちゃう。でも、これなら間に合……はぁ?」
ハッチが閉まり、全天モニターが輝き……そして古臭いダイナマイトがそこらじゅうに取り付けてあった。
「あ、あんの卑怯ものぉ〜!」
ハヤテが怒声をあげるのと、『テスタメントサリエル』が爆発するのはほとんど同時であった。
宇宙に一つの光が生まれて、放り出された男は薄笑いを浮かべる。
「これで私の9勝だな」
宇宙を満足げに遊弋する男の眼前にボードが表示される。
『エネルギー充填完了。ゴクロウを発射しますか?』
「イエスだ。発射しちゃってください」
男の言葉に従い、超大型ビーム兵器『ゴクロウ』から膨大なエネルギーを内包する光の柱が発射された。向かうは地球。途上にある戦艦やロボットたちを呑み込んで、地表へと命中すると、地球を燃やしていく。
赤熱の世界へと一つの惑星を変えた男はクックと可笑しそうに笑う。
『地球は滅亡しました! これにてコロニー連合の勝利。英雄ランピーチ軍曹の活躍にて永き戦争は終わりを告げました』
そうしてエンディングロールが流れ始めていく。
「よろしい。コロニー連合ランピーチ軍曹、これにて地球滅亡の任務を終了する」
小さく敬礼をすると、また可笑しそうに男は笑い転げるのであった。