69話 狙撃手につき
森林内をラクタカーラアンバーは激走する。アクセルベタ踏み、スピードを緩めることはなく、事故が起こる可能性を無視している走りだ。
モニターに外の様子が流れるように過ぎていき、聳え立つ大木に今にもぶつかりそうなほどに接近するが、ヨミちゃんは冷静なる瞳で、うろたえることなく、正確にラクタカーラアンバーを操作して、ぶつかるぎりぎりで機体を傾かせて躱していき、木々の合間を縫うように移動していく。
その芸術にも思える巧みなる走りにより、最高速度をほとんど落とさずに進んでいくラクタカーラアンバー。
「キョジンコロス」
だが、鬼たちもただ黙って通過を許すはずもなく、ジェットハンマーを構えて、次々とホバー移動で立ち向かってくる。
袈裟斬りに振り下ろしてくるジェットハンマー。ジェット推進を付与された高速の一撃だが、されどヨミちゃんはまったく慌てない。
速度を落とさずに立ち向かう。必然的に敵のハンマーと自身の速度が合わさり、常人では対応できない瞬きの間程の速さとなるが、ラクタカーラアンバーは左脚のブレードローラーを僅かに落とし、その効果で機体を回転させると、ハンマーに合わせて大剣を振り上げる。
受けるのでもなく、回避するのでもなく、カウンターを入れて、ハンマーの脇をすれ違うように振り上げられた大剣は鬼の腕を切り落とすのであった。
次々と現れる鬼たちを前に、減速することなく、大剣を閃かせる。本来は斬るというより叩き潰すための武器である大剣を切れ味鋭い剃刀のように振るっていき、清流が流れるように鬼たちの間をすり抜けて、鋼鉄の塊よりも硬いであろう鬼たちを切断しつつ進んでいく。
鮮血が散り、森林内に鬼たちの骸が増えていく。一撃で倒せない鬼たちにはクラータからの援護射撃のバズーカの砲弾が命中し、焦げた匂いが広がり、肉塊が転がっていった。
『見事です少佐。その腕前はコロニー連合でも随一でしょう。エースパイロットへの道は開かれてますね。あとはバーニアが搭載されれば良いのですが。バーニアが、バーニアが』
「バーニアが手に入らないんだから仕方ないよね。あれってかなり貴重らしいから」
『軍には優先的にバーニアを用意するように支援を要請しましょう』
ご不満そうなカーラであるが、それでもその目には称賛が含まれており、ヨミちゃんはフンスと胸を張っちゃう。将来的にはポヨンと揺れる予定の装甲持ちのヨミちゃんは、得意げになっちゃう。
糸で雁字搦めとなって、操縦席へと固定されている和がドキドキワクワクと耳をすませているが、戦闘に集中しているために気づかなかった。
「それよりも、無上先生はなかなか考えて行動しているようだね」
『そうですね、あのサイキッカーは変わった力を持っているようです。記録をしておきます』
「魔法使いだからなぁ。サイキッカーは基本エネルギー攻撃とテレポート、サイコキネシスしか使えないしね。万能な魔法には負けるよ」
『魔法……大戦後から暫く経ちますが、地球人は新たなる力を手に入れたのですね』
カーラが感心したように頷く。そりゃ、『蒼き惑星』にはサイキッカーしかいなかったから、この魔法の支配する世界は未知だろう。辻褄合わせはどうなるのかなと多少興味はあるけど、それは後にしてうさちゃん人形の視界を拡大する。
そこには狙撃で一直線に焼かれ、道へと変わっていってしまった場所を走る無上先生と衝竜の姿があった。
こちらの時速は現在68キロ。それを遥かに上回る速さで走っている。恐らくは100キロは超えているだろう。先頭に1体。両脇に2体を展開させて突き進んでいる。
開けた場所を走っているために視界は良い。フレイムオーガからマナ感知をせずとも狙える場所だが、危険性を無視している。
愚かな行動かと思われるが、無上先生は速さを重視している様子だ。
キュインと熱線が飛んでくるが、先頭の衝竜が両腕を交差すると、マナを前面に集め凝縮させる。『竜鱗』が発生して熱線を受け止めて数秒。バリンと砕かれて衝竜の身体に命中するまでは同じだが、その肉体へのダメージは拳一つ吹き飛ばされる程度に終わる。
あれならば10発以上耐えられるかもしれない。3体で15分は耐えられる。狙撃が外れれば、もっと時間は稼げる。
「うはははは! 魔人の力を思い知れ!」
『高位防御』
『高位筋力強化』
『息吹強化』
『生命限界向上』
『魔法防御』
『弾丸防御』
『分身』
多彩な支援魔法で無上先生は衝竜を強化していく。なるほど、召喚士として支援魔法を数多く修めている模様。学園の魔法担当なだけはある。
強化された衝竜へと鬼たちがオーガマシンガンを撃つが、防御魔法により、銃弾は障壁に弾かれて、反対に強化された炎の息吹によりタワーシールドごと燃やし尽くしていく。
「ふははは、たとえ衝竜の腕を吹き飛ばそうが、肉を抉ろうが、骨を砕こうが、この無上が貴様等を駆逐してやるわっ!」
召喚獣に愛着ゼロの無上先生。たしかにあれだけ強化されれば20発とか耐えられるかもしれない。
ただそれは敵がおとなしく狙撃を続けていればだ。
フレイムオーガの方は攻撃を止めると、さらにマナを銃に集めていく。30秒は優に超えて、1分に至ろうかというときに、再び構えて狙い撃つ。
『精密射撃』
『炎弾丸付与』
『ファイナルショット』
魔法を付与してからフレイムオーガが引き金を引くゴウッと激風が巻き起こり、先程よりも遥かに巨大な熱線が発射されて、木々の幹を貫くのではなく、木々自体を一瞬で吹き飛ばし、暴虐なる赤き光条が衝竜を襲う。
今度の攻撃は『竜鱗』で受け止めることすら出来ずに、紙のようにあっさりと砕くと、衝竜の身体に命中して肉体を大きく削るのであった。
高熱が周囲を熱し、爆風が衝竜を中心に巻き起こる。おさまった時には、交差させていた両腕は吹き飛び、血だらけとなっていた。
「ノォォォ! さらに魔法を重ねがけしてきたな、なんと卑怯な魔物だ!」
頬に両手をつけて、無上の叫ぶ人となり罵る。自分が何をしたのかは関係ないのだろう。
「危険を感じて、マナが尽きるのを無視して最大フルパワーで倒すことにしたんだ。フレイムオーガも頭が良いね」
『あの威力ではラクタカーラアンバーは耐えられません。一瞬で溶けた金属塊となってしまいます。となると搭載されている自分も死ぬので、撤退しましょう少佐』
カーラが顔を青ざめて、両手を振ってオロオロと小躍りしながら撤退を勧めてくる。なにそれ、撤退の舞? クールそうなのに、間抜けそうで可愛らしく思っちゃう。
「大丈夫。今のはたまたまクリティカルが入っただけだし、まだ衝竜は死んでない。今の攻撃間隔を新たなるデータとして入力。再計算を実施せよ」
『むむっ、逃げないのですか。命は大切にしないといけないですよ少佐。……3分間隔と計算が出ました。衝竜が破壊されるのに3発は必要となるでしょう』
「オーケーだ! それなら間に合うっ! ここからはブレーキ無しのチキンレースと行くよっ!」
『チキンは皮付きでお願いしますね』
ニヤリと笑い、アクセルを踏んでレバーを引くと、さらに加速させていく。
敵との距離がマーカーに表示されて、その数字がどんどん減っていく。森林内を隠れるように加速するラクタカーラアンバーたち。
熱線が森林を吹き飛ばし、炎に包まれ始めて山火事へと変わっていく中で、衝竜はどんどん削られていった。
「ぐうっ! まだ1体やられたにすぎん!」
上半身が吹き飛ばされて倒れる衝竜を見て、悔しそうにしながらも足を止めることなく無上先生は突き進む。ナイスガッツだ。草むらに隠れていた野良うさちゃんがぴょこんと顔を出して、倒れた衝竜にてこてこと近づくと召喚石をお口に入れて、リスのように頬を膨らませる。きっと餌と勘違いしたんだろうね。
「ぬぉー! ほりゃー! 負けるかぁー!」
2体目が倒されて、3体目も傷ついていく。
「くっ、このままではまずい! ジャンプにて距離を一気に稼ぐぞ!」
衝竜がジャンプして、森林から飛び出て接近しようと試みる。しかし、フレイムオーガは冷静であった。銃を構えて、トドメの一発を撃つ。
そうしてボロボロになった衝竜にトドメの一撃が入り、遂に3体全て、後少しでフレイムオーガに辿り着くといったところで倒されるのであった。
「ゲッハー! この無上が鬼如きに負けるなどぉぉぉ!」
爆風に吹き飛ばされて、無上先生が森林内に落ちていく。これで無上先生は離脱した。
そして、充分に時間は稼げた。
「後5キロ! チャンスだ!」
魔糸を前方に展開させると、ワイヤー移動で一気にラクタカーラアンバーを移動させる。森林から飛び出して、木々の先端を掠るようにラクタカーラアンバーは飛ぶように移動する。
ガクンと機体が揺れてパイロット席に強烈なGが加わり、ヨミちゃんは椅子に押し付けられるが、そんなことは気にしない。
「にゅにゅにゅにゅ」
『時速300、350、400。敵との視界が通ります!』
歯を食いしばり、レバーを強く握りモニターを見る。拡大されたフレイムオーガの姿が見えてくる。もはや1キロにも満たない距離へと詰めている。
森林上に突如として現れた機動兵器ラクタカーラアンバーとクラータの合わせて10体。
高速で接近してくる姿を見て、フレイムオーガはというと、驚愕の表情を浮かべていた。なぜ敵にここまで接近を許したのかと信じられない様子だ。マナ感知に頼りすぎていたからこその動揺だ。
「イ、イツノマニ!」
『銃角創造』
無上先生と可哀想な召喚獣たちを倒して、勝利を確信していたのだろう。それだけにショックは大きく先程までの冷静なるスナイパーの姿はない。
「スナイパーが冷静さを失ったらおしまいだよ! 全機一斉射撃!」
『アルファ了解!』
『ブラボー了解ですわ』
『チャーリー照準は終わっている』
9機のクラータたちがバズーカを構えて、一斉に砲撃を開始する。9発の砲弾が空気を切って、迫ってくるのを見て、フレイムオーガはスナイパーライフルを投げ捨てると、身体に力を込める。
肩が膨れて盛り上がり、背部にスラスターが形成されて、ジェット炎が噴き出すと、フレイムオーガは空へと急上昇し、砲弾を免れる。地面が砲弾により爆発し砂煙が吹き上げる中で、フレイムオーガはスラスターを吹き、鋭角に曲がるとこちらへと向かってきた。
「ヘンテコナキョジンコロス!」
『撃炎剣創造』
手からルビーのように紅く、高熱を発する炎の剣を生み出して迫ってくる。剣の周りの空間は高熱で歪んでおり、ラクタカーラアンバーの装甲でもバターのように切られちゃうだろう威力を秘めているのがわかる。
だけども……。
「剣術を持たない狙撃手じゃ、ヨミちゃんには到底追いつけない!」
炎を纏わせた剣を繰り出すフレイムオーガに、ヨミちゃんは口元に薄く笑みを浮かべて、大剣を振るう。
力任せの剣撃を前に、大剣であるのに滑らかに、軽やかに、舞うようにラクタカーラアンバーは振るう。
炎剣へと大剣が重なり、くるりと回転するように返すと、あっさりとフレイムオーガの手から炎剣は弾き飛ばされて、空を舞い地上に落ちていく。
「腕に差がありすぎたようだね! なんちゃって、から揚げ割り!」
剣が弾き飛ばされたことに驚愕するフレイムオーガの身体に魔糸をつけると、支点として回りながら、その頭上をとり、大剣を振り下ろす。
フレイムオーガが危険に気づいてスラスターを吹かせて逃げようとするが、既に遅く、その身体に大剣は振り下ろされて、左右に肉体は分断されるのであった。
「これにてオリエンテーションは終わりだね!」
地上にズササと擦るように着地して、ラクタカーラアンバーが大剣を一振りする。その後ろでフレイムオーガが爆発を起こし、波乱万丈なオリエンテーションは終わりを告げるのであった。
『いえ、この先に小さな小さな『魔溜まり』がありますの。もう一戦追加でお願いしますわ』
「え〜っ!」
急に現れて、頭にぽすんと乗っかってきた月ロイドがヨミちゃんへとニコリと笑ってくる。
どうやら隠しミッションがあったみたいである。
『あと唐揚げ割りってなんですの?』
「聞き間違いだと思うよ。美味しそうな技だから別に良いよね」




