68話 魔導兵器の戦闘につき
ラクタカーラアンバー。合体機構を取り付けて、あらゆる局面で最適な戦闘が可能になる機体の一つ。まぁ、今はこれしかないんだけどね。
ラクタカーラアンバー
機体名:CSAー02
マナ:130/130
攻撃力:212
防御力:187
機動力:72
魔力:130
スキル:なし
装備:複式刃アンバーブレード
装甲:複層式アントリオン合金
バーニア:なし
性能はこんな感じで、銃よりも一撃必殺の大剣を装備して近接戦闘を重視した近距離戦用の機体だ。
そのラクタカーラアンバーのブレードローラーが回転して、加速しながら無上先生と鬼たちが戦闘をしている戦場へと向かう。
以前と違って、サスペンションも搭載し、オートジャイロも備えてあるラクタカーラアンバーは根っこやらででこぼこの地面を走破しても、ほとんど揺れはない。
モニター上に敵味方の識別信号が拡張表示されて映し出される。鬼たちは新た成る敵の出現に、無上先生へと集中していた部隊を分けて迎撃に走り始める。
「テキ、タオス、コロス」
オーガマシンガンの銃口を向けて、鬼たちがラクタカーラアンバーへと銃弾を撃ち始める。タタタと乾いた銃声音が響き、ラクタカーラアンバーに飛来してくるが、ヨミちゃんは動揺することもなく、フフンと笑みで返し、回避行動をとることをせずに突撃する、
大木を砕き、地面にクレーターを作る威力の銃弾がラクタカーラアンバーに命中するが、装甲に火花が散るだけで、砲弾とも言って良いオーガマシンガンの銃弾は傷もつけることなく弾き返す。
「アンデッドナイトの重装鎧と鎧王蟻の外骨格を組み合わせた装甲、オーガマシンガン如きじゃ装甲をへこますこともできないっ!」
アクセルいっぱいに加速をして、前傾姿勢で鬼へと間合いを詰めると、腰をひねり大剣を振り下ろす。
「グガッ!」
タワーシールドで防ごうとする鬼を前に、ドリフトにて横滑りをして大剣の軌道を僅かに変えて、オーガマシンガンを持つ腕を切り落とし、すれ違い様に蹴りを入れて薙ぎ倒す。
たおれた鬼に追撃することなく、ヨミちゃんは次の鬼へとターゲットを変えて駆ける。倒れた鬼が立ち上がろうと、タワーシールドを捨てて地面に手を付けるが、ラクタカーラアンバーの後方から砲弾が飛来して、その身体を肉片に変えるのであった。
「倒す必要はない。敵の火力を奪い取れれば良いんだよね!」
『追撃はクラータに任せましょう少佐』
撃墜に拘らずにヨミちゃんはラクタカーラアンバーを操る。クラータたちが倒した鬼たちを素早く砲撃しとどめを刺していく。
オーガマシンガンは通じないと悟り、敵はハンマーへと持ち替えて、ホバー移動にて間合いを詰めようとしてきた。
横薙ぎにジェットハンマーを振るってくるが、地に這うように身体を屈めて潜り抜けると、大剣を鬼の腹に押し当てながら加速する。
「オノレ!」
腹を裂かれて転がり伏せる鬼を見て、次の鬼がハンマーを振り上げて、全力で振り下ろしてくる。右脚を支点にラクタカーラアンバーは回転しながら、ハンマーを躱す。地面にハンマーが叩き込まれてクレーターが大きくへこみ、鬼が動揺の顔を浮かべる。
「甘いっ!」
大剣を振り下ろし鬼の首を切り落とすと魔糸を大木に張り付けて繰り、その場を高く飛び上がる。真下をジェットハンマーを振るう2体の鬼が通り過ぎて行くのを見て、ヨミちゃんは餌を見つけた仔猫のようにニヤリと凶暴な笑みを浮かべると、急降下して回転切りにて2体まとめて胴体を切り伏せるのであった。
『敵の第一波を殲滅しました少佐。あちらで魔物を操る未知の戦士を助けますか?』
ラクタカーラアンバーの体勢を立て直し、カーラの言うとおりに無上先生の方を見ると5体の鬼に囲まれていた。なぜか1体の衝竜の両腕が吹き飛ばされてボロボロになっちゃってる。
「なんで鬼程度に衝竜が大怪我を負ってるんだ? ランクも高いし竜族なら鬼には負けないでしょ」
『その理由はすぐにわかります。時間を計測していますが、そろそろです』
「時間? 計測? どういうこと?」
カーラの言葉にコテンと首を傾げちゃうが、すぐにわかった。
木々が溶けるかのようになんの前触れもなく球形に穴が開くと、一条の赤き熱線が木々を貫いて衝竜目掛けて襲いかかる。
「グォォォ」
『竜鱗』を展開して衝竜は防御をしようとするが、超高熱の光線は亀甲型の障壁をジリジリと押していき、遂にはパリンと砕き貫くとその竜の身体に命中する。
光線が身体の一部を吹き飛ばし、衝竜はよろよろとよろける。両腕は無いし、肉体も削られている衝竜はもはや倒される寸前であった。
「くぉぉぉ! 私の1800両の衝竜が! くっ、さっさとこいつらを倒して接近しなければ」
絶叫する無上先生が鬼へと魔法攻撃をして倒していきながら前に進もうとする。だが、鬼たちがタワーシールドを構えながらオーガマシンガンを牽制に撃って、遠巻きに攻撃しているのでなかなか倒すことができない。
「あ、あれは? うさちゃんドローン射出!」
「きゅー」
迷彩服を着たうさちゃん人形を飾り棚から呼び出す。偵察型として作製したうさちゃん人形はその目に遠望できるようにレンズを搭載、鳴き声も発するように小型の発生機も取り付けてあるヨミちゃんの珠玉の逸品だ。寝ている時にも一緒にいるお気に入りだ。
フサフサの白い毛皮にぴょこんと伸びるうさぎ耳、つぶらな赤い瞳に、スンスンと引くつくお鼻。背丈は50センチ程のお人形さんです。
「きゅーきゅー」
うさちゃんは大木にしがみつくとぴょんぴょんと体重を感じさせない軽やかな動きで登っていく。木々の先端にしがみつくと、搭載されている瞳のレンズがキュインと動き、発射位置を拡大させる。
モニターにうさちゃんの視界が共有されて、なにが攻撃してきたのか理解した。とっても厄介な魔物がいるなぁ。
「3本角のフレイムオーガだ。あんなのが農村の近くに潜んでいたわけ?」
『フレイムオーガ:Bランク。燃えるような赤い肌、頭の両脇に角を生やす。3本角の最後の1本は撃炎のスナイパーライフルの銃身に使われて、銃身を犠牲にする『ファイナルショット』でAランクオーバーの遠距離攻撃を行うので、戦闘時には注意が必要』
真っ赤な肌のフレイムオーガが山脈の麓、岩地で囲まれている場所にいた。目は金属製のバイザーアイが取り付けられており、炎耐性の軽鎧を装備している。
そしてフレイムオーガの背丈を超える長大なスナイパーライフルを構えていた。銃身は真っ赤に赤熱して溶けかけている。
『銃角創造』
フレイムオーガは溶けかけている銃身を取り外す。ガランと転がり地面が高熱で煙をあげる。フレイムオーガは取り外した銃身など気にせずに、その手から新たなる銃身を生みだすと取り付ける。
そうして腰だめに構えると、再び狙い撃つ。
『ファイナルショット』
音も立てずに熱線がスナイパーライフルから発射される。高熱により空気を蜃気楼のように歪めて、遮る木々などまるで存在しないかのように貫いて、衝竜に迫る。
『竜鱗』を再度展開させて、衝竜は防ごうとするが、熱線は止まることなく、スナイパーライフルの銃身が赤熱して溶けかける時には破壊されて、またもや肉体の一部を破壊されてしまうのだった。
「音もなく狙撃にピッタリの武器なのか」
『計測したところ、あの攻撃は30秒に一回。敵との距離は18.7キロとなります』
「接近しても間に合うか………」
ラクタカーラアンバーもクラータも時速72キロが限界だ。しかも森林を移動するし、鬼の相手もするから速度は遅くなる。
ワイヤー移動をすれば良いんだけど、糸の有効距離9キロを超えるから、置いていったクラータたちを操れなくなっちゃう。
「10キロまでは通常移動にするとなると、20分はかかる。最後の8キロはワイヤー移動で加速すれば4分もかからないだろうけど、その間狙い撃ちされると厳しいね」
『狙撃手に対応できないのであれば、撤退を視野に入れるのも一考です』
「それをやると追撃が来るだろうし……ん、待てよ? なんで森林内にいる衝竜を正確に狙い撃てるんだ?」
カーラと話している途中で、ふと不思議に思う。視覚では見えないのに………。たしか設定資料にあったな。
「マナを感知して攻撃してるんだな! 遠距離攻撃の基本とか書いてあった!」
指をぱちりと鳴らして、ムフフとほくそ笑むヨミちゃん。優れた探知魔法なら、障害物を超えてマナを感知できると読んだ覚えがある。狙撃手に備わっていてもおかしくない。
「とすると、マナを放出していないラクタカーラアンバーやクラータは感知されないはず!」
『マナドライブエンジンは完全密閉型です。装甲などに宿っているマナを感知されるでしょうが、それは僅かなものでしょう』
真面目なサポートキャラのカーラが同意してくれる。真面目な銀髪のサポートキャラって良いね。
「それじゃ接近するまで、衝竜や無上先生が耐えられるかだけど……」
マナの大きい敵から攻撃していくのであれば、ヨミちゃんたちはなかなか狙われないんだけど……。
「まだまだ! こんなこともあろうかと、嫁の実家の宝物庫から黙って借りてきた召喚獣回復宝珠『カーバンクルの涙』がある!」
無上先生が涙型の水晶を取り出すと、高笑いをしながら使用する。水晶から青い粒子が放たれると、ボロボロになっていた衝竜の身体を見る見るうちに癒やしていく。
抉れた肉体も、吹き飛んだ両腕も生えてきて、完全に回復していった。驚きの性能である。万が一を考えて持ってきたのだろう。
「ふははは! 壊れるまではこの宝珠は何回も使用できる。霧の中で狙撃してくる卑怯者を撃破に向かうぞ!」
衝竜の肩に無上先生が飛び乗る。鬼の相手をするのは限界だと考えてもいたのだろう。衝竜たちは鬼を無視して駆け出す。
「どこまで耐えられるはわからないけど、あれなら囮にはなるだろうね。さすがは優しい無上先生。こっちも接近するよ!」
ラクタカーラアンバーを加速させて、クラータを率いてヨミちゃんたちも森林内を走り出す。
時間制限ありの戦闘って、ゲームあるあるだよね。
「きょわー! 『カーバンクルの涙』が音もなく崩れ去ってしまったー!」
なんか無上先生の絶叫が聞こえたけど、囮役をするための気合の叫びだろう。




