57話 特撮ヒーローにつき
「ま、まだまだだ。時間が経てば経つほど、俺に有利となる!」
目の前の男がせせら笑い、荒御魂経由でボーンを見ているヨミちゃんはたしかに普通ならねと内心で同意する。敵の生命力と精神力を奪う『死の領域』は本来ならばかなりの威力を見せるのだろう。
生命体ならばという、条件がつくけれども。人形にはまったく効き目がない。ボーンにとっては相性最悪の敵、那月ヨミちゃんなのだ。
「たしかにジワジワと力が吸い取られていますが、貴方を倒せる時間は持つと思いますの」
そして、勝手に話を進める月ドール。それに合わせて荒御魂の手をなにかを確かめるようにワキワキと動かす。セリフに合わせないといけないから大変なんだけど。組織名とか作って、ミステリアス厨二病少女になっちゃってるよ?
僅かにセリフと行動にタイムラグがあるのを気づかずに、ボーンは悠然とした強者の態度で指を鳴らす。
『不死隊召喚』
瞬間召喚の力で魔法陣が描かれて、驚いたことに3体のアンデッドナイトが姿を現す。
「……常に12体のアンデッドナイトが維持できるのですね?」
「そのとおりだ。だからこそ、お前のマナが尽きるまで永遠に戦えるんだぜぇ? たとえSSランクでも、この戦法には敵わねぇ」
月の言葉にボーンがせせら笑う。その余裕の笑みは理解できる。アンデッドナイトは高位のアンデッドだ。召喚時間を稼げるように何匹かを防衛させて、残りで攻撃を続けていけば、強者にも勝てるだろう。
だが、それは時間制限付きの場合を除く。ボーンの目は忙しなく周りを確認してとり、増援が来るのを恐れていた。だからこそ、セリフと裏腹に───。
「やれ、アンデッドナイト! そいつを叩き潰せ!」
焦燥を滲ませて、ボーンが腕を振るとアンデッドナイトたちが大剣を構えて突進してくる。
『仕方ない。倒すとするか。月ちゃん、うまく合わせてね』
「任せてください、セリフ合わせなら得意ですの」
どんな時にセリフ合わせを使うのかは、ドヤ顔で胸を張る銀髪少女に聞くことはせずに戦闘を開始する。
たとえ遠隔操作でも、人形操作には問題はない。自身を荒御魂へと重ねるように操作する。自分自身は気絶している人々の扱いを一反と話しつつ、その表情は変わらぬ笑顔のままで、離れた場所で天才的戦闘センスを発揮させるのであった。
◇
アンデッドナイトは9体迫ってきていた。残る3体は絶対に自身の護衛から外すことはしない模様。
『死の視線』
暗く窪んだ瞳が赤く光り、荒御魂へと即死スキルを仕掛けてくる。精神抵抗に失敗すれば即死のスキル。高位なアンデッドが多用して、格上の敵も倒せる可能性を持つ厄介なスキルだ。
「即死無効化しーるど!」
すぐさま月ドールが立ち上がり、小さな手を掲げてネーミングセンスを疑われる適当な魔法名を口にして誤魔化す。
荒御魂は迫るアンデッドナイトたちへと駆け出す。わかりやすく誤魔化したために、諦めずに他のアンデッドナイトたちは『死の視線』を発動させて、幸運なるクリティカルを狙おうとしてくる。
「駄目なAIを積んでるのですね。わかりやすい防御魔法を使って差し上げたのに」
『ああいった魔法は一度で効果が切れる。だから、連続して使用してきているんだよ。でも、『死の視線』はマナ消費が激しい。数発でマナは尽きるはず』
アンデッドナイトの素の能力は覚えているのだ。大技なだけに消耗が激しく3発程度で戦士系統のアンデッドナイトならばマナは尽きる。そうなれば他の厄介なスキルや魔法は使いたくても使えない。
「よく記憶してますわね。妾は『魔物』という一括りで倒してきたから覚えておりませんの」
月の呟きに、呆れるヨミちゃん。チートジョブで遠隔で敵を倒していけば、そりゃ考える必要はないだろう。だけどヨミちゃんは弱い能力なのだ。敵の弱点をつかなければ勝てない。
倉庫のコンクリート床をその踏み込みだけでヒビを入れながら、アンデッドナイトたちの中で3体がバラけると、同時に大剣を振りかぶる。
「ウォォォ」
『唐竹割り』
その大剣が血のような赤黒いオーラに覆われると振り下ろす。赤きオーラが空中に残り、その剣速は視認も難しい速さだ。
最初の1体の攻撃を荒御魂は横に一歩だけずれて、ぎりぎりで回避する。回避するのを待っていたのだろう、逃げ場を防ぐように同様の剣技を左右それぞれのアンデッドナイトたちが攻撃をずらして放ってくる。
1体は逃げ道を塞ぐように回り込み、1体が左からの身体を突進させての振り下ろし。
こちらの回避する場所へと狙い定めての攻撃だ。それを見て、高速の剣に合わせるように、思考を高速の世界へと切り替えて、ヨミは荒御魂を操作する。
歪んだ世界。スローモーションの中で荒御魂の動きも鈍いが、操作に躊躇はない。
高速の世界でも、なお速いアンデッドナイトの剣撃。迫る剣の剣身へ短剣の先端で突く。
『人形の真の力を見せちゃうよ!』
ヨミちゃんは、目を光らせて、荒御魂に内蔵しておいたギミックを発動させる。
短剣を持った腕が猛回転し始めて、短剣は鋭きドリルとなり剣を押していく。大剣の剣身にはヒビが入り、あっさりと砕いてしまう。
パラパラと落ちていく刃の破片を横目に、重量のある大剣が砕かれて、倒れそうなアンデッドナイトの頭へと突き刺す。
腕の回転は止まらずに、アンデッドナイトの顔を潰し、遂には頭を貫くのであった。
人形に内蔵しておいた秘密ギミックの一つ、ドリルアタックである。
「あらみたまどりるなぃふうー!」
月がフンスと興奮しながらネーミングセンス小学生レベルの必殺技名を叫ぶ。ボーンは想像を超えた攻撃にあんぐりと口を開けて唖然とする。
その間も魂を持たない3体目のアンデッドナイトは、回り込むと機械的に大剣を振り下ろしてきた。
『唐竹割り』はアンデッドナイトの基本技にして最大の魔法技。剣身をマナで大幅に強化して、一瞬だけ身体能力を跳ね上げて敵を攻撃する。名前の通り、敵を左右に分断する威力を持つ。
ゆらりと揺れる蜃気楼のように見える一撃に荒御魂はもう片方の短剣を翳すと受け止める。短剣は素材も違うし、魔法技でもない防御だ。通常ならば、短剣など棒切れのように切断されてしまうだろうが、迫る刃に荒御魂は短剣の刃先を合わせて、流れ落ちる清流の道筋を変えるかのように受け流した。
そのまま腕を回転させてドリルアタックで、体勢を崩したアンデッドナイトへと横合いから頭を貫く。最初のアンデッドナイトも、2体目を倒して引き抜いた腕を振るい、その頭を破壊する。
『残るは9体!』
ギラリと瞳を光らせて、ヨミちゃんは荒御魂を残るアンデッドナイトへと向けて、地面を蹴り突撃すると腕を突き出す。
3体の仲間の攻撃が一瞬で失敗すると計算されていなかったのだろう。残るアンデッドナイトたちは緩慢な行動で大剣を構えようとする。
『遅いっ!』
地面を擦るように移動して、荒御魂は集団の中に分け入ると、両腕を回転させてアンデッドナイトたちの顔を削りながら前に進む。
頬を叩かれた程度の攻撃であったが、ドリルの回転は恐ろしい威力であり、頬あては砕かれて、乾ききった頭蓋骨はその振動で半分は割られて倒れてゆく。
ようやくアンデッドナイトたちが迎撃しようと動く時にはさらに3体が破壊されて、床に倒れ込んでいた。
「凄い! 凄いギミックですの! 妾はこういったギミックを作ったことがありませんわ! 基本殴るか爆発させるかだったので!」
『それだけチートだったってことだよね』
羨ましい発言だよ、私も考えなくとも勝利できる。
はしゃいで、ぴょんぴょんと飛び跳ねる月。どんなに速く動いても、仮想アバターには影響が出ないために、喜びの舞をしても落ちることはない。
「『唐竹割り』は隙が多いから駄目だ。『呪いの瞳』と『死の視線』を中心に、大剣で追い詰めていけ!」
ボーンはどうやら冷静にこちらの動きを読んでいたのか、アンデッドナイトたちに指示を出す。その指示に従い、アンデッドナイトたちは大剣を力任せに振ってくるのではなく、牽制するように小さな構えをとり攻撃をしてきた。
構えは小さくなり、攻撃に鋭さが増す。大振りでなくとも、アンデッドナイトたちの攻撃はAランクに相応しい威力を誇る。
風斬り音をたてて、大剣がシャープな動きで迫りくる。だが、ヨミちゃんはそれを見ても動揺もせずに荒御魂を操作する。
『ギミックの二番目だ!』
ヨミちゃんは魔糸を繰り、荒御魂に仕掛けたもう一つのギミックを解放する。カシャンと音がすると、荒御魂の脚の装甲が僅かに伸びて、関節部分が見えるようになった。
そうして力を込めて腰を落とすと、荒御魂の脚はぐにゃりとバネのように大きく縮む。
『ギミックパート2! バネ仕掛けの脚!』
ヨミちゃんの得意げな声音に合わせるように、腰を屈めるのを止める荒御魂。その瞬間、バネの力が加わり、弾けるように飛び出していく。脚に強力なバネを仕込んでおいたのである。
砲弾のように速い突撃に、剣を振るい迎撃しようとするアンデッドナイトたちだが、振るう途上でくるりと回転しての蹴りの一撃を頭にくらい、身体から分断されて吹き飛ぶ。
その反動を利用して、再び脚を弛ませると、次の敵へと飛びかかる。横薙ぎにて打ち落とそうとするが、荒御魂は身体をひねると、その刃を踏み台にして、縦回転からの短剣の一撃を振り下ろす。
頭を半ばまで斬られたアンデッドナイトが崩れ落ちるのを気にせずに、その身体に蹴りつけて、間合いを詰めようとする次のアンデッドナイトへとソバットを決める。ベキリと乾いた音を立てて、崩れ落ちるアンデッドナイト。これで迎撃してきたアンデッドナイトたちは全滅し、残るはボーンを守る3体のみ。
「荒御魂ぴょんぴょんきっく!」
「ひっ、ひぃぃ!」
ネーミングセンスはゼロだと判明した月が荒御魂の頭の上で小躍りし、ヨミちゃんはトドメと荒御魂を向かわせる。だが恐怖の表情を浮かべているボーンは未だに戦意を失っていなかった。
「くっ! 仕方ねぇ、切り札だ!」
『魔人装』
新たなるスキルを発動させると、3体のアンデッドナイトたちがバラバラのパーツへと分解されて、ボーンの身体に装着される。
呪われし鎧が重層となり完全にボーンの姿を覆い隠し、さらにはアンデッドナイトたちの骨が寄り集まって、4本の腕となりその身体に装着された。
「むぅん! 『サクリファイスネクロマンサー』の俺の切り札、『死骸騎士』モード!」
兜に僅かに覗くスリットの奥から蒼き憎しみの炎を宿す騎士が出現したのだった。
「俺の生命力を生贄にすればするほど、このモードは強くなる。てめえに勝ち目はねぇ!」
そのセリフ通りに、その身体から瘴気が満ち溢れて、床が腐り空気が猛毒へと変わってゆく。明らかにこれまでとは違う高い能力を持っていた。
だが月はそれを見て、肩を震わせる。怖いのかと思いきや、この顔は満面の笑みで、コントローラーのマイク部分にお口を寄せる。
「ふふっ、遂に正体を表しましたわね、黄泉平坂の怪人ボーン! 私こそが貴様らを討つために力の魔法使いと技の魔法使いに身体を改造してもらった復讐の戦士!」
なんだか新たなる設定を嬉しそうに語る月。
「血を捨て」
月は右手を掲げる。
「肉を捨て」
左足を伸ばして
「愛を捨て」
細っこい腕を組んで
「改造されしサイボーグ戦士。『魔魂戦士荒御魂』、貴様らを倒すために地獄から帰ってきましてよ! じゃじゃーん!」
月がふんふんと鼻息荒く決め顔でポーズをとった。荒御魂の頭の上で。物凄く楽しそうである。長年の夢が叶いましたと、ろくでもないことも呟いている。
仕方ないので荒御魂も腕を組み、決めポーズをとる。悲壮な覚悟で黄泉平坂と戦う戦士がたった今爆誕したのであった。
ちなみにジャジャーンまでが月のセリフである。やはり同位体はアホなことが判明した一幕であった。




