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人形遣いの悪役令嬢 〜悪役なので、もちろん悪役をした分報酬はもらいます  作者: バッド
2章 入学する悪役令嬢

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48話 魔溜まりにつき

「さて、本気で行くかな」


 お遊びはお終いだ。これからは悪役令嬢那月ヨミとして行動する時間となる。


 辺りは草木が生い茂り、木々が聳え立つ森林で視界は塞がっている。だが、蜘蛛型人形を木々の頂点で確認して『魔溜まり』の位置はだいたい推測できている。


 そして、ある程度の魔物は間引き済みだ。私の前に立ちはだかる敵は少ない。


『迷彩』


 たまたま格安ただで手に入れた魔道具を使用する。ヨミは周囲に溶け込むようにその姿が消える。


 今回の最終目的である『魔溜まり』。マナをぶつけて消失させる魔物の発生源。それを実際に見てみたかったんだよね。


「設定資料の説明はどうも納得できなかったんだよなぁ」


 揺れる大牙猪の人形の上に座り、顎をさすって眉根を顰める。設定資料でも『魔溜まり』の消し方は同じ説明だった。


『魔溜まり:次元の狭間。世界の理を変えて、魔物が通るゲートである。多量のマナをぶつけてゲートを強引に塞ぐことが可能』


 納得のいかない説明だ。強引に塞ぐことが可能。それは正規のゲートを塞ぐ方法があるということだ。明らかに使い方についての説明文などが抜けている。恐らくは意図的に。


 その正体を私は知りたい。この世界にエンディングを齎す可能性がある物は全て確認しておきたいのだ。


 青髪をゆらゆらと揺らして、真剣な顔でサファイアよりも深い青の瞳に強き意思の光を宿らせて、ヨミはダンジョンを駆け抜けるのであった。


          ◇


 発生したばかりであり、それほど強くない魔物しかいないダンジョンは、その迷宮内の範囲も小さかった。


 小一時間も大牙猪に揺られたら、結構あっさりと到着した。森林を抜けて再び草原になり、丘の上を進むとカルデラのようにへこんだ場所に『魔溜まり』はあった。


「あれが『魔溜まり』………たしかにその名前しかないという感じだね。コールタールの湖か………」


「ヒャンッ」


 平もそうだねと尻尾を振って同意してくれる。コールタールの湖とは言い得て妙で、カルデラ風の湖は真っ黒な粘度の高そうな湖だった。


 ねとねとした黒い水面から、時折ザバリと黒いスライムの塊のような不気味な魔物が浮き上がって、ヨロヨロと歩いて地面に足を着く。


 ぶるりと身体を震わせて黒い塊はまるで出来の悪い粘土のように変形をしていき、四肢が形作られて表皮が茶色となり、牙が生えて見事な大牙猪へと姿を変えた。生命体へと姿を変えた大牙猪はそのまま外へと走り出して行くのであった。


 『魔溜まり』の周囲には同じように多くの魔物が徘徊している。その中でもBランクの鎧大牙猪が数十匹はいるので、駆逐するのは大変そうだ。


「うへぇ、あれを食べてるわけかぁ。でも、肉へと完全に変わっている……そして、体内の魔石は完全にクリーンなエネルギー。あの黒い液体って、見かけによらず凄いものなんだね。でもあの液体が万能な重油みたいな物なら、人類が確保してエネルギーとして精製できそうなものなんだけど、なんでやらないんだ?」


『それこそが旧文明が滅んだ原因となるからでしょう』


「む? もう一人のヨミちゃん!?」


 頭に突如として響く世界一可愛らしい声に、目を鋭くさせる。聞き覚えのある声音だ。


『世界一可愛らしいとは………自分のことなのに、ヨミは相変わらずです』


「世界一可愛らしいからね! 同率で瑪瑙ちゃん!」


『同意します。で、疑問はないのでしょうか?』


「どうして現れたのかは疑問だけど、まずは眠ってもらわないといけない子がいるから、ちょっと待ってね」


 ヨミちゃんは懐からドッグマッハ缶を取り出すと、地面に置く。その横にはすやすやの粉。少しの間すやすやするアイテムだ。


「ちょっと寝ててね、平君。いや、真の姿はポメラニアンのしーちゃん」


「ヒャンッヒャンッ!」


 パカリと缶を開けると、尻尾を振って駆け寄ると、猛然としーちゃんは食べ始める。あっという間に食べ終えると、すやすやの粉をこくんと飲み込んで、平の腹の上に寝そべるとすやすやと寝ちゃった。


「頭の良い子だよね! お腹ももふもふだし」


 寝ているしーちゃんのお腹をワシャワシャする。とっても可愛らしい子だ。やっぱり飼いたいなぁ。


『使い魔の忠誠心がゼロとは、さすがはEクラスです。召喚獣を抑えることができていないではないですか』


 突然、ぽふんと煙が巻き起こる。


 警戒して身構える私の前に煙が渦巻くが徐々に薄れて、その姿が見えてきた。


 銀糸のような艷やかな銀髪が背中まで伸びていて、ルビーよりも血よりも濃く深い色の紅き瞳をもつ冷酷なる空気を纏う危険なる少女。


 『血と殺戮の傀儡師』。人も物も区別なく人形として扱う危険なる美少女那月ヨミが。


 ちこんと手のひらサイズのお人形さんの姿で。


 よじよじと器用に肩に登る小さなデフォルメヨミちゃん。野生の欠片も警戒心の欠片も持たないしーちゃんを見て、呆れた声で嘆息する。ヨチヨチ歩いて可愛らしいので、店に売り出されれば完売確実である。


 血と殺戮の傀儡師である那月ヨミ、デフォルメバージョンだ。なんでいきなり現れたんだ?


『あぁ、妾は月とお呼びくださいな。ヨミと混乱しますでしょ?』


 ヨミちゃんの戸惑いを気にすることなく、月はマイペースなので、苦笑混じりに頷く。


「了解。それにしてもお人形とは珍しい出方だね」


『一人の身体に人格が二つあると独り言を繰り返すことになるからへんてこになると思うのです。なので具現化しました。まぁ、力が足りないので、このサイズが限界なのですが』


 たしかに説得力がある言葉だ。前世で見たゾンビ漫画でも少女の身体にくたびれたおっさんと宇宙一可愛らしい最強少女が同居していて、一つの身体で話すもんだから、少し混乱したよ。面白い漫画だったけどね。


「とはいえ、今まで出てこなかった理由はあるんでしょ?」


『はい、もちろんです。ここは次元の歪みが存在し、妾がアクセスしやすいので出てこれました。例えて言うと携帯がバリ3の状態です』


 ネンドヨミロイドな月が豆粒よりもちっこい手を淑やかに口元に添えて、ふふっとよーえんに微笑む。可愛らしすぎるので、手に乗っても良いんだよ? それとその言い方は古いと思います。


 でも、気になることを言うな、このお人形。


「次元の歪み? あの『魔溜まり』が?」


『はい。設定資料にもあったとおり、あれは世界と世界を繋ぐ際に生まれた歪み。次元の狭間に作られた道なのです』


「ふむ………どういう意味かな?」


『思わせぶりな言葉に迷ってくださいませ。これ以上は伝えても今は無意味ですし、今はぼーなすすてーじといきませんか?』


 月ドールはくねくねと体を揺らして、妖しく笑う。意味を教えてくれるつもりはなさそうだ。気になることは自分で考えろと言うことだろう。


「ボーナスステージ? あの魔物を駆逐してくれるわけ?」


『そのとおりですよ、ヨミ。妾の『繋』はか弱くそして維持するための力の消耗が激しすぎるのです。撚り糸でも無いよりはマシ。ヨミはそのついでにぱわーあっぷしてくださいませ』


 お人形はヨミちゃんの髪を掴むと、再びよじよじと登り、頭の上に立つ。


『さあさ、妾の人形劇を見てくださいませ、見惚れてくださいませ。本日は大さーびす』


 スッと人差し指を『魔溜まり』に向けると告げる。


『代価はあの『魔溜まり』で結構。では、ちぇんじといきましょうか』


 そうして、頭の上でステップを踏み、軽やかに舞うと鮮血のオーラを吹き出す。


『人形交代』


 そのスキルが発動した瞬間に人格が入れ替わる。ヨミちゃんは人形に、月は人間に。


 それと共に、月の身体となったことにより、青髪が毛先から銀髪へと変わり、瞳が紅く染まる。


「血と殺戮の傀儡師のお人形劇、楽しんで頂ければ幸いです」


 腕を延ばしてゆらゆらと、舞い踊る天女のように美しく、月は軽やかにステップを踏む。


「来なさい、荒御魂」


『飾り棚』


 亜空間の狭間が開き、人形たちが置かれている飾り棚が姿を現す。その中の一つへと魔糸を延ばして接続すると、生命が宿ったかのように滑らかな動きで飛び出て来るのであった。


 そして荒御魂は元のサイズに戻り、月の目の前で跪く。


「さて、まなちゅにゅーといきましょう」


 月が妖艶なる笑みを浮かべて、荒御魂へと近寄ると、優雅な手つきでその頭に手を添える。


『マナ注入150』

『ブラッディパペッティアの人形強化発動』


荒御魂

種族:マシンロイド

ジョブ:なし

マナ:0/0

耐久力:100→200

筋力:110→210

器用:なし

魔力:なし→100→250

精神力:なし

スキル:鋭刃


 『ブラッディパペッティア』の自動人形効果はステータスを100強化する。そして、ヨミちゃんのマナを150追加されて荒御魂は強化を終了する。


 漆黒の機械蟻の騎士はその身体に身震いするほどの邪悪なるオーラを宿して、カメラアイを紅く光らせる。凶悪なる蟻の外骨格はゆらゆらと蜃気楼のように周囲の空間を歪ませて、立ち上がると砂埃が巻き起こる。


『うん、なんか魔王幹部とかみたいなシルエットだね』


「素材がこれしかなかったのですから仕方ありませんでしょう?」


 肩に乗って落ちることなく、ヨミちゃんが正直な感想を素直に言うと、月は頬に手を添えて苦笑する。だって、魔王を守る最後の幹部とかみたいなんだもん。


「では、『魔溜まり』の周囲の魔物から駆逐したいと思います。この世界では、あれが『魔溜まり』のボスと思われているので、それから先に倒しましょう」


 白魚のような人差し指を向ける月。そこには鎧大牙猪の中に混じって一際巨大な猪が『魔溜まり』の前に鎮座していた。家みたいな大きさの魔物は、他の魔物と比べても、その黒光りする鋼鉄のような毛皮や、磨かれたように美しい純白の牙はいかにもボスらしかった。


『鋼鉄大牙猪:Aランク。突進を得意とし、極めて堅固な防御力を持つ』


 ボスらしくその戦闘力も高い。


『あれがボスなんじゃないの? 『魔溜まり』を守るガーディアン。ゲーム的に言うと、ダンジョンボス』


 それが一般的な考えだ。『魔溜まり』の手前には必ず強力な魔物が存在しているのである。人類は苦労してボスを退治して、『魔溜まり』を破壊するのだ。


「ふふふ。さて……本当にそうなのでしょうか? さぁ、荒御魂。ご挨拶なさい」


 月の言葉に、荒御魂は足を曲げるとトンと跳躍する。一瞬で高空へと飛翔すると爪先を鋼鉄大牙猪へと向けると、ミサイルのように急降下していく。


 鋼鉄大牙猪は直上から急降下してくる荒御魂の気配に気づき、頭をのんびりと持ち上げて───。


 その頭を荒御魂はあっさりと貫いた。鮮血を撒き散らし、肉塊が飛び散る中で、血に塗れた荒御魂が地面に足をつける。


「ブギャッ」


 たった一声の断末魔の声をあげて頭を失い、倒れようとする鋼鉄大牙猪。


「おっと、効率な戦いをしませんと」


 月は魔糸を伸ばして、鋼鉄大牙猪へと付ける。


『人形連鎖自爆』


 スキルを使用すると、内部から沸騰したかのように鋼鉄大牙猪はボコボコと歪に膨れ上がり、大爆発を起こす。


 宿したマナが破壊のエネルギーとなり、周囲の魔物たちへと伝わると、同様に身体が内部から沸騰したかのように膨れ上がる。


 そして、バァンバァンと爆発音を立てて、魔物たちは連鎖的に爆発し肉塊と鮮血が地面に飛び散るのであった。


「今のは自爆の高位スキルです。通常は証拠を残さないように捕まりそうになったら自爆させるスキルですが、連鎖自爆なら相手へと過剰なマナを送り込み、マナを暴走させて爆発させることができるのです。マナをほとんど使いませんし、お勧めのスキルですよ。格下にしか通じませんが、この利点は仲間は対象から外せるところですわ」


『地獄の惨状に目を瞑ればだけどね。血と殺戮の傀儡師と呼ばれるはずだ』


 長閑な草原は一種で血と肉塊に覆われていて、もはや大量虐殺が起きたようにしか見えない。その中で血に塗れて佇む荒御魂は悪人にしか見えないだろう。ヨミちゃんはちょっぴり引いちゃいます。


「さて、これで普通なら戦闘は終わり。あとは作られた穴を塞げば終わり……なのですが。妾は作られた通路が欲しいのです」


 パシャパシャと水溜りでも踏むかのように楽しげに血溜まりを歩いていき、その手から魔糸を生み出す。


 そうして、『魔溜まり』へと釣り糸のように糸を放り込む。


「さぁ、下手くそな獣道を作りしモノの出現ですよ、ヨミ」


 糸が震えて、それと共に地面も激しく揺れ始める。『魔溜まり』の水面が狂ったように波が無秩序に起こり始めて、なにか強烈なる力の気配がヨミにも感じられた。


 次の瞬間、コールタールのような水面が盛り上がると高層ビルに匹敵する大きさの大蛇が姿を現すのであった。


「ウォォォ、ワレヲヒキズリダストハ……引きずり出すとは何者だぁっ!」


 咆哮する大蛇。その声は世界を震わせて、空気をビリビリと揺らす。


「『魔溜まり』とは、ネズミ穴なのです。塞いでも奥に隠れ潜む者たちにはなんら影響がないのですよ。ガーディアンは単なるガーディアン。門番なだけなのです」


 恐ろしき力を内包する大蛇を前に、クスクスと可笑しそうに笑って、月は大蛇をその紅い瞳で見つめるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふむ、ヨミちゃんてっきり黄泉かと思ったけど、月読尊かしら
[一言] この世界ではすでにコミカライズ済みのコンハザ、現実世界のコミカライズはまだなのか...!?
[気になる点] おや? コンハサの漫画は既にはじまっていたのかな [一言] 穴に潜んでいてアウターの民を思い出しちゃったよw おっと父さんと目が合ってしまったよってね。
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