28話 高二病につき
高二病とはなにか? それを語るには厨二病から語らなければいけないよね。
厨二病はちょうど中学2年の頃にかかると言われていて、アニメや小説などの主人公などのように、特別な力を持つキャラになりきって現実ではちょっと痛いセリフを言って、魔法や超能力を自分は持っていると空想して、現実に行動を取る病気のことを言う。
さらに病が進むと高二病となると言われている。たんに魔法が使える設定から、分子がなんちゃらとか、特異点からのマイクロウェーブがドッカンしたとか現実の理屈を繋ぎ合わせて説得力を持たせたキャラになりきるわけ。
とはいえ、そんなテキトウ理論で魔法を使えるわけもないのだから、空想であるのだ。空想にリアリティを求めるもの、それが病気である高二病だ。
まぁ、私もよく知らないんだけどね。過去の私はその高二病にかかっていたらしい。実際に魔法がある世界で高二病とはどういうことだとかも思うところはあるけどね。というか、小学校にも行ったことのないヨミちゃんがよく高二病なんて知ってたな。
そんな高二病のヨミちゃんが考えた設定の一つが隠された人格があるというものだ。ピンチの時に覚醒する人格だ。よくある設定である。
さっきのヨミちゃんは、その人格の一つであった。本来の未来となるはずの血と殺戮の傀儡師。その傀儡師のフリを無意識に演技していたのだろう。
これも高二病だからである。不治の病とも言われていて、大人になっても心に秘めている人もいるらしいよ。
考証終わり。
終わりなので、さっきの戦いは消しゴムで消し消しと記憶から消しておこう。ヨミちゃんイレイザー発動! 消し消し。はい、記憶から抹消されました。
とはいえ、敵を倒したのは事実であり、その戦果が表示された。
『『誘拐犯春屋』をクリアしました』
『報酬としてカルマポイント千と千両を手に入れた』
とんでもない報酬を表示するログが目の前を流れていく。敵がそれだけ強かったのだろう。
そして、ザラザラと目の前に大判小判ザックザクとなった。1枚1枚が空から現れて、床にチャリンチャリンと山になっていく。
「おぉ……山吹色の光だよ。なぜにいつもこの報酬の出方なわけ?」
ヨミちゃんの可愛らしい顔を山と積まれている大判小判が照らす。千両箱を用意して欲しいんだけど。なんで、いつもこの支払方法なわけ? 運営さん、少し話し合いたいんだけど。
そして、次にステータス強化が表示された。
『戦闘により、マナが31上がった』
『戦闘により、体力が3上がった』
『戦闘により、筋力が1上がった』
『戦闘により、器用が101上がった』
『戦闘により、魔力が22上がった』
素晴らしい結果だよ。推定AランクだかSランクの魔法使いを倒して、たったこれっぽっちか。これ筋力って上がる日が来るわけ? ヨミちゃんのぱんちは赤ん坊レベルから上げさせないつもりかな?
強くなっても、ヨミちゃんぱんちでは赤ん坊にも負けそうな気がする。
とはいえ、カルマポイントが大量に手に入ったのは嬉しい。棚ぼた的だけど、ブラッディパペッティアを選択しなかった救済措置と考えようかな。
キョロキョロと周りを見渡して、誰もいないのを確認して、コホンと咳払いをする。使い道を考えないといけないんだけど………。
「うっ、私のもう一つの人格よ。その封印よ、解かれよ!」
ちっこいおててで額を押さえて、ぷるぷる震えて蹲る。可愛らしい少女の高二病が発症した模様。
しばらくぷるぷる震えて、何も起きないので、回転したり、ラジオ体操をしてみせるが、何も起きなかった。
頬を赤らめて体勢を戻すと、気まずそうに周りをもう一度見渡す。シーンとしており静寂が支配していて、誰にも見られなかったので一安心だ。
「カーラに続いて、最強ヨミちゃんともコンタクト不可能かぁ。これは、色々検証が必要だけど、とりあえずはこのポイントは全部使って良いということだよね」
それなら遠慮なく使用させてもらおう。ポチポチっとな。
空中に指をなぞらせて、スキル一覧を表示させる。ズラッと並ぶスキルたち。
「千ポイントならBランクのスキルが取得できるな。ここをさっさと離脱するためにも素早く選んじゃうか」
真剣な表情となり考える。予想よりも早く大量のポイントが手に入ったけど……少し思うところがある。
「戦闘スキルは止めておいて、格納スキルを取得。まぁ、これも危険な香りはするんだけど」
『飾り棚スキルを取得した』
ポチリとボタンを押下して、目的のスキルを取得する。
「ぐ、ぐにゃぁー!」
スキルを取得した瞬間に、頭に情報が流れ込んでくる。異界の空間に接続する方法、歪みを作り自分だけの空間を作る方法。
激しい痛みが頭を襲い、その奥底にある魂に記憶が刻まれる。死ぬかと思えるほどの痛みに埃だらけになることも気にせずに、頭を抱えて転がる。
痛みはスキルの使用方法を刻み終わると、嘘みたいにスウッと消えてなくなる。
「し、死ぬかと思った……。この痛み……ランクが高ければ高いほど大きいよね」
パペッティアを手に入れた時も思ったんだけど、予想通りの効果らしい。脂汗をかいて震える手足を叱咤してなんとか立ち上がる。
「少しずつランクを上げて慣れていかないと、気が狂うかも」
他のプレイヤーはこんなんによく耐えられるな。知ってしまったからには、ヨミちゃんは無理だよ。可愛らしいか弱い童女だからね。痛いのはノーサンキュー。
『飾り棚:Bランク』
『異界に棚を作り、百体までの人形を飾ることができる』
何の変哲もないスキル名に聞こえるが、強力なスキルだ。これでアイテムボックスの代わりになるかな?
「続いてこれだ」
残りカルマポイント10を使用する。狙っているスキルをポチ。
「にょわー!」
またもや脳髄に錐を差し込まれたかのような痛みが奔る。頭を抱えて蹲るが今度はさっきよりも痛くはなかった。すぐに痛みはおさまり、ほっと安堵する。
『マシンパペッティアを取得しました』
『マシンパペッティア:Dランク』
『効果:マナ+50、器用、魔力+20』
『機械人形を操作可能。機械人形を製作可能。自分の体重の9倍までの人形を操作可能』
『機糸スキルを取得』
『オートリペアを取得』
那月ヨミ
種族:魔人
マナ:18/166
カルマポイント:0
体力:5
筋力:2
器用:166
魔力:54
精神力:計測不可
ジョブ:マシンパペッティアD
固有スキル:絶対魔法操作、ゲーム脳
スキル:人形操作(機)、魔糸、機糸、人形制作(機)、オートリペア、マナ注入・改、飾り棚
『機糸スキル:機械人形を作る際に使用』
『オートリペア:人形を瞬時に修復できる。リペアキットが必要。リペアキットにも回復量によりランクあり』
ふむふむと性能を眺める。やはり機械系統は魔法が宿っていないから弱いランク扱いらしい。
とはいえ、目的は達した。検証は後でで良い。
「飾り棚オープン!」
ちっこいおててをぶんと振るうと、空間に歪みができる。純白の歪みが広がっていき、よくわからない素材でできた白い棚が並ぶ。その大きさは普通の大きさの棚が六段あるだけだ。
「ほえ? こんな大きさじゃ、等身大フィギュアは置けない…………なるほどね」
荒御魂を近づけて棚に触れさせると、みるみるうちに小さくなって手のひらサイズとなって、棚に並んだ。どうやら、フィギュアらしくちっこくできるらしい。
「それなら話は早いや。さあ、皆棚に並んで!」
倒した鎧白蟻、そして身代わりになって死んだ鎧王蟻に魔糸をペタリとつけて操作する。人形と化した死体はゆっくりと立ち上がり、棚へと向かっていき仕舞われる。
「後でちゃんと作らないと、腐って棚が臭くなっても困るし」
汚れは付きそうもないけど、常に並べる人形たちは綺麗にしておきたい。棚に並べて悦に入るのはコレクターの本能だよ。
「おっと、鎧王蟻はそこの小判を全部身体にしまっちゃって」
蟻さんの体内に仕舞っておけば、人形を構成する部品として扱われる。裏技っぽいけど、ゲームでは敵を倒すとゴールドを落とすのは当たり前だ。きっと貯金箱の代わりにされているからだと思う。
むしゃむしゃと小判を鎧王蟻が食べるのを見ながら、疲れて嘆息する。
今回は危なかった。ヨミちゃん監禁エンドになる寸前だった。原因はわかっている。ログアウトできないと知り、焦ったからだ。
どんなエンディングを目指せば良いかもわからない。がむしゃらに強くなっておこうと考えた結果だ。ヨミちゃん反省。童女だから、反省をすれば良いよね。
「これから長くなりそうだし、楽しみながら遊ばないとな。それにどのエンディングを目指せば良いのかわからないなら………」
腕を組んで、フッと笑う。
「全ての分岐ルートのフラグを立てておけば良い。仲良しエンド、魔王退治エンド、人類滅亡エンド、世界支配エンド、断罪エンド」
セーブのない現実だが、今までのVRMMOだって同じだ。調べて入念なる準備をしておき、最後に備える。
「私ならそれができる。何度も通過してきたことだ。この間の地球滅亡エンドみたいに」
拳を強く握りしめる。できる。できるはずだ。
数多のプレイヤーを出し抜き、最後に勝者となれる。
地球対コロニー連合の最終決戦で仲間の半分を裏切らせて、自分と共に行動をさせたように。
小悪党でせせこましい活動をするだけではない。それでは敵を出し抜くことはできない。
時には金を使い、情に訴えて、英雄的なカリスマ溢れる行動をとり、巨悪として行動をすることも必要だ。誰にも知られないように、盤面に姿を現すのは誰かも気づかれずに。
「この世界を私の人形劇と致しましょう。世界の皆様方、プレイヤーの方々に楽しんで貰えれば幸いです」
ヨミの決意の含まれた楽しげな声は、誰もおらずガランとした倉庫に静かに響く。
いつもどおりでいこう。少しずつ少しずつ影響力を増やしていくのだ。
それには必ずしも自分が強い必要はない。ろくに戦闘スキルを取得していなくても、主人公キャラですら殺すことはできる。
「それに悪役令嬢として雇われたんだしね。それらしく行動をしなくちゃいけない。ブラッディパペッティアを取得したヨミちゃんとは別の行動をとらなくちゃね」
ヨミは身代わりの生き人形を使って身を隠していたが、そんなスキルはない。だから同じ行動はできない。
堂々と悪役令嬢として活動をしなければいけない。薄氷を踏むかのような危険な行動だけど、それもまたスリルがあって楽しいだろう。
「それじゃ、まずは悪役令嬢デビューをしておこうかな」
フフッと楽しげに笑うと少女は倉庫から立ち去るのであった。




