121話 天岩戸にて
『少佐、敵の施設が見えてきました』
「了解です。ではでは、皆さん準備は良いかな?」
モニターに映るカーラへと頷くと、ヨミちゃんは他の機体に通信をする。
「アルファチーム、オーケーです」
「ウォぉぉ、すっげぇー! 僕に運転を変わってくれ! 頼む、初見でも操作できる自信があるんだ」
「ブラボーチームスタンバイ」
「おぉ……こういうの見ると、妖怪とかって時代遅れになるよね〜」
「俺はよみたんの機体に乗りたかったんだ、チェンジを希望する」
「チャーリー準備よし」
「この機体のライセンス契約はいくらだ? 話し合う余地はあると思うぞ」
それぞれ、元気な答えが返ってくる。皆元気なことで良かった良かった。
「ヨミちゃん、このボタンってなぁに?」
「それは押したら音楽が流れるんだ。ちなみにアニソン」
「ヒャンッ」
ヨミちゃんのラクタカーラには瑪瑙ちゃんとしーちゃんが乗ってます。平君と和ちゃんは留守番です。
新型ラクタカーラ。ラクタカーラダイヤで現在宵闇の中、高空を飛行中。『疑似次元動力炉』をヨミちゃんが製作してラクタカーラとクラータに搭載してある。ラクタカーラダイヤは2基の『疑似次元動力炉』を搭載しており、他の機体とはパワーが違う。
範囲系のミサイルポッドなどは排除して、スマートプラズマライフルと、ハンドガン、プラズマナイフを装備している。装甲は紅くしてその出力は以前の機体とは比べ物にならない。
ネオンが瞬く地上には天照家の離宮が見える。目的地だ。
「大国君、そっちの準備は大丈夫?」
「あぁ、任せておけ。時間になったら揃えた兵士たちが鏡花の捕縛を声高に宣言して攻撃をする。………時間だ」
大国の言葉どおりに、離宮近くで爆発が発生した。闇の中に炎が吹き上がり、魔法使いたちが魔法を放っている姿が炎に照らし出される。
モニターをズームすると襲撃部隊の隊長が声高に警備へと理由を伝えている。
「やぁやぁ、我こそは雨屋石英っす。遠からば者はなんとかで、近くにいれば蕎麦をすすれ! ここに俺の妹を拉致った天照鏡花がいると聞いて捕縛に来た候。仁なき者は夕凪なり! おとなしく道を開けよ!」
石英お兄ちゃんだった。武者鎧を着て、瓦礫に足をかけてこの世の春、俺は主人公なりと、先頭で叫んでいたりします。セリフは極めて怪しいので、リテイクが必要かも。
「………なにあれ、大国君」
「ふっ、私が貴様を信用するわけがなかろう? 騙されても大丈夫なように用心のために石英殿に声をかけたのだ。妹たちが決死の覚悟で攻め入ると聞いて、自分も加わると言ってくれたぞ」
「ヨミちゃんほど、信用がある幼女はいないと思うけど、頭が回るようになったんだね」
「褒め言葉として受け取っておこう」
なかなか考えるようになったじゃんと苦笑しつつ、レバーを倒す。石英お兄ちゃんたちは警備と激突して戦闘を開始している。妹想いのお兄ちゃんを殺されるわけにはいかないね。
「各機攻撃開始! 弱装レベルまでエネルギー出力は下げて攻撃せよ! 中級魔法使い程度なら、死なないで気絶するくらいにおさまるはず!」
「了解っ!」
一気にラクタカーラダイヤを下降させる。背中のスラスターがマナ粒子を吹き出し、高速で地上に接近していく。
青き粒子が軌跡を作り、暗闇の中で機動兵器が接近してくることに、戦闘中の警備兵たちはようやく気づく。
「な、なんだ、あれは? 魔導兵器?」
「怯むな! 魔導兵器なら見た目だけのはず。俺たち魔法使いには、アジャー!」
警備隊長が部下を鼓舞しようとして、ヨミちゃんの撃ったプラズマをまともにくらい悲鳴をあげる。
焦げてはいるが、致命傷ではなくうめき声をあげている隊長だが、立ち上がることは無理そうだった。プスプスと焦げた匂いをさせて隊長が倒れると、警備兵たちはその光景を見て青ざめる。
本来ならば魔法障壁で身を守っているので、一般の物理攻撃は効かないはずだったのだ。
「馬鹿なっ! 隊長はAランク。機械の攻撃など効くわけがガガガ」
副隊長が雨のように降り注いできたプラズマ弾により吹き飛ばされて、やはりピクピクと痙攣して倒れ伏す。
「はっ、プラズマガトリング砲の味をたっぷりと堪能してくれやがれませ!」
クラータに乗ったブラボーリーダーがオホホとエセ高笑いをして敵兵を掃射していく。次々と降下してきたクラータたちが、前面を守っている警備兵たちに乱射して、警備兵たちも魔法にて対抗をしようと撃ってくる。
「ウォぉぉ! 今の声は俺の愛する伴侶! 全力で守るっす。どけどけどけ〜」
「こいつ、無謀な突撃をグハッ」
「めちゃくちゃだ、体勢を立てなゲフ」
愛する人の声は聞き逃さない石英お兄ちゃんが斧を振り回して警備兵たちを倒していき、防衛線が崩れるとクラータたちがねじ込むようにプラズマガトリング砲を撃ちまくり殲滅していく。
クラータの性能と、石英お兄ちゃんたちの突破力により警備兵は散り散りとなり、離宮の地下倉庫行きは妨げるものがないと思われた。
───だが、このレベルのセキュリティであれば、切り札は用意してあった。
離宮の倉庫扉が開き始めると、巨大な何者かが姿を現す。
「おのれら! 天照家に侵入したことを後悔するんだなっ!」
分厚い金属製の扉に手をかけると身体を引き出す。
「襲撃者め! この天岩戸が貴様らに引導を渡してやるぞ、覚悟するんだな!」
咆哮と共に現れたのは、巨大な魔導兵器であった。金属の塊を削いで人型にしたかのような作りだ。金属の塊と表する通り、極めて防御力が高そうである。
惜しむらくは武装がないように見えるので、アイアンゴーレムにも思えるが───。
「これでも喰らえっ!」
『超重力光線』
手の指を向けてきてかと思うと、指先から重力波を撃ってきた。半透明のビームは空間に揺らめきだけを残し、その軌道にある物を全て圧壊させていく。
「おぉ、あんな物が用意されていたんだ」
「ニッシッシ。あれは旧日本の遺物、要塞防衛用『天岩戸』だね。Aランクの魔法使いも簡単に倒せる兵器という噂だよ。ちゃんと情報集めておいたんだよ〜」
「事前に教えてもらいたかった!」
レバーを軽く引いて、ラクタカーラの機体を横滑りさせる。今までいた場所にビームが走り、空を覆う雲が散り散りに切れていった。
「薙ぎ払ってくれるわっ!」
「そう上手くはいかないと思うよ!」
天岩戸がビームを途切れさせることなく、薙払ってくる。狙うはラクタカーラ、エース機を狙っている模様。
『少佐、敵に狙われています。あの威力ですと大破確実ですよ!』
「これで無差別なら反対に驚きだね!」
カーラの警告に軽口を叩き、機体をロールさせて、追尾してくるビームをぎりぎりで躱す。躱しながらもスマートプラズマライフルを向けて反撃を仕掛ける。
「とやっ!」
引き金を引いて、超高熱のビームが銃口から放たれる。ゴーレムにも見える機体は動きが鈍く軽々と命中するかと思われたが、装甲の手前で不可視の障壁が発生して攻撃を阻んでしまう。
「ふははは! どこの家門か知らぬが、この天岩戸の超重力障壁を打ち破ることなどどんな攻撃でも不可能だ!」
高笑いをして、再び超重力光線を放ってくる。素早く機体を傾げさせて、光線の軌道から逃れてプラズマビームを連射するが、敵の言うとおりに攻撃は届かなかった。
「面倒くさい障壁を持っているなぁ」
『そうですわね。最低でも扉の前までは到達しておきませんとまずいですの』
月ちゃんがぽふんと頭の上に現れて、ペチペチと叩いてくる。鏡花を誘い出すだけならここでも良いはずなのに、月ちゃんには隠れた作戦がある模様。
わかってはいたんだけどね。
「なら、新たなるジョブ『サイコパペッティア』の力を見せるとするよ! 放て、ヨミちゃんの超能力!」
『念動糸展開』
『人形強化』
『サイコパペッティア』はBランクの人形遣いだ。その本質は無線となる『念動糸』と『人形強化』である。これにより、思考だけで人形も操れるようになったヨミちゃんだ。
「そして、新エンジンフルパワー!」
『ツイン疑似次元動力炉オーバーロード』
『疑似次元動力炉』はこの世界にプールさせられている他の世界のマナをほんの少し使うことのできるエンジンだ。ほんの少しでも今までの機体とはスペックが紙飛行機と戦闘機ほどに違う。
『ツイン疑似次元動力炉』が真っ赤に発熱すると、ラクタカーラダイヤの出力が激変する。
銀の粒子をその身体に纏うと、風に吹かれて散っていくかのようにその姿を消す。
「なにっ! き、消えた? どこに消えた!?」
銀色の粒子がふわりふわりと辺りに舞い散る様子を見て、天岩戸は慌てて見失ったラクタカーラダイヤを探す。だが、マナ感知レーダーには感知されないし、視認しようにもどこにもいない。
「ここだあっ! てーい!」
天岩戸の後ろに姿を現すと、ラクタカーラダイヤは二刀のナイフを手に持ち斬りかかる。鋭い刃は障壁にぶつかり阻まれるが、気にせずにヨミちゃんはレバーを押し込む。
限界を超えたラクタカーラダイヤのパワーは超重力の障壁に負けじとスラスターを全開にして体当たりするように突撃し、障壁をじわじわと貫いていく。
「い、いったいどこに!?」
「次元の狭間に隠れていたに決まってるでしょ! それがこのエンジンの恐ろしいところなんだから!」
「くっ、こ、こんなことでやられるかっ! たった一機に古代から綿々とこの扉を守護していた天岩戸がァァっ!」
動揺の声をあげながらも、天岩戸はラクタカーラダイヤを掴む。巨大な天岩戸の手に握りしめられて、ギシギシとラクタカーラダイヤの軋む音が響き始めてきた。コックピット内も火花が散り始めて、焦げ臭くなり煙が起こる。
『少佐、装甲の限界を突破します! 危険です、撤退を推奨します』
「そうはいかないんだよね。この機体は貰ったぁぁ!」
カーラの言葉に不敵に嗤いながらヨミちゃんはレバーを全開に押し込む。モニターが真っ赤になり、⚠メッセージとアラート音が響き渡る。
だが、ナイフは天岩戸の装甲に接触して、その内部に斬り込むことに成功した。
「た、たかが数センチのダメージしか与えられずに無駄なことをっ。貴様は不毛に死ねぇっ!」
ラクタカーラアンバーが限界を超えて潰れることに、天岩戸のパイロットは哄笑をするが───。いつまで経ってもラクタカーラダイヤを握り潰すことはできなかった。いや、天岩戸の動きが停止していた。
『ふふっ、その機体は頂きました。パイロットさんはポーイですの』
『人形操作』
傷を一つでも入れれば機体の管理権限を奪うことなど、月ちゃんには容易かった。チョチョイとクラッキングをして、クスクスとおかしそうに月ちゃんはパイロットを廃棄する。
「な、脱出装置が勝手に!?」
コックピットのハッチが吹き飛び、パイロットが椅子ごと飛び出す。そして、天岩戸は体勢を立て直すと天照家の兵士へと攻撃を始める。
味方であった天岩戸の突然の裏切りに、兵士たちは驚き慌てふためくと、あっという間に蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。それだけ天岩戸が頼りだったのだろう。
「よし、瑪瑙ちゃん、しーちゃん、地下に潜入するよ!」
「うん、頑張って踊るよ!」
「ヒャンッ」
中破したラクタカーラダイヤから飛び出してヨミちゃんたちは地下へと向かう。大国たちも戦闘中のクラータから飛び出すとついてくる。
一行は離宮奥へと向かうのであった。




