110話 ドーム内につき
謎の重装騎士はてこてことドームに近づく。名前はまだない。
謎の重装騎士は頭にちょこんと乗っている月に話しかける。
「とりあえず力のまほーつかいにしたけど、ネームどーする?」
『うーん……迷いますの。やはりここは力を示すように名前はなんとかの関とかにした方がよろしいかと』
「ザ・パワーにしようかな」
ネーミングセンスゼロの月に聞いたのが間違いだった。それって力士でしょ。魔道の関とかにしたら、ドスコイって太ったまほーつかいに思われるじゃん。ヨミちゃんはパスで。
『ザ・パワーって、ありがちな名前過ぎませんか?』
「それじゃ、名前は保留にしておこうっか。名前を名乗らない方がミステリアスな感じがするしね」
『それもよろしいかと思いますの』
意見は一致したねと、ガシャガシャと金属音を立てながら、ドーム入り口に到着する。
そう、誰あろう謎の力のまほーつかいの中身はヨミちゃんだったのだ! 誰もが見抜けないだろう完璧な変装である。
理由としては荒御魂がプラズマエンジンや金属骨格を搭載したために、前みたいに分解して魔法少女ヨミちゃんに使えるパーツへと変えることが不可能になったからだ。
なので、マナタイトを使い、アンデッドナイトの元鎧も使用し、装甲自体に補助筋肉を組み入れて、背中に小型マナエンジンを搭載したグレーターリビングメイルを作成した。
もちろん人形としても使えるし、中身が空洞のためにヨミちゃんも着ることができる。
姿は完全に金属鎧に隠されており、声も機械音声に変えられるため、サリーちゃんと違い、姿格好で正体がバレることはない。たぶんバレない。瑪瑙ちゃんでも、見抜くことは不可能だと確信してます。
重装甲ハイパワーの鎧を着込んだヨミちゃんは、のっぺらぼうを簡単に倒せたことから、その能力は高いとふふふとほくそ笑む。自身の才能が怖いよ。
小柄な身体でてくてくと歩き続けて隔壁があったろう正面扉を見て舌打ちしてしまう。
「隔壁は普通に開けられている。どうやらセキュリティは確保されたのは本当らしいよ」
さっきまでは力で強引に開けた跡があったのに、今回は綺麗なままだ。ボーンはしっかりとセキュリティを確保したらしい。
『まずいですわよ。セキュリティが奪取されているとなれば、古代警備兵器も稼働をし始めているかもしれません』
「今のところ、その気配はないけど警戒はしておくべきか」
スゥと目を細めて息を吐く。本気になる時間だ。古代の兵器なんかどう考えても強力に決まっている。
中に入ると、受付カウンターや消灯している電子掲示板、埃の積もったソファや枯れた観葉植物が見える物悲しい光景が広がっていた。
「慎重にいくかな」
敵はかなり先行しているはず。でも、ここで焦って敵の罠に引っかかるわけにはいかない。
「ゆけ、うさちゃんドローン」
「キュウ」
うさちゃんのぬいぐるみたちが飾り棚から召喚されて、ひと鳴きすると先に進む。
『あまりゆっくりもできませんわよ? ガーディアンが追いかけてくる可能性はありますもの』
「たしかに。あのスケルトンじゃ、たぶん時間の問題で倒されるだろうし、彼女はちょっと強そうだから戦いたくない」
白騎士は恐らくは古代エネルギーを使用している。その力はかなりのものだろうし戦闘慣れしているようだから、苦戦必至だ。できるならば用事を終えて、さっさと帰りたい。
うさちゃんドローンと共有された視界にて、埃が雪のように積もる床に足跡を見つける。そこまで多くはない。多くても5人くらいだろうか。
足跡を追跡させることにして、他のうさちゃんドローンは警戒するべく、広く配置しておく。
「キュッキュウ」
追跡しているうさちゃんがお鼻をスンスンさせて、扉を見つける。大型荷物搬入エレベーターと書いてあり、百台くらいの車両が乗りそうな程、扉は巨大だ。閉まっているが、ボタンは光っており稼働していると思われる。
だけど、扉は残念ながら閉まっていた。地下に行っているのだろう。うさちゃんドローンがテシテシとボタンを押しても上がってくる気配はない。恐らくは下で止められているのだ。
「ゲームだとあるあるだよね。敵が先行して楽々移動なのに、主人公たちは大回りするパターン」
この場合、非常用階段などを見つけて降って行くのが正道である。セキュリティを突破しながら、カードを見つけたり、通風孔を移動したりと時間をかけて攻略していくのである。
きっとリーナちゃんたちが普段使用しているルートがあるはずなんだ。その場合、ガシャ髑髏を倒すのに加わって、倒したあとにリーナちゃんに案内してもらうルートとなる。
『では他の道を探しますの?』
「ううん、そんな時間はないよ。ゲームならセーブもあるし、どんなに攻略に時間をかけても良いけど、そうしたら追いつけないと思うんだ。それに白騎士が炉心に近づくのを認めてくれるとは思わないよ」
『ですわね。では、どうしますの?』
「こうする。いでよパワーローダー!」
ちっこい指をパチリと鳴らし、飾り棚からパワーローダーを喚び出す。コボルドが使っていたパワーローダーを改造した作業用の強化装甲服だ。
エレベーターの扉に手を掛けると、ぐぐぐと力を込めていく。パワーオンリーの機体として作ったこれはこういった強引に扉を破壊するために作った代物だ。
ギギィと金属が歪む音がして、エレベーターの扉がひしゃげていく。
怪力を見せるパワーローダーの前に、扉は少しだけ隙間を作るがそこでパワーローダーは腕がぽきりと折れちゃった。
「ありゃりゃ。でも、古代の金属扉をすこしでも破壊できたとなれば充分かな」
隙間は1メートルちょいは開いているので、パワーローダーを待機させて、身体を滑り込ませる。装甲鎧が邪魔だけど、なんとか中に入ることができた。
中は真っ暗で非常灯がそこかしこで照らしているが、ほとんど見えない。
「うひゃー、底が見えないよ?」
『まるで地獄の底のようですわね。どこまで続いているのでしょうか?』
コインを落としても、底についてチャリンと音がしても聞こえなさそうだ。となると取れる作戦は限られている。
「うさちゃん、降下開始!」
「キュッキュウ!」
一声鳴くと、わかったよとうさちゃん部隊はパラシュートなしでダイビングをして、地下へと落ちていく。
だが、地下の何もない壁面から熱線が放たれてきた。無防備だったうさちゃん部隊は一瞬のうちに灰へと変わってしまう。
「ありゃ! 迎撃システムがあったんだ」
他の壁面からも熱線が放たれて、うさちゃんたちはなんとか躱そうとジタバタ手足を振るが、哀れ次々と丸焼きになって倒される。
「むむ、結構なセキュリティシステムがあるようだよ」
『おかしいですわ。あの熱線を良く見てくださいませせ』
慌てて扉の陰に隠れるヨミちゃんに、眉を顰めて月が壁面を指差す。なんのことだと思ったけど、理由がわかりヨミちゃんも眉を顰める。
「壁面から撃たれているんじゃないね。少し離れた空中から熱線が生まれているよ」
『そうですの。どうやらなにかが隠れている様子。ちょっかいをかけてみます?』
「当然! 舞え、魔法の糸よ。敵の所在をみつけてみちぇよ」
ちょっと格好をつけて、魔糸を展開させる。噛んじゃったのは気づかないふりだ。
「んん?」
だが、魔糸がシャフトを駆け巡るも、反応はなにも返って来なかった。光学迷彩だと思っていたので、逃げたのかなと思ったが、糸が通り過ぎた場所から熱線が撃たれてきた。
飛び退り、熱線はパワーローダーに命中する。超高熱により、真っ赤に焼けるとドロリと溶けて、パワーローダーは床へと横倒しになってしまう。
「なんだ? 糸で調べた後から攻撃が来たよ? テレポートを使った様子もないのに!?」
想定外の事に動揺しちゃうヨミちゃん。すぐに糸を展開させるが、やはり空間を通り過ぎていき、なにも引っかからない。
というか、空気の揺れも攻撃の予兆もマナの流れすら無い。最初からそこにはいないかのようだ。
だが、月にはわかったようで、ブランと顔の前に出てくると深刻そうに口を開く。
『ヨミ、予想はつきますわ。あれは支配者と同じようなシステムを使ってますの。即ち、次元の狭間に隠れているのですわ。だから気配どころか、マナの流れも空気の揺れすらないのです』
「支配者と同じ? マジか、とすると釣り方も同じで簡単に倒せる………だけじゃなさそうだね?」
敵のシステムを理解すれば、支配者と同じように倒せると思うけど、月の深刻そうな表情からそれだけではないとわかる。
事実、月は重い口調でペチペチとヨミちゃんの額を叩いてくる。
『あいつらを倒すのはそれほど難しいことではありませんの。問題は次元の狭間に隠れるシステムを機械的に模倣できているということなのです』
珍しく焦っている月。それだけ大変な内容なのだろうと、どういう結果を巻き起こすのかと推測して、ヨミちゃんも苦虫を噛んだ顔となる。
「そっか! たしかにまずい! この技術は危険すぎる」
『ですわ。すぐに敵に追いつく必要がありますの!』
「了解だよ! うぉぉぉ、敵の防衛ロボットと次元合わせ!」
雄叫びをニャァとあげて、ヨミちゃんのあらゆる次元と接続できるスキルを使用する。空間が水面が揺れるかのように歪み、その歪みはシャフト全体へと広がっていく。
何もないはずの空間が歪み、壁面に蜘蛛のように脚が生えている戦車が姿を現す。自身の存在が暴露されたことに戦車は気づいたのか、戦車砲から熱線を連続で放ってきた。
「多脚戦車か! こんなやつが隠れていたとは驚きだよ」
『さっさと降りましょう! 妾が予想するに時間はあまりないですの』
「了解! とやぁぉ!」
ワイヤー移動にて自身を高速で移動させて、シャフト内に躍り出る。砲塔の向きを確認して、鋭角に空間を機動して躱しながら、大剣を振り下ろす。
十メートルは全長があるだろう多脚戦車の装甲に大剣が食い込むと、気合いを入れてマナを流し込む。
戦車の装甲がまるで意味をなさないように、大剣が機体を火花を散らし滑っていき切り裂いていった。
「全部倒していくからよろしく! 逃げるのはノーサンキューだからね!」
他の戦車たちも脅威と定めて戦車砲を向けてくるが、不敵な笑みにてヨミちゃんは降下をするのであった。




