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人形遣いの悪役令嬢 〜悪役なので、もちろん悪役をした分報酬はもらいます  作者: バッド
1章 目覚める悪役令嬢

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11話 移動はテンプレにつき

「出発します。到着は4時間後を予定しております」


 運転手のアナウンスが入り、プシューとエアブレーキの解除される音が聞こえて、ゴトゴトと重たい音を立てて装甲バスは出発した。


 装甲バスは23区同士を繋げる定期輸送バスだ。もっと安全な結界が張られている地下鉄や不可視になれる魔法が付与されている高速ヘリなどもあるけど、貴族や金持ちで無ければ使えない。


 冒険者や行商人はこのバスに乗るか、自前で護衛と輸送車両を用意するしかないわけ。でも、護衛や輸送車両を用意できる金持ちなら地下鉄を利用するから、やっぱり主な移動手段は装甲バスになるのだ。


 装甲バスの装甲は厚さ10センチの合金に魔法付与された魔法合金マナタイトがメッキのように貼られている。それでも魔物が徘徊する廃地区を移動するには、少し危険だ。毎年一台は襲われて運転手共々皆殺しにあう。


 そのため、金のある区では護衛の冒険者を配備しているのだけど……さすが治安の悪い雨屋区の装甲バス。配備されているのは危険な道ではないか見極めるレンジャーのみみたいだ。4人の冒険者たちは乗客っぽいし。


 運転手席のある前部は鉄の敷居で塞がれていて強盗などに対処できるように運転手とレンジャーだけがいる。何かあった時に声をかけられるように細いスリットがあるだけだ。


「ふわぁ、私、装甲バスに乗ったのは子供の頃以来だよ」


「ふふっ、瑪瑙ちゃんはしゃぎすぎ」


 無邪気に窓に手を張り付けて、瑪瑙ちゃんが外の様子を眺めている。ピンクのふわふわ髪が浮くように跳ねて可愛らしい。


「もぉ、ヨミちゃんの方がはしゃいでるじゃん」


「私は偵察も奏でるから良いの」


「それじゃ可愛く歌ってね」


「ルールールー」


 窓にホッペをむにゅうとくっつけて外を見るヨミちゃんだ。青い髪がサラリと頬を撫でて愛らしい。


 眺めるのは仕方ないのだ。安全な所から廃地区を眺めることなんてしたことないんだもん。


 気分は台風がきて、安全なお家でコロッケを齧りながら外を眺めている気分だ。ワクワクして心が踊るよ。


 マナエンジンを搭載した装甲バスはその装甲の重さなど意にも介せずに走っている。速度は時速50キロ程度といったところかな。


 魔物が諦める速さで、罠が仕掛けられていてもすぐに停車できるちょうどよい速さなのだろう。


 私と瑪瑙ちゃんが窓から外を見ていると、隣に座っていた幼い子供たちも窓に張り付く。


「すごーい。ビルが土に埋まってるよ」


「ほら、見て見て、お店から大木が生えてる!」


 私たちと同じく初めての旅なのだろう。はしゃいでいる子供たちだが、隣の私たちへと顔を向けるとにぱっと笑いかけてきた。


「こんにちは、おねーさんたちも雨屋区にいくの?」


「うん、私たちも雨屋区だよ」


 その無邪気な問いに私もニコリと微笑み返す。ホッペは窓に押し付けて外を見ているので、少しへんてこな微笑みに見えるかもしれないけど。


「おねーちゃん、へんてこなかおー」


「今は外を警戒中だったの。でも、もうやめーた」


 キャッキャッと可笑しそうに笑う子供たちに、ちょっぴり頬を赤らめて、こほんと咳払いをしておく。これでさっきのはなかったことになったよね?


「あら、雨屋区には遊びに?」


 子供たちが話しかけて、その両親も話に加わってくる。私たちの髪の色を見て、魔人だからと遠巻きにしていたが、フレンチな答えをしたから、安心した模様。フレンチ……フレンチだよね?


 フレンドリーが思い出せないヨミちゃんの代わりに瑪瑙ちゃんが胸に手を当てて、人懐っこい笑顔で口を開く。


「いえ、親戚の家に向かう予定なんです。顔を見せようかなと思いまして」


 新品の服、優しげな笑顔、ヨミの保護者ですといった落ち着いた姉的な佇まいに、母親のほうが小さく安堵の息を吐くのを見て取る。なぜか瑪瑙ちゃんは私の保護者を気取りたくなるのだ。大丈夫なのに。


「あら、それは良いですね。親戚付き合いは大事にしませんと」


「おばさんたちはどうして雨屋区に?」


「夫が鍛冶職人でして」


 少し睨むようにおばさんがちらりと夫へと顔を向けると、夫の方は気まずそうにポリポリと頬をかく。


「先日、僕は親方から免許皆伝を貰いまして。で、独立しようと思って、選んだのが雨屋区なんです」


「私は親方の元で働いて欲しかったんですけどねぇ」


 あー、危険な分稼ぎになると考えたのか。木俣区で独立すれば、親方と顧客を取り合う関係になりそうだし、それを嫌がったのかぁ。


 鍛冶職人は魔人には劣るが、生産魔法を使える者たちだ。その能力の主たるものは、魔物のつけていた生体武器バイオウェポンを人間用に改修すること。


 なるほど、たしかに治安の悪い雨屋区なら儲かるかもね。でも危険な賭けでもある。見ると人の良さそうな顔立ちなので、他人事ながら心配しちゃうよ。


「くくっ、鍛冶職人とは金になるじゃねぇか。どうだ、俺なら良い店を用意してやるぜ」


 私達の話を盗み聞きしていたのだろう。ローブを着た大柄の男が含み笑いをして誘ってくる。フードから覗き見える無精髭、その目つきはちらりとしか見えなかったが鋭く、椅子の横に置いてある斧は気のせいか赤黒い。


「あぁ………えっとご厚意は有り難いのですが、もう店舗は決めてまして」


「俺なら利率も安い金貸しも紹介してやるが?」


「貯めたお金もありますので」


「へぇ、金をねぇ。あんたなかなか将来設計してたんだな」


 ギラリと目を光らせる野太い声の男を前に、鍛冶職人のおじさんはわたわたと手を振る。まぁ断るよね。どう見ても、裏の世界の住人だ。金を借りたら最後破滅への一直線間違いなし。


 こんなところで大金を持ってますの返答はまずかったよ。


「それはいいなぁ。私は雨屋区と他の区を行き来してるしがない行商人なんですが、これからお付き合いをしたいと思うんでお見知りおきをお願いしますよ」


 わざとらしく行商人が話に加わってくる。パチリとウィンクをしてフォローしてくれたらしい。男の方はチッと舌打ちして、窓へと顔を向けた。


「俺らも武器商人には世話になるぜ。なにせ未来の英雄たちだからな!」


 4人の亜人たちも会話に加わってくる。どうやら男の視線から鍛冶職人のおじさんを守ってくれるみたい。


「未来の英雄なんですか?」


 なかなか剽軽そうな4人へと問いかけると、4人は一斉にサムズアップしてきた。なんというか暑苦しいので、少し後ろに下がる。


「おうよ、俺たち4人。タイボックチームはすぐに有名になって見せらぁ」


「無敵の皮膚!」


「驚異的な回復力!」


「疲れを知らぬ無限なる体力」


 4人は練習していたのか、声を合わせてニカリと笑う。


「俺たちタイボック。ダンジョン見つけて一攫千金。明日は英雄、明後日は貴族入り間違いなし! サインを貰うなら今のうちだぜお嬢ちゃんたち」


 トドメにきらりと歯を光らせる凝りようだ。


「わぁ、カッコイー!」


「おじちゃんたちエーユー!」


 無邪気に目を輝かせて、幼い子供たちは拍手をする。


「本当だ! エーユーさん握手をしてください!」


「おうともよ! 少女よ、タイボックとの握手はきっと未来に自慢になるだろう」


 ワハハと笑う男の手のひらがざらついていることを目を細めて確認する。4人の肌は木の皮みたいに乾いている。


 いや、本当に木の皮なのだ。彼らはトレントの亜人。能力はたしかに言ったとおりだ。大木のように硬い肌と、多少の傷は自己再生し、植物ならではの疲労を感じない体力。


 そしてトレントは動かないので倒しやすく、魔石も安いので、改造費用も安い。


 それだけ聞くと素晴らしいが、致命的な弱点があるのだ。


 それは魔法の炎に脆弱なこと。弱いのではない。とても弱い。普通の火なら大丈夫だが、魔法の火を前にしたら枯れ木のように燃えてしまう。


 ヨレヨレの革鎧にどこで拾ってきたか分からない鉄の槍と背に担ぐゴブリンライフル。泣きたくなるほどに貧乏なのだろう。


 それを知っている鍛冶職人夫婦と行商人は、曖昧な笑いで誤魔化している。死と直結している危険な亜人。トレントだからだ。


「へっ、なにが英雄だよ。冒険者なんか止めとけよな」


 フードを被った男が小馬鹿にしたように小さく笑う。

 

 だからこそ、私はタイボックと強く握手をする。


「頑張ってくださいね! 明日の英雄と握手をしたと自慢話にするので!」


 そんなことは彼らも百も承知に違いない。だが、彼らは自分たちの境遇を変えようと命を掛け金にしたのだ。火で燃え尽きる身体になっても、それでも生き残るために冒険者になると誓ったのだ。


 だから私は彼らを尊敬する。チートスキルやジョブを手に入れることはなくとも、上を目指す男たちを。


「へっ、そこまで言われちゃ仕方ねぇな。俺たちは明日から英雄だ、英雄譚は任せておきな!」


 タイボックたちは私の反応に目を開いて驚きの顔になるが、じわじわと笑みに変わると笑い出す。きっと私たちがトレントのことを知っていると思って、それでも握手を求めたからだ。


「私とも握手をお願いします!」


「おうよ、いくらでも握手をしてやるぜ」


 ワハハと笑うタイボックたちを前に、その眦が小さく光っているのを見て、ヨミもふわりと優しげな笑みとなるのであった。


 ────その後は暫くは平和な時間を過ごしていた。フードを被った男は不機嫌そうに離れた場所で窓から外を眺めていたけど。


「でも、今日は平和で良いでんな。いつもなら1匹や2匹は魔物がついてくるんですけど、今日のレンジャーさんは当たりっぽいです」


「魔物ですか。ついてきて大丈夫なんですか?」


 鍛冶職人の奥さんがカラカラと笑いながら不安なことを言う行商人に怯えた顔で尋ねる。


「いやぁ、装甲バスは滅多なことじゃやられまへん。この分厚い装甲は伊達ではないでんね。窓ガラスも魔導強化ガラスやから、魔物は歯が立たずに諦めるって寸法や。魔物避けの匂い爆弾も搭載されとる」


「まぁ、たとえ魔物が現れても俺たちタイボックが倒してやるから安心してくれ!」

 

 皆の話を聞いて、時間を確認する。走行時間2時間か……。ちょうど区同士の境目だな。


 そして、今の会話。予想通りなら……。


 私が魔糸を展開するとほぼ同時に装甲バスがカンカンと乾いた音を立てる。


「なになにー?」


 無邪気に子供たちが窓に張り付く。他の皆も外を見て顔を顰める。そこには二足歩行の犬たちの姿があった、脚に搭載されているブレードローラーで並走してきている。だいたい20匹くらいだろうか。


「コボルドやな。たしかに脚が速いけど安心せえ。あいつらは鼻が効くから装甲バスに搭載されている強力な匂い爆弾で簡単に追い払えるんや」


 行商人が安心した顔となって、ドヤ顔で説明をした時だった。ガタンと大きく装甲バスは揺れて──。


「なっ! ハッチが開いたぞ!」


 分厚い装甲を纏う出入口のハッチが緊急開放されて、上へと押し上げられたのだ。


「バウッバウッ」


 遮られていたコボルドたちの鳴き声が聞こえてきて、皆の動きが一瞬止まる。


「よーしっ、お前らそこを動くんじゃねえぞ」


 そしてフードを被った男が斧を手に立ち上がり怒鳴る。


 そう来ると思ってたよ。輸送車での強盗イベントはお決まり、テンプレ、無いほうが驚いちゃう。


 さて、未来ある皆を犠牲にするのはノーサンキュー。完全クリアを目指しちゃうよ。


 ヨミは魔糸を掃除機ロボットに繋いで、好戦的にして危険なる笑みを見せるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ごごヨミちゃん(≧▽≦)(≧▽≦) [一言] この章をありがとう
[良い点]  普通のなろうファンタジーなら襲撃されてる状態の幌馬車を通りがかりの主人公が救うイベントなのに乗客側からエントリー(・Д・)襲われてるはずの令嬢が悪漢をぶちのめす展開になりそうでワクワク♪…
[一言] 大木……つまりなんとかかんとかマーク2ってやつか。 彼もネタにされがちだが頑張ってたっけ。
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