第八話 逮捕
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ある男は扉の前に立ち、生体電波による識別をクリアして中に入る。
「失礼します」
そう言って建物に入ると、淡い明かりが灯され、三つの脳にスポットライトが照らされる。中央に置かれた椅子に座り、コールドスリープされた三人の肉体を見ていた。
「何の用かしら?」
イニシアティブが若い女性の声で話しかけると、フォーセスが話し出す。
「俺が呼んだ。今地球はどこまで改善した?」
「はい、放射能は薄くなり安全地帯が広がっています。マスク無しで外を出歩けますが、空気は不味いです。あと十年もすれば……でしょうか」
「鍛えても筋肉がつかないのは面白くない」
筋肉質な肉体をみればメタバースのアバターでは満足できないのだろう。いくら鍛えても自然に筋肉がつかないのだから鍛える意味がない。
そう言う意味では、肉体を測定しアバターに反映してくれる、通常のダイブインが優れている。自立型脳支援では不可能な機能だ。
「肉体を得ればいいのよ。健康で若い肉体の件はどうなりましたか?」
「脳再格納は可能です。実際に行った研究報告もありますが問題は拒絶反応です。薬物か免疫機能を完全に絶つ方法しか今はありません。きわめて危険です」
医学の進歩は目覚ましいが、拒絶反応があるお陰で、人は最大の禁忌を犯さず神に背く行為をせずにいられる。だがそれも時が経てば……である。自立型脳支援も初めは反対のデモがあったが、今は誰も反対しない。
――人間の恐ろしいところは『慣れ』である。
そうやってまた神への冒涜と知りながら禁忌を重ねていくのだろう。人は欲の塊であり際限がない。バベルの塔のように、いつか倒れてしまうのではないかとさえ思う。危うい存在。それが人間だ。
「それでコンパイルはどうした?」
「完全に消息不明です。生存しているかも分かりません」
最後に確認されたのが、二〇四五年九月で会社の重役の席に座っている姿がカメラに残されていた。そして一カ月後に圧縮電磁波暴走事件が発生。マクベスにより一万人以上の脳が焼き切られた。
コンパイルはこの事件に巻き込まれた可能性がある。それが山奥の別荘だったとしたら、誰もコンパイルを発見できないだろう。
当初はそう考えられていた。しかし当時のログを解析すると、事件発生から一週間後にメタバースにダイブインするコンパイルのログがある。事件に巻き込まれておらず生存していることが分かった。
それからもログを確認しているが十年間が経過した今でも、ダイブインの履歴はない。
「マクベスはどう?」
とイニシアティブの質問に、マクベスが静か過ぎることに不安を感じるが、二人の新人が異例であって、普段は静かなことを思い出す。
「変わりありません。あの隔離された部屋では何もできないからでしょう」
通常のネットワークに繋げてしまえば簡単に逃げられる。だが強制ダイブアウトさせれば捕まえられる。反抗すればまた同じ部屋に入れるだけのことだ。ただ協力させると言っても従う保証はない。
「私はこれで失礼します」
◇◆◇◆
「軍用グリフォンがフリーウェイを飛行中。一課は至急出動してください」
物騒な事件だなと、現実のニュースを観ていると、ミリタリーカラーのグリフォンがフリーウェイを飛行している。観たところ武装は装備してあるようだ。
「これはやばいな」
グリフォンとは七芒星の形をしており、中央の部分にコクピットがある。七つあるプロペラに、七つある先端からビームであるブリューナクの槍を発射し、八千メートル先の的を正確に射貫く。壊すというより溶かす攻撃だ。戦略型戦闘機の区分に入り、極めて危険な軍用機の一つとされる。
「ヤバいの暴走しているね。破壊できるの?」
とテレビを観ながらマシューがコーヒーを飲んでいると、その後ろからアビスも来て同じように立ち止まる。空には報道陣のドローンが飛んでおり、コクピットがアップされた映像が流された。
「フェニクス警部補、あれって……、フェイスマンでは?」
とアビスが言うよりも早く、一課へ通話をするフェニクス。出たのは一課の課長であり、苦手意識を持つフェニクスはため息を漏らす。
「なんだ? クソ忙しいのは知っているだろ?」
「あぁ、犯人だが生きて捕まえられるか? 連続事件の犯人の可能性ありだ」
「丁度良い、それならお前が捕まえろ」
立ち上がり「ここは任せた」と言って準備をするフェニクス。すると不思議に思ったアビスがマシューに質問している。
「フェニクス警部補は何をするのですか?」
「リアルは今やデジタル品しかない。しかも全てが通信機能を搭載している。それにアクセスして接続してしまうプロフェッショナルがフェニクスだよ。通信機能があれば骨董品でもハッキングしてしまう」
一課に向かったフェニクスは、用意されたドローンに乗り込み、グリフォンの近くまで飛んでもらう。四基のプロペラを持ち操縦士と副操縦士が前後に座り、三百六十度の視野を確保する。
するとフェニクスの前にエアーディスプレイが現れて操作し始める。グリフォンは最新型だからファイアウォールは堅固だろうなと思いながらも、その口元はニヤケ、ハッキングを開始する。
フェニクスは元々ハッカーとして警察に逮捕された。ハッキング対象は国会議事堂であり、資料を改ざんして議会を混乱させてしまう。それから数時間して特殊部隊が教会に侵入し、身柄を確保された。
教会の窓ガラスは割られ、小さな赤いレーザーライトの光りが無数に壁を照らし、屈み込むことしかできなかった。
刑期十年は覚悟していたが、その腕を見込まれ警察に強制的に入れられる。寝床あり、飯あり、風呂ありの待遇に満足し、居座っていたら四課に配属となり現在に至る。今では警部補にまで昇進し四課を指揮する立場になった。
その頃のお目付け役が一課のバージル課長だ。親を知らないフェニクスにとってオヤジと呼べる存在かもしれない。
「さて、撃つなよ。ハッキングはした。今から止めるからコクピットの犯人を取り逃がすなよ」
「一課、全員銃を構えろ、逃げるなら足を撃っても構わん」
すると動きを止めて、フリーウェイの上で止まるグリフォン。コクピットの横の階段を昇り、銃を持った一課の隊員がコクピットを強制的に開ける。その映像が全て報道として流れている中で、出て来たのはフェイスマンだった。
生きてフェイスマンを、確保できるとは思いもしなかったことに興奮し、一課と共に取り調べ室へ向かうつもりだ。
そしてフェイスマンは拘束され、生きたまま車に乗せられる。ここは現実世界だから幻覚は作れない。これで事件が解決すれば良いが、一歩も二歩も前に進んだのは間違いない。
そして一課のある三階に行くと、既にフェイスマンは取調室に入り、調書を取られている。
「名前は?」
「知らない」
「知らないはずがないだろう!」
と机を叩く刑事。時間がもったいないと思ったフェニクスは、バージル課長の方を向く。白髪混じりの黒髪に髭をたくわえ百七十五センチの身長は、フェニクスからみたら小さく見える。
いつの間にこんなに小さくなったんだよ、と思いながら、フェニクスはそんなバージル課長に提案をする。
「非武力化装置を使って電脳台帳に照合しましょう。その方が早い」
そして刑事が機械を使い、認識コードを取得して照合している。あまりにも時間を費やしいていることに違和感を覚えていると、照合が終ったようだ。
「照合結果ですが、なしです」
「「なんだと!」」
お読みいただきありがとうございました。
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