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電脳組対四課―Hacking Soul Shadow―  作者: 刹那美吹
第二章 野生の本能
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第十九話 誤認

 続きをお読みいただきありがとうございます。

 今、四課の中にある会鍵室に集まっている。ローテーブルは強化ガラスでできており、並べられたソファーに座り、フェニクスはローテーブルの上に表示されるエアーディスプレイを操作している。

今回は警察医であるアーデルも参加することになった。


「先日ドゥッカ博物館で盗まれたのは、回る砂時計だ。差分を確認してもこれしか無くなっていなかった。何故、盗み出したのか不明であり、価値はあるが高額ってわけではない。素材は木でできているため手彫りだろう」


「何に使う物なんすか?」


 と首を傾げるファースト。


「俺にも分からない。説明が全くないんだ。だが八咫烏が動いているということは、何かしら貴重な物と考えられる」


「八咫烏って何なんですか?」


 とアビスが質問してきたのに対し、マシューが答える。


「メタバース内で活動している犯罪組織だよ。全員がS級犯罪者と言われている。メンバー、並びメンバー数は不明であり、アジトなどの存在も不明」


「分かっているのは、イントとロングの二名。完全に捕まえたのに、あれで取り逃がすとは、余程の手練れだということが分かる」


 とフェニクスはアビスとファーストを交互に見て言う。


その場で戦ったのだから、奴らの強さは理解しているだろう。そして、マシューも取り逃がしたのを悔しがっており、ファイアウォールすらも簡単に突破された。


「どうやったら、あんな奴らを捕まえることができるのか分からない。だが根幹のデータベースを見られるマシューなら、足跡が探れる。だが足跡はファイアウォールを抜けた後、人通りの多いエリアを何カ所か抜けて完全に消えたそうだ」


「ジャンプ・ホストですか、常套手段ですよね」


 とアビスは得意げに言った。


「確かに常套手段だが、マシューの追跡をかわして、逃げられたことが解せないんだよ」


 マシューは腕を組み、下を向いている。奴らの目的が分れば対策のしようがあるのだが、骨董品を一つ盗まれただけでは対策のしようがない。


 解決できない悩みによって、沈黙が生まれ、人それぞれ見る所は違う。そんな中、アーデル警察医が手を挙げる。


「少し話しをしても良いかしら?」


 とみんながアーデルに注目する。


「何だ? 沈黙だったから話しを変えようか」


「では……。そもそもメタバース内では、アバターを変えることは禁止されています。それでも変える者たちは存在します。特にアニマルフォームが最近多くなってきています。これは闇雲に禁止しているわけではなくて、自我喪失障害になる可能性があるからです」


 そもそもメタバースが開始された二〇三〇年から二年後に、ダイブアウトした男性が、四足歩行で歩いているのを発見され、家族が通報したのが始まりだ。

 彼はメタバース内でライオンのアバターになり生活をしていた。それにより自分はライオンだと思い込み、ダイブアウトしてもガオーと叫び、家族を見て威嚇したそうだ。


 それだけならここまで騒がれる内容ではない。その後ライオンになった男性の顔や首に毛が生えだした。これは魂が自身の姿を勘違いし始めたことになる。男性は直ぐに病院に運ばれて検査を受けるのだが、原因は分からなかった。


 それから二十三年が経った今でも、原因は掴めていない。ただフェイスマンの事例を考えると、魂が持つDNAに合わせて姿が変異することが分かっており、もし魂がライオンだと誤認すれば、肉体はライオンに変異するのではと予想する。


 元の姿に戻るフェイスマンの事例と、逆のことが起きたと思えそうだが、注目なのは魂が誤認したかもってことで、DNAの姿に変異することはどちらも変わらない。


 すべては魂が関係している。どこにあるとも知れない魂に、人類は古き時代から惑わされている。魂を見つけた者はまだ存在しない。死んだら何処へ行くのかは永遠の謎だ。だが魂を見つけられたなら――答えが出そうな気がするんだ。


「とりあえず警察の立場上、アバターを変えている者を見つけたら注意をすること。対応はこれしかないだろう――」


 ファーストは、両手の人差し指を交互に回転させながら、フェニクスを見た。蓄えた髭を触り、眉をハの字にさせている。


「昨日、ドゥッカ博物館へ行ったっすよ」


 と言うと、みんながファーストを見た。突然のことで唾を飲み込むと、趣味で博物館巡りをしていることを伝える。


「本を読んだっす。色々な本があって楽しいんっすよ。例えば」


 ゴホンゴホン、とファーストは右手を口の前で握り咳をしてみせた。


『金と銀の鍵をもって扉を開け。巡る満ち欠けを半分にして、あなたは冠を並べるだろう。アリギエーリの書:第二章一節』


 確かにこれだけだと意味が分からない。このメタバースの世界には沢山の書物がある。研究科たちはこれらの書物には謎があり、解読した者には富と名声が与えられると信じている。


「色々な本を読めば言葉が繋がり、意味が分かるのかなって思うっす」


 するとフェニクスがエアーディスプレイを操作すると、ローテーブルの上に映像が現れる。それは本の映像で、タイトルはアリギエーリの書だ。


『二つの鍵と七つの冠を持つ者よ。扉を開き七つの冠を収めるがよい。その時、天を貫き舞い降りたる焔を見るだろう。焔に焼かれし場所へ行け、眠れる者が目を覚ますだろう。アリギエーリの書:第二章五節』 


 フェニクスはページをめくりみんなに見せる。この内容だと何かありそうと期待をしてしまう。本は沢山あり、本によって解釈が変わるので研究科は夢中になっている。ただあの八咫烏がこの本を読んで動いているとは思えない。


「暇つぶし程度には俺も読んだことがある。アビス。図書館や博物館などに注意するように促したな?」


「はい、伝えておきました」



◇◆◇◆



 ここは何もないセクタ。荒野がある黒板(ブラックボード)と違って大地すらもない真っ暗闇の世界。そこを無空間(エンプティー)と呼ぶ。姿を消す術を持たない者は、立ち入らない方がいい危険な場所だ。


 立ち入る者が皆無なため、ログが永遠に等しく残るからだ。地下仮想空間(アングラ)の住人たちですら、ここには来ない。


すると暗闇から声がする。その声は太くて低くい声だった。


「レガリアである回る砂時計は、手に入れたな?」


「はい、四課が来て焦りましたが、奪ってやりましたよ。奴らはたいしたことありませんね」


「フェニクスとマシューの二人は危険だ。舐めない方がいい」


 と物静かに話すロングの落ち着いた声がする。


「あなたがそういうのなら、そうなのでしょうね」


 真っ暗な空間に茶色の装飾品が浮かんでいる。それは茶色の台座に砂時計が置かれている。宙を漂い、ある者の手に渡る。


「よし、次も抜かりはないな?」


「へぇー、でぇじょぶでございやす」


 なんとかすれた声だろう、喉をヤスリで擦られたようだ。潤いがない砂漠のようでもある。響くことを忘れたその声は、もう一度口を開く。


「この後で狙いやすが、よろしゅうございやすか?」


「あぁ、構わないんだお。これが終ったら行くんだお」


 何もない空間にログすらも残さず、奴らは消え去った。

 お読みいただきありがとうございました。

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