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電脳組対四課―Hacking Soul Shadow―  作者: 刹那美吹
第二章 野生の本能
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第十六話 スノー

 続きをお読みいただきありがとうございます。

 女の子はいつまで経っても名前を思い出さないので、フェニクスが付けることになった。子供の名付け親なんて初めてだから、戸惑いを隠せないフェニクスの肩を叩くマシュー。


「フェニコでいいんじゃない」


「それだけは嫌だ。まず可愛くない。どうせ付けるなら可愛い名前がいいだろ」


 とフェニクスは自ら敷居を上げている。だが電脳台帳(データバンク)を見ても登録されていなかったということは、かなり長くコールドスリープに入っていたことになる。電脳台帳(データバンク)が完成したのが二十五年も前だから、実年齢は三十歳近いのかもしれない。


 もしもその時、両親が三十歳だとしたら、五十五歳になっている。娘を迎えに来られない事情でもあるのか、そもそも高齢なのかもしれない。亡くなっている可能性もある。研究所に預けて治るまで二十五年は時間を費やし過ぎた。


「セカンドとかどうっすか? 可愛いっすよ」


「なんでお前の次なんだよ」


 と言うとある名前が浮かび上がった。この記憶はフェニクスのものじゃない。何故か、脳内に名前が浮かび上がることに違和感を覚えるが、この名前でいいだろう。


「スノーだ」


「スノーちゃんっすか。いいっすね」


 フェニクスは顔を見て、名前を読んでみる。


「スノー」


「あい!」


 すんなり受け入れたようだが、スノーの中にもフェニクスと同じように、記憶の欠片があるのかもしれない。特にスノーの場合は二歳まで親と過ごしていたわけだから、その頃の記憶が蘇った可能性はある。


「これで電脳台帳(データバンク)に登録ができる。ちょっと出かけてくる。あとは任せたぞ」


 フェニクスはスノーを抱きかかえると、エレベーターを降りて隣の建物へ向かう。そこには役所があるからだ。役所と警察署が近いことで、巨大な駐車場を共有できる。それに警察署で必要な書類は大抵役所で手に入る。


 フェニクスは八階で降りると生活課を探す。ここは沢山のLEDが天井に埋め込まれ、背の高いフェニクスは頭が熱くなってきた。髪は燃えないよなと思いながらも生活課の所へ向かう。


 椅子に座ると係りの者がやってきた。電脳台帳(データバンク)に登録がしたいと伝えると、エアーディスプレイで操作している。


「お嬢さんですか? 生年月日をお願いします」


「えっと、こういう者なのだが……」


 と警察手帳を見せると、女性は眼を見開き、静かに息を吸った。フェニクスは二歳であることしか分からないと告げると、フェニクスの記録を見たいそうだ。係りの女性は非武力化装置(ディザーム・デバイス)を使い、フェニクスの識別コードを取得する。


「えっと、どうしますか? 兄妹か娘か選べますけれど」


「娘でいいや、俺も親を知らないから」


「分かりました」


 と言って女性はエアーディスプレイを操作している。すると「誕生日はどうしますか?」と質問された。二人してスノーを見るが、置かれたぬいぐるみで遊んでいる。


「スノー、誕生日分かるか?」とフェニクスは質問するが、そもそも名前を覚えていないのだから分かるはずもなく、フェニクスは腕を組み考え始めた。


「二〇五三年七月九日にしてくれ、年齢は二歳だ」


 スノーと出会った日にした。もしも誕生日を思い出したのなら更新すればいい。フェニクスはスノーを抱きかかえて役所を出ると、四課のオフィスへ入る。本を読んでいるマシューが見上げ、アビスとファーストがやってくる。


「登録終わったんすか?」


「あぁ、登録してきた。これで病院が使えるから、一先ず安心できる」


 全員がソファーに座り、膝の上でちょこんと座るスノーを見ている。フェニクスはファーストを見て、イノセント・チャイルドについて尋ねると、幻覚が効かない使えないくらいしか知らないらしい。


「あのな。自分のことだろ」


 と言いながら、スノーをファーストに託し、ホワイトボードに書き始める。全員がその手に注目した。


 幻覚はハッキングの類で一瞬にして世界を書き換える。マシューが行える根幹のデータベースを検索するのと違って、表面的な姿を変えるだけだ。


 そして仕組みを知っているハッカーなら簡単に書き換えられるだろう。それでも世界が変わったと思い込み。強い幻覚は精神にダメージを与えることができる。幻覚は術者の腕次第だ。上手い奴の幻覚を解くのは至難の業だろう。


 そしてイノセント・チャイルドは、いくら世界が改変されたとしても、無意識に変更ができない根幹のデータベースを見てしまうので、幻覚が効かない使えないなんだよ。


「生まれつきなのですよね?」


 とアビスの質問に頷いてみせると、ファーストが手を挙げて話し始める。


「幻覚を使える方法はないんっすか?」


「今、無意識に根幹のデータベースを見てしまう、イノセント・チャイルドのハッキング能力の高さに注目が集まっている。その可能性を広げるための研究が行われているのだが、確か超電脳感知研究所という施設で研究が行われているはずだ」


 この研究所の実験は、深層接続補助機(コネクト・ギア)を使わずに根幹のデータベースにアクセスする方法を探っているのと、脳のどの部分が影響しているのかを調べている。もし無意識ではなくて使い熟すことができたなら、凄腕のハッカーとなるだろう。


「俺が今話した内容も、あくまで仮説でしかないのだがな。ただイノセント・チャイルドの研究が行われているのは事実だ」


「あたい行ってみたいっす。何処にあるっすか?」


 フェニクスはエアーディスプレイで地図を出し、その場所をタップするとそのままドラッグし、ファーストへ飛ばした。するとファーストのエアーディスプレイに場所が表示される。


 ファーストは場所を見ると、左腕の時計を見てそわそわし始めた。フェニクスはスノーを抱きかかえながら、ファーストを見て行ってこいと背中を押した。


「行ってくるっす」



◇◆◇◆



 ファーストは言って風の如く、タクシー乗り場を目指す。

 目的の場所はタクシーで六十分の場所だった。核ミサイルを撃たれ壊滅的な状態になった場所でもある。だがAIが放射能の除去方法を探し出し、長年にわたり放射能を除去し、住める場所にまで回復させた。


 戦争は地球を汚し人間以外の生き物は絶滅した。それでも環境改善に力を注ぎ、いつか地球が綺麗になった時のために、DNAを集めたノアの箱舟が用意されている。その中には人間のDNAも含まれているそうだ。


「ここっすね」


 とファーストは立ち止まり、見上げると数えるのが億劫になりそうな高さの建物だった。早速、敷地内に入り自動ドアを通ると受付がある。ファーストは受付の女性を見ると、あちらもファーストを見て立ち上がり、軽くお辞儀をして出迎えた。


「あたいは、こういう者です」


 と警察手帳を見せると、受付の女性たちは身構えるように、ファーストの顔を見た。ここでイノセント・チャイルドの研究がされていることを訊くと、軽くお辞儀をして「申し上げられません」と告げた。


「えっと、捜査じゃないっす。あたいもイノセント・チャイルドなんすよ」


 と言うと思案顔でファーストを見る。仮想の世界に入らなければイノセント・チャイルドかは分からない。すると一人の女性が話し始めた。


「今、係りの者を呼びますので、あちらのソファーに座ってお待ちください」


 さぁ、これから何が起こるのだろうか、とファーストは胸を押さえて高鳴る心臓の鼓動を確かめていた。

 お読みいただきありがとうございました。

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